22.修業は大切
シェーラ村で一晩過ごしたエルピス達は、早朝御墓へ挨拶をしてから再びケントニスへと旅立った。
昨日の王家の告発でエーデルとオラクルの間には少しギクシャクした雰囲気があり、良好とはいえなかった。
このままではいけない、と思いつつも二人とも(片方はまだ成人していないが)大人のため、第三者がとやかくいうのではなく、本人達の気持ちの折り合いがつくのを待とう、ということにエルピス達3人の中で決まった。
とは言ったものの
(これはいけないような気がするなぁ。)
ケントニスへ向かう道中に滝があり、オラクルがここで休憩を入れたい、と珍しく要望を出したため快く承諾したのだが
「っかーーーーーーーーーっつ!!!!!!」
服を脱いでパンツ一丁になったオラクルが滝に打たれ始めたのだ。
オラクルの少し天パ交じりのふわふわした茶髪が滝に打たれてぺったんこになっている。
普段ふわふわしていて気づかなかったが、水の勢いが強すぎて見えにくいが、肌色の面積が多いように見える。ちょうど雲間から光が射し、光り輝ているように見える。
「オラクルってハg「セレニテ!見守るのはここまでにしておこう。僕たちは何も見なかった、いいね?」………おう。」
「おーい!二人ともこっちの準備手伝ってくれー!」
「「はーい!」」
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「ふぅ、気分が晴れました。ありがとうございます。」
滝行が終わったオラクルは心なしか肌つやがよく見え、さっきまでの思いつめていた雰囲気も一掃されていた。
「晴れたなら良かったよ。…あんなに冷たい水に何十分もいたけど、身体大丈夫?冷えてない?」
「最初は寒いのですが、続けていくうちに冷たさを感じなくなるので大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます。」
「それならいいんだ。はい、山菜スープ。今回は僕が作ったんだよ。」
「おぉ、エルピス様が。ありがとうございます。頂戴いたします。」
「……うん。いっぱいあるから食べてね。」
エルピスはオラクルの”様”つけを訂正しようか迷ったが、何度も言われ、その度に訂正をしていたためもう訂正することを諦めかけていた。
スープを味わいつつゆっくり手を進めているのを確認し、言葉通り体調は良さそうだとふんだ二人はその場を離れた。
オラクルの滝行中に食事を済ませていたセレニテとエルピスは少し休んだ後、村を出てから教えてもらってる魔法の講義を今回もやってもらうためにリヒティのところへ向かう。
「リヒティ!今日もよろしく!」
「おー、っといっても、お前ら制御できるようになったか?前の休憩で見てたが、だいぶ強い風だったぞ。ありゃ、竜巻だな。」
「その竜巻のおかげでコツをつかめてきたんだよ!」
「そうそう!魔力の範囲っていうの?そういうのが分かってきたから大丈夫よ!」
まずは見ててねーっと、二人はリヒティから離れると上空に向かって風の魔法を展開する。
エルピスは細長く上空の雲を一直線に貫き、セレニテは空気の塊をいくつも作り雲に向かって放つと大小さまざまな穴ができる。
「…………」
リヒティはその雲たちをみやり、威力の凄まじさに遠い目になる。
「リヒティー、どう?だいぶ上手くなったでしょ。」
「威力もだいぶ抑えられてきたから、ちょっと地面に打ってみても大丈夫よね?」
2人のきらきらした瞳とわくわくした声音がリヒティに一心に向く。
リヒティは周りを見渡し、ここが水辺の近くであること、村や町から離れていることを確認し、首を縦に大きくふった。
2人の顔が華やぎ、嬉しそうに魔法の相談をし始める。
「せっかく滝の近くにいるんだから、水魔法にしてみない?」
「いいわね!うーん、どんな魔法にする?水鉄砲とか?」
「それいいね!あとは…あっ!物語に出てくる竜とか作れないかな?」
「うわー、水で作るの難しそう…でも、コントロールの訓練にはなりそうね。」
「ね!とりあえず水鉄砲からやってみようか。」
「OK」
2人はいそいそとオラクルが先ほどまで滝行していた近くまで行くと、川の水を使うため手を浸し魔力を広げていく。
水のないところで水魔法を放つとなると、魔力効率がかなり悪く、不慣れな二人は普通の倍の魔力を消費してしまう。慣れるまでは自然の力を借りて練習していくことになっていた。
まぁ、神の力を宿している二人なので、魔力量は規格外のものになっているため魔力切れの心配はまったくないのだが。
2人の周りに小さな水球が何十個も浮かびあがる。その水球の一つが高速で木に向かって放たれた。
ピュン
高音で発射されたその水球は川の向こう側にある木のど真ん中を貫通し、その後ろにある木にめり込んで止まった。
「「おぉ~!」」
「結構威力強いね!」
「ね!もうちょっと魔力込めれば後ろの木も貫通するかもね!魔物も一瞬で心臓貫けるかも!」
「水球の大きさ変えれば木を切り倒す(?)こともできるかも!そしたら頭吹き飛ばすこともできるね!」
表情事態は無邪気な子供そのものだが、話している内容と行動のえぐさが子供の範疇を超えている。
(この威力で攻撃されたら人間なんてひとたまりもねぇぞ。)
殺されたことも分からずに絶命しそうだ。
救いは今のところ対魔物でしか考えていないことである。リヒティはこれから道中で出会うであろう魔物に対し静かに合掌した。




