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23.言葉にしなけりゃ伝わらない

 水鉄砲の次は竜の再現だが、これがなかなかに難しく、水の塊が空中でぐねぐねと形を変えているだけでなかなか竜の形にならない。


「うぅー、結構難しい…。」

「上を押したら下が飛び出るし、角もなんか丸っこいし…これどうすれば思ってる形になるのかしら?」

「イメージが大切だって教えただろー。もっとはっきりイメージしろ。そして一度作った形が崩れないように、そこにも魔力を注ぎ続けろ。さっき水球を一度にたくさん作っただろ。それと同じだ。」

「なるほど…。」


 エルピスは目を閉じ頭の中のイメージを詳細まで描き明確にしていく。艶めく鱗、頭からしっぽの先まで長い胴体、背中にあるごつごつした棘、空を羽ばたく大きな翼、一つ一つのパーツを思い描きつつ、水でその形を模写していく。

 最後まで描き切り、閉じていた目をそっと開けると、そこには、透明な竜が木々よりも高く大きく存在していた。


「………大きいね。」

「大きすぎじゃない?」

「大きすぎるだろ。」


 川の水位が下がり、湿った土を表に出している。このままいくと川魚のための水がなくなってしまう。


「とりあえず、成功かな?」

「そうね、大成功よ。」

「大成功すぎるだろ。」


 リヒティの呆れたような引いているようなそんな声を聞きつつ、エルピスは竜に流している魔力を切ろうとし


「あっ、ばか、だめだ!!」

「えっ?」


 リヒティの制止は間に合わず、大きな竜はただの水になり落下していった。

 さて、ここで問題だ。木々よりも上空にあった水が落ちるとどうなるか?

 答えは簡単だ。


「ぶっ………!!!!」

「きゃ………!!!!」

「ごぼっ!!!!!」


 地面を跳ね、近くにいたエルピス達に水が襲い掛かり、3人は水浸しになってしまった。

 川にいた魚も川岸に打ち上げられ、3人の周りでびちびち尾を叩いてる。


「げほっ!ごほごほ!!」

「ごほっ、うえ~ちょっと飲んじゃった…口の中じゃりじゃりしてる…。」

「げほっ、ごほっ、はっ、エルピス~?」

「ごほっ、ご、ごめんなさい~!」


 エルピスの情けない声が森に木霊したのだった。



 ーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーー



 リヒティの指導の元、風と火の複合魔法で服と髪の毛を乾かすことに成功したエルピスとセレニテは、今度は魚や植物を実験対象に乾燥の魔法を行使している。

 そんな3人から離れた焚火の所で、エーデルとオラクルは微笑ましく見守っていた。


「お二人の魔法はめきめきと上達しているようですな。」

「えぇ、もう複合魔法を操れるなんて、やはり神の器に選ばれるだけはあるのかもしれませんね。」


 穏やかな空気が二人の間に流れるが、オラクルは姿勢を正し、エーデルに向かって深々と頭を下げた。


「先日からの非礼お詫びいたします。大人げなく、あなたに八つ当たりをしてしまった。」

「………そんな、良いのです。王家が仕出かしてしまったことは、許されざる行為です。怒りを感じて…許せないと思って当然です。…国民に、祭司様方に知られてはいけないと、今まで緘口令が敷かれていました。…ですが、今回の件でそう言っていられないと思い、私の独断であなた方に話しを聞いてもらいました。」


 罪の告白は緊張する。口の中が渇き、エーデルは持っていたカップに水を注ぎ、一口飲みこんだ。


「信心深いあなた方にこのことを話せば、王家から離れ、別の勢力を作り出す。そしてその勢力は国民の心を掴み、王家は滅びるだろう…と。」

「……そう、王妃たちは判断したのですね……。たしかに、その可能性はないとは言えません。ですが…。」


 オラクルは、エーデルに向けていた瞳をエルピス達に移し、眩しそうに、愛おしそうに眼を細めた。


「神は…ルア様とソレイユ様は人を愛しています。そのお二人の思いに背くようなことを、私たちはいたしません。しばらく葛藤はあるかもしれませんが、時が必ず解決いたします。現に、私も受け入れている。」

「オラクル様…。」

「私は不思議だった。なぜ、王女であるあなたが剣術や魔術の特訓に精をだしていたのか。なぜ、強さを求めて修行の旅に出たのか。その理由は、これだったのですね。目の前で殺された御父上たちの仇を討つため。そして、今度は誰も死なせないよう守るため。そうですね?」

「………そんな守るため、なんて、綺麗な理由ではないです。仇を討つ。ただそれだけです。私は父たちを殺したあいつを私の手で殺してやりたい…!そのためなら、どんなことだって…!」


 オラクルは言葉を荒立たせるエーデルの背中をそっと叩き、優しい目で諭す。


「仇を討ちたい気持ち、よくわかります。ですが、終わった後にあなた自身の人生があることを忘れないでいただきたい。仇のせいであなたの後の人生が生き辛くなったら、それこそ死んでしまったら、家族も私たちも後悔して生きることになります。そうなって欲しくはありませんよね?」

「………肝に銘じておきます。」


 脅しともとれる諭しに苦笑しつつ、エーデルはカップに残っていた水を飲みほした。

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