第七話 白い影
学校から生徒会へ入る事が認められ、メンバーから呼ばれた放課後の生徒会室。
いつものように扉を開けると、視界が真っ白になった。
甘い匂いが鼻の中をくすぐる。これはいわゆる『パイ投げ』というやつだろうか。
皆の楽しそうな笑い声が部屋の中を響く。
「やりましたわ! 見事パイをお顔に!」
大探偵さん。
「さっきは僕もやられたからなー、大探偵に」
猩々緋。
「あー! 私の人形を汚すな!」
葉山さん。
「ンー。大探偵のサプライズには驚かされたよ、ハッハッハ」
天野さん。男性は皆ぶつけられたらしい。
それにしても、丁寧なお嬢様かと思ったら、結構お茶目というか面白いというか。
次に炭酸飲料を頭にかけられる。プロ野球で優勝でもしたのかなこれ。
「祝いだ、どんどん奢ってやるぜ」
すっかり許してくれてるな、友達になれそう。
天野さんから、怪しそうなソースを絡めたソーセージを盛った皿を渡されて、食べる。
「か、辛い! なんですかこれ!」
「なんと、ワサビとタバスコと唐辛子と、とにかく辛いものを集めた特製ソースだ。心して食べてくれ」
先に言ってよ……。
葉山さんから何か放り投げられ、ナイスキャッチをする俺。そこそこ大きな箱で、開ける。
赤いボクシンググローブが飛び出してきて、顔をぶたれ倒れ掛かった所を、大探偵さんが支えてくれた。
俺の顔をちろちろ舐める。くすぐったい。
「お前だけずるいぞ、舐めさせろ」
予測の回避不可能な展開。なんだこれ、なんだこれ。
混沌とした状況を破ったのは、一人高い声の男性の声だった。
「ほっほっほ、楽しそうなパーティで何よりです……」
突然現れた、歌舞伎のようなメイクに格好、槍まで背負っている。ただ口調だけは違う。
「折角楽しいパーティなのによ、邪魔するんじゃねえ」
猩々緋の手から炎みたいなのが見える。いや、炎を出している?
「貴方様は人参怪見カブーキ! いつもは物を盗むのに、お楽しみまで盗むなんて」
うわあ、大探偵さんの口元から綺麗な緑色の電気がピリピリと。
「白い髪のお嬢さん、怪人見参の間違いでは? ともかく異能者の集団に興味はありません。緑川様にパーティの招待状を届けにきたまで」
やれやれ、また厄介事に首を突っ込みそうな予感しかない。
いつの間にか手元に招待状を握らされてて、いつの間にか怪人カブーキは姿を消した。
さっきの騒ぎがなかったかのように、日付が回るまでパーティの騒ぎは続く。
もう深夜の1時になる頃、甘い香りをまとった俺は、やっと帰宅する。
前事件があって、しかもこの時間に帰ってるにも関わらず、鍵を開けてくれてる、優しいお父さんだ。
恐る恐る、ゆっくりと扉を開けて、静かにかつ速やかに自室へ。机の電灯をつけ、招待状を読む。
『ミスター・緑川。
ご拝読していただき、誠に感謝する。イジゲンことワタシの文章にお付き合いください。
我々からパーティに招待させて申し訳ないのですが、ミス・大探偵の女王とミス・葉山瑠菜と一緒に参加を条件に、入る事を許可する。
場所はナントカホテル。
是非とも前向きな参加の検討を。
イジゲンより』
日付は三日後みたいだ。
怪しさマックスの内容だが、行くべきなのだろうかと悩む。明日二人に相談しようと思い、不安と期待に胸を膨らませ、眠りについた。
授業終わって昼休み。今朝大探偵さんと葉山さんを呼んだので、先に生徒会室へ入室。
猩々緋から借りた漫画を3分の1読み終えた頃、二人ほぼ同時に入ってきた。
「用ってなんですの? まさか、わたくし達選べないから、皆で海外に夜逃げして、皆で結婚しようなんて言い出すのでは……」
