27.宿っているのは
結果を先に言うと、ヴェスティは生きている。生きているが、
「すっっっっごい…これは…いいね…。」
恍惚とした表情で二人の手を握りしめている変態が出来上がった。二人が手を離そうとぶんぶん振り回しているのに、まったく離す素振りは見せず、むしろ永遠に離さないと言わんばかりの力強さで握っている。
いい加減手が痛くなってきたし、早く次の実験をして欲しい二人は強硬手段に出ることに。
水と土と光の複合魔法、雷系魔術を徐々に練り上げていく。そして
バチンッ!
「?!」
手の平から大きな放電が出る様に調整・出力した魔法はみごと成功し、ヴェスティは手の平からきた大きな衝撃に目を白黒し、二人の手を離してしまった。
大きな衝撃がきたのに手の平は焼けこげてはおらず綺麗なまま。神の御業ともいえる見事な魔法にヴェスティの瞳の輝きはさらに増し、二人はその瞳を見て
(あー、失敗した…)
と自分たちがやってしまったことを察し、後悔したのだった。
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「二人のおかげでちょっと分かってきたよ!ありがとう!!」
「「………どういたしまして。」」
あの後、セレニテも同じ実験をされてからヴェスティに手を引かれて二人は庭で条件を付けて様々な魔法を披露することになった。
つけられた条件は”すべて同じ魔力量にすること”、”同じ魔法を二人同時にやること”この二つだった。
魔力量に関しては放出されている魔力量を測定する装置があり、触れずとも近くに置いておけば勝手に測定してくれる便利な装置だそうで、ヴェスティが自慢げに装置の説明をした後、嬉々として二人の魔力量調整の練習に付き合った。
なんとか同じ数値を連続して出せる様になると、早速本番と相成った。
竜巻、炎、雨、穴、光源、身体強化、身体弱化、そして最後にヴェスティ自らが傷を作っての回復魔法。
回復魔法にいたっては傷を作った瞬間治されたため、正しい実験結果とは言えないかもしれないが、他の魔法に関しては正しい結果が出たと言えるだろう。
ヴェスティは記録した紙を再び見ながら、他の人には気づかれない程度に目を細めた。
(結果が違いすぎる。エルピスの方が明らかに強い。測定器は足元に置いていたし、言った通りの数値を出していた。それでも魔法の威力が桁違いだ。…二人はソレイユ神の力が宿っていると言っていたが、神の力が二つに別れるものなのか?…もし、前提から間違っていたら?)
エルピスとセレニテに宿っている力は、ソレイユ神と別の何かがそれぞれに宿っているとしたら。
(そして、ルア神の話しからすると)
セレニテにソレイユ神が宿り、エルピスにはーーーーーーーーーーーーー
日も陰ってきたため、今日の実験はここまでとなった。
五人が実験をしている時に、オラクルは五人の寝床の確保と夕飯づくりに精をだしていた。
家に帰ると美味しそうな匂いが漂い、忘れていた空腹を刺激してくる。
「お腹ぺこぺこー!オラクルありがとう!!」
「ずっと飲まず食わずでやってたね。さすがに疲れたかも…。」
「お二人ともお疲れ様です。何かわかったことがありました?」
「う~ん、あんまり?とりあえず、ヴェスティの知りたいことに今日は付き合った感じ。」
「僕とセレスの魔法の威力が違うことは分かったよね。」
「あっ!そうそう!あと、エルの方が魔力の質?密度?が私よりも高い感じだったね。」
それぞれが好きな席に着きつつ、今日の成果を報告していく。疲れた様子の二人だが、今日の実験は思っていたよりも楽しく、夕飯を食べ終わった後に続きをしたいとも思っていた。
オラクルが楽しそうに話す二人の前に取り皿を置きつつ、ヴェスティに視線を投げる。
ヴェスティはその視線を受け、オラクルに向かって一度ゆっくり瞬くと視線をテーブルにのっている料理へと移し、好きな料理へと手を伸ばした。
「………。」
オラクルも席に着き、普段よりも豪勢な夕飯をとるのだった。
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「お~、遅かったな~。」
「エルピス様とセレニテ様はすぐに眠られましたが、エーデル王女とリヒティ殿はなかなかに警戒心が強い方々ですので。」
深夜、四人が寝静まったヴェスティ家でオラクルとヴェスティは一階に集まっていた。話し声は普段よりも潜められ、近くにいなければ聞こえないだろう。
「結果はどうでしたか?」
「黒だな。セレニテもエルピスも、確かに常軌を逸脱した力を秘めている。特にエルピス。あいつ、なんで生きてるんだ?あんな力は人間が宿しちゃいけないだろ。」
ヴェスティは大きなため息を吐くと、脱力して椅子の背もたれに寄りかかり、やるせないような表情で頭をかいた。
オラクルも喉の渇きを感じ、お茶を一口飲み一息つく。
「…ルア様がおっしゃっていました。”神様が怒っている”と。」
「神様…創生神か…。」
「何千年も昔、この地が生まれ変わった始まりの時代。歴史の謎は解けましたか?」
「まだだ。…だが、初代のソレイユ神とルア神が創生神から力を受け継いでいることは…たしかだと思う。」
「おや、いつも自信たっぷりのあなたが珍しいですね。」
「解読しきっていないんだ。継ぎ接ぎだらけで支離滅裂。”かもしれない”で無理やり繋げたくはない。」
「その拘りを捨てれば、案外簡単に謎は解けるかもしれませんよ?そうすれば、あなたは歴史に名を残す有名人となる。」
「この解読は後世に残るんだぞ!もし違ければとんだ恥さらしだ!!」
「落ち着いてください。皆さんが起きてしまいます。」
「…………。」
憮然とした表情で熱くなった頭を冷やすため、窓を開け放つ。夜風が室内を通り、温度を少し上げていた室内を冷やしていく。ヴェスティは窓から見える景色をなんとなく見渡す。
遅くまで研究をしている家もあれば、明日に備えて早々に寝てしまう家、吞み帰りなのか千鳥足で歩くおじさんたちに、急ぎ足で走り抜ける学生達。
そんないつも通りの光景を見つつ、ヴェスティは今一度今日のことを思い出す。
「エルピスの力とセレニテの力は似て非なるもの。精霊の力とは違うもの。ルア神の話しによると、セレニテにソレイユ神が宿っているんだな?そうなるとエルピスに宿っているのは
創生神となる。




