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4.精霊祭

 リヒティを連れて広場に着くと、村の住人たちが全員集まっていた。

 三人が来るのを今か今かとそわそわしつつ待っていたようだ。精霊祭が始まるまでまだ時間があるが、やはり特別な儀式なため、いつもより集まりが早いのだろう。


「あっ、お父さん、お母さんって、ちゃっかり最前列とってるわね。」

「二人の晴れ舞台だからな。そりゃ最前列で見るだろ。俺もアパル達の傍で見てるからな。」


 人混みの中に両親の姿を見つけた二人は軽く手を振り、リヒティは二人の背中を押すと両親のそばへ、二人は今日儀式を受ける人たちが集まっている広場の中央へと足を運んだ。


「うわ~、ドキドキしてきた。ついに私のパートナーと会えるのね。」

「どんな子が来てくれるのか楽しみだね。儀式の作法も習ったけど、緊張しすぎて頭真っ白になったらどうしよう…」


 去年は十五歳の子供はいなかったため二年ぶりの精霊祭だ。ニ年前一緒に遊んでくれたり勉強したりしていた兄姉が儀式を受ける風景は、いつまでも見ていたいと思えるほど神秘的で綺麗だった。いつも見ているこの広場が別の場所のように感じるほど。

 それが、今日自分たちが受ける立場になった。緊張とワクワクで鼓動が外に聞こえてしまいそうなほど強く強く脈打っている。

 胸に手を当てて深呼吸していると、奥からざわりと空気が揺れた。

 祭司がついに広場へと来たようだ。


 白い法衣を靡かせてミトラを被った穏やかな笑顔の老人が騎士に護衛されやってきた。

 広場の中央に特設された祭壇へと祭司が着くと、儀式を受ける少年少女たちは跪き頭を下げる。


「…これより、儀式を行う。これから出会う精霊はあなた方の一生のパートナーであり、良き友であり、家族である。あなた方と精霊の心は繋がり、あなた方の心に従い、力を貸し与えてくれる掛け替えのない存在である。大切に慈しみ、善性の優しさでもってこれからも長い人生をともに歩んでいって欲しいと、私は願う。…さぁ、一人ずつ私の前へ。」


 前の方にいた少女が一人、足を震わせながら祭司の前へと向かう。

 緊張しながらも跪き手を組むと祭司の手がそっと頭へと添えられる。少女の目が閉じると、二人からふわりと風が吹き、優しい色とりどりの光が少女へと降り注いだ。その光を浴びていると少女の震えも収まり、祭司の手が離れるとふっと少女は目を開け、虚空を呆然と見つめた後一気に破顔した。頬を染め、何かを掬うように両手を虚空に向けると、胸の前へと持っていく。

 少女だけの精霊がきたのだ。精霊を得ない限り他の精霊を見ることはできない。まだ儀式を受けていない少年少女たちには見えないがあと数分後には見えるものの一員となる。期待に胸を高鳴らせた。

 祭司もその様子に笑みを深める。


「さぁ、次の者は前へーー」



 ーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーー



 今回受ける人数は六人おり、最後に広場に到着したエルピスが最後になった。横にいたセレニテが立ち上がり、祭司の前へと跪く。

 祭司が同じように頭へ触れると、今までとは比べものにならないほどの光と風が巻き起こり、エルピスの瞼を焼いた。


「っ?!セレニテ?!」


 何が起こっているのか見えないエルピスは声をあげ、安否を確認するために立ち上がろうとするが、そっと腕を掴まれびくりと体を震わせた。


「エルピス大丈夫だ。儀式はまだ続いているからここで待っているんだ。」

「そうよ。危険なことはないから安心してちょうだい。」

「父さん、母さん…」


 エルピスを安心させるように声をかけてくれたが、二人も手が微かに震えている。おそらく二人の精霊が危険はないのだと教えてくれたのだろうが、やはり娘に何があったのか不安はぬぐい切れないのだろう。

