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第四話 二人はアイドル

 レインボーという名前のアイドルが、大勢の観客の前に新曲を披露する。

 題材は緑色の髪をした少年が、虹の上を歩くというものだった。人気アイドルレインボーとしては、虹を題材にした曲はかなり久しぶり。

 会場は大盛り上がり、成功をし幕を閉じた。





 控え室。

 次々と帰る出演者やスタッフ達の中、メイクも落とさずスマートフォンで、とある場所に電話を入れる。

「あ、緑川さん? いつも通り息子さんを……はい、お願いします!」

 マネージャーはこう語る。とある日を境に、よく緑川という名前を聞くようになったと。

 疲れてるはずなのに、仕事終わりいつも出かけ、緑川探偵事務所へ行く。そんな日々。

 とある日。

「わたし、超絶優しい高校に転校したい!」

 この国の人ではない母親に、そう訴えかける。

「チョーゼツヤサシー高校? どんな場所なのですカ?」

「え、知らない」

「知らないのに入るだなんて言ってはいけマセン!」

「うん、ごめん」

 母の言う事は最もだったと感じたレインボーは、俯いてしょぼしょぼと自室に戻る。早速パソコンで検索。


 推理が全ての学園で、実際に事件を解決したり裁判所に出向いたり、とにかくその方面に特化した場所。


 悪寒が背筋に走った。緑川の周りに変な人しか集まらない理由を、今に理解する。変人達に巻き込まれた事は、想像するのも容易い。

 レインボーは緑川探偵事務所に通話をかける。

「どうも! いきなりなんですが、超絶優しい高校って」

 優しい高校の単語を聞いた瞬間、入るな、やめとけ、おすすめしない等否定の語句を並べられ、驚く。最後に「君のためなんだ」と言われ、通話が終わった。

 戻って母に相談。否定覚悟で話すと。

「いいじゃない! ワタクシ賛成!」

 意外にもこの国のサスペンスやミステリー物が好きらしく、多いに賛同を得るも、レインボーの表情は浮かない。

「でも、すごい変な人多いし、何か怖そうなの」

「そう……じゃあ、今の高校でいいネ?」

「……うん」





 ――――緑川。


 いつも通り、と言っても俺は優しい高校の生徒ではないが、生徒会室に風音刑事を含め、会議を行っている。話題は猩々緋朱の無実を証明するために、どうしたらいいか。

 昨日に引き続き疲れ切っていて、話を飛ばしに聞く。大探偵さんが事情を話してくれたので、誰も怒ろうとはしない。最初大元の原因である葉山さんが怒ったが、今になっては気にならない。それくらい眠い。

