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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第五章・異世界殺戮紀行。

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第98話 吸血姫は運転者達を眺める。


 嵐が過ぎ去った・・・その日の夜。

 私達冒険班が船に戻ると船長の執務室へとリリナ達が訪れた。事情は監視していたので知っていたが、あえて報告を聞いた私だった。


「なるほどね。その異世界人の勇者が溺れたから助けたと」

「はい。あのまま海中に放置すると人族国家へと大義名分を与えかねませんから」

「大義名分?」

「ええ。勇者を放置した人魚族を滅ぼす・・・とかなんとか言って、多くの同胞達を捕まえる可能性が無きにしも非ずでしたから」


 リリナの言い分としては海難救助より祖国の民を護る面が強かったようだ。人族という(やから)は大義名分を与えればなにをしでかすか判らないという事だろう。私はリリナの言い分を受け入れ、今後の行動方針に追加した。


「ふむ。一理あるわね・・・判ったわ。ひとまず助けたという道理は通ってるから上陸後は様子見しつつ先を進みましょうか」

「はい」


 私は元気の無いリリナ達の頭を撫でながら、溺れたバカを〈遠視〉し、とある処置を(ほどこ)した。


「それと・・・よくやったわ。あのバカは前科があるからね。今後は嵐で海中に飛び込もうとすると罰が下る、結界術を魂に刻み込んだわ」

「け、結界術ですか?」

「ええ。嵐の日という条件で発動するもので、周囲の空間魔力を超微量だけ使う魔法でね。主に荒れる水上を視認すると物理防御結界が視線の先に瞬時展開されて、当人の肉体が硬い地面に激突するという、それはもう痛々しい罰ね。指先から激突して突き指するか、最悪骨が折れるというオチが付くけど彼女は痛い目に遭わない限り続けるから、そこに立つナディみたいな性癖を持ってない限り・・・」

「カノン様!! 流石の私でも骨折はイヤです!?」

「え? そうだったの?」

「表面の痛みならともかく、内側からくる痛みは流石に辛いです! 生理では嫌というほど」

「そういう事ね。それで精神の痛みは?」

「それとこれとは・・・で、ですが!!」

「はいはい。まぁ意図的に罰して欲しい者はともかく、これは罰しても続ける鳥頭的な者への対処だから、ナディに(ほどこ)す気は一切無いけどね?」


 私は怒るナディを(なだ)めつつ、顎の下を撫でながら黙らせた。


「う、うにゃ〜ん」


 猫獣人を黙らせるにはこれがベストよね?

 あとは裸に()いてお腹を徹底的に撫でるとか。私はナディを黙らせた後、装備から私服に着替え、この場に居る者達へと告げる。

 今はナディとリリナとリリカしか居ないが。


「それと一応、夕食時にも通達を出すけど明朝には上陸するから各員持ち出せる品物だけを自身の亜空間庫に移しておくようにね。一旦、この船は私の亜空間庫に片付けるから。あとから忘れました〜って事がないように。特に反対側の東方国家ルンライへ抜けるまで、この船を外に出す事はないから」

「という事はここから先は陸上移動のみと?」


 私はリリナの疑問に答えた。


「そうなるわね。でも・・・そうね? リリナ達を配慮するなら、のちほどキャンピングトレーラーを接続しましょうか」

「「「え?」」」


 だが、「キャンピングトレーラー」と言った段階で全員の目が点となった。


(以前、説明してなかったかしら? いや、あの時・・・この三人は居なかったわね)


 私は(ほう)ける三人を眺めながら、どうしたものかと悩む。

 これはフーコ達に車庫内を見せた時、一番奥へと置いていた車輌の一つだ。台数にして六台用意している寝泊まり用の被牽引車輌だ。

 そのうち二台は屋内プール完備の少し豪華な居室付きであり、プール無しの四台を含め、大型四輪駆動車と空間結合で繋がり、常時内部移動が可能となっているトレーラーである。


 それと残りの四台には自転車、自動二輪、自動三輪が収納出来る仕様であり全ての車輌でログハウスへの行き来と各車輌への行き来が可能な物となっている。どちらも長旅での息抜き用途ね? 大型四輪駆動車でずっと座りっぱなしというのも腰にくるから。

 実はこれもイリスティア号を作った後に用意したもので、女性のみを想定した作りとなっているのだけど、今は野郎共も居るため、のちほど改修しようと思っていた私である。

 ともあれ、私はどうしたものかと思いつつ、固まる三人に問い掛ける。


「それなら・・・あとで入ってみる?」

「いえ、明日まで楽しみにしておきます!」

「ます!」

「そう? ナディは?」

「私は運転さえ出来れば問題ありません」

「そうなの? そういえば運転員を決めてなかったわね・・・長距離移動となるから定期的に休む事になるだろうけど。免許持ち・・・いえ、経験者でもいいわね? 異世界の免許制度とか法令はこの世界では意味無いし、のちほど確認しましょうか?」

