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34.創生神との初対面

「…………」

「エルピス?」


 先ほどまで映し出されていた景色が消え、暗闇へと戻っていく。

 ヴェスティが呼びかけるも、エルピスは先ほどまで小さなエルピスがいた場所を凝視して微動だにしない。

 顔を覗き込むも、その目は今を映しておらず遠い過去へと飛んでいた。


(このままじゃいかん)


「エルピス!!!!!」

「!!!!!!」


 ヴェスティの強い呼びかけにエルピスの体がびくつき、目に光が戻っていく。数度瞬く様子を確認してヴェスティは安堵の息をついた。

 現実に戻ってきたエルピスは震える口を開く。


「ヴェスティ…」

「うん」

「ぼ、僕は…」

「…」

「あの時、僕は、あの化け物に…」









 殺されていたんだ








 信じたくない、忘れていたかった真実。なぜ忘れてしまっていたのか不思議だったが、今の光景を見て納得した。

 死んでしまった衝撃的事実を受け入れるには、精神が耐えられなかったため、封印していたのだ。

 それが今つまびらかにされ、エルピスは確かに動揺はしていたが、納得もしていた。


 あの捕らえられた光はソレイユに間違いないはずだ。殺され、力も奪われたエルピスが生きている理由は、あの背後にいた存在が生かすために力を使ったに違いない。実際、怪我や服を修復され中に入っている光景を見ている。

 エルピスが死んだことにより、神の継承を行おうとしたが、捕らえられたためエルピスは生かされたのだと、結論をつけてもいいのだろう。


「ヴェスティ、あの背後にいた人?は誰か分かる?」

「見間違いでなければ、創生神だ。遺跡で似たような銅像を見たことがある。」

「そう…じゃあ、僕の中に入って生かしてくれたのは、僕の力になってくれているのはヴェスティの見解通り創生神様なんだね…。」


 あの夢に出てきたのはソレイユではなく、創生神だったのかもしれない。思いがけない大物に、エルピスは何とも言えない悩ましい顔で胸元に手を添える。


「創生神様、僕を生かしてくださりありがとうございます。」


 すると、胸元から光が溢れ、周りを白く染めていく。


「!!??」


 目を開けていられず、エルピスは腕で目を覆い暴力的な光から身を守る。しばらく目を覆ったまま構えるも何も起こらず、おそるおそる薄目を開けつつ腕を下げる。


 そこにいたのは、黒髪長髪の性別が分からない美しい人だった。赤と青のオッドアイを伏せた切れ長の目に長い睫毛が影を落とし、すっと通った鼻筋に、薄い唇の赤が肌の白さを強調している。

 セレニテも美人だと思っていたが、それとは別ジャンルの美しい人だと、エルピスは思わず見惚れてしまった。


 その人が伏せていた顔を上げ、まっすぐエルピスを視界に映す。見られたエルピスに緊張が走り、少しびくついてしまうと、その人は微かに目を細め、口角を上げる。

 その微かな表情の変化さえ、鳥肌をたたせるほど迫力のある顔だった。


 そして、その存在はたしかにあの時、小さなエルピスを守った存在。





 創生神で間違いなかった。





「……あっ、あの…」


 その迫力に圧倒されて声が震えてしまうが、これだけは伝えたかった。


「あの時、僕を生かしてくださり、ありがとうございます。」

「…………」


 深々と頭を下げるエルピスに、創生神はしばらく見つめていたが徐に手を頭にのせて左右に動かす。その動きはぎこちなく、不慣れなことが分かってしまった。


「ふふっ」


 思わず笑いが零れてしまうが、誰も咎めはしない。そこにいるのはよく分かっていない神様と、研究以外は特にこだわりのないヴェスティなのだから。


「カミサマに会うつもりでここに来たけど、ガチの直接対面になるとはな~。こりゃたまげた。」


 ヴェスティが呆れつつもエルピスの肩に着地すると、創生神はヴェスティの存在に今気づいたようで、オッドアイの目を細めてじろりと睨みつける。


「?!」


 その瞬間ヴェスティはエルピスの足元に落ち、ピクリとも動かなくなってしまった。


「ヴェスティ?!」


 エルピスが慌ててしゃがみ込みヴェスティの光を掬いあげ様子を窺うと、光が微かに明滅し小刻みに震えており、尋常ではない状態だった。精神だけの状態での異常は戻った時にどういう影響があるか想像もつかない。


「ヴェスティしっかり!いったい…どうして急に…。」


 エルピスが困惑し少しでも震えを抑えようと光を抱きしめていると、創生神も膝をつき、無言で人差し指をヴェスティに向けると横に払うような動作をする。すると、ヴェスティの光はエルピスの腕から離れ遠くの方へと飛ばされてしまい、エルピスからは光が見えなくなってしまった。


「?!ヴェスティ!!」


 慌てて追いかけようと立ち上がろうとすると、腕を創生神に掴まれて動けなくされてしまった。振り払おうとするもちっとも動かせず、苛立たし気に声を荒げる。


「離してください!ヴェスティは今精神だけの存在なんです!そんな状態で僕から離れてしまったら、元に戻らないかもしれない!!」

「………元に、戻っただけ…。」

「………え?」


 創生神からの意外な言葉に、エルピスの振り払おうとしていた力が抜けていく。創生神の顔を見上げると、無表情の何を考えているのかわからない綺麗な顔があるだけで、その表情からは真意は読み取れない。


「元に、戻った?えっと、ヴェスティの精神はヴェスティの体に戻ったってことで良いんですか?」

「…そうだ。」


 ゆったりとした静かな話し口調に、少しずつ心が落ち着いていく。立ち上がろうとしていた中腰の姿勢を

 創生神と向かい合うように座り直し、姿勢を正す。

 ヴェスティが無事ならば問題ない。ならば、ヴェスティが聞きたかったであろうことを、エルピス自らが聞き出すべきだと気持ちを切り替えた。


「ヴェスティが無事なら良かったです。戻していただきありがとうございます。」


 また深々と頭を下げると、創生神も習うように頭を下げる。そんな子供みたいな仕草に正していた姿勢も力が抜けてしまう。


「あの、僕が胸を貫かれたとき、僕は死んでしまったんですよね?なんで、なんで生かしてくださったのですか?」

「…………」

「創生神様?」

「……あのとき確かに死んでいた。愛し子だから生かした。我の力を与えた。」

「愛し子?…夢に出てきた光はずっとソレイユ様だと思っていましたが、本当は創生神様なのですか?」

「そうだ。」

「なぜ、泣いていたのですか?」

「?」

「創生神様を最初に見た夢で、あなたは確かに泣いていました。なにが悲しかったのですか?」


 あの夢に出てきた光がソレイユではなく創生神かもしれない、となった時に最初に思った疑問だった。最初に見た夢で確かに神は泣いていたのだ。ソレイユだと思っていた時は、器から離れた悲しみ、又は何か悪いことに利用されようとしている今の状態が悲しいのかと思っていたが、違う存在なのならばいったい何をそんなに悲しんでいるのか気になったのだ。


「我は、悲しかったのか。」

「はい。そうなのだと思います。」

「あの時、ルアとソレイユを思っていた。そして、」









 今代で起こるであろう悲劇を嘆いていた。

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