輪廻転生
輪廻転生
どこかの寺の本堂で、瞑想している一人の僧侶がいた。僧侶はぴくりとも動かず、心を静めているようだ。そこに一匹の、意地の悪いハエが飛んできて、瞑想の邪魔をしてやろうと、ぶんぶんと音を立て、僧侶の周りを飛び回った。だが僧侶は微動だにせず、ハエはそれならばと、僧侶の頭の上に乗り、ちょこちょこと動き回る。しかし僧侶はそれにも一切反応せず、ハエは腹を立てて、僧侶のまぶたの上にとまり、足をじたばたさせながら、大きな羽音を立てた。
「ええい、生意気な坊さんめ。どうにかして、おれさまを鬱陶しがらせてやるぞ」
ハエは僧侶の顔の上で、ちょこまかと動き回るが、僧侶はやはり反応しない。ハエはもうやけになって、僧侶の鼻の穴へと突っ込んだ。しかしこの僧侶、ハエが鼻の中で動き回るというのに、やはり微動だにしない。ハエはどんどん奥へと進んでいき、鼻を抜けて、のどの方までやって来た。そのまま口の中で飛び回り、舌の上で転げ回ったり、上あごの裏をくすぐったり、好き放題に暴れるが、僧侶は一切動かない。ハエもさすがに疲れてしまい、もう諦めて、鼻の穴へと戻って外に出ることにした。そしてのどの方へと、ハエが進んだそのとき、突然「喝!」と大きな声が聞こえ、僧侶の体が、びくんと跳ねた。
「お、お師匠様、おはようございます……」
「貴様、寝ておったな?」
僧侶は肩をおさえながら、師匠へ頭を下げた。師匠の手には、未熟な弟子へ喝を入れるための木の棒、警策が握られている。僧侶は瞑想の途中に寝てしまい、肩を警策で叩かれ、飛び起きたのだ。
「しかしお師匠様、わたくし、とんでもない夢を見ていました」
「ほう、どんな夢だ?」
「前世の夢です。わたくし、前世はハエだったのですが、誰かに飲み込まれて、死んでしまったようなのです」
「馬鹿を言うな。ハエを飲み込む人間が、どこにおるのだ」
おわり