プロローグ
波線下から勇者視点です。
真っ暗な部屋にとつぜん大きな音がしてまぶしい光に目をつむった。
目が開けられるようになって最初に見えたのは、あの大嫌いな魔王が倒れていてお腹の上に乗るあなただった。
わたしはあの瞬間、確かに予感したの。あなたが変えてくれるって、これから変っていくんだって、そう思ったの。
世界に絶望していた わたしは、きらきらしているあなたから目が離せなかった。
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夕陽に照らされる魔王城にて。
激戦の末、魔王は少年に正面から斬られて絶命した。
背後にある石造りの壁をぶち壊し、隣の部屋へ少年共々倒れていった。
「「ノヴァ!!」」
共に戦った仲間たちが姿の見えなくなった勇者、ノヴァを心配し声を張り上げている。
「俺は大丈夫だ!」
魔王の上に立っていたノヴァは後ろの仲間に伝わるように大きな声を出した。
「にしてもここは…?」
部屋を見渡してみると近くには、もともと壁であっただろうガレキが山になっているが、奥には巨大な寝台と巨大な鳥かごがある。
天井に届きそうな大きさの鳥かごに、どんなバケモンを飼っているのかと目線を向けたノヴァは思ったが、その視線と体は固まった。
ノヴァが目を離せず、瞬きすらも惜しんで見ていたものは、白い翼の生えた、痩せ細った少女だった。
水色の髪に大きな瑠璃色の瞳。細すぎる手足に頬がこけた顔をみて自然と顔を歪めてしまった。
少女は足に鎖を繋げられ、床に座り込んでいる。明らかに捕らえられていた。
彼女も俺のことをじっと見ていてしばらく見つめあっていたが、先に正気に戻り少女に話しかける。
「ずっとここにいるのか?石、飛んでこなかったか?怪我してない?」
「......」
声をかけるが何も言わない少女に焦れてつい、言ってしまった。
「…話せる?」
「い、たくないよ?」
ひとつ前の質問が返ってきた。
とりあえず怪我は無いようで安心した。
「そっか。今そこから出してやるからな。」
そう言って檻に近づき鉄の棒を掴んで左右に広げて自分が余裕で入れるくらいの隙間をつくる。
中に入ると少女はびくっと体を震わせた。
「あ、ごめん!いきなり。 近づいてもいい?」
「だい、じょうぶ。」
了承を得て再度近づいていく。
一歩離れたところで止まり、目線を合わせるためにしゃがむ。
見たところ衰弱はひどいが、大きな怪我や傷は無さそうだ。
華奢な足に不釣り合いな不恰好な足輪に目がいってしまう。
「これ、外すな。怖かったら目、瞑ってて。」
少女は目を瞑り、顔を強張らせて足輪が取れるのを待っている。
魔法を使い、足輪を外す。意外にも簡単に外れた。
少女は足首の窮屈さが無くなり、ぱっと目を開けて確認する。
「なくなった…」
「ああ!外れたぞ。そういえば、名前は?俺はノヴァ!」
「な、まえ……ミリエル…」
「そうか、ミリエル、いい名前だな!」
ミリエルの名前を褒めるとミリエルは柔らかい笑顔を浮かべた。
「ふふ、ありがとう。」
その笑顔を見てすとんと、何かがぴたりとはまる、そんな感覚を確かに覚えた。
呆けているとミリエルの体が突然傾いていく。
すかさずその体を受け止める。
「急にどうした?体調悪いか?」
顔を覗くとミリエルは眠ってしまっていた。
ノヴァは知り得ないが、ミリエルは人と話したのは久しぶりで疲れてたのと解放された安心感で眠ってしまった。
「なんだ、寝ただけか。驚かせやがって。」
ほっとしていると、後ろから仲間がやって来た。
「ノヴァ、大丈夫か?全然戻って来ないけど、なんかあったのか?」
「あぁ、アレクか。女の子が捕まってたんだよ。」
「女の子ぉ?」
剣士のアレクに答えると魔法使いのアリアが訝しげな声を出す。
そしてすぐに神官のエーテリアスの驚いた声が耳に入る。
「な、なんてことでしょう。これは…もしや。」
「エーテリアス、知ってるのか?」
覚えがあるような話し方に、ノヴァは問いかけるが、エーテリアスの耳には入らず聖女のティアナを呼びに行ってしまった。
疑問は解けないが、戦斧のダーズもやって来てミリエルを眺める。
「こちらのお嬢さんには翼が生えていますね。鳥獣人とは異なりますが。」
「なーんか、見たことあるような、ないような?」
熊獣人であるダーズが見たことがないなんて何者なんだろう。敵には見えないが…
顎に手をあてて頭を捻っているアレクの後ろからエーテリアスがティアナを連れて戻ってきた。
ティアナがミリエルを見て目を見開く。
「これは、驚きました。彼女は有翼人ではないでしょうか?」
「有翼人?」と俺とダーズとアリアは、聞き慣れない単語に不思議そうに返すが、記憶を遡っていたアレクは答えをもらえて「それだ!」と解決できてニコニコしている。
「えぇ、有翼人は神に使える存在として翼を与えられた存在です。皆さんの聞き馴染みのある言葉でいうと、" 天使様 "でしょうか。」
「天使!?」
驚いて腕の中のミリエルを見る。
確かに背中に翼の生えた人型など魔族でしか見たことがなかったが、ミリエルの純白の柔らかそうな翼とは全く違っていた。それこそ天使と言われて納得する。
「ただ、有翼人がこの地上にいたのは300年前の話。どうして彼女はここに捕らえられているのでしょう。」
「でも、ここにいるのも違うだろ?助けて正解なはずだ!」
思わず声を張ってしまった。
「外に出てもどうするんだ?彼女に帰る場所はあるのか。」
「その場合は神殿で御身をお預かりします。ただしそれはご本人の意思をお聞きしてからですが。」
「そうだな。取り敢えずここから出よう。帰って宴だ!」
アレクとエーテリアスが彼女の所在について話し合うが、切り上げさせる。
宴の単語にみんな直ぐに嬉しそうに笑う。
「そうだな!帰ろう!」
「えぇ、帰りましょう!」
皆が部屋を出るために背中を向けてノヴァもミリエルを抱えて歩き出そうとした時、ダーズに声を掛けられる。
「ノヴァ、替わります。私がお嬢さんを連れていきましょう、流石のあなたも疲れているでしょう。」
「いや、大丈夫だ!俺がこのまま連れて行くよ。ありがとうな、ダーズ!」
「そうですか。もしお疲れになりましたら何時でもお声がけください。」
「おう!」
俺はなぜか、ミリエルを他人に託すのが嫌だった。
横抱きに抱き変え、ミリエルの顔を見る。スースーと寝息をたてて穏やかに眠っている。
安心感しきった表情に自然と顔も緩む。
その光景を一部始終見ていたティアナが、複雑な表情をしていたことに気付いた人は一人もいなかった。
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