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40.学院内部

『すみません。ヴェスティさんにここの研究室にある資料を取ってくるよう言われてきたのですが…。』

『ん?ヴェスティに?ここに入れる方は基本的に関係者のみなのですが…。』


 訝し気に見る学院の受付係に内心舌打ちをしつつ、リヒティはにこやかにエーデルの背を押した。

 そんなリヒティにエーデルはため息をつきつつ、内ポケットに入れていた指輪を一つ取り出し受付係に差し出した。


『私はアシュク王が第三子第一王女エーデル・シア・アッフルエンスです。』

『おっ、王女様?!』

『本日はヴェスティ様に調べていただきたいことがあり、こちらまで参りました。お忍びでの来訪ですので、このような姿で申し訳ございません。こちら、王家の家紋の入った指輪でございます。これで身元が証明できれば良いのですが…。』

『は、拝見させていただきます。』


 思いがけない人物の登場に受付係が椅子から立ち上がり、緊張気味に対応をしている姿を内心笑いつつ、リヒティはちらりと学院を見上げた。


(さっきから視線を感じるな…もしや敵か?)


 視線の主はここから見えないため、一旦視線を受付に戻すと、話しは大分進んでいたようで指輪を返却され、受付係が入館手続きをてきぱきと進めている。

 数分待っていると二本の腕輪を受付係は差し出してきた。魔力を帯びたその腕輪は七色に輝き二人の視線を釘付けにさせた。

『綺麗でしょう?ヴェスティが使用している研究室は国の最高峰の研究をしている所になりますので、より厳重な鍵がかかっていま。向かうにも、その鍵を解くにも全属性の魔力が必要になります。一か所に全属性の魔力が込められるとこのように七色に輝くのです。この腕輪を着けていただければどこにでも入れますが、他の研究室には入らないようにお願いいたします。』

『承知いたしました。』


 腕輪を受け取った二人がそれぞれの手首に腕輪を通す。すると


『『??!!』』


 どんなに手が大きい人でも入れそうな大きさのある腕輪だったが、通した瞬間二人の手首にぴったりとくっつき、取れなくなってしまった。驚いていると、受付係がにこやかに説明を続ける。


『この腕輪は使い捨てタイプの物となっております。一回使ったら無くなりますので、ご心配なさいませんよう。それと、腕輪の再発行は致しません。間違って別の場所で使ってしまったら目的の物が回収されずに終わりますのでご注意ください。説明は以上ですが、他に何か質問はございますか?』

『……特にございません。』

『かしこまりました。また何かありましたらお気軽にお申しつけください。』


 丁寧にお辞儀をする受付係に引きつった笑顔で答えつつ、リヒティ達は学院の中へとやっと入れたのだった。



 ーーーーーーーー

 ーーーーー



 初めて入った学院は天井が高く、部屋数も多いようで長い廊下には扉がいくつも設置され、制服を纏った人々が多く行き来している場所だった。余所者のリヒティ達は怪しまれると思っていたが、研究者たちはそんなことは気にせず、手元の資料や一緒に歩いている者同士での意見交換で忙しそうにしていた。


