24.学術都市ケントニス
学術都市ケントニスに向かうこと早一月。
エルピスとセレニテは旅の間、エーデルとオラクルからも魔法を教わり、めきめきと上達させていった。
今では複合魔法はもちろんのこと、オリジナル魔法(理論上は出来ると言われているが、制御が難しい又は魔力を膨大に使うため効率が悪いと言われていた魔法)も開発し、大人3人を呆れさせていた。
「………まさか、収納魔法もできるとは………。」
「まぁ、神様のお力ですから、不可能を可能にすることは造作もないことかと…。」
「収納魔法は、闇と光と水と地の複合魔法でしたかな?」
「そう、だな。4種の別エネルギーを扱うから、制御が難しいと言われている…。俺も習得したくて、色々試したな…。」
「その魔法のおかげで身軽になったのは否めませんから、あまり深く考えずに恩恵に与るといたしましょう。」
収納魔法のおかげで馬に括り付けていた荷物がなくなり、馬の脚も心なしか速くなったように感じる。
立ち寄った町や村で旅の道具や食料を大量に買い込んでも、人目のない所で収納してもらえればまた身軽になるため便利でしかたない。
「俺、普通の旅もうできないかも…。」
「私も……。」
「これが普通の基準になりそうですねぇ。」
今日も今日とて魔法を覚えたての二人は、無邪気に楽しそうに新たな魔法を生み出していくのだった。
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「おっ!見えてきたぞ!あそこが学術都市ケントニスだ!」
そこは王都よりも高い塀に囲まれた要塞のような都市だった。その塀よりも高い建物の頭頂部が外側からも見え、大きな時計と鐘が存在感を発していた。
今回リヒティとエルピス、エーデルとセレニテがそれぞれ相乗りになっており、馬から身を乗り出してケントニスをよく見ようとするエルピスとセレニテを、相乗りになっている二人が押しとどめた。
それでもよく見ようと首を伸ばす二人に苦笑を禁じ得ない。
「なんか……要塞みたいな外観だね。」
「私は監獄みたいって思っちゃった…。」
「まぁ、ある意味監獄みたいな所かもな。ここは研究機関もあるから、他国にその研究が漏れないように厳重に管理されている。漏らした奴は死刑、なんて噂もあるくらいだからな。」
「えっ?!そうなの?!」
「あくまで噂だ。だが、ある程度の罰はあると思うぞ。他国に流れた研究内容のせいでこの国がピンチになりました、なんて洒落にならないことが起こりえるからな。」
「……僕達そんな所に今から行くんだよね…大丈夫かな…。」
「その前に入れるのかしら?」
「私がおりますので大丈夫ですよ。予め行く旨は伝えておりますし。」
「オラクルはここの卒業生なんだよね。」
「はい、ずいぶん昔ですが、ここはまったく変わっておりませんな。」
懐かしそうにその外観を眺め、オラクルは楽し気に笑った。
エルピス達もケントニスの名前は村にいた時も聞いたことはあった。精霊祭の時に祭司に抜擢された将来有望な者達がここに集まり、それぞれの得意分野でこの国のために学業を修めている、と聞いている。
祭司以外からの推薦は王族からのみという入るには狭き門の都市だ。名前は知っているがまったくの未知の場所の一つであった。
「リヒティはここに来たことはあるの?」
「旅の途中で知り合った奴がここ出身のやつでな。そいつに連れられて一度中に入ったことはあるが…一度、外の奴らをバカだって言ってる奴に喧嘩吹っ掛けられたな。」
「…ここに入れただけでもかなりの誉ですから、驕ってしまう方もおります。そういった方ばかりではないのですがね。念のため、エルピス様達は私から離れずについて来てください。」
オラクルに苦笑しつつ注意喚起され、エルピスとセレニテは深く頷いた。変な輩に絡まれるのは面倒で勘弁願いたいことであった。オラクルがその防波堤になってくれるのなら願ったり叶ったりである。
「リヒティ、父さん達のこと、ここに着いたら話すって約束だったよね?…約束守ってよ?」
「あぁ…」
重々しく頷くリヒティにエルピスもこれ以上言うことはなく、背中をリヒティにもたれかけた。
門番に荷物検査(収納魔法にだいたい入っているためあまり意味をなしていない)をされ、馬を門番に預けた5人は意気揚々と学術都市ケントニスの門を潜った。
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オラクルを先頭に都市を歩くエルピス達は、街中を歩いている人たちの服装が似たり寄ったりなことにすぐ気づいた。
「なんか、みんな同じような服装だね?僕たちだけ違うから、なんか余所者感が半端ないというか…。」
「ほっほっほっ、ここは学術都市ですから、”制服”という服装で皆過ごしているのです。制服はどこに所属しているのか分かりやすくした服装ですので、皆似たり寄ったりな服装になっているのです。」
「そっか…この制服っていうのも可愛いいけど、今日は別の服着たい!ってなった時ちょっと困るわね。」
「セレニテはおしゃれ好きだもんね。」
オラクルを中心に楽しそうに話す3人の後ろで、エーデルとリヒティは周りの様子を注意深く見渡す。
5人を奇異の目で見る者、無関心の者、オラクルを知っている者、余所者を嫌悪している者、反応は様々だが、懸念していた視線がないため一先ずほっと息をついた。
(エーデル、そっちはどうだ?敵はいそうか?)
(いえ、いないようです。流石にここまで潜入することは難しいのか、こちらに来るとは思っていないのか、どちらでしょう?)
(さぁな、いないに越したことはない。が、油断せずに行くぞ。…まぁ、今の二人なら捕まっても自力でどうにか出来そうな気がするが…。)
(その油断が命取りですよ。)
エーデルがリヒティを睨め付けると、リヒティは肩をすくめてその視線を往なした。
そのリヒティの態度に深々とため息を吐くと、エーデルは再び周りを見るためにリヒティとは反対の方面へ顔を向けた。
(…ところで、少し気になったのですが、セレニテ様はなぜ”監獄”をご存じなのですか?確かに犯罪者を収容する街、犯罪者が住む街「監獄クリム街」はありますが、その街を知っているのは極僅か、国の上層部の者だけのはずです。本に書かれているのも”牢屋”程度のはずですし、地図にもその街は載せていないはずですが…。)
(…もしかしたら、ソレイユ様の継承は、力だけでなく記憶の継承もあるのかもしれない…)
(歴代のソレイユ様達にはそのような素振りはまったくありませんでしたが…)
(……ゆっくり記憶…いや、魂が融合して神に乗っ取られているとしたらどうだ?)
(?!)
(俺の思い違いならいいが、もしそうなら、早いうちにどうにかした方が良いかもしれないな。悠長にしていたら、取り返しのつかないことになるかもしれない。)
(……違う器に融合する神。ちぐはぐなものは、いずれ破綻する…。)
今は元気にエルピスを揶揄っているセレニテが、そのうち神にのっとられる、かもしれない。
エーデルは再び未来に暗雲が立ち込めてきたように感じ、腕を弱く擦った。




