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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第五章・異世界殺戮紀行。

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第97話 吸血姫は溺れる者を眺める。


 そうして予定していた昼過ぎ。

 外に出ていた者達のうち私とマキナとリンス以外は総じて休息に入った。昼食後の私とマキナは船橋(せんきょう)にあがりムアレ島を離れる段取りを行った。

 そのうえでシオンの〈希薄〉から私の〈希薄〉に交代し周囲からの視認回避を行った。

 ナギサも休息に入るため同じく副長として任じられたマキナと交代した。副長という役職も朝昼はナギサ、昼夜はマキナ、夜朝はリリナが行うという流れとなった。

 これは休みなしで進む場合の対応だ。

 リンスは飛空船としての副長だが船に戻り次第、公務のため上界に移動したため船内には居ない。なんでも・・・ミルーヌ王国との戦後処理で色々忙しいそうな・・・それはともかく。

 マキナの合図により船は稼働を始めた。


「出航準備!」

「多重結界解除! 停船モード解除! 動力起動!」


 操船を行うニーナが兎耳をピクピクさせて応じた。この時、全員の服装は制服姿だったが、ニーナの白い丸尻尾が妙なミスマッチ感を漂わせていた。


「多重結界・・・解除完了! 停船モード・・・解除完了! 動力起動します!」

「この海域からの離脱開始!」

「離脱開始します!」


 直後、私達の船はムアレ島の海域から徐々に離れ出した。私とマキナは島から離れる間に島内を〈遠視〉し状況を把握した。


「あら? 領主が居なくなったから大慌てね」

「勇者四名が行方不明、一名死亡という事になってますね。一名は私ですけど」

「たちまちは領主代行が任じられるでしょうけど、死亡認定されていない勇者の捜索に時間を取られるでしょうね。これで王太子策の時間浪費が進めば万々歳だけど」

「魔力回収ですか」

「上界は人格を壊して肉体と魂を狙い、下界は身体を壊して魔力を狙う。いやはや・・・」

「人族の欲望というか、拉致した事への謝罪もなく特権だけ与えて捨て駒とするのは」

「遣りきれない話よね〜」


 立つ鳥跡を濁さずというが、濁しに濁しまくった私達はそそくさと離脱した。唯一、布騒ぎで迷惑を被った民達だけは原因が居なくなった事で喜んでいたが。




  §




 それから数日後。

 船は初めての嵐に出くわした。

 私は目覚めて直ぐに状況を把握し、船体異常が無いという事で安堵を示し、急遽だがこの日の担当を少し変更してみた。それは数名ほど上界での依頼を(こな)さねばならなかったため、私とレリィ、ニーナとユーマ、リンスとナディ、アンディは冒険者ギルドへと向かい、ユウカとショウも畑を見に行く事とした。


 残りのメンバーの内、シオンとナギサが船橋(せんきょう)に詰め、ミキが操舵員をコノリが指揮所で待機していた。これは大した事がないという意味と安心して任せられる人員が居る事で一任したのだ。一応、有事の際の戦力も残しているため問題はない。これも大所帯になった事で安心感が出たのかもしれないが。


 私達冒険班が居ない間の後部甲板ではマキナとハルミとサーヤがベンチに座り、のほほんと茶を(すす)っていた。

 アコとココも前部甲板上にシートを敷いてサンドウィッチを食しており男子達は上部倉庫内にて、〈スマホ〉に追加した戦略ゲームで遊んで・・・否、シミュレーションしていたようだ。

 すると、サーヤが溜息を吐きながらハルミに問い掛ける。


「雨だね〜、ハルミ?」

「雨だねぇ、マキナ?」

「普通なら揺れに揺れてるはずなのにね〜、サーヤ?」

「ホントにね〜。酔わない不思議」

「というより船外で一切濡れないというのも凄い事だよね〜、ズズズ・・・」

「というか歴戦の吸血鬼が外で血を(すす)るんじゃなく、茶を(すす)る方がシュールよね?」

「それは見なかった事にしない? 私達は茶を(すす)るけど、後ろは」

「ああ。ユーコとお姉ちゃんが素っ裸で日光浴してるね。日も照ってないのに」

「嵐が過ぎたら晴れるって判ってるからでしょ? 昨晩、船橋(せんきょう)で〈確定天気〉見てたし」


 本来ならこの場に居る者達はマキナを除いて船橋(せんきょう)や指揮所に居なければならない人員なのだが、今は哨戒任務に出られない有翼族(ハーピー)の四人がそれぞれの担当場所に入っており、ルーとコウも監視台に詰めているため問題なかった。

 ちなみに現在の船が居る地点は〈西方国家ランイル〉の海域に入る手前であり、船はゆっくりとした船速で港の無い岸壁や砂浜がある場所を目指して進んでいた。


 この岸壁や砂浜のある場所とはリリナが勧める人気(ひとけ)のない地点であり稀に人魚族が休む場所らしい。そこは街中からも距離があり、国境線の近くを通る街道と比較的魔物の多い地点との事で人族などは探索者以外で出入りする事がないそうである。

