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35.妖精は

 神からの不穏な言葉に、エルピスの体は嫌な音を鳴らす。冷汗が流れ、これから直面するかもしれないことが想像もつかず、足が自然と下がっていく。


「………悲劇?」

「そうだ。」

「それは…これからどんなことが起こるのですか?僕たちは、それを打破することはできるのですか?」

「私がそなたに力を貸したのはそのため。」

「!」


 あの時にエルピスの中に入り込んだのは、生かす以外にもあの時に悟った悲劇を回避するための行動だったのだと、やっと理解できた。

 だが、


「なぜ、なぜあの時ソレイユ様を連れ去った人を捕まえなかったのですか?!ソレイユ様の継承が行われていれば、僕は死んでも、世界は、ソレイユ様は無事であったはずです!」


 どうしようもない激情がエルピスの体を走り抜ける。あの時行かなければと思う後悔、こんなことを企てている人への憎悪、様々な感情がごちゃ混ぜになり、この世界を守っているニ柱を産みだした創生神だが、そんなこと気にしていられないほどの衝動が声を伝って外に飛び出す。神を見つめる視界がボヤケ、頬を熱いものがつたう。

 しゃくりあげるエルピスの涙を指で拭い、ほんの少し神の眉間に皺がよる。苦悩しているような顔でエルピスを見つける神に、エルピスの涙も少しずつ落ち着いていく。


「ソレイユが無事かどうかは、あの者を捕えなければ安全の保証はできない。そして、私はそなた達が生きている世界に直接介入することは出来ない。」

「…でき、ない?で、でも、僕を殺した化け物には攻撃を…」

「あれは、我の一部だったものの集合体。」

「…集合、体?」


 思いがけない事実にエルピスの両目が見開く。その話しが本当ならば、エルピスは神に殺されたようなものである。動揺しているエルピスの前で神は右手を握りこみ、ゆるりと開く。

 すると、そこには


 一匹の妖精がいた


「えっ、妖精……………つまり、僕たちは……」

「儀式で得た妖精は、我の力の一部。そなた達は我の力を媒介に魔法を行使していた。」


 ヴェスティから教えられた歴史を思い出せば納得もする。ニ柱の力も創生神から得たものであったはずだ。それならば、妖精も創生神の一部なのだと言われれば反論の余地はない。


「そうだったのですね。……あれ?ということは、あの化け物は…」

「そうだ、あれは








 妖精の集合体だ








 ーーーーーーーーーー

 ーーーーーー


「っはぁ!」

「ヴェスティ?!」

「自力で戻ってきたのですか!」


 体の死を免れるために回復魔法を施していたセレニテは、いきなり息を吹き返したヴェスティに驚き魔法を中断する。オラクルも戻すための魔方陣を解除し、横たわっていたヴェスティの傍へ膝をつく。

 乱れている息が少しずつ落ち着き、起き上がろうと腕をつくが震えてうまく力が入らず、また床へと倒れこむ。セレニテとオラクルが心配そうに覗き込むも、ヴェスティは床を見つめたまま微動だにしない。


「……いったい何があったというのですか。」

「…………エルピスの中にいたのは、予想通り、創生神だった。自分は、創生神に外にはじき出された。」

「創生神?予想どおりって…」

「あぁ、セレニテには言ってなかったな。エルピスの力の元は創生神ではないかと予想はついていた。セレニテ以上の力の数値。すべての魔法を精巧に操れる技術。そして果て無い魔力量。ソレイユ神の力が二つに別れるはずがない。そうなると残る選択肢はーー」

「ソレイユ様以外の、別の力。それが、創生神。」

「そうだ。……だが、確証はなかった。」


 今一度腕に力をこめ、上半身を起き上がらせる。セレニテも手を添えて手助けをし、今度は無事起き上がることに成功した。姿勢を正すとヴェスティはオラクルをまっすぐ見据えて先ほど起こったことを話しだす。


「エルピスは、あの一年前の事件で死んでいたんだ。」

「…………え?」

「本当は死ぬはずだったんだ。だが、ソレイユ神の器であるエルピスの体を修復し、生き返らせたのは創生神だった。その時に創生神はエルピスに宿り、今まで表には出ずに潜んでいた。」

「ちょっっっと待って。ごめんなさい。理解が、追い付かなくて…。……エルピスはあの時、死んでいたの?」


 セレニテの血の気が下がり、顔が青くなっていく。


(私が、あのとき、行かなければ)


「………数秒は死んでいた。神からすぐに蘇生を施されて生き返ったんだ。そしてソレイユ神はエルピスの死をトリガーに継承を行おうとしたが、セレニテの見たフードの奴に捕まってしまった。」

「…………」


 エルピスの死という信じられないワードに頭が白くなったセレニテだったが、ヴェスティの話しは続くため、言っていることをゆっくりと咀嚼して頭に叩き込んでいく。一瞬で理解できることが、今はうまく頭に入ってこない。なんとかエルピスが生きていることを理解することができ、セレニテの顔色も少しずつ戻っていく。


「………理解できたみたいだな。それで、あれこれ聞こうと思った矢先に、重圧かけられるは外に無理やりはじき出されるはで今こうなってる。エルピスはまだ目覚めていないし、たぶん色々聞いているんだろう。」

「そうですね。とりあえず、私共でエルピス様を寝室へ運びましょう。いつまでも硬い床の上に寝かせているのは忍びないので。」


 そういうとオラクルはエルピスを抱き上げて、昨夜寝泊まりした寝室へと足を進める。オラクルの後に続こうと腰を上げようとしたセレニテを服を掴んで引き留めたヴェスティは、懐から一つの魔方陣が書かれた紙をセレニテへと渡す。


「セレニテ、何か危ないことがあったらこれを使え。」

「…これは?」

「姿を隠し、味方に危機を知らせてくれる魔方陣だ。なかなか完成するのに手間取ったんだぞ?…ソレイユ神を宿しているあんたなら使えるだろ。」

「…ありがとう、ヴェスティ。」


 無くさないようにスカートのポケットの奥深くへとしっかりと入れて、今度こそオラクル達が行った寝室へと向かう。

 そのセレニテの後ろ姿を見送り、一人になったヴェスティは一人ごちる。


「ソレイユ神とルア神の次はエルピスか?そんなこと、させてたまるか…!」

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