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プロローグ エピソード・グリーン

 今日もお父さんに探偵の依頼が入った。時々警察関係者すら来る難事件だ。

 だが、日頃は全て引き受ける父親ですら、特定の事件は絶対に引き受けなかった。

 人喰い。

 その言葉一つで顔色を変え、怒った事もあるくらい。

 事件の概要を聞いても「お前を巻き込みたくない」とだけ言い、それ以上何も語らない。

 気になってしょうがない中、今日も探偵依頼を断り、次の客が入ってくる。

 一風変わった、とは言っても自分も緑色の髪をしてるので他人の事は言えないが、赤毛でツインテール、茶色のコートを着た女性が入室。

 別の意味でお父さんの顔色が変わった。なんというか、目上の人を敬うような感じだ。

倉家風音くらいえ かざね刑事! どうして貴方がここに」

「うち人喰い事件解決したいんだけどさ、あそこ守り超硬くてねー、丁度中学卒業する息子さんいるんでしょ? 緑川さん」

「ちょ、ちょっと待ってください、すぐるを危険な目に合わせたくないんです! あの高校だけはおやめください!」

 刑事は腕を組んで、左に視線を向ける。うーんと唸って、俺と目があう。

「面白い人、優君かな? うん、彼なら大丈夫!」

 俺が面白い? 冷たいオーラがすると言われて、誰も近づかないのに。

 冷え切ってる自分とは対照的に、お父さんは汗だくで目の焦点が合ってない。

「いい? 自分は全人類の弱み握ってるの」

 また大きく出たな。でも反応を見る限り、嘘には思えない。

「……わかりました。その代り、一つ条件を呑んでくれないだろうか」

 何でもこい、といわんばかりに刑事は得意げにお父さんを見つめる。

「どうか、どうか息子を守ってやってください。命を落とす事だけは絶対に無いようにお願いします」

「その必要はないわ」

 もう、世界の終わりを見てるような表情。それだけ自分を愛してくれたと思うと嬉しいが、素直に喜びや感謝を伝える状況ではない。

「優君が亡くなるのは絶対にない。それだけは保障するから」

 もう言ってる事やってる事はちゃめちゃ。根拠は何もなさそうなのに、自信だけは一人前。これからあの意味不明な人についていくと考えると強い寒気がする。

 とりあえず、反論してみよう。

「俺の意見を尊重してほしいです。刑事やお父さんで勝手に決めないでください」

 刑事とお父さんの視線がこっちに集まる。二人とも難しい表情をし始めた。

「じゃあ君はどうしたいわけ? お父さんお母さんに守られてちゃんちゃんおしまい?」

 とても痛い所をつついてきたな。言われてみれば、人間の命は一生ではない。自分を自分で守らなければいけない時は絶対に来る、遅かれ早かれ。

 とても早いが、俺にはその『時』が来た。成長しなければいけないんだ。

「優、その表情は決めたみたいだな」

「俺無事に帰ってきくるから大丈夫、心配しないで」

「じゃ、準備とか済ませといてねー」

 そう刑事は告げ、挨拶する前にいつの間にか消えていった。




 それから数日後。休日の快晴で雲一つ無い空。

 自分は下見に『超絶優しい高校』という学園の校門前に来た。

 パンフレットは見たけどやはり大きくて綺麗。今通ってる中学とは大違い。しかし来たのはいいものの、入る事もできずただ立ち尽くす。

 用事もないので帰ろうとした矢先の事、ここの制服で即ち『優』のワッペンがついたのを着ている男子生徒と遭遇。さらにはサングラスにオレンジ色のバンダナまでしていた。

 早々なぜか場の空気が凍りつく。特に何かしてるわけでもないのに、強く睨まれてる気がする。いやサングラスしてるから実際は分からないけど。

「なんか喋れよ」

 威圧されると逆に喋りたくなくなるので、あえて無言を貫く。

 昨日倉家刑事から貰った棒つきの飴をポケットから出して口に咥える。

「それ、姉貴がよく食ってる飴だな。どうしてお前がそれを」

 バンダナから赤毛を覗かせていたが、やはり兄弟なのか。

「姉貴というのは、倉家刑事の事ですかね」

 彼は腕を組んで笑顔になり、ああ! と言って大きく頷く。

「なるほど……先ほどは失礼しました。自分は緑川優みどりかわ すぐると言います」

「僕は猩々緋朱しょうじょうひ しゅだ。苗字は違うが、血の繋がった兄弟だぜ!」

 複雑な事情を背負ってそうだから、詳しくは聞かないでおこう。

「で、ここに何の用だ? さっき高校を見て立ってたみたいだが」

「入学しようと思ってるんです。というか、入学させられると言った方が正しい」

「ふーん……大変なんだな」

 猩々緋さんの表情が曇り始めた。何か話題を変えれなければ。

「貴方こそ休日の学校に用なんですか?」

「生徒会長の野郎に呼ばれたんだよ、折角の休みなのになぁもう」

「そうですか、大変なんですね」

 また悪い空気になってしまった。相性いいように見えて、やっぱり相性悪いのだろうか。

「なんかよ、申し訳ないがお前と喋ってると気持ち悪いわ。じゃな」

「俺もそう思います、では」

 案外ド直球な人だった。何か気分悪いけど、今日は帰るしかなさそうだ。

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