頬を桃色に染めながら言わないで、とんでもない妄想しないで。
「違いますよ。昨日人参カブーキから渡された招待状の件です」
誰も『人参』につっこんでくれない。または心の中で、いや考えすぎか。
わざと咳払いをして、概要を話す。
大探偵さんは喜んで肯定してくれたのだが。
「私は行かないぞ、怪しさしかないじゃないか。裏を取れ」
まあ、そうなる。
どの道同意を得られなければ参加できないので、俺も諦める選択肢を取ろうかな。
「俺に裏は取れません。怪しいですし、諦めましょう」
「と、思いまして新たな資料をご用意しました」
出たな人参カブーキ。
再び突拍子もなく現れ、気づけば手にパンフレットと1000円を握っていた。
パンフレットには、ホテルやパーティの事が明細に書かれている。葉山さんも見て、納得した模様。1000円はイジゲンさんからのお詫びらしい。
感心してると、人参カブーキの姿はまたどこかへ。
「カボチャの馬車は、カボチャの馬車は見れるのですか!」
また言ってるよ。好きだなあそういうの。
葉山さんは、ロッカーからガラクタを放り出しまくって、例のフードを出してきた。最近着てなかったな。
「着ろ!」
「はい」
流れ作業のようだった。とりあえず着替えて、葉山さんも大探偵さんもご満足な様子。
それとなく気合も入ってくるし、安心もできる。慣れって怖いね。
大探偵さんが閃いたのか、両手を合わせて明るい笑顔で。
「そうだ、この前ムーンカフェでやった、おー! をやりたいですの」
どういう流れか分からないけど、悪くはない。葉山さんも黙って頷いた。
3人で拳を上げて、気合を入れた。
「おー!」
招待されたパーティの当日。空のオレンジ色が少なくなった頃。
緑川探偵事務所前に、俺を含めた例の3人が丁度集まり、適当に盛り上がっていた。
葉山さんはいつもの格好。大探偵さんは普段と違い、綺麗で薄い生地でできた、HAPPYと書かれた服に、ピンク色のスカート。化粧までしてる。
「なんだ大探偵、いつもの薄汚いシャツはどうした」
「たまには軽い恰好をしたいだけですわ」
やれやれ。
かくいう俺は、葉山さんと同じ格好をしてるわけでもなく、ただラフで男子らしいTシャツにジーパン。お金持ちがいっぱい集まりそうなパーティなので、女装するのだけは控えたかった。
服装の文句は俺にも飛んできて、結局アレを着せられる。
自宅の玄関から出てきたのは、茶色のコートに赤毛のツインテール。いつもの風音さんだ。
「やーやー皆、うちもパーティ行くんだよー!」
「え、風音さんも? なぜ」
両手を握って、目を光らせながら騒ぐ。
「そりゃお嬢様だから!」
そういえば、そんな設定。いや、設定じゃなく実際にそうだったな。
「お嬢様は、わたくしだけで十分ですの!」
貴方は設定の可能性がすごいのですが。
気にしてもしょうがないから、どっちでもいい事にする。
4人で出発、風音さんが一瞬でタクシーを捕まえ、ぎゅうぎゅうで乗る。行き先はもちろんナントカホテル。
俺から見て右に二人、風音さんと葉山さん、自分と大探偵さんだ。白い髪の二人に挟まれて、良い香り。
幸せな時間もすぐに過ぎ、タクシーを降りる。やや冷たいと感じる空気が頬を撫でる。
入り口には人参カブーキが出迎えていて、会場まで案内してくれた。人も多く、風音さん曰く知り合いが殆どらしい。大探偵さんもそれに続いて多いと言ったが、見栄を張ってるようにしか見えない。
