25.旧友は変わり者
この街は坂道になっており、門側が下流、学園側が上流という作りになっていた。
一番奥に学問・研究施設である”ケントニス学園”があり、そこまで行く道に暮らしている家や店舗が混在している。Uの字型に展開しているようで、街をぐるりと一周することはできないが、迷路のような作りになっているため、道を間違えると他所者達は逸れれば合流することが難しい仕様になっていた。
学園の中央に外側から見た時計と鐘の棟があり、両脇に中央より少し小さい幅広の塔が二つ連なっている。オラクルの話しによると、西棟が施設棟、東棟が学問棟に分かれているそうだ。
「あの学園に向かって歩けばいいのは分かるけど、道が迷路みたいで…なかなか辿り着かないね。」
「私、もう道分からなくなってきた。」
「私も来たばかりの頃は良く迷って通りがかった方に助けを求めたものです。私から離れなければ大丈夫ですよ。」
「オラクルはここに何年間住んでたの?」
「20年間です。15歳の時に有難いことに祭司様の推薦をいただき、こちらに魔法や歴史などを学び、祭司としての修業をして35歳の時に祭司として王都へ着任したのです。…ここを発ってもう25年も経っているのですね…。」
「25年も前なのに、街は変わってないの?」
「あまり変わっておりませんね。多少建物が老朽化で新しく立て直されたようですが、道や主要な店はまったく変わっておりません。」
オラクルが懐かしむように周りを見渡し、目を優しく細める。オラクルの両脇で並んで歩いていた二人はそんな表情を見て嬉しそうに笑い合った。
「久しぶりに会いたい人とかいたら会いに行っても良いんだよ?」
「そうそう、積もる話しもあるだろうし、一晩くらいは大丈夫よ?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、今回会う予定の方は一筋縄ではいかない方でして…それにエルピス様達のことを話せば研究対象にされかねませんので…。」
「え?」
「研究…対象…?」
オラクルの口から放たれた物騒な言葉に、エルピス達は顔を引きつらせ、どういうことかとオラクルの顔を見やる。
その人物のことを思い出したのか、オラクルの雰囲気が先ほどとは真逆の重くどんよりした雰囲気となり、心なしか足もゆっくりとした歩みになっている。
「…なんだか、個性的な人?なんだね?」
「そっ、そうね、私たちを研究対象にするってことは、ずいぶん研究熱心な人なんだろうね!」
セレニテが少しでも場の雰囲気を良くしようと、ポジティブな表現でその人を評価するも、オラクルはさらに遠い目になり、空を見上げる。
「えぇ、研究熱心な方でした。共にいる期間は一年ほどでしたが、その間に納得できないことで教授や講師と論争をし、先輩に喧嘩を振り、世界各地に遺跡が点在しているのですが、一人で遺跡の研究をし、遺跡内部で寝泊まりをするような方でした。…よく私が外泊届の延長申請をしたものです…。」
「…………。」
どうフォローしたものかと頭をかかえていると、オラクルが楽し気に笑いだした。
「ほっほっほっ、その分信用のおける者です。裏表がない方ですので。未知への探求心で暴走していましたが、25年もたっております。もう40代の立派な大人になっていることでしょう。」
(フラグになってなきゃいいなぁ。)
エルピスは心の中でそんなことを思いつつ、オラクルに笑顔で大きく頷いておいた。
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西棟側の塀沿いにその家はあった。二階建てのその家は二階に玄関があり階段が併設されており、一階は大きな横開きの扉が付いている。どうやら、一階が研究施設で二階が住居となっているようだ。
「エルピス様とセレニテ様は念のため私の後ろにいるようにお願いします。」
「「はーい」」
オラクルの背後から顔を覗かせつつ、どんな人なのかと興味が湧く。ドンドンっとドアノッカーで叩くと、数分かけてその扉はゆっくり開かれた。
「どちらさん~?…あぁ、オラクルか、久しぶり~。」
寝起きなのか茶髪の外はねの髪の毛はボサボサしており、白いシャツと緩い七分丈のパンツ姿で登場したその人物はとても40代の女性には見えない外見をしていた。
「また遅くまで研究していましたな?」
「また新しい発見があったんだよ!15歳の時に調べた遺跡を再調査したんだけどあの時見落としていた隠し扉を発見してその奥になんと当時の祭壇らしきものがあったんだ。そこの壁に描かれていたかつての生活嫌儀式を思わせる絵を解読していたらこんな時間になってしまってしまったがやはりやはり私は天才なだけはあるその絵をついに解読できたんだけどそこに描かれていたのは「とりあえずその話しは後でゆっくり聞かせてくだされ。」……はいはい、了解~。とりあえず、中どうぞ~。」
最初のゆっくりとした話し方からマシンガントークで遺跡の話しをされ、目を白黒していた4人は、オラクルと家主の女性に誘導されて、家の中へとお邪魔したのだった。
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なぜか家主の女性ではなく、オラクルがお茶の用意をしている横で、エルピス達は改めて自己紹介をした。
「初めまして、コミエ村から来ましたエルピスです。」
「セレニテです。」
「リヒティだ。」
「エーデルです。」
「自分はヴェスティいいます~。敬語はめんどいから使わんくていいよ~。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
自己紹介を一通り済ませた時にお茶もできたようで、熱いカップが配られる。オラクルも席に着いたところで早速本題に入ることにした。
「実はここ1,2か月の話しなんだけどーーーーーーー
「ふむふむ!なんだか楽しいことがおこっているな!」
最初は緩い相槌を打っていたヴェスティも後半になるにつれ、姿勢を正しエルピスの話しに聞き入っていた。最後まで話し終えると眠そうだった両目は開き、きらきらと輝いている。
「これは研究し甲斐がありそうだ!早速セレニテ…いやエルピスからにしようかな。エルピス君!実験だ!!!」
「え?っうわ!?」
エルピスを担ぎ上げ一階にある研究施設に連れて行こうとしていたヴェスティに全員からの待ったがかかるが、そんな言葉は聞こえないとばかりにエルピスを担いだまま一階に駆け下り、オラクル以外の3人は慌ててヴェスティの後を追いかけていく。
オラクルは5人を見送り、カップのお茶をゆっくり飲み干す。
「やはりこうなってしまいましたか…。」
かつての自分を見ているかのような寸劇に、ついつい懐かしさで笑いを零してしまうのだった。