『全くじろじろ見られないな。』

『そうですわね。皆様研究が最優先な様子です。王族としては懸命にやってくれているのだと嬉しく思うべきなのでしょうが…。』

『危機感がないように見えるなぁ…。』


 研究者たちの様子に不安と呆れを抱きつつ、目的地に向かっている体で歩いていると段々と人影が少なくなり、上階に行けば行くほど白衣を纏った人が多くなってきていた。


『なんだか、下の階と雰囲気が違うな…。』

『下の階では基礎の学習を、上の階では応用と専門の研究を行っております。ですので、雰囲気が変わるのは自然なことかと。』

『なるほどな。』

『ヴェスティ様は歴史を専攻としていますので、もう二つ上になります。』

『……エーデルがいてくれて良かった。俺だけじゃうろうろ動きすぎて怪しまれるところだった。』

『ふふっ、お役に立てたようで嬉しいです。』


 ヴェスティの研究室があるであろう階にたどり着いた二人は、目的のコミエ村出身者を見つけるためにどうするべきか改めて話し合うことにした。


『道中ではそれらしい奴を見かけなかったな。』

『受付の方に聴くのが一番早いのですが…。』

『そういう身元照会も手続きがなかなか難しいんだろ?しょうがない。…だが、入ったばかりだろうから下の階にいるのかほぼ確実だな。上に階には誰でも気軽に行けるのか?』

『いえ、それは出来ません。履修された方のみ行ける様になりますが、行ける階も限られますので…。』

『…そうか。とりあえず、ヴェスティの研究室から適当に資料を持って行こう。帰る際に手ぶらだと受付の奴に怪しまれるからな。』

『そうですわね。…扉のところにネームプレートが記載されてますので、手分けをしてヴェスティ様のお名前を探しましょう。』

『わかった。俺は右から探す。』

『では、私は左から。見つかりましたらメッセージを送りますわ。』


 二手に分かれた二人は一つ一つ名前を確認しつつ長い廊下を歩いていく。白衣を纏った者は年長者が多く、長年研究に携わっているのがよく分かる。その研究者たちはリヒティ達をちらりと見てはすぐに手元の資料へと移し、目的の部屋へと入っていく。


(時間はあまりかけられない…。なら、研究者に聞いた方が早いな…。)


 その時、ちょうど目の前の研究室から一人の男性が姿を現した。


『すいません。ヴェスティさんの研究室に行きたいのですが、詳しい場所を教えてもらえず…どこかご存じでしょうか?』

『………え?ヴェスティの研究室?………それなら、この先にある。5,6個先の部屋だ。』

『ありがとうございます。』


 研究者はリヒティのお礼を背にまた別の部屋へと入っていった。それを見届けると、リヒティは素早くエーデルへとメッセージを飛ばす。


(エーデル聞こえるか?ヴェスティの研究室の場所が分かった、こっちに来てくれ。)

(わかりました。すぐにそちらへ向かいます。)


 エーデルが来る前に教えてもらった場所へ向かうと、確かにヴェスティのネームプレートが付いた扉があった。その扉は他と比べると煤汚れており、目立っている部屋だった。

 じっくりと観察していると、ぱたぱたと走る音が段々と近づいてきた。


『っリヒティ、お待たせいたしました!…そちらがヴェスティ様の研究室ですか…。』

『あぁ、とりあえず俺が先に入るぞ。』


 扉についている鍵穴にその腕輪を近づけると、ピッと軽い音がなり、ガチャリと施錠が解除される音が続けて聞こえた。リヒティの腕輪がぽろぽろと輪郭を崩しつつ消滅していく。それを見届け、扉を開け一歩踏み入れると、エーデルが入る前に一人でに扉が閉じてしまう。


『え?!』

『エーデル大丈夫か!』

『大丈夫です!たぶん防犯上の仕掛けですわ。私も腕輪を使って入りますので、先に資料の方をお願いいたします。』

『……わかった。』


 エーデルの安否を確認し、ほっと安堵の息をつくと、改めて部屋の中を見渡す。そこはヴェスティの家にある研究室と同じく雑然としており、所々に紙の山が築かれていた。


(適当過ぎても怪しまれるからな…それらしい物は…)


『リヒティ、どうですか?』

『今探してる。メモばっかりで怪しまれない資料がなかなか見つからん。』

『…私でしたら大切な物は鍵付きの棚などに入れますが…。』

『確かにそうだが…ヴェスティがそんな面倒なことをするか?まだ一日くらいしか一緒にいないが、鍵付き棚を使ったら鍵自体無くさないか?』

『……否定は出来ません…。』


 エーデルがなんとも言えない顔で同意を示すと、リヒティは再び紙の山から探し始める。すると、一つの山の一番下から古ぼけた表紙の本が一冊出てきた。リヒティがおそるおそる開いてみるとそれは読めない字で書かれた手記のようだった。


『…これ、ヴェスティが持っていた物に似てないか?』

『たしかに、似ておりますわ。』

『よし、これを持ってまた下に向かおう。今度こそ見つかると良いんだが…。』



 本をエーデルに預けて下に向かうために扉を開けると、



『よう、リヒティ。元気にしてたか?』



 デリックがそこにいた。

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