11.王都へ
メッセージの魔法の説明を入れ忘れていたので旅立ちを編集しています。
要はテレパシーの魔法です。
ーーーーーーーーーーーまた、同じ夢を見る。
暗闇の中小さな光が泣いている。ただ、声は相変わらず出ないが今度は動くことができ、エルピスはその光が触れるところまで歩み寄った。その光は宙に浮いてしくしく泣いている。慰めてあげたくて、エルピスは触れようとするがすり抜けてしまい、何も掴むことができなかった。
ふと、気づく。
自分の手の平が見えていることにーーーーーーーーー。
「………ーーース、ーーピス、エルピス、交代の時間だ。起きれるか?」
「………うん。お疲れ様。交代、するね。」
寝ぼけ眼に答えつつ、寝袋から起き上がる。寝起きでまだふらふらしているからと、リヒティに火の前まで誘導される。寝袋とは違う暑さが足の表面を炙る。その前でしゃがみ込むと、脇に細めの枝をいくつか置かれた。
「今よりも寒くなってきたと感じたらこの枝を入れていけ。多めには置いてあるから数時間もつ。何かあったらすぐに俺を呼べよ。」
「わかった。おやすみ、リヒティ。」
リヒティの気配が遠のき、寝袋のガサガサ擦れる音が聞こえたと思ったらすぐに寝息があがり、寝つきの早さに驚く。
(寝付くの早いな。いっぱい魔力使ったから疲れてたんだろうな。………いや、リヒティのことだから、ただ単純にもともと寝つきがいいだけかも。)
何気に失礼なことを思いつつ、夜の静けさに耳を澄ます。木々のざわめきに紛れて梟の鳴き声も聞こえる。他はリヒティの寝息と焚火の音以外ない静寂は、意外とエルピスには心地よいものだった。
(寝たせいかな?あんなに急いてた気持ちが落ち着いている。)
明日は剣技の特訓にも集中できそうだと希望をいただきつつ、小枝を一つ火の中へと投げ入れた。
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木々の隙間から日の光を感じ、エルピスは空へと顔を向ける。優しい光がじわじわと強く熱を帯び、瞼を焼く。今日もいい天気であることに喜び、大きく伸びをした。
(今日はどのくらい進むのかな?このスピードで行けば、明日くらいには着いたりして。)
王都まで行ったことがないため、道中で寄る村や町の名前を聞いても、今どの辺まで来ているのかまったくわからない。地図は高価で易々と手に入るような代物ではなく、村長の家に貼ってある地図を見せてもらったことがある程度だ。
(その地図も隣の村や森くらいまでしか描かれてなかったしな。)
王都には世界全体が描かれている地図があるのだろうか。もし、セレニテのことが片付いたらセレニテと一緒に見せてもらえないだろうか。
そんなとりとめのない未来を思い描きながら、エルピスはリヒティを起こしに立ち上がった。
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休憩をはさみつつ、強化と障壁での高速移動の甲斐があり、旅立ってから3日目で城の頭部が遠くから見える所までたどり着いた二人は、到着する前にリヒティの魔力回復をするために休憩をしていた。
村から王都まで10日間ほどかかると言われていたのに、もう見える所まで来ていることに、いかに早かったのか推して知るべしだろう。
エルピスは道中の休憩中は休まず剣を振ったおかげか、最初のころと比べると力の入り方、スピード感、強弱が板についてきた。
今も剣を振っていると、瞑想をしていたリヒティが急に立ち上がった。
「な、なに?どうしたの?」
「………今メッセージが届いた。セレニテの儀式が明日行われる……!」
「!!!!!」
「さすがのあいつでもこれ以上引き留めることは無理だったみたいだな……。行くぞ。」
「うん!」
2人は王都へと再び走り出した。
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夕暮れ時、無事王都へ着いた二人は荷物検査をされ、馬を門近くにある厩に預けたあと、王城へとまっすぐ足を進めた。
王都で儀式を受けるときは王城で行っている。メッセージの送り主からもここにいることは教えてもらえていたため、二人の足には迷いがない。
すると、城門前で言い争っている男二人組を見つけ、二人は目を丸くした。
「あの声は、父さんと村長?!」
「まさか、ここまで手を回していたのか?」
王城の敷地内は大きく分けて王族の居住区画、儀式区画、一般人解放区画の3つに分けられており、手続きさえすれば一般人解放区画までなら誰でも入れるようになってる。それなのに断られているということは誰かしらの指示があった可能性がある。
仮説通りなら大事にできない分、妨害は受けにくいと判断していたが、意外な用意周到さに唸り声が出る。それならばと、リヒティは知人に向けてメッセージを飛ばす。
(今城前で足止めをくらってる。手をかしてくれないか?)
(わかりましたわ。)
「今助けが来るから、ここで待っていよう。村長たちには下手に声をかけるなよ。同じ仲間だと判断されて、中に入れなくなるとここまでの苦労が水の泡だ。」
「………うん。」
声をかけたい気持ちをおさえ、待つこと数分。凛とした澄んだ声が言い争う男たちを止めに入る。
「何をなさっているの?ここは王の城。これ以上品のない声を出すのはお辞めなさい。」
「王女様!」
そこには、シルバーのストレートヘアを背中に流し、翠色の切れ長の目でまっすぐ男たちを見据える少女がいた。
急な大物の登場にエルピスが驚いていると、少女の視線がこちらに移る。
「あら、リヒティお久しぶりね。私のもとへくる決心がついたのかしら?」
「……その話しはお断りしたはずですよ、エーデル王女。」
男たちが見据えていた王女の目がリヒティをとらえるとふわりと和らぐ。
まさか二人が知り合いだとは思わず、エルピスは聞き間違いかと首を傾げる。片や高貴なお方。片や田舎の元旅人。いったいどこで知り合う機会があったのか気になるところ。
そんなエルピスに手刀を送りつつ、リヒティは要件を伝える。
「今日はこいつの、エルピスの精霊の儀式をするためにこちらまで参りました。村に訪問された祭祀様が魔力切れでエルピスだけやってもらえなかったのです。待ち切れれずこちらまで来てしまったこと、お許しください。」
「そう。こちらの不手際です。特別に本日できるように手配いたしましょう。儀式の間へは私がご案内いたします。」
そういうと王女が先導するため歩き出す。凛とまっすぐ伸びた白い背中が城の敷地内へと吸い込まれていく。追いかけるために足を踏み出し、言い争いを辞めてこちらを凝視していたアパル達とすれ違いざまリヒティは目線を交わす。アパル達は軽く頷くと、王城を去り街へと消えた。
エルピスは父親たちが遠ざかっていく足音を捉えつつ、心の中で誓いをたてる。
(父さん、僕が必ずセレニテを連れてくるから。)
両親の思いを胸に、エルピスは王城へと足をすすめた




