第94話 擦り合わせを見守る吸血姫。
それはシロが余計な事を言う少し前の事。
マキナは買い出し班と共に買い物に参加し、一同から色々な事情を見聞きしていた。
それはこれまでの経緯や、上界の事。
伝えられる前提の内容に限りマキナに教えていた。まぁそれも買い物の合間合間にね?
そして一同の種族を踏まえて話すと、マキナは別の意味で驚いていたようだ。
そう、それぞれの種族が吸血鬼族ではなく、オーガ一名、獣人二名、エルフ一名がおり、別件で買い出ししているドワーフが二名居ることを教えたからだ。マキナもそれぞれの名を聞き〈遠視〉を用いて顔と名前を一致させていた。
そんなやりとりの最中でもレリィはポチポチとシロにメッセージを飛ばしていた。
すると、マキナはレリィの〈スマホ〉を見て欲しそうに眺めた。
「へぇ〜。カノンさんも便利な魔道具用意してるんだぁ〜、ん? また!!」
直後にシロが余計な一言を言い掛けて、マキナは〈遠視〉と共に手持つリンゴを飛ばした。
「どうしたの? 囓ってたリンゴを転送して?」
その対応を見てユウカが疑問気に質問していたが、マキナはあっけらかんと返すに留めた。
「ん? 言っちゃダメな事を言おうとした馬鹿が居たからね〜」
その一言を聞いたレリィは隣を歩くショウに聞く。
「誰だろ? 三バカかな?」
するとショウは買い物リストを眺めながら、応対した。
「普通に三バカの誰かでしょ? 一人はダンジョン攻略してるから余裕はないだろうし」
「余裕・・・確かになさそうね? 魔物に追われて放置されてるし・・・羨ましい」
ナディは〈スマホ〉でミキ達に事情を伝えた後、亜空間庫に〈スマホ〉を片付け〈遠視〉しながら、こちらの状況を眺めた。
すると、先頭を歩いていたマキナがナディの隣にやってくる。
「もしかして、ナディも放置プレイ、イケる口?」
「え? マキナも?」
「もちろん!」
「「同志!」」
「おいおい・・・って、今度は誰よ?」
という感じでドM同士が意気投合して抱き合ったのも、つかの間。呆れるショウとレリィの視線の先になにかが現れた。
「マキナ、あれが居るの知ってた?」
「どしたのレリィ? あー、私・・・単独行動中だったから、今知った。というか似合いすぎるくらい、似合うね?」
それは、脱げないオムツを穿いてトボトボと歩く、赤ちゃん勇者達だった。
おしゃぶりは流石に口から取っており、両手のガラガラと共に左手に持っていた。見る目だけはあるのか価値ある物だと気づいたらしい。
アレもタツトがその場で作った物で鑑定魔法ならば鑑定不可と出る代物だ。〈鑑定〉スキルで見ると普通のおしゃぶりだが。
先ほどまでは公園に居たのに今は市場を歩いているのだから脱衣行為は止めたようだ。
その代わり両者とも半裸のまま街中を歩くから羞恥心というものが麻痺しているのだろう。
すると、ユウカが呆れたまま、赤ちゃん勇者達を眺めつつもマキナに問う。
上界の者達がほぼ洗脳状態だった事もあり、余計にそう思うのだろう。
「勇者って割合自由なのね?」
マキナは新しいリンゴを囓りながらも、ユウカの疑問に答える。
「結果を出した者は比較的自由だよ? そうだなぁ〜、随分前の南極戦でバカやった石頭だけが例外で・・・モグモグ・・・奴に名指しされた四名が一緒に島流しされたくらいだし。確か・・・モグモグ・・・そこには監視者のパーティーも居た筈だよ? 今は一名を除いて全員が・・・モグモグ・・・同類になってるけど」
そのうえで私達ですら知らない事実をあっけらかんと明かした。その事実を聞いた四人は唖然となる。
「「「「島流し?」」」」
マキナの記憶での四名とはハルミとサーヤ、アコとココの事で三バカとタツトが本来のナギサのパーティーだったようだ。
