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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第五章・異世界殺戮紀行。

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第99話 吸血姫は身悶え者を眺める。


「変わり映えしないわね〜」


 それは〈中立国・アイネア合国(ごうこく)/西方国家ランイル〉に上陸してすぐの事。

 海岸線から内陸部への移動の途、その風景がなんというか浮遊大陸の港から内陸部に入るルートと大して変わってない事に私は一人呟く。

 今は先頭車の運転席から景色を眺めていたのだが街道といい周囲の森林地帯といい見覚えのある風景しかなく(暇!)と思ってしまった。

 すると、助手席に座るナディが私を(たしな)める。


「そうそう変わり映えしていましたら異世界は近代国家という事になりますよ?」

「確かにそうね・・・近代化してないから封建的だし、ダンジョンという一風変わった職業事情もあるものね。それに下水も無いからアチコチが垂れ流しで」

「コホン! カノン様、少々お下品です」

「そ、そんな事言うと今晩、攻めないからね」

「うっ・・・それを言わないでください! 余計に濡れてしまいます〜ぅ」

「濡れた? オムツ穿()いてないの?」

穿()いてます! ただ、尻尾を出す穴がないので、お尻はツラいですが」

「なら獣人用のオムツも用意しないとね・・・って今は人族の姿でしょうが!!」

「あ! そうでした! てへぺろ!」

「コラコラ! 二人してイチャイチャしない! 娘の目の前で母親がイチャつくの見せられて、私はどう反応したらいいの!?」


 話は脱線したが後部座席からマキナの羞恥に(まみ)れたツッコミを(いただ)いたので話を戻し、私は他の車輌に話し掛ける。

 ちなみに、現時点の光景を外から見れば私とナディが隣り合って御者を行い、奥からマキナが真っ赤な顔を出してツッコミを入れるという幻惑が外に居る者達には示されているのだ。

 周囲には誰も居ないけどね〜。

 だだっ広い草原やら森林地帯、断崖絶壁と呼べるか呼べないか判らない丘が周囲にある程度で殺風景な景色が拡がっているだけだ。


「・・・とはいえ人っ子一人居ないというのも、なんというか・・・旅人とか居ないわけ?」

『主様。現在地からですと居たとしても他国の間諜ですから下手に出くわさない方がよろしいかと存じます』

「間諜ねぇ〜。戦乱の最中、唯一の仲裁国家になんの用があるんだか」

『そこは勇者の詳細情報なんじゃないですかね?』

「ユーマの言い分は無きにしも非ずね? 勇者単体を知ったとしても、大して意味はないはず。ねぇマキナ?」

「私に振るの? う〜ん? 個々に組むグループも変則的だし、主要戦力を把握するというのはあるかもね? ある意味・・・両者の戦闘行為を妨害して乱戦へと持ち込むから。私は見た瞬間に瞬殺したけど」

『単騎で瞬殺出来るマキナは例外だけど、基本は五人一組の班だから』

『車バカの五千万MP以外は雑魚だよ? マキナは除くけど。ね? お姉ちゃん』

『うん。マキナは除くけど・・・って、自分で雑魚と言っててなんか哀しい』

「コラコラ! 今度は分裂姉妹で・・・って、カノンさんも分裂姉妹だったわ〜」

「マキナは余計な事を言わない! それは過去の事よ? 今は今を見なくちゃ」

『そうですね。主様の仰有(おっしゃ)る通り、今を見ないと見通す事も難しいですし』

「話を戻すわ。となると・・・考えられるのは」

「暗殺ですか?」

「ええ。それと本当の思惑を知る事よね? 勇者を戦地投入して戦わせる・・・マキナを除いて一騎当千は一人も居ないから次にどう動くか把握するため・・・かしら? 直前のマキナってなにかしたの?」

「特になにも? 初戦は確か・・・グループでの戦闘には一切参加せず〈希薄〉して戦地のド真ん中で寝てたから。あとは程ほどの戦果を適度に挙げてから自由を勝ち取った流れだけど?」

『『寝てたんかい!?』』

『流石だわ〜。車バカがマキナはどこだって騒いでいたが、まさか戦地のド真ん中で寝てるとは思うまいて。それこそ砲弾が常時飛び交う中で寝られる神経にあっぱれだわ』

「いやいや、あんなのあっちの世界の山岳地帯じゃ頻発してたし。子守歌にしかならなかったよ? もっと派手でドタバタした血で血を洗う戦場を求めてたのに変なところだけ近代化してるから(あき)れただけね? それにサーヤ達も面倒そうにしてたし・・・タツトだってねぇ?」

『いや、俺は大した訓練もないまま戦地投入されたからな・・・明らかに死にに行けってやり口に嫌気が差しただけだったが。ま、相手が弱かった事だけが幸いだったが』

「勇者とて元は人の子、人外のマキナが例外だった。それだけよね〜、私も人外だけど」

『主様、今はこの場の者達が人外です』

「それもそうね。さて、先頭車両から通達よ? 前方から騎馬の一団が向かって来てるわ。全車両、街道脇に車を寄せなさい!」

『了解!』×5


 ひとまずの運転中の話し合いは前方から進んできた騎馬群によって中座させられた。

 話は暇潰し程度だったため別段重要な会話をしたわけでもなかったが。

 前方から来る騎馬群、その総数は四十騎。

 内八騎が一台の派手な馬車の護衛を行っていたので私はナディの〈スマホ〉を通じて運転者の交代を命じた。これは面が割れてる者が運転することで誰何(すいか)ののち面倒事を招く事を回避するためだ。但し、相手が勇者だった場合は全員の面が割れるんだけどね。

 私は騎馬群の旗から所属を把握し、背後で隠れるマキナに問う。


「マキナ? あの中に気になる者って居る?」

「騎馬の中・・・う〜ん? あれはランイルの近衛兵達だけど後方が見えないとなんとも」

「後方ねぇ? マキナ・・・〈遠視〉を俯瞰(ふかん)で把握してみて」

「へ? 俯瞰(ふかん)出来たの? 前に持ってた〈遠視〉は出来なかったけど?」

「この子は・・・まぁスキルレベルが30を超えないと使えないオプションだけどね?」


 すると、マキナはなにかに気づき、二号車と六号車へと指示を飛ばす。


「30・・・うん、試してみる! う〜ん? タツトとユウカに連絡! ワサビ刑準備!」


 それはユウカ発案の報復攻撃こと・・・ワサビ刑だった。私は遅れて〈遠視〉した。

 すると、待ちに待った車舎総次(くるまやそうじ)が「視察メンドイ」と呟いていた。


(あらら。馬車には車バカが居たわね。暇そうに何度も大あくびして・・・)


 直後、二号車の助手席で待機するユウカが人の悪い笑みを浮かべて楽しそうに・・・ワサビ刑の粉末素材を結界内で用意していた。

 一定分量の粉末を貯め込むと唐辛子の粉末と水を混ぜて握り拳サイズの塊を作りだし、六号車のタツトへと転送したようだ。

 だが転送前、結界を解除した途端に強烈な匂いが車内へと充満したため、転送直後より清浄魔法で消臭していたユウカであった。


 ちなみに私の居る一号車とユウカの乗る二号車はともかく、六号車は相手から視認されてないため、タツトは〈遠視〉で照準を定め──


(あ〜!? 上手い具合に握り拳大のワサビが口の中へと落ちたわね!!)


 口が開くタイミングでワサビ塊を転送した。

 直後のタツトも強烈な匂いを清浄魔法で消臭していたようだ。


(うわぁ〜。(もだ)えてる! 涙目で悶絶(もんぜつ)してる! 水を求めて〈錬金〉しようにも魔力不足で作り出せないって泣き喚いてる! ユウカは隠れて・・・笑ってるわね・・・〈魔力触飲(マナドレイン)〉で吸い出したのもユウカね?)


 ユウカの憎悪と行動はあっぱれだった。

 車バカ・・・車舎総次(くるまやそうじ)は唐突に訪れた魔力不足により(もだ)えながらも気絶し、一人で過ごす馬車の中で緑色の泡を吹いた。

 ユウカの憎悪を感じ取ったシオンも極上の美味を味わえたようなので、ユウカ自身も憎悪で黒く染まる事はないだろう。これは同じ車輌にして良かったともとれる配置だった。

 すると、マキナは手を合わせつつ横切る馬車内を掃除した。


「車バカ・・・南無。とりあえず余計な疑惑を持たれないようにっと! 泡と残存ワサビは還元したよ〜。口内に残る物は残したけどポーションは要らないよね?」

「ポーションの無駄になるから要らないわね。ユウカも望まないだろうし」

「やっぱり私の見立ては正しかった! でもワサビ刑は勘弁してください!」

「「ナディ・・・」」


 ナディの喜悦を眺め呆然とした私とマキナはともかく、最後の六号車の背後から数メートルほど騎馬群が離れたあたりで私達の車輌は街道へと戻り、先を急いだ。


 その後、悶絶(もんぜつ)した車バカは私達が上陸した海岸にて、なぜか苛立った兵達から不躾(ぶしつけ)な介抱をされ、寂しいひと時を過ごしたようだ。ただ、この時の私達は砂浜に忘れ物(・・・・・・)をしていたようで、あとから魔物達に追われる車バカ達から追尾される事になるのは・・・のちの話である。


(あ! タイヤ痕を残したままだったわ! まぁいいか。ユウカ達に返り討ちを任せれば・・・どうせ剥奪確定者だもの。いずれにせよ、どこかしらで相対する必要もあるでしょうし)





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