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21.呪われた地

 西側のルートを走ること早十日。その地は人々に忘れられたかのようにそこに存在していた。

 森を抜けた先にある元村。人々が生活していたときは「シェーラ村」と呼ばれ、地図にも登録されていた。

 半壊した家に植物の根が張り、緑に覆われている。中を覗き込むと食器や農具などが置かれ、生活の跡が随所に残っている。

 村の奥に誰かが建てたのだろう墓があり、そこも苔むしていた。

 呪われた地と言われているが、空気は澄んでおり、呪われるような所だとは思えなかった。


「ここが、呪われた地?まったくそんな感じしないけど…。」

「そうね、もっとオドロオドロしい感じなのかと思った。」

「日が出てるし、緑に覆われてるからそう感じるのかもな。俺が初めて来たときはもっと荒廃した感じだった。」

「リヒティがここに初めて来たのっていつくらいなの?」

「村を出た年だから15の時だな。馬なんて使わずに歩いての旅だし、色々な町によってたからコミエ村を出発して三か月後くらいに着いた。あれからもう15年…か…。」

「そもそも、なんでここが呪われた地なんて言われるようになったの?」

「………この地が、ソレイユ様が産まれ、襲撃され、行方不明になった地だからですわ。」


 エーデルが重く言葉を紡ぐ。眉間に皺がより、瞳が揺れ動くその姿は、ここではない別の場所を見ているかのよう。


「……神が産まれた地は祝福の地。今代の祭司様方が必ず訪れる聖地巡礼の村になるはずでした…ですが…。」

「村が…襲われた…。」

「加えて行方不明です。これでは祝福のない呪われた地だと言われてもおかしくはありません。」


 墓場まで来るとエーデルは一人膝を折り、祈りを捧げる。長い祈りだった。その祈りは懺悔をしているかのようにも見え、エルピスも隣で同じように祈りを捧げる。

 そんなエルピスを見て、エーデルはぽつりぽつりと過去を話し始めた。


「今回の事件、リヒティは一年以上前と言っていましたが、もしかしたら15年以上前から計画されているかもしれないのです。」

「えっ…」

「15年前、ソレイユ様が産まれた時、王城ではーーーーーーー






『お母さま、この子はまだ産まれてこないの?私、早く会いたいの。』

『ふふっ、そんなに急かしてはだめよ。この子の準備が出来るまでゆっくり待ってあげて。』


 母に頭を優しく撫でられ、エーデルは嬉しそうにしながら大きなお腹をそっと撫でた。


『でも、もうこんなに大きくなったのよ。これ以上大きくなったらお母さまが大変だわ!』

『エーデルも3年前はここにいて、同じくらい大きかったのよ?それでも私もエーデルも元気に過ごしているでしょう?だから、大丈夫よ。』


 優しく諭されても、エーデルの早く会いたい気持ちは収まらず、でもこれ以上言っても母の迷惑にしかならないと子供ながらに察し、黙り込んで母のお腹に顔をつけた。

 お腹の中で動いているのを感じると、ここにいるのだと実感できる。エーデルが触れているところに押されたような感じがあると、まるで挨拶をしてもらえたかのように感じて、お腹が大きくなってから頻繁にくっつくようになってしまった。