 うつろに虹川さんの事を浮かべる。高校生って言ってたけど、優しい高校の人達とは違う雰囲気を持っていた。まるで、もっと大きい何かを見てるような……何か。

 前にも勘でアオキから感じ取った、禍々しいオーラを感じたが、感じた時と同じくふわふわしてるような。それだけ眠い。

 というわけでおやすみ。


 で次起きた時には夕方の時間。生徒会メンバーや風音刑事は、帰ったか。

 周りをキョロキョロ見渡すと、扉付近に虹川さんがいた。不思議と違和感はないが、あの面子といる姿を想像すると違和感しかない。

「おはよう、緑川君」

「おはようございます。最近寝すぎて時間の感覚が……」

 不思議と、笑顔を作らなくても、この人となら関係を保てそうな自信がある。

 お父さんが言ってたけど、勘とは無意識に組み立てた論理の総合的なもので、仕草や行動を見てる証らしい。最近つるむ面子では最速で信頼してると思う。

「聞きたい事ある! 超絶優しい高校って、変な人しかいないのかな」

 すごい質問だなまた。でも変な人が多いのは事実かもしれない、学園のうたい文句が推理だし。

「大体変。まともなの猩々緋さんぐらいですかね」

「猩々緋、さん? 赤?」

「らしい、名前が朱でまっかっかな野郎なんです」

「お友達なんだ」

 やっぱり友達に見えるのか。俺としては友達と思ってないし、助けるとはいえ、嫌われてる可能性は否定できない。

「そういえば虹川さんは友達いるんですか?」

 何となく気になった。

「友達ですか、昔一人」

 結構多いと思ってた。意外。中身は良い人が多いが、仕草や言動、地位で周りの人の対応は変わる。きっと虹川さんもそれらに左右されてる一人なのだろう。

 実際俺も笑顔を作るようになってからというもの、人が集まるようになってきた。

 かつて会ってた中学の連中は口を揃えて「突然爽やかになった」と言う。仏頂面でいたのは、記憶を失った直後に中学の人達を見て嫌だと感じたからだ。

 風音刑事と出会ってから人間捨てたもんじゃないと感じ、笑うようになった。気づけば葉山さんや大探偵さん、猩々緋のヤツに虹川さん。他は忘れた。

「それで提案なんですが!」

「いいですよ、友達になりましょう」

 反応を見る限り当たり。ちょっと自分でカッコイイと思った。

「友達なので秘密教えます! なので、緑川君も是非一つ!」

 いいね、信頼の証みたいなもんだ。

「わたし虹川アイリスは、アイドルレインボー本人です!」

 本当か?

「……とにかく、超有名アイドルなんです! 本当なんですー!」

 スマホの画面には、レインボーの写真や色々書いてる。どうやら事実みたいだ。すごいな。あれメディアじゃなかったっけ。

 まあいいや。さて俺の秘密は。

「こっちの秘密はですね――――」

 窓が開いて、強風が入り込んでくる。今日は天気予報の警報で風が強いと書いてたな。

 強風が入ってかき消されてしまった。

「聞こえなかった? ではもう一度。アイドル名ラビットは俺です」





 かつて中学時代は、生徒の前で笑顔は見せなかった。見せなかったと例えていいほど見せなかった。

 反動でとある仕事で笑顔を振りまく。それが『アイドル』だ。

 はじめたきっかけは記憶を失い、中学生活に嫌気がさして、平日一人公園でアイスクリームを必至に舐めていた時。

 一人の怪しげな男が近づいてきた。言うまでもない、アイドルのスカウトで「笑ってみてください」と言われる。当時の俺は、反射的に笑う事ができなかったので、ものの数十秒はかかったと覚えている。

「うむ。素晴らしい! よければここに来てくれないか」

 小さなメモ帳の紙切れに雑にボールペンで住所を書かれた。ウサギプロという事務所で、当時そこまで有名でもなかったな。

 ウサギプロは昔からあるものの、有名なアイドルはおらず、根強いファンの支援で成り立ってるような、そんな事務所だった。

 そんな場所にお父さんに秘密で通う。スカウトの人が手厚く歓迎してくれて、早速所長の所に。

 第一印象は最悪だったものの、言われて笑ってみせると大好評。後に男と言って、それはそれは驚かれた。

 今も含めて、ずっとお父さんに内緒でアイドルとして活動している。歌、ダンス、運動等々。顔の表情も当然練習。

 それなりに実力もついてきて、初めてライブに顔を出す。観客はまあ、根強いファンと興味本位で入ってきた若者が数名ぐらい。当時は緑川優(みどりかわゆう)と名乗ってたな。人気が出るようになってきて、ようやくラビットというアイドル名を貰う。いわばペンネームみたいなもんだ。

 初めて大きな会場でやった時は心臓の鼓動が止まらなく、余計テンション高くやっていた。失敗もあったけど、観客は笑って許してくれた。思えば、ライブハウスで失敗してたら冷たい視線で見られてたかもしれない。

 中学を卒業して、やっとお父さんに全て話した。流石探偵だけあって既にバレていたが、楽しそうな俺を見て、親として止められなかったと言う。ほぼ不登校でしかも女の子として活動してた申し訳なさから、思わず泣いた。