すると、マキナは四人の言葉に首肯を示し自身が得た情報を明かした。
「うん。戻ってくるなっていう意味で死亡前提の島流し・・・モグモグ・・・これを知ってるのは命令を下した王太子と魔導士長の記憶を読んだ私だけだけどね?・・・モグモグ・・・ただ、クラスメイト達は知らずに賛同して、死んだ事を知って後悔してたわ〜。私はその時その場に居なかったけどね?・・・モグモグ・・・一人でルードリア帝国の兵士達を滅してたから」
その言葉を聞いてレリィ以外の三人は絶句した。レリィは一人呆けつつもマキナに問い掛ける。
「え? ひ、一人で?」
マキナはレリィの問い掛けに対し、リンゴを一気に咀嚼してから答えた。
「モグモグモグモグ、ゴクン! うん、魔法戦じゃなくて従来の方法でね〜。借り物の魔力って扱い辛くてさ? 魔力操作してても重ったるい感じだったんだよ。身体に馴染んでないっていうか・・・別物って感じで。だから、一時的に身体の主導権を〈贄魂〉から私に移行させて周囲に味方が誰も居なかったからサッサと召し上がったってワケ。〈隷殺〉と〈触飲〉併用で頂いたけど、めっちゃ濃かったわ〜。経験値も頂けたから250しか無かったレベルも288に一気に上がったんだよね〜。その分隷属系魔法も喰らったけど〈隷殺〉スキルがカンストしてたから総じてお返しして自滅させて頂いたら凄い旨かったの! これを味わったらもうね・・・」
答えたのだが、捲し立てるように感情を込めてツラツラと嬉しそうに喋るマキナ。その光景に圧倒されたレリィは隣を歩く、圧倒されたショウに問う。
「なんだろう? ものすごい既視感」
「カノン様の娘って判るかも」
ショウの背後で歩くユウカがあんぐりしながらも答え、隣を歩くナディも首肯を示した。
「捲し立てるところが似てるね」
「最強の一角だって事は判ったかも」
最後は先頭を歩くマキナが振り返りつつ四人をみつめる。頭を斜めに向けながら。
「って、聞いてる?」
四人は可愛らしいマキナを眺めながらニコニコと微笑むだけに留めた。
「「「「うんうん」」」」
見た目だけなら一番可愛い女の子だから。
年齢的にはリンスよりも年上なのだが。
というかユウカの言う私に似てるってどういう意味?
§
それからしばらくして、ミキとコノリもレリィ達と合流し二人でマキナに抱き着いた。
元よりマスコット的な雰囲気を持つ子のため、マキナも渋々抱かれたままだったが。
すると、ユウカが心配しつつコノリに問い掛ける。
「ところで、ここではちゃんと買えたの?」
「問題なく! 前の島が異常だっただけみたい・・・多分、派閥が異なるんじゃないかな?」
「派閥?」
「うん。店主に聞いたら、ここの領主は中立派だってさ。だから車バカの命令には余り応じてないみたい」
「なるほどね〜」
コノリの言葉を聞いたユウカは安心したようだ。しかし、この言葉を聞いたマキナは一人腑に落ちない表情を浮かべる。
「中立派? それを店主が言ったの?」
問われたコノリはきょとんとした顔で答えた。
「う、うん。そう言ってたよ?」
「そう・・・」
マキナは返された言葉に思案気になると、ミキが心配気に問い掛ける。
「マキナどうしたの?」
マキナは問い掛けに対し、知っている事を話せる範囲で明かした。実際には明かせる範囲で許可を出しただけだが。
知らずに戦うのは危険だから。
「実はこの国ってね? 外面的な派閥は確かにあるんだけど・・・実質、王太子が権限を握ってて恐怖政治の様相があるの。だから実質、推進派とか中立派とか反対派という遊び勢力は基本無視されてて、王太子権限で発せられた命令によって勇者特権を最優先して動かしてるの。ようは最後に潰して燃料とする代わりに特権を与えて石頭のように自滅させる方向で・・・だから鉄鉱石関連でいうなら必要数が集まったという事かもしれないね? 成功すれば万々歳だけど失敗すれば屑鉄の山だからクラス委員長もそうだけど・・・さっきのバカップルも同様に島流しが確定するんじゃない?」
