15.これからのこと
ルアに飛ばされた場所は王都から離れた森の中だった。
「いや、まぁ、確かにここだったら追手から逃げれるとは思うが…。」
王都の門番に預けている馬や荷物、王都の宿屋にいるであろう父親と村長とも合流したかった。
父親と村長に関してはメッセージを飛ばせばどうにかなるだろうが、馬と荷物に関しては預けた時に渡される荷札と交換になるため、村長たちに頼むこともできない。
「はぁ、馬と荷物に関しては諦めるか…。とりあえず、村長たちにメッセージ飛ばすぞ。」
リヒティが村長たちとやり取りしている間、王女は飛ばされた位置の確認を、オラクルはエルピスからルアとのやり取りの聞き取りを始める。
「ーーーーーーふむ、融合はしていないがセレニテ嬢の中で定着はしている、と。」
「はい、ソレイユ様自ら離れることはできない、と言っていました。なので、もし離すことになったら禁術を使うか、他のやり方を探すしかないかと…。あっ、あと、セレニテに触れている間だけですが、僕にもソレイユ様の加護が付与されます。そのおかげで見える様になりました。まぁ、離れたら見えなくなるし、加護もなくなるのですが。」
「なるほど、融合しようとした時にエルピス様もあの魔方陣の上におりましたし、あの時二人が触れあったところから光が溢れたように見えました。前代未聞の状況です。どうしてそうなったのか、分からないことばかりでしょうが、今はその状況を受け入れていくしかありませんな。」
「…はい…そういえば、ルアが”神様が怒っている”って言ってました。」
「”神様が怒っている”?……ふむ、心当たりはあります。…あそこに行くしかないようですね。」
オラクルが嫌そうにため息を吐き出す。”あそこ”とはどこのことを指しているのか分からないが、どうやらこれからの行き先が決まりそうだ。
その先にセレニテとソレイユ様を救う手がかりがあれば良いと願い、エルピスは眠ったままのセレニテを見やる。
この10日間ほどで少しやつれた様に見えるが、一年前と変わらない、ふわふわの長いプラチナブロンドと白い肌に花のように色づく頬と唇、長い睫毛で瞳は閉ざされているが、その下には透き通った青い大きな瞳があるのだろう。
事故の後、自分を責め立て献身的にエルピスを支えてくれたセレニテに見える様になったと、一番に報告したかった。
感傷的になっていると、メッセージのやり取りが終わったリヒティと、位置の確認が終わった王女が二人の元へやって来る。
「村長たちはすぐにこっちに来るそうだ。俺たちはこの森で夜を過ごそう。」
「今私共がいる所は、王都東門を出て一日ほどまっすぐ走った先にあるオリエンスの森です。もう少し先に小川があるので、そこで合流いたします。」
「なら、セレニテは僕に運ばせてもらえないかな?実はーーーー
「ーーーーーなるほどな、触れている間だけ、か。わかった。エルピスに強化魔法を施すから頼んだ。」
「任せて!」
リヒティに強化魔法を施されたエルピスは早速セレニテを背負う。意識のない人間は重い、と聞いたことがあるが、その重さを感じさせない軽さで魔法の力の凄さを実感した。
(凄い。僕もソレイユ様の加護がある状態なら魔法使えたりしないかな?)
後でリヒティに相談しようと思いつつ、エルピス達は一先ず合流するために、小川へと歩き出した。
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道中で魔物を狩り、食料を確保しつつ小川に着いた5人は森に近いところで焚火を用意し、暖を取りながら先ほど狩った魔物を捌いていく。エルピスが持っていた短剣で面白いほど綺麗に解体されていく様はショーを見ているようだった。
「リヒティ上手だね。料理は下手なのに。」
「一言多いぞ。」
解体した肉を小川で洗って血を取ると、枝に刺して焚火で炙っていく。塩も何もない素材そのままの味だが、意外に外側カリカリ中ジューシーで旨味があって美味しい。
自分たちの状況も落ち着いたところで、これからどうすれば良いか、話し合いが始まった。
「セレニテが未だ眠っているのが気がかりだな。目を覚まして欲しいところだが…。」
「あまり期待しない方がよろしいかと…一先ずコミエ村に帰り、セレニテ様をご両親様に看てもらった方がいいのではないでしょうか?セレニテ様の問題を解決する方法は私達で探して。」
「その方が良いでしょう。歩けない者を連れての旅は、思っている以上にキツイものです。原因を解決する鍵も心当たりはあるので、あとはそちらに向かえば…。」
3人でこれからの方針が決めていく中、エルピスは村に帰ったら自分はどうしようかと思いを巡らす。
村に着けば、父と母との約束は果たされたようなもの。目が見えない自分など、これからの長旅には足手まとい以外の何者でもない。両親と一緒にセレニテを看病していく方が良いに決まっている。
(でも、僕も一緒に2人を救う旅に参加したかったなぁ。)
今日は本当にいろいろあった。3人の話し声を子守歌にエルピスは瞼を閉じた。