 苦労は色々あったけど、上手くやっている。





「えー! そういえば雰囲気似てると思った!」

 ここまで気づかないこの人達がすごい。

 大概というか、嘘でラビットは女性として活動してる、しかも口調も敬語ではなくタメ口が殆どだったり、実生活とは相当違う。

「本当にラビットなら、あの口調やってよ」

 わざとらしく咳払いし、とびっきりの笑顔を作って。

「はーい! ワタシが噂のアイドル、ラビットだよー! よろしくぴょん~……げほっ」

 いつも思う。かなり喉と体に負担がかかるから、すごい疲れる。

「本人だ! サインと握手とえーとえーと」

 貴方も有名なアイドルなのでは。当然握手してサインは書くけど。

「ンー、自分もサインしてほしいな」

 いつからいたんですか、天野さん。

「いきなり失礼、盛り上がってたから中々入れなくてね。男として有名なアイドル達が二人いるってなると、とても緊張するもんだ」

「もしかして、天野さんは気づいてたとか」

「腐っても連中は推理が全てとうたわれる高校の、しかもトップの組みだよ? 気づかないわけない」

 気づいてた事に気づかない自分が甘かった。変わった連中な癖して、ポーカーフェイスは一人前。

「倉家刑事から推薦が出て、一番にラビットと騒いだのは自分、次に葉山と大探偵。猩々緋はなぜか表情が引きつっていた」

 ヤツなら仕方ない、か。

 天野さんは決めたような表情で、掌で顎を撫でる。

「ま、自分は偶然立ち寄っただけだから。サイン貰えて満足だよ。それじゃ」

 風のように去って行ったな。

「ほえ~、すごい人達だったんですね」

 すごくなさそうに見えるのが傷なのか利点なのか。実際はすごいのだろう、多分。

「割と付き合ってますが、未だ何考えてるか分からない連中ですよ」

「わたしもポーカーフェイスとか憧れる!」

 こればかりは無い物ねだり。が、俺は両方できるので無い物ねだりをできないという無い物ねだりをする。

「そうですね。時間も遅いですし、今日は帰ってゆっくりやすみましょう」

 ハイタッチをして、お互い別々の方向に。





 自宅に戻る。例の如く珈琲淹れるのを頼まれ、いつもの量の砂糖を入れ、お父さんの前に置く。

「青いバンダナの、猩々緋君によく似た子が挑戦状と言って、手紙を置いていったよ。最近の若いもんは活発でいいね、はっはっは」

「捕まえろって言ったじゃん!」

 奪い取るように手紙を取って読む。


『よーよー諸君、元気にボク探しを頑張ってるらしいじゃないか。結構結構。いい加減捕まえる気のない、無能なお前たちにチャンスをやろう。都市オオイタのモノスゴイ駅前、朝9時頃待ち合わせだ。そこで競技の内容を伝える。先に来なかったらすぐ帰るぜ』


 猩々緋の前に現れ、俺達の前に現れ、今度は生徒会メンバー総員の前に現れるとは、挑発行為も甚だしい。捕まっても猩々緋の無実を証明できない、という根拠があるからこそなのか。

 とにかく、急いでムーンカフェに立ち寄る。お父さんが車で送ってくれた。

 カフェで丁度生徒会メンバーが会議を行っており、議題はやはりアオキを捕まえる事。そこで自宅に来た挑戦状を見せた。

 葉山さんが拳に力を込めながら立ち上がり。

「やってやろうじゃないか! お前ら寝坊したら夜眠れないの刑だからな! 即日執行するぞ!」

 真面目にあれは眠れなくなるので、やめてほしい。

 全員で拳を上げ「おー!」と掛け声をして気合を入れた。





 ウサギプロにレインボーから共演の依頼が入ったそうだ。アオキを捕まえるという、大事な用があるのでまた今度、と言い断りを入れる。

 最近出なくて、根強いファンもそうでないファンも、寂しがってるらしい。一件が済んだらまたガンガンに出ようと決意。

 電話中、虹川自身が出て「わたしも今日仕事断って緑川君に会う!」と言い出した。危険なのでやめろ、とこれも断った。やれやれ。

 大体モノスゴイ駅前に着いたのが8時半、生徒会メンバーは猩々緋以外の全員、6時頃には揃ってたという。まるで俺がやる気ないみたいに見られた。

 直後に空から豪快に、土煙をあげながらアオキが下りてきた。おいおい、マジもんの超能力者なのか。

「どーもー、優しい高校生徒会のアイドル、アオキブルーウッドでーす」

 間違ってるけど、表現的には間違ってない。

「ンー、君がアオキ……よく猩々緋に似ている」

「あんがと、じゃ早速競技とルールのせつめー。簡単に言うと鬼ごっこだ、ワンタッチでもできたら大人しく捕まってやるよ」

 自信に満ち溢れてるな、それが俺の不安をより駆り立てる。それが狙いかもしれない。

「スリーでスタートだ。ワン、ツー、スリー!」

 アオキの靴から嵐のような暴風が巻き起こり、火花が散ったと思えば、炎を噴射しながら低空で飛び去って行った。

「ずる!」

 葉山さんが叫ぶ、俺もずるいと思う。

「可能性がゼロじゃないとしたら、走る事をおすすめするよ」

 天野さんの言う意見が最もだ。とにかく走ろう。

 解散しかけた時、アオキが戻ってきた。

「おっと、こっちにハンデがあっちゃ面白くねーな、一人だけジェット付きの靴レンタルしてやるぜ?」

 そんな物必要ない、という意見も出たが、多数が借りるだったので、悔しいが借りる。問題は、誰が履くかだ。

「それは、もう緑川様しかなくて?」

「ンー、自分も賛成だ」

「私も同感」

「でも、運動能力なら葉山さんや天野さんの方が高いのでは」

 天野さんが俺の肩をポンをして。

「最強のラッキーがある、自分はそれを信じるよ。英雄君」

 他の全員頷く、断る方が難しそう。ちょっと靴大きいけど、鉄っぽいのでしっかり固定して、準備完了。

「使い方は自分で模索するんだな、良い結果をまってるぜ」

 もう一回飛び去る。何となく足に力を込めてみると、同じように爆風が起こった。飛ぶのをイメージすると、普通に飛べた。考えてるのが具現化するシステムらしい。

 すぐアオキの後ろにつく、余裕そうに振り向いて、手まで振ってきやがった。

 手を振った反対の手、左手にはブーメラン? それを放り投げると、俺の方に向かって飛んでくる。蛇行しても追尾してくる。空中で停止してブーメランを蹴っている隙に距離を置かれた。

 追いつけたという事は、機動力では負けてないはず。もう一度足に力を入れ追う。

 大都市で一番大きなタワーを螺旋状に上ったり、試合中の球場を駆け巡ったり、場所は走行中の電車へ。

 二人で挟むように、電車より早いスピードで、あっという間に追い越す。電柱に足を引っ掛けてしまい、グルグル回りながら、もう一つ奥にある電柱に背中を思いっきり打ち付けてしまう。痛みが強すぎて立てない。若干の吐血をして、俺には無理なのかと思い始めた時、目の前にアオキが立って見下ろしてくる。

「やるじゃねぇか。ただ足りないのが一つあったなァ、それは経験の差だ」

 それだけ言い残し、すぐに飛び立っていった。もうちょっとで追いつけたのに、悔しい気持ちが強く込み上がり、余計に背中の痛みが増す。

「すまない。猩々緋、本当にすまない……」






 ―――虹川。


 電車で仕事場へ向かう途中、電柱に背中を打ち付ける緑川の姿が見えた。予定より早く駅を降り、さっきの場所へ向かう。そこそこ距離はあった。

 息を切らしながら、必死に走る。燃え尽きたような緑川の姿を見て、すぐに駆け寄る。

「緑川君!? 意識あるかな!」

「この靴を、履いて、青いバンダナの奴を、追いかけてください、俺なんか、いいですから」

「よくない! 救急車呼んでから追いかける!」

「そりゃ……どうも、はは」

 辛いはずなのに、ふてぶてしく笑う姿は恰好良く見えた。

 靴の使い方の説明を受ける。

「この靴、イメージしたら、飛べるみたいですね。もしかしたら、別の使い方、できるかも。ハァ」

 言われた通り頭の中でイメージして、早速飛び立つ。緑川よりも早いスピードで飛び回った。ジェット付きの靴だが、噴射したのは炎ではなく虹。

 腕を組んで空中で停止してる、アオキを見かけて虹川も思わず停止。

「追いかけてくる気配があったが、かわい子ちゃんじゃねぇか。お前は生徒会メンバーと緑川じゃないから、タッチしても含まれないでちゅよ~」

「そんなのどうでもいい! 緑川君の代わりに貴方を捕まえる!」

「ほお、やってみなァ!」

 アオキが急降下、合わせて虹川も降りる。晴れた空に、虹がかかる。人々は見てとても喜んだ。

 ビルの隙間という隙間を超スピードで縫いながら、掴めそうだったり、そうでなかったり。不意にアオキが振り返り、虹川の手首を持って、叩きつけるように地面の方へ振り落す。

 すれすれで地面との激突を回避。すぐに空中へ復帰して、弱々しいパンチを繰り出すも、簡単に手で受け止められてしまう。

「その程度じゃ、相手に塩を送ってるようなもんだぜ?」

 強風の音だけが流れて、時が止まったかのように静止。

「もう一度叩き落されなァ! 今度は手加減しな――――」

 虹川がニヤリと笑う。一方アオキは文句ありそうな表情で、口をへの字に曲げ、露骨に動揺。

「何がおかしい! わざわざ受け止めたからか!」

「いえ、わたしピンチなのがおかしくって、面白いんです」

「こいつ……!」

 今度は偽りのない、全身全霊で下に振り落す。高速で落下してる途中、緑川の言った事を思い出した。


 直後、虹でできた手がアオキを下に叩き落す。






 ――――緑川。


 また優しい高校の近くにある病院に世話になる。医師には友達とサッカーをして怪我をした、と適当な説明をしてお茶を濁す。

 あれから虹川に聞いた、俺の代わりにアオキを捕まえた、と言うより、退治したと言った方が正しいか。一か八かで大きな手をイメージしたら、自分よりも早いスピードで落ちて行ったと笑いながら語った。ちなみにアオキは隣の病室でゆっくり寝てるとか。生徒会メンバーが鬼の形相で目覚めるのを、まだかまだかと待っている。

 アオキから振り落とされた虹川と言うと。

『そうそう! 白い髪で口調が丁寧な人が受け止めてくれたの、頑丈な人なんだって思ったな』

 らしい。

 大探偵さんだと思うが、頑丈なレベルを越してる気がする。今度人間か聞いておこう。

 病室に風音刑事が入ってくる。事件が解決しそうなのに、淑やかな姿のまま。

「ねえ緑川さん。うち、戻ると思いますか?」

 今は、曖昧な回答しかできない。でも正確な回答をできるとも思えない。

「どうでしょう。勘なんですが、猩々緋さんは二人いました。なので、風音刑事も二人いるかもしれません」

 すごい適当な事言った。

「うちが、二人……」

 うわあ、真に受けちゃったよ。今更撤回できないよな。

「冗談ですって、本当に信じたらダメですよ」

「そういえば能力使えた時、自分をもう一人感じて、朱を二人感じた。だから混乱したの、自分は他人になってしまったのでは、と」

 実際記憶も継続してる様子だし、俺から見ても容姿はいつもの感じだ。まるで、中身を吸い取られてしまったような雰囲気がある。

 疑問が脳裏をよぎる。イメージした物を具現化できる靴があるように、猩々緋のような似た人がいたり、世の中は不可思議な事で満ち溢れてたりするのだろうか。

 何が言いたいか、風音刑事の何かを吸い取った『道具』でもあるかもしれない、という事。

 いくら考えても仕方ないので、一端頭から振り払う。

「これ、念のために持ってください。うちが持ってるより役立つだろうから」

 渡されたのはトランシーバーのようで、色々ボタンがついてる何か。

「超能力ジャマーと言って、名前の通り超能力を妨害します!」

 半分疑惑で受け取る。疑ってもしょうがないと思うので、素直に貰うと決めた。

「じゃ、うち自宅に戻るから。またお願いします、変態さん」

 やっぱり変態なのか、否定はできないけど。

 しょぼしょぼと出ていく、寂しげな風音刑事の背中を見送る。

 ふと、窓に目を遣る。虹が流星のように降り注いでいた。





 第四話 二人はアイドル Fin.

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