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第五話 大探偵とカボチャの馬車

「わたくし、カボチャの馬車に乗りたいですの!」

 猩々緋の無実も証明でき、病室には猩々緋含む生徒会メンバー全員と、俺。

 いきなり大探偵さんが立ち上がって、少女のようにキラキラした瞳で、そう叫んだ。また幻想的だが、この世に存在するのか、と言うのも完全に野暮。

 無いなら作ってみるのもありか。

「こら緑川、真面目に考えるんじゃない」

 葉山さんから指摘を受ける。こういうの嫌いじゃないんだけどな。

「ンー、最近大都市に妙な噂が広がってるの、知ってるかい?」

「こら天野、緑川に余計な事を吹き込むんじゃない」

 別に、噂程度なら教えてくれてもいいのに。

「生徒会長に止められては生徒会の名が廃るよ」

 またとんでもない発言をしたな。それだけ、自由に生徒会をやってる証なのだろう。

 噂の内容は『深夜。いつも活気で満ち溢れてる大都市で、突然人がいなくなり、カボチャの馬車が迎えにきてくれる。行き先はあの世だという』と伝えられた。

 やれやれ、まだ夏じゃないんだけど。俺は猩々緋の方を見る。ヤツは気がつき、文句ありそうな表情で。

「何だよ、僕に調べろとでも」

「助けたお礼にひとっ走りお願いします!」

 まあ、助けたのは虹川さんだが。

 葉山さんが猩々緋を指す。

「行け。優しい高校の上層部としても、謎は解明しなければならない」

「へーい。大探偵は連れるぜ」

「ありがたく連れてもらいます!」

 大探偵さん。結構丁寧だけど、はしゃぐ時ははしゃぐよな。と思いながら小説を手に取った。





 ――――猩々緋。


 深夜。

 活気づいた大都市の、サブカルチャーに特化した通り。無頓着な猩々緋と大探偵は、困惑した表情で売られてる物を見る。

 露出の多い美女のグッズやゲームセンター、アニメの同人誌。それを買い漁り、袋を沢山持った人達。

「なあ大探偵、失敗したって事にして帰らないか」

「賛同いたします」

 三人の女子高校生が駆け寄る。髪の色も普通じゃないし、格好も珍しいのでコスプレと間違われた。猩々緋が怒りかけたが、何とか抑える。

 急いで帰ろうと振り返ると、誰もいなくなった。さらに振り返って一回転、誰もいない。大探偵を顔を合わせる。

「僕、怖くないぜ。帰ろうぜ」

「ええ……、寒気がしますわ」

 しかし、どこまで行っても同じ場所、裏路地を抜けても、同じ場所。

 猩々緋は焦り、大探偵も不安な表情で目をうるうるさせる。

「嫌ですわ! こんな暑苦しい人と二人だなんて!」

 激しく傷ついた。最近独房から解放されたばっかりなのに、緑川が来てからひどい仕打ちばっかりと思うこの頃。膝を地面について両手も地について、負のオーラをこれでもかと出す。

 流石に罪悪感を感じた大探偵は、何度も謝りながら頭を撫でた。

 茶番のような光景に、馬の足音が聞こえてくる。一緒に、鉄等がガタガタという音。

 二人は目の前にカボチャの馬車が表れてるのにも関わらず、全く気付かない。ひたすら大探偵の「ごめんなさい! ごめんなさい!」が響き渡る。

 見かねた運転手が下りて、大探偵の肩に手をポンと置く。

「いや! あの世はいやです! 命だけはわたくし、あ、魂があるかと言われると微妙ですが、でもあの世だけは!」

 などと意味不明な供述をしており。

 優しそうな、赤いネクタイが特徴の運転手が苦笑いしながら、釈明をする。

「確かにあの世という噂は流れてますが、自分達は『幻想の国』へと誘うために……」

「やっぱりあの世なのですわ! 退治! 悪霊退散!」

 どこから出したか分からない、お祓いをする時の棒を振り回す。

 今度は「悪霊退散! 悪霊退散!」と連呼。運転手が諦めようとした矢先、ようやく猩々緋が立ち上がる。

「落ち着け大探偵。僕が頼りなくて暑苦しいかもしれないけど、とりあえずこれだけは言える、落ち着け」

 バットでボールを打つように、お祓いの棒が猩々緋と運転手の頬に直撃。

「中々重い一発だったぜ……ガクッ」

「そうですね……ガクッ」

 9回裏にサヨナラ逆転ホームランを打たれたかの如く、ぶたれた二人は気絶。





 激怒した運転手は乗せないと言い出した。必死に泣きながら「ごめんなさい! ごめんなさい!」と謝るも、そっぽを向かれて聞く耳を持たない。

 猩々緋に気づいた運転手は「む」と声を出す。

「君は赤の悪魔の末裔、なのですかな?」

 猩々緋は口をへの字に曲げる。

「お、お前まで俺をいじめる気か! 散々だ、もう信用できるの葉山と緑川だけだ! 帰る!」

「お待ちください。お名前はショウジョウヒさん、でしょう?

「僕はどうせ暑苦しくて頼りなくて誘拐されて無実の銃乱射で捕まえられてモテなくて可愛げなくて仏頂面で火を生成する事しかできない愚かな野郎だ! 悪魔まであるぜ!」

「何もそこまでは……」

 今度は赤い人が怒りだし、大探偵と運転手がなだめる。

「ま、事実だけど怒ったのは冗談だ。お前をなだめるために怒ったのさ」

 と強がりを言ってみる。

 大探偵は真に受けて、関心してしまった。一方運転手は。

「貴方達も困った人ですね。一緒にいる人間は苦労するでしょう」

 などと軽く中傷的な事を言い、呆れる。一番暴れてたであろう、大探偵が激しく肯定した。

 猩々緋はお前だよ、と言いたそうな雰囲気を出すも、察する気配無し。

「で、貴方達は幻想の国へ行きますか?」

「カボチャの馬車へお乗りになれると、わたくし是非!」

 しかし、赤い方の表情は浮かない。腕を組んで唸り始める。

 散々待たせて悩んだ結果。

「帰れる保証無いし、やっぱり幻想の国とか言ってあの世かもしれねえ。もしくは新手のドッキリか。とにかく帰るぞ、失敗した事にしよう」

「え、カボチャの馬車が……」

 残念そうにする大探偵。構わず手を引っ張り、帰ろうとする。運転手が必至に声をかけて止めるも、止まる気配無し。

「ちょ、待ってよー!」

 運転手は丁寧な口調だったのに、思わずタメ口が出た様子。

 そんなこんなで、夜は更けていった。





 ――――緑川。


 猩々緋が説明してくれたが「カボチャの馬車……カボチャの馬車……」を連呼する大探偵さんを見る限り、失敗したのが嘘と見通せる。どんだけカボチャの馬車乗りたかったんだよ。 問いつめると、幻想の国というワードが出てきて、怖くなって強引に大探偵さんを引っ張り、帰ってきたという。初めからそう言えばいいのに。

 しかし、がっかりしたら頭を撫でたり、お祓いの棒を振り回して気絶させた話は面白かった。こんな面白い人達が集団を作ってるのだから、また面白い。

「そういえば大探偵さんって、虹色みたいな子を受けとめましたよね。体鍛えてるんですか?」

「へ!? そうですけど、わたくし運動は苦手でして」

 あ、そうですか。

 いくらなんでも「人間ですか?」は失礼すぎるので、聞かないと決めた。

 一番謎なの大探偵さんだし、今度怪我治ったら遊びにでも誘うか。と思いながら、小説を閉じた。






 第五話 大探偵とカボチャの馬車 Fin.

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