その事実を知った一同はポカーンと呆ける。そして、いち早く回復したミキがマキナに再度問い掛ける。
「え? 特権ってそういう意図で与えてるの? 戦いを終わらせるためじゃなく?」
「戦いを終わらせるというよりは私みたいに単身で戦地に飛ばされて死んでこいって扱いみたいな物だね? ま、元々不死者だったからそんな命令、完全無視で丸々ごちそうさましたけどさ。でも大半は戦中で消費される空間魔力を回収する意図が殆どだから丸々生贄そのものだね〜。それに流刑島の兵力も先兵とするらしいから」
ここでようやく回復したナディが、思い出したかのようにユウカに話し掛ける。
「流刑島が先兵? それなら、カノン様が〈魔力触飲〉を使わなかった理由って」
「多分、シロ達の放出魔力を誤魔化すつもりだったんじゃない? 本当の事を相手に気づかせない方が・・・絶望も色濃く出るから。北極近くの流刑島の兵力も今じゃどちらもスッカラカンだし」
一同はユウカの言葉に対し「確かに」と頷いていた。すると二人の会話を聞いたマキナは寝耳に水かと言うような表情で頷く一同に問い掛ける。
「へ? それって、どういう事?」
問い掛けに応じたのはレリィだった。
「ん? この島に来るまでの間にネイレ島の先兵は捕縛と同時にシオンさんとユーコ、ユーマが魔力・経験値・レベル没収を行って、ライレ島は領主から兵士までの魂諸共頂いて、領主と兵士の全遺体を魔力還元で消し去ったから。途中のラアレ島も領主と兵力を削ってるし・・・小国連合付近に居た海賊共も消したしね?」
「え? そ、それじゃあ、王太子の作戦が完全に詰みじゃん! 海賊と北極寄りの主要先兵が今は居ないって。でも、待って? 放出魔力を誤魔化すって?」
「ああ。詳しくは知らないんだっけ? カノンが言うには借り物の魔力って女神様に全回収されるそうだよ? この世界の魔力とは別物だから。そもそも各種魔石との波長が合わないんだって。魔法として撃ち出す時は女神様を通じて変換後に事象改変を起こすらしいよ? 勇者に限らず読み上げる呪文の各種精霊って女神様の事らしいから。まぁ勇者以外は事象改変のみを行うらしいけどね〜」
マキナはレリィからの事情説明に絶句した。
この手の話は精霊云々を教えた後に私が補足したものだ。マキナは王太子の知らぬ間に戦力が削がれている現実を知り、アチャーとでも言うような素振りで乾いた笑いを浮かべた。
「あはははは。じゃあ、王太子の策そのものが既に詰んでるじゃん!」
「そうなの? まぁ勇者達も平定後は多すぎる魔力は回収されるそうだから、今の内に魔力操作を覚える必要があるとも言ってたね〜。レベル12程度じゃ精々十二万MPしか持ってないようなものだけど」
「魔力量に溺れるバカ達乙。自前があってよかった」
マキナも最後はレベルの概念に気づいていたかのような話であった。まぁ経験値やらレベルやらを話していたし〈贄魂〉の〈鑑定〉スキルで把握していたのだろう。
ともあれ、新旧・眷属同士の情報の擦り合わせはひとまず終わり、私を除くダンジョン攻略班と合流する買い出し班であった。
「ホントだ! マジで銀髪ロリバ、めきょ」
「それは言うなって、以前言ったよね!?」
オチとしてケンがマキナに喧嘩を売り、即座に顔の真ん中に拳を放りこまれ、風穴があいたのは言うまでもない。それは同類でなければ即死していた攻撃だった。
マキナも不死者相手だから顔面を殴ったのだろうが。最後はタツトのツッコミが周囲に笑いを齎した。
「ケン、お前やっぱアホだろ?」
「あははははは」×9




