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26.研究と実験こそ全て

 一階に降りると、そこには壁一面の本棚と机、実験器具、一人用のベッドが設置されていたが、何よりも目についたのは床にも机にもベッドの上にもある大量の紙の資料たちだった。

 ヴェスティは器用に資料を避けつつベッドまで行くと、資料をどかしエルピスを思いのほか優しく寝かせた。


「ここで待ってて。」


 今度は机まで行くヴェスティの背中を視線で追いかけつつ、エルピスは上半身を起き上がらせる。

 一緒に一階まで降りてきた3人は足元の資料を脇に避けつつ、エルピスの元までなんとか辿り着き、セレニテは周りを興味深そうに見渡し、リヒティとエーデルは警戒心Maxでヴェスティを睨みつける。

 そうこうしている内にヴェスティは目的の物が見つかったようで、それを片手にエルピスの元まで戻ってきた。その手には大きな透明な丸っこい物体が乗っており、初めて見る物にエルピスは首を傾げる。


「それはなんですか?」

「ふふん、これは魔力測定器。この水晶の中に測定するための魔方陣を描いていて少し魔力を流してもらえば、そいつの魔力量や得意属性なんかが分かる。今回はカミサマ相手だからどうなるか分かんないけど、やるだけやってみて。」

「…はい。」


 少しで良いと言われたため、加減して水晶に魔力を流した瞬間


 パキッ


 水晶にひびが入り、魔力が受け付けなくなってしまった。


「やっぱりそうなるか。じゃあ次だ。」


 そういうとヴェスティはまた机に戻り、ごそごそと探し物を始める。

 エルピスが目を瞬かせていると、横から水晶がとられてしまう。


「手の怪我してない?…うん、大丈夫みたいね。」

「体に違和感とかはないか?」

「…大丈夫だよ。少しを意識したつもりだったけど、多めに魔力注いじゃったかな…。」

「いんや、あんたの魔力調整は完璧だ。だけど、カミサマの魔力の質は他とは違う。カミサマの魔力を注がれた物体は受け止められずに壊れるしかないのさ。人も魔物も結果は同じ。さっきあんたが話してた神の力の継承っていうのは、カミサマの魔力の継承とも言える。だから気になる。なんであんた達は死なずに生きているのか。他の人間とどう違うのか。…研究し甲斐があるねぇ。」


 恍惚とした表情で語られ、背筋を泡立たせたエルピスとセレニテはお互いを庇い合うように抱きしめ合い震える声で訴える。


「た、ただの人間ですよ!」

「そうそう!普通の人間ですよ!」

「普通の人間はカミサマ入れられたら死ぬんだって。はい、今度はこれ。」


 今度は魔方陣が描かれた紙だった。

 旅の途中でオラクルから少し教わったが、魔法は精霊を媒体に思い描いた効果を発動しているが、魔法発動の根本を担っている魔力は人によって量が違い、増幅させるには厳しい修行(下手をすれば死ぬ)をしなければいけないそうだ。

 そこで魔力が少なくても、魔法が何発も発動できるように開発されたのが”魔方陣”だそうだ。

 魔方陣は精霊語で書かれているため学ばなければ解読も書くこともできないが、覚えてしまえば後は簡単。ペンや魔力で魔方陣を描き、少ないエネルギーでかつより安定して魔法を発動することができるそうだ。


「この魔方陣は?」

「風を起こす魔方陣。普通の奴だったら旋風程度だけど、あんたはどうなる?」

「…………。」


 先ほどよりも少ない魔力を意識して魔方陣に魔力を通すと


 ブゥオン


 強風が一瞬吹き、床に散らばっていた紙がひらひらと舞い踊る。使用した魔方陣の紙は吹き飛び、もう二度と使えそうになかった。


「使えるけど威力は倍増か…後は死んでいい奴に魔力を流してもらいたいところだけど。」


 エルピスが言葉もなく強く横に何度も降るのを見て、ヴェスティは一つ舌打ちをし次の手を考え始める。


「…なら、禁術をやってみるか?その場合の反動はどの程度か測定不可能だな…ならあれはーーー。」


 ぶつぶつと呟くヴェスティに戦々恐々しつつ、あることを思いついたエルピスはセレニテの服を引いた。


「セレス、僕の魔力を流してみても良いかな?ヴェスティの話してた通りなら、セレスならソレイユ様がいるし、大丈夫だと思う。」

「わかった。じゃあ、手を合わせてそこから少しずつやってみよ。」


 2人は向かい合うと両手を握り合い、ゆっくり少しずつ魔力を相手へ送りあう。

 エルピスの魔力がセレニテへ、セレニテの魔力がエルピスへと流れる。


(同じ神様のはずなのに、なんか違う感じだな。セレスの方が薄いというか、軽いというか、優しい感じ?がする…)

(うわ、エルの魔力濃い!重い!これは受け止められないわ。…やっぱりエルが器なのかな…)


「なんか、同じ力のはずなのに違う感じだね?」

「そうね。エルの方が魔力の質が高い?感じがする。ちょっと手が痛いわ。」

「なに?!それは本当か!!」


 ぶつぶつと呟いていたヴェスティは二人の話しに食いつき、紙とペンを急いで持ってくると、床に紙を広げきらきらした目を二人に向けた。


「それぞれの魔力はどんな感じなのかもっと詳しく話してくれ!」

「話してって言われても…。」

「僕ら素人だから何て言っていいか…あっ!ならヴェスティが直接触ってみればいいよ!」


 エルピスが思いついたとばかりに両手を合わせて笑顔で告げた言葉に、4人はぴしりと固まってしまう。


「エ、エル…それはヴェスティに死ねって言ってるようなものじゃ…。」

「えっ?あっ!ごめん!違う違う!そうじゃなくって、手の平に魔力を纏わせて触ってもらえば、実感できるかもって話しなんだよ!」


 恐ろしい魔物を見たかのような反応に、エルピスは自分の発言がいかに言葉足らずだったか気づき、慌てて言い直すも皆の身体の強張りは完全には拭えなかった。


「あー、もう!とりあえず、セレス。試しに魔力を纏うから触ってみて。入ってくる感じはないはずだから。」

「了解!」


 再び二人の手が重なるが、セレニテが先ほど感じた痛みはなく、エルピスの魔力で重なっている手が包まれているように感じた。


「うん、大丈夫。これなら他の人が触っても死んだりしないわ。…私もやってみる。…エル、どう?」

「……うん、大丈夫。ちゃんと纏ってるだけになってるよ。ヴェスティ、僕たちを信じて手を握ってくれないかな?」


 ヴェスティの目をまっすぐ見つつ告げるエルピスの言葉に、ヴェスティはため息をつき、好戦的な笑みを二人に向けた。


「………まっ、あんた達が来た時にはもう実験で死ぬ覚悟もできていたさ。」


 ゆっくりとヴェスティの手が二人の手へと重なり強く握りしめた。

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