丁度入ってきたタイミングで、主催の女性、イジゲンさんと思わしき人物が舞台に現れて、挨拶とその他が始まる。
すごく長く眠りかけた所で、風音さんから肩をポンと叩かれる。深刻な表情だ。
「帰る」
またいきなりだな。二人に許可を貰ってひとまず連れて帰る事に。出る間際、主催がスイカを掲げてるのが見えた。
戻ると、強い吐き気を催す衝撃的な光景が広がっていた。
大規模な『人喰い』が行われていたのだ。骨が大量に散乱しており、生臭い。
恐る恐る入ってみると、会場の隅っこで怯える葉山さんの姿を見つけて、一安心。警察が来て俺達は保護され、警察署へ。
自分は、戻ってきたらこうなったと言われすぐ釈放され、お父さんと帰った。外出しないように、と忠告を受ける。不満はないので、従おうと思う。
夜遅くなって、オレンジ色のコートを着た、刑事と名乗る人物が自宅、イコール緑川探偵事務所を訪ねてきた。
名前は北耕人さんと言うらしく、白髪のおじさん。お父さんとも古い付き合いの友達、だとか。
「挨拶は抜きだ。それより、現場に居合わせて無事だったのは4、5人。一度釈放して悪いが、任意同行で来てくれないか」
俺とお父さんは顔を合わせて、二人黙って頷く。もう一度警察署へ行く事になった。
面会室には葉山さんと風音さん、俺とイジゲンさん。大探偵さんの姿が見当たらない。
真っ先に自分は、この質問を投げかける。
「もう一人真っ白い髪の、お嬢様らしき人は見ませんでしたか!」
「ああ。部下が声をかけて追いかけたらしいが、逃げられた」
この瞬間、疑って捕まえたい自分と、疑いたくなくてもがいてる自分が生まれた。確実に言えるのは、自分が犯人ではないという事実、ただ一つ。
北さんが風音さんの方を見て。
「倉家さん、多発する人喰い事件を解決するために、ぜひ協力してほしいんだ。他の人は悪い噂を流してるが、自分は信用してるのだよ」
「うちも北さん信頼してるけど、組織に協力するつもりなんてないから。でも、」
でも?
「ミドリんが解決してくれるから、探偵依頼だって出したし」
そうだったっけ。ほんのり記憶が蘇ってくる。優しい高校に入った経緯も、焦ったお父さんも、始まりは風音さんだった。色んな人と関わってくる内、依頼なんて忘れていた。
「違う。真実を教えてほしいのだ。倉家さんは能力を」
「やめて! 超能力とか言って、異端扱いされるのは嫌なの!」
言動が既に超人的というツッコミは置いといて、超能力? 確かにあの時、幼い子を見ただけで事件を解決したのは、常人の能力じゃほぼ不可能だ。
それこそ、超能力を持ってない限り。
俺は今まで、普通が普通だと思っていた。何かを見通したり、種もなく何かを発生させたり、また発見されてる以外の生命体。それらが無いのが普通だと、ずっと考えていた。
アオキが言ってたように、超能力は存在していたのかもしれない。いや、存在していた。目の前で何度も見ている。
未知なる物事に、考えを改めるべきだと痛感。
なぜおおやけにしないかの謎は置いといて、これから俺はどうするべきか。大探偵さんを信じたい。また脳裏に、とある言葉がよぎる。
――――最後まで、その人を信じぬくんだ。
どこか懐かしさが込み上げる。だが、感慨に浸ってる暇はない。すぐ行動に移すべきだ。
「ところで北刑事は、犯人を誰と考えてますか」
視線が俺に集まる。俺でも驚くほど、集中が研ぎ澄まされていく。
「部下の言うもう一人の、白い髪の子と思っている。多分、自分より優さんの方が分かるのではないかと、経験の勘が言ってるよ」
「いえ、分かりません。真実を確かめるためにも、大探偵さんを探します」
