第92話 吸血姫は勇者の恥を晒す。
ムアレ島に空間跳躍した私達ダンジョン攻略班は〈希薄〉したまま街を歩く。街中はこれといって珍しい雰囲気はなく、異世界のテレビで見る海外の島の様相を醸し出していたくらいで、ニーナを始め・・・実家がお金持ちの面々はどこであるか真っ先に言い当てていた。
「雰囲気的に・・・島だよね、ハルミ?」
「改めて見ると観光地って感じだね〜」
「免税店とか普通にありそうだな」
「タツトの言う通り、免税店だよね?」
「マジかぁ〜丸っきりあちらと変わらないじゃないか・・・ハルミよく見つけたな?」
「目だけはいいですから〜」
「あれ? 前に来たんじゃないの?」
「いや、前は観光地というより真っ先に」
「領主館に直行だったし、馬車からも外を見せて貰えなかったから」
「そうそう、サーヤの言う通り買い物も許されてなかったんだよね〜」
「水着のお姉ちゃんを見る事も許されて無かったなぁ〜、いやぁ眼福眼福」
「「「ケン達は平常運行だったもん(な)ね」」」
「どういう事?」
「ナギサさんの注意を振り切って石頭と海岸に出ようとしてさ?」
「毎回、領主館の缶詰結界に激突して気絶するまでがセットだったのよ〜」
というように当時を思い出しながらムアレ島支部へと訪れた。それはポーションの納品とダンジョン攻略の依頼票も受領するためね?
依頼票を受領せずダンジョン攻略は出来ないもの。ギルド発行の許可証が貰えないから。
「すみません。ポーションの納品です」
「ありがとうございます〜、少々お待ちください」
まぁここまではいつも通り。
ポーションの納品時、私の〈金タグ〉と〈納品許可証〉を見せることでスムーズに買い取られるため、時間拘束という面で余計な時間を取られず、比較的楽である。
その間の私達は探索依頼票を探し出し、どこに潜るか選択していた。
すると、入口を見ていたハルミとサーヤ、タツトとケンが〈希薄〉を行使し静かになった。
私とニーナは受付嬢待ちのため〈隠形〉を低めに設定してから行使し、四