 ただ、その場所は稀に他国の間諜などが出入りする場所でもあるため、出くわしたら(いただ)けばいいとリリナは言っていた。

 肝心のリリナとリリカはバラスト水の中で素っ裸のまま漂っていたが。

 すると、監視台に詰めているルーが慌てたように船内放送を発した。


『緊急! 緊急! 前方に10キロ先に艦あり、至急〈遠視〉で確認されたし!』


 その報告を聞いた者達は一瞬で戦闘時切替を行い、素っ裸で寝ていたユーコ達も換装魔法により陸上装備を身につけ、バラスト水の中に居たリリナとリリカも水中装備を身につけながら前部甲板へと転移してきた。のほほん勢だけはノラリクラリと前部甲板に移動していたが。

 マキナと共に前方へと移動するハルミ達は思い出す。


「この海域で出る船舶っていうと・・・」

「沿岸警備隊だっけ? マキナ?」

「それであってるよ。今はあちらもそれどころじゃないみたいだけどね〜」


 のほほん勢が急がなかった理由。

 それは知っているからだ。

 ナギサもその点では警戒していたが、あまり表立って殺気立つ必要もないため──、


『前部甲板で陸上装備を身につけたユーコさん達、装備を外して元の位置で待機してください』


 そう、注意を行った。マキナも報告を聞いた直後より事態を把握していたためか、前部甲板に着くと同時に様子見のみ行った。

 すると、サーヤが疑問気に問い掛ける。


「マキナ? どういう事?」

「だってあれ、勇者捜索を行ってるんだよ? 現時点で居ない者のうちムアレ島に住む二人を除くと、行方知れずがババア達だから船と共に沈んだかなにかと思って・・・いや、兵達の声を聞く限りババア達じゃなくて水着(・・)が流されたみたいだね?」


 マキナは状況を把握していた・・・否、〈遠隔聴覚〉スキルで声を拾い状態を教えていた。

 なお、このスキルはマキナが得た特殊スキルのため盗み聞きで重宝していたらしい。それはまさに諜報向きのスキルであり、ナディ達に複製しようかと思ったほどに。

 すると、サーヤはマキナから聞いた勘違いともとれる単語を聞くも・・・思い出す。


「水着・・・あ! 古柳水喜(コヤナギミズキ)

「どうせ、異世界の嵐でも自分は泳げるって海に飛び込んだんじゃない? よくある嵐で死亡する鉄砲玉そのものだけど、あれはあちらでもなんとか生き延びたし」


 それは勇者の一人。古柳水喜(コヤナギミズキ)は水泳部員であり、荒れ狂う海に飛び込むほど自身の泳ぎを過信していた水泳バカだ。

 名前からも判る通り、水着とアダ名される彼女は(はた)から聞けば流されて当然という意味にも聞こえる人物だった。

 私は面識ないけどね? マキナのあっけらかんとした理由を聞いたハルミ達は納得するも、周囲を見回し誰かを探る。


「なるほどね〜。って、リリナ様達は?」


 マキナはハルミからの問い掛けに、またもあっけらかんと返した。


「飛び込んだよ?」


 それは人魚族としての使命というか、敵対しているとはいえ海難救助として手助けに向かったのだろう。海中では人族よりも二人の方が水中技能が上なのだから。


「海がホームの二人に任せる方が無難かな?」

「た、確かに・・・」×6




  §




 一方、海中を泳ぐリリナとリリカは水中で〈希薄〉を行使しながら、水中探索魔法を行使し溺れている者を探し出す。技能に溺れて海で溺れれば迷惑極まりない話なのだが。

 二人は水中でも普通に会話が可能であり、今はどちらも人魚族の姿で泳いでいた。なんでも、そちらの方が水中移動が速いそうだ。


「お姉ちゃん! あっち!!」

「どっち?」

「あれ、右奥の岩陰!」

「ヒジキかと思ったけど髪の毛だったのね」

「とりあえず連れて浮上する?」

「いえ、敵船の真下に救助網があるから、そこに頭だけ出して引っかけましょう。今はまだ亡くなってないけど時間の問題だし・・・それと水着が邪魔だから全部溶かして周囲に怪我防止と呼吸用の空気膜を張っておかないとね? 〈潜水〉スキルも無事生えたみたいだし、後は勝手に目覚めるでしょ」


 二人は慣れた手つきで素っ裸となった古柳水喜(コヤナギミズキ)を水中浮遊魔法で漂わせながら敵船真下の救助網へと放り込んだ。


「だね! よいっしょっと! だいたいこんな嵐の中で泳ぐとかバカ過ぎる」

「蛮勇って事なのでしょうね? 多くの人達の迷惑を考えないとか・・・頭が可哀想過ぎるわね」


 ちなみに「水着が邪魔だから全部溶かして」とリリナは言ったが、これは水着を魔力還元しただけであり、二人は身体に触れる事なく片付けしたようだ。





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