 何も見えない目がこれほどもどかしいと思ったのは久しぶりだった。

 眉間にしわが寄り、光の方へと顔を向けるが、光はなかなか収まらない。手を握りしめ、まだ終わらないのかと焦燥感にかられる。光が徐々に弱くなり、風と共にふっと消えた。


「おぉ、これは……なんということだ……久方ぶりの強き光………もしやあなた様はーーー」

「?」


 小さな呟きが祭司の口からもれる。エルピスはその呟きに訝しみながら、セレニテの呼吸に集中する。

 先ほどは風で聞こえなかった呼吸音が微かに聞こえ、変な乱れがないことに安心する。両親も安心したのかエルピスに触れていた手の力が緩みほっと息をついていた。


「久方ぶりの強き光に巡り合え、またとない機会に私が携われたこと、神に感謝いたします。」


 祭司はそういうと神に祈りをささげ、村人たちに向けて頭を下げる。


「もうお一人儀式を受ける方がいらっしゃいますが、力を消耗してしまいすぐにはできなくなってしまいました。私の力不足で申し訳ない。すぐに別の祭司を派遣するので、また後日改めて儀式を行うこととします。………楽しみにしていただろうに、君には本当に申し訳ない………。」


 エルピスは一人だけ受けられなかったことを残念に思いながらも、それよりもセレニテに何があったのか気になり、謝罪の言葉も聞き流しそうになり、生返事をしてしまった。

 そんなエルピスに苦笑すると、祭司はセレニテの手を取り立ち上がらせると両親のもとへとそっと誘導する。

 ふらふらと足元のおぼつかないセレニテを両親は駆け寄って強く抱きしめる。


「痛いところとはない?大丈夫だった?」

「ないわ。大丈夫。」

「あんなに強い光が出て…強い精霊がお前のもとへ来てくれたんだな?誇らしい、自慢の娘だ。」

「ありがとう、お父さん。」


 まだ心ここにあらずの返事を返すセレニテを心配しつつも、特に目立った外傷もなく安堵する。一頻り家族の抱擁を眺めていた祭司は咳ばらいをし、儀式の閉会を告げる。


「本日新たに五人が精霊のパートナーを得られたこと、神に感謝いたします。これから善性にしたがい、世のため人のため活動していくこの者たちをどうか見守りください。精霊祭はこれにて閉会とする。」


 わぁっ!と歓声があふれ、儀式参加者の家族はそれぞれの娘息子のもとへと駆け寄る。感動で涙を流すもの、抱きしめるもの、興奮気味に話すもの、反応は様々だが、どの家族も笑顔を浮かべている。

 幸せな空気感を感じつつ杖を支えに立ち上がったエルピスのもとへ祭司が静かに歩み寄る。護衛している騎士の鎧が擦れる音が聞こえ、不思議に思いそちらへ顔を向ける。


「こんなことになってしまい、君には申し訳ないことをした。本当にすまない。」


 風が前方で微かに縦に揺れ動いたことを感じ、祭司が頭を下げたのだと察したエルピスは大いに慌てた。神に近しい存在の祭司は人々にとって尊敬と崇拝の対象だ。そんな存在に頭を下げられているのはどうにもぞわぞわとし心が落ち着かない。


「そんな!儀式が永遠に受けられなくなったわけではないですし、気になさらないでください!それよりも体調は大丈夫ですか?父や母も力を使った後はひどく疲れているので…。」

「君は優しい子だね。すぐには戻らないが、安静にしていれば大丈夫。それよりも、君に少しでも早く儀式を受けてもらうために、準備が整い次第出発するとしよう。……君に神のご加護があらんことを。」


 エルピスの杖を持っていない手を恭しく両手で持ち上げ額に軽く当てると祭司は穏やかな笑顔で去っていく。目の見えないエルピスにも伝わる温かさだ。両手を包んだ少し骨ばったつるつるした質感の温かな両手の熱が余韻を残す。

 祭司は村長へも早く出発する旨を伝え、騎士を引き連れて去って行ってしまった。

 祭司の気遣いに笑みをこぼすと、エルピスも家族のもとへと足をのばした。

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