何となく、北刑事なら分かってくれると、俺の勘が言ってる。予想通り黙って彼は頷く。
お父さんの真似をしてガッツポーズを取ると、
「本当に、親子共に熱い人間だな」
と評された。
「うちも行く」
確かに風音さんは連れて行った方がいいが、流石にどうだろう。
しかし、否定する事もなく。
「ああ、優さんを守ってやってくれ。君にとって我々は、不信でいっぱいな警察かもしれないが、自分はいつでも信頼しているよ」
「……ありがと」
ふてくされるようにお礼を言う姿は、いわゆるツンデレなのか。
とりあえず行き先は分からないが、考えても仕方ない。外に繰り出そうと思って出たら。
「もう夜ですね」
「ね。明日から捜査しましょ!」
明るい笑顔の風音さんと共に、緑川探偵事務所へ帰る。
翌朝。
日課で珈琲を淹れて、応接室に持ってくる。お父さんはニュースを見ていた。見る限り、警察は公開捜査に踏み切っていない。
風音さんをたたき起こして身支度を済ませ、大探偵さんを探すために、外へ繰り出す。
それとなく、商店街に来た。朝ごはんを食べてなかったので、下ごしらえに。
「商店街かー。もちろんミドリんの奢りだよね!」
「もちろん大人の風音さんの奢りです!」
奢らされる対策で、最低限のお金しか持っていない。思惑通り、風音さんはいっぱい持っている。
仕方なさそうに、たこ焼きを買って俺に食べさせてくれず、チョコバナナを買っては一人で食べ、炭酸飲料を二本買って俺にくれるのかと思ったら、一人で全部飲んでしまった。
どんだけ俺にお金を使いたくないのだろう。
ようやく貰った食べ物が棒つき飴だった。やれやれ。
気づいた風音さんが。
「あ、別にミドリんの事嫌ってるわけじゃないからね! 寧ろ好きだからね!」
猩々緋のヤツも言ってたが、本当に行動が読めない。しかし、不規則な行動の中に規則を見出すのが、面白いとも言っていた。お金を奢ったりしないのも、意味があるのかもしれない。
考え込んでる内、両方の頬に風音さんの手があった。涙目で訴えかけてくる。
「本当に好きなんだから。本当の本当の本当だよ!」
適当に笑顔を作って「知ってますよ」と適当に返す。
あのべちべち頬を叩かないでください。痛いです。バッグから化粧ケースを出して自分の顔を見ると、頬が真っ赤になっていた。
「ミドリんのほっぺたが真っ赤に! ごめんね」
今度は頭を撫でてくる。気持ち良い。
心配そうに撫でてくれるのはいいが、もう5分くらいは経っている。
ようやく終わった所で、大探偵さんの話題を切り出す。
「風音さんは、犯人の目星ついてるんですか」
「分かってるよ。でも教えない」
解決したいのか、したくないのか。
「だって、そう望んだのはミドリんだもん」
俺が? 言った覚えはない。
疑問が浮かぶ。分かってるのに、犯人を捕まえない理由が謎だ。
「自分が望んだかは置いといて、なぜ犯人を捕まえないのか、気になります」
「弟を守るために、能力を使って色んな犯罪者を捕まえてきた。でも、今回は相手が大きすぎるの」
この、緑川優に立ち向かえると考えてるのか?
「まあ、らちが明かないからヒントあげる!」
言いたそうに、すごいうずうずしてるぞ。
「……明るければ明るいほど、反対側に落ちる影は暗く濃いものとなる。白い影の反対側には、人喰いという暗い光」
ますます、大探偵さんを疑わなければいけない発言に聞こえる。白は葉山さんもだが、二人を連想させるような、意味深な発言だ。
「それよりお腹すいた。食べに行こうよ」
さっき食っただろ!
同日。放課後の生徒会室に入る。
俺と猩々緋の二人で、他の皆は遅めの昼食中だ。
「こんにちは。漫画は数日したら返しますよ」
「うっす。んなもんいつでもいいぜ。姉貴の調子はどうだ」
脳裏に姿を浮かべる。
「特に変わりはないけど、事件やお金の事になると、非協力的というか」
考え込み始めた。長くいそうな兄弟でも、難しいのだろう。
頭にビックリマークを浮かべて、思いついたように笑顔になって。
「お前、成長したいとか聞かれなかったか?」
遠い記憶の中にある気がする。俺は肯定の答えを出す。
「やっぱり。したくないって言えば協力的になったはず」
「やれやれ」
と言うしかなかった。
今更取り消すなんて、できないよな。『甘えるな』って言いながらビンタをされそう。
「ところで、僕は緑川の事よく知らないんだが、兄弟とかいるのか?」
「兄と姉がいますね。どっちも少し変わってます」
そう、上に二人いる。兄が一番上で次に姉、そして一番下に俺だ。
兄の緑川芽久は銀色の見た事もない柄の鉢巻をして、眼光が鋭い。お父さん曰く、俺が幼い頃怖がって逆らえなかったと言っている。
姉の緑川百合。妙な物を作っては喜んでいたと言う彼女も、今となっては立派に役立つ機械を作っているらしい。一度会った時は、口が悪かった印象が強い。
どちらも兄弟なのに、そんなに会った記憶がない。二人と大学生や社会人になって、大都市のどこかで頑張っていく。
「ほー、まあ姉貴ほどは変わってないだろうな」
否定できない。
「語ってくれよ。何となく興味湧いてきたぜ」
「ええ、そうですね」
突然目が覚めて、お父さんらしき人の家に来たのが中学1年生の頃。
百合が高校3年で、芽久は大学2年。
最初に聞いたのが「俺は誰ですか?」と投げかけた所、芽久から早速睨まれ、怒られた。
「ふざけんじゃねえ! そろそろ俺達やお父さんを困らせるのはやめろ」
百合からも第一声が悪口だったな。
「そうだ。唯一家庭で不良なお前の事だし、困らせようとしてるんじゃないの?」
兄弟かもしれない人達に、怒られ疑いの眼差しを向けられるのは、とても辛い。見る人誰もが悪魔に見えたくらい。
聞く限り、前の自分は相当の『ワル』だったらしく、上の兄弟達にも迷惑をかけて困らせていた。
もしかしたら、後に感じる学校での生徒達へ向けた怒りは、俺が問題だったのかもしれない、と後に思う。
人々に疑いを持ち、本気で通学しなくなった所で、俺が本当に記憶を失い、自分がワルだった事を責めているのを、ようやく事実を認識。急に優しくなって、鋭い視線も悪口もなくなった。
両親や兄弟の説得もあり、平日の昼間外出するようになった。んで色々ありアイドルの活動を開始する。
「……皆、色々抱えてるんだな」
「ごめんなさい。また暗くしてしまいました」
猩々緋が掌で炎を踊らせながら。
「うん。明るい話題はないのか」
真面目に浮かべる、特にない。人生経験が少ないのもあるけど、大体暗い。
どんよりした生徒会室の空気をかき乱したのは、あの二人だった。
扉の所に見慣れた二人がいる。
相変わらず銀色の鉢巻をした、眼光が鋭い芽久。白衣を着て黒縁の丸眼鏡をした百合。
「おー! 久しぶりだな優。本当に優しい高校の生徒会になったのか!」
「ワルでどうしようもなかった優が、ここまで優秀になるなんて。自分感動」
「あ……久しぶり。芽久さんと百合」
自分で言っといてアレだが、さんをつけるのはおかしい。
芽久が頭をわしゃわしゃかき乱してきて。
「慣れ慣れしくしていいんだぞ? このこのー」
怖い見た目とは裏腹に、実は優しい人である。百合は、ちょっと正直すぎるかな。
「で、二人は何でここに?」
どっちも腕を組んで、何かCMの撮影してるようなノリで。
「そりゃあ、ちゃんと学校行って、活躍してるって聞いたから、褒めにな」
丁度怒られてる所を想像しながら、猩々緋に語ってたなんて言えない。
次は芽久が猩々緋の元に寄り、バンダナの上から頭をわしゃわしゃする。撫でられてる本人は、緊張して体が全く動いてない様子。
「お前がお父さんの言ってた猩々緋かー! いいヤツそうだな! 優をよろしく」
「が、がががががんばります……」
百合が眼鏡を光らせながら笑顔で、
「あたし他の生徒会の人呼んでくるから!」
あ、はい。言ってらっしゃい。
姉が騒ぎ立てた挙句、ゾロゾロと大探偵さんを除く生徒会メンバーが、口に食べ物を含みながら入ってきた。皆、芽久に怯えている。
「ンー、あのお兄さん怖いな。怒った時の葉山より怖いな」
「お? 喧嘩売ってるのか天野」
天野さんが手首を左右に振りながら、違うよと否定。
今度は芽久が天野さんの頭を撫でる。がちがちに固まった天野さんとは逆に、猩々緋はほぐれた。
あの、貴方怖いので誰でも頭を撫でる癖はやめましょう。
「私はこの二人知らないんだが、誰だ?」
紹介がまだだったので、名前でも言おうと思ったら、先に主張される。
昔と変わらず、楽しいと騒がしい二人だ。それは、生徒会メンバーにも負けず劣らず。
騒ぐだけ騒いで、満足げに芽久と百合は帰っていった。
自宅。自宅と言ったら、自宅。
そして、いるのはお父さんと風音さん。いつも通りだ。
丁度俺が帰ってくるとほぼ同時に、芽久と百合も久しぶりにここへ帰宅。風音さんとは初めての対面だろう。
「見慣れない顔だな。名前はなんだ」
「うちは倉家風音! 本当の名前は倉家風音! しかし、皆はこう呼ぶ。倉家風音と!」
どうしようもない沈黙が、部屋中を支配する。芽久は鉢巻を絞め直し、百合は白衣を脱ぎ、お父さんは珈琲を啜る。俺も、棒つき飴を口に咥えた。
こんな空気になっても、風音さんは得意げな表情を頑なに変えない。
「……ああ。俺は芽久で、こっちの丸眼鏡は百合。優含めて、皆兄弟だ」
「よろしくね!」
強引に握手をし、兄の右手を上下にブンブン振り回す。
「丸眼鏡ゆうな!」
不満をぶちまけ、丸眼鏡を取ってお父さんの顔にかけた。すぐに取って、机の上に置かれる。
珈琲を一杯飲み終え、久しぶりにあった息子達に質問。
「事情は追々説明するとして、向こうでも頑張ってるか」
「おう。大工の仕事も慣れてきて、新人育成も捗ってるぞ」
百合が丸眼鏡をかけ直し、キャリアケースから見覚えのある靴を取り出す。
「これ、最近発明した『イメージした物を具現化できる靴』なの!」
何で靴なのかは置いといて、アオキと戦った時に使っていた、あの靴に似ている。
実はちょいちょいニュースでも話題になっていて、テレビにも出ている、とか。
ともかく、迷惑な発明をしたもんだ。個人的に。
ピンと来た。百合とアオキは実は、繋がってたりしないだろうか。
「ねえ、百合はアオキブルーウッドって人知ってるかな」
「あー! あたしの助手だったやつ! 優しい高校で銃乱射して捕まったんだってね。驚いたよ……痛い!」
芽久が実の妹に重いゲンコツを一発。鬼よりも怖い形相で睨む。
説明は続き、助手だったアオキは突然大学から姿を消し、開発した幾つかの道具も盗まれてたという。例の靴、虹川さんまだ持ってるのかな。
「逆に優の方は何かあったか」
二回大怪我したし、とにかく色々あったな。それら含めて、あった事を全部説明。
あ、ハレンチな彼女らの行動は当然ながら秘密。あと女装も。
一通り言い終える。おお、と言葉を漏らす兄と、ええ、と驚愕する姉。空気に合わず、ニコニコ笑顔の風音さん。
つい口が滑って、女装の事も話してしまった。
「お、お前……ま、アイドルの事知ってたから、今更の話になるな」
ゲンコツされるかと思った。
久しぶりで適当な家族の会話は、しばらく華が咲いた。
第七話 白い影 Fin.