 くっついていると、背後にある扉が開き、慣れ親しんだ香りが鼻をついた。


『エーデルは相変わらずここに入り浸ってたか。メイドのサラが昼食のタイミングを計りかねて困っているぞ。』

『お父さま!』


 父の来訪に跳ね起き、両手を広げて駆け寄ると力強く抱き上げてくれた。


『エーデルも大きくなったなぁ、産まれてくる下の子に自慢の姉だと思ってもらえるように、あまり周りに迷惑をかけるんじゃないぞ。』

『………はーい。』


 不服そうにしながらも父の言葉は聞き入れ、首に抱き着いて思いっきり甘える。そんなエーデルに父も母も笑い、幸せなひと時を過ごしていた。



 だが



『……なんの冗談だ?』

『言った通り、神を殺せ。さもなくば、王都内にこの毒を撒く。なぁに、簡単なことだ。この毒を二人に飲ませればいいだけなのだから。』


 その場にいた王の護衛もメイドも殺したその男は、楽し気に笑いつつ一つの小瓶を差し出した。

 男が作ったであろうその毒で殺されたメイドは血反吐を吐いてすぐにこと切れた。


『……広がる前にその毒を回収すればいいだけのこと…!』

『そんな力が貴様にあるのか?魔力は人並みしかなかったはずだが…。他の者に力を借りる前にこの毒が広がり民が死ぬのが先だ。』

『くっ…』

『神は死なん。ただ、生まれ変わるだけ。だが、ここにいるただの人間はどうだ?……死んだら終わりだ。さぁ、選べ、神か人か。』


 長い沈黙の果てに王は震える手でその小瓶に手を伸ばした。



 ーーーーーーーーー

 ーーーーー


『おぉ、アシュク王よ。こんな遅い時間にどうした。』

『わしらはもう少しチェスを楽しんだら寝ようと思っておったところだ。お前さんも一緒にどうかの?』


 王が小さいころからこの王城で一緒に生活していた家族のような存在の二人。

 神は人の倍の時間を生き、そして死と同時に生まれ変わる。次の赤子へ憑依して。だが、力は引き継いでも記憶は引き継がれない。それは人間の死と同じなのではないだろうか?

 2人の部屋に来たきり、扉から動こうとしない王に2人は訝しみ、チェスの手を止める。


『アシュ『国民を、人質にとられました。あなた方を殺すよう、この毒で殺すよう命を受けました。ですが、私は………』


 王の突然の告発に驚き、二人は顔を見合わせ笑い合う。


『アシュクよ、何を悩む。大切なのは国民。人でなければいけない。わしらを生かし、人を殺してはならん。わしらの力は人のためにあるのだから。』

『アシュクよ、今まで楽しい日々を過ごせたこと、感謝しておるぞ。』


 そういうと、王が手に持っている小瓶を奪い、二人は小さなグラスに均等に分け合う。


『友よ。また会えることを楽しみにしておるぞ。』

『またすぐに会うじゃろ。むしろ、離れてる期間があった方が楽しいかもしれんぞ。』

『それはそうかもしれんの。』


 2人は朗らかに笑い合うとグラスを鳴らし、一気に飲み干し


『ルア!ソレイユ!』


 眠る様に息を引き取った。


『あぁ…こんな…不甲斐ない王で…すまない…。』


 王は二人の亡骸を抱きしめ嗚咽をこぼしていると、場違いな拍手と笑いが扉の方から放たれる。


『よくやった!アシュク王よ!貴様ならやり遂げると思っていたぞ!』

『きさまぁ!!!!!!!』

『…そしてさよならだ、アシュク王。地獄の業火に焼かれるがよい。』

『…!?』


 目にも止まらぬ早さで剣が王の胸を貫いていた。

 状況を理解するのに数秒、全身に痛みが広がり口から血が溢れて、血溜まりが広がっていく。


『な…』

『このようなことをして、生きられると思っていたのか?おめでたい頭だな。』


 意識に靄かかり始めている頭でせめて一矢報いようと魔力を練り上げる。


(この者の思い通りになってはダメだ。せめて妨害を…)


 その魔力に反応し、男が王に向けて再度魔法を放つ。同時に放たれた魔法は接触した瞬間爆発し、周りの家具を吹き飛ばす。

 王も壁に打ち付けられ、そのまま倒れ動かなくなってしまう。

 誰も動かなくなった室内で、立っているのはその男のみだった。


『…余計な力を使った…早く2人を迎えに行かねば…』


 コツ  コツ  コツ


『………』


 キィ


 男の足音が遠ざかって行くのを聞き、隠れていたエーデルは姿を現す。

 王城内は様々な秘密の通路がある。エーデルの最近の楽しみはその通路を見つけて探検することだった。

 今日も部屋から通路を通り、新たな出口を見つけたと思ったら先程の父達のやりとりを目撃してしまった。


『お父さま、ルアさま、ソレイユさま…』


 1人ずつ揺すってもグニャりと身体が曲がるだけ。身体は少しずつ冷たく硬くなっており、手の平に命が零れ落ちていく感触をまざまざと残す。


『あっ、あぁ…やだーーーーーー!!!!!』







「それからは、母が次代の王が決まるまで王の代わりを努め、5つ年上の兄が今年戴冠式をする予定でしたが…」

「戴冠式をするには、神のお二人がいなければなりません。…式自体出来ない状況…ということです。」


 はぁ、とオラクルが重々しくため息を吐き、ジロリとエーデル睨む。


「お二人が望んでやった事とはいえ、王自らが神に死を望むとは…」

「…仕方がなかったことだよ、オラクル。」

「えぇ、分かっております。ですが、祭司としては……少し頭を冷やしてまいります…。」


 仕方なかったこととはいえ、許せないとどうしても思ってしまう。オラクルは皆から離れて1人呪いの地を歩く。


(ならば、交渉を持ちかけられた時に王が自死すれば良かった、などと…)


「祭司がそのようなことを思っては…人を愛するお二人に顔向け出来ませんな…。」

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