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29.本人にも伝えましょう

「ゔあ゙~、体バキバキいってる~。」

「昨日遅くまで実験の精査してくれてたんだよね?ありがとう。お疲れ様。」

「………あんたはそのままでいてな~?」

「?」


 あの後、オラクルに起こされたヴェスティは文句を言いつつ、ダイニングへと姿を現した。

 ただ、手首に縛られたような跡があり、それに気づいたエルピス達とひと悶着あったが躱され慰められしぶしぶ納得をし、朝食にありついた。

 昨日はオラクルに風の魔法で紐状に切断されたテーブルクロスで手足を縛られて一階の実験場に放置されてしまったヴェスティは、テーブルクロスを魔法で切ろうかと思ったが、そこまで繊細な魔法を扱うことは難しく手首を一緒に切りかねないため断念してそのまま床に寝てしまった。


 おかげで体のあちことが凝り固まり軽く動かすだけでもバキバキと嫌な音を鳴らしている。


 朝食も終わり、片付けも済ませたダイニングで思い思いに寛いでいる中、ヴェスティと一緒に三人でお茶を飲んでいるエルピスとセレニテの前に一枚の紙を置いた。


「さて、次の実験の前に昨日の結果報告と確認でもしようか。」


 ヴェスティのゆるゆるした雰囲気ががらりと変わり、研究者としてのヴェスティが顔を出す。

 エルピスとセレニテはゴクリと唾を呑み込み、ヴェスティの言葉をドキドキしながら待った。


「まず、確認だけど、ルア神はセレニテにソレイユ神が宿っていると言ってたんだな?」

「うん、間違いないよ。」

「セレニテ、ソレイユ神を宿す前、精霊と契約を結んでいるはずだけど、その精霊はどうなってるか分かるか?」

「………ソレイユ様と融合している感じがあるわ。私にソレイユ様が入っている状態で落ち着いているのは、あの子の力添えのおかげかも…。ソレイユ様から、あの子の力を微かに感じる…。」

「なるほど………。」


 セレニテからの報告を聞き、ヴェスティはセレニテの胸のあたりをじっと見つめる。魔力は血液と同じように体内を巡っている。そのため、魔力の器官は心臓だというのが今の世の中の通説だ。


 そして、精霊との契約の証は心臓に刻印されるとも言われている。


 今セレニテの心臓には精霊と神の契約の証が刻まれているのだろうか。


「ヴェスティ?どうしたの?」

「いや…それなら安定している理由がつく、と納得していただけだ。セレニテが死なずにいれるのはその精霊のおかげだな。だが、ルア神は”器の資格をもっている”とも言っていたらしいな?同年代の奴らは全員資格を多少なりとも有しているのか。それとも別の要因なのか。まだ解明されていない部分もある。資格を持っている理由はわかるか?」

「………わからない。普通に生活していたし。私もエルピスも両親から、産まれた時のこと何も聞いてないし…。大きな事件みたいなものは、一年前の化け物と遭遇したこと以外ないわ…。」


 エルピスからソレイユの力を奪い取ったという化け物。エルピス達の父親や村長が化け物になってしまったが、それとは違う見た目の黒い瘴気に包まれていたらしいそれは、未だに何なのか解明されていない。

 リヒティは体を解しつつ何とはなしに話しを聞いていたが、”化け物”という言葉につい反応してしまった。


「一年前の化け物…か…。」

「おや?リヒティ君は何か心当たりがありそうだね?」

「”君”って年じゃないから止めてくれ。……心当たりというか…俺が旅をしていた時のことをちっと重いだしてな。気にしないでくれ。」

「旅をしていた時のこと…一応何があったのか話してくれないか?もしかしたら、そこに解決するヒントがあるかもしれない。」

「……はぁ、分かった。とりあえず、今はそっちを優先してくれ。俺の話しは終わった後にしてやるから。」

「ふむ。それもそうか。では二人とも話しの続きをするぞ。まず昨日の結果だがーーーーーー









「僕の中にソレイユ様以外の別の力が宿ってる…のか。」

「あくまで”その可能性がある”っというだけだ。どんな力が入っているのか分かる装置があれば一発なんだがな。そもそも、神と器が分離する事態も異例だ。この機会に不可侵の分野だと言われている神の領域を研究できるんだ。またとないチャンスを与えられた自分は本当に運がいい。」


 またうっとりとした目でエルピスを見つめるヴェスティと視線を合わせないように目を逸らしつつ、ふと夢のことを思い出す。

 暗闇の中に浮かぶ光。ソレイユ様だと思っていたが、もしかしたら違うのかもしれない。夢を見始めたのはセレニテが攫われてから。毎日ではなく時々という頻度。なぜ急に見始めたのか謎だったが。


(危機的な状況になったから見始めた…とか?)


 一年前のあの事件の時に今の力が宿っており、セレニテ誘拐の時に受けた強い衝撃で表に出てきたのだろうか。それならば宿っている力は


(あの化け物の力…とかだったら、嫌だな…)


「ヴェスティ、もしかしたら僕の宿っている力は、化け物の力なのかもしれない。」


 意外な説にヴェスティとセレニテの目が見開く。落ち着かせるように、ゆっくりとヴェスティは疑問を投げかけた。


「なぜそう思った?」

「………実は、夢を見始めたんだ。セレニテが誘拐されてから。真っ暗な中に光の玉が浮かんでる、そんな夢。………ソレイユ様かと思ってたけど、もしかして違うのかなって…もしかして一年前の化け物に胸を貫かれたときに化け物の力が入りこんじゃったのかなって思って…。」

「なるほどね…。とりあえず、その力は今のところエルピスや周りに危害を加えようとはしていないな?」

「そう…だね。」

「なら、大丈夫だ。もし化け物の力なら、とっくに一緒にいた奴らを殺しているはずだ。それに、夢の中にいたのは光の玉なんだろ?化け物は黒い瘴気を纏っていたと言っていたし、夢の中に出てくるなら黒い瘴気を纏った玉なんじゃないか?」

「…それも、そうだね。ありがとう、ヴェスティ。」


 化け物の力説の可能性を思いついたときから強張っていたエルピスの体が、ヴェスティのフォローで解れていく。

 セレニテも同じようにほっと息をつき、お茶を入れるために席をたった。

 それを見送り、声が届きにくい位置にセレニテが行ったのを確認したヴェスティは、エルピスに顔を近づけて小さな声でエルピス以外に聞こえないように自分の考えついた説を伝える。


「……エルピス、あんたに宿っている力は、自分は、創生神だと思っているよ。」

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