「そうですね。ナギサさんは確定しているでしょうけど」


 そう、問い掛けたはいいが楽しみは明日までとっておくという事となった。ナディも車好きだったのだろうか? 楽しげな表情だった。

 私やマキナはともかく、異世界での運転経験がある者がどれだけ居るのか謎ではあったが、極端に少なければどこかしらで覚えさせるのも手であると思う私であった。

 この世界で交通ルールなる物は存在しない。

 最低限の運転経験を積む・・・それだけで充分なのだから。


 


  §




 そして翌日。

 船は目的地の岸壁付近に停泊し、人員は各自の部屋から必要物品の片付けを行っていた。

 この日から私達の移動は陸上移動のみとなるため、私は移動中の足腰を考え、全台にキャンピングトレーラーを接続する段取りを朝食後の車庫にて行った。

 肝心の台数はキャンピングトレーラーの全て使った、一から六号車まで用意した。それと運転員は前日の夕食時、以下のように決まった。


 ───────────────────

 一:カノン、ナディ、マキナ、

   リンス、リリナ、ココ


 二:ナギサ、フーコ、ユウカ、

   シオン、キョウ、リリカ


 三:ユーマ、ニーナ、ユーコ、

   ルー、ハルミ、コノリ


 四:サーヤ、ミキ、ショウ、

   レリィ、ルイ、ニナ


 五:サヤカ、ナツミ、レイ、

   コウ、アコ、リョウ


 六:タツト、シロ、ゴウ、

   シン、ケン、アンディ


 ※ 残りは亜空間庫へ。

 ───────────────────


 運転員は前半三名、搭乗員は後半三名だ。

 一号車と二号車が屋内プール完備の車輌であり、残りが車庫型となる。一応、経験者を数名ほど搭乗員に含んでいるが交代制で運転するため、その時々で対応する事となるだろう。

 他の自我無し人員は各自の亜空間庫に仕舞う形となるが野営・・・否、車中泊をする時だけは外に出し作業を行わせる予定である。


 それと移動時、車体の見た目から車バカが反応する事を予見して見た目を四頭立ての馬にトレーラーを荷車と見えるよう車輌偽装を行う幻惑魔法の仕組みを追加した。

 大型四輪駆動車のみなら馬車に見える機能が(すで)にあるが、このキャンピングトレーラーには偽装機能のみが付いていなかったので、接続の有無で機能するように変更した。

 ちなみにそれ以外は大型四輪駆動車同様の武装を含む機能が標準装備で付いている。これも御者を運転手の姿で見える物にしたので車内からのやりとりも魔法で対応するようにした。

 私は船の周囲に物理防御結界を広範囲に張り巡らせ、車庫に仕舞ってあるキャンピングトレーラーを一台ずつ転移で取り出した。

 そして、甲板上からキャンピングトレーラーの周囲で呆然となる面々を眺めて一声掛ける。


「総員、下船したわね?」

「も、問題ありません・・・が」

「ナギサ、どうかしたの?」

「いえ、改めてこの世界で自動車を見る事になるとは思いも寄らなかったので」


 ナギサと他の面々は興奮する者と不安気な者とが入り乱れ、私は苦笑しつつも答えた。


「慣れるしかないわよ? シオン達なんて気にせずトレーラーの中に入ってるから」

「そ、そうですね」

「それと、各車への意思疎通は〈スマホ〉経由の音声通話で行うから助手席に居る者の〈スマホ〉は常時通話可能状態にしておくこと! 運転者の〈スマホ〉はナビゲーション以外は使えないから注意ね?」

「はい、承知致しました」


 私は苦笑気味のナギサを眺めながらも海上に降り、イリスティア号にしばしのお別れを行いつつ、亜空間庫へと片付けた。

 一応、道中で船のメンテナンスを行う予定なので、それまでの間は船を休ませる事にした。

 私は車外待機する運転員達へと一声掛ける。

 他はトレーラー内へと移動したからね?


「色々考える事とか知りたい事とかあるとは思うけど、ずっとこの場に居座り続ける事も危険だから、総員搭乗したら直ぐに出発するわよ。たちまちの野営予定地はランイル王都周辺の森林地帯とする!」

「はい!」×17


 私達は各車に乗り込み、海上をあとにした。

 各車が上陸したあとに物理防御結界を解除し、なにも無い海を(あら)わにした。




  §




 一方、カノン達が上陸した直後の海域では──


「なぁ? 気のせいか?」

「なんだ?」

「俺の目の前で四頭立ての荷馬車が六台・・・海上を走ってるんだが?」

「頭、大丈夫か?」

「頭は大丈夫だが・・・目が疲れてるのかな? 荷馬車も(すで)に居ないし」

「この後、勇者様がお越しになるんだ。今は休める時に休んでおけ」

「そ、そうだな」


 それは沿岸警備隊の者だろうか?

 カノン達が〈希薄〉もせず上陸したためか、その瞬間が目撃されていた。

 ただ、車輌偽装がうまく機能していた所為(せい)か幻覚として処理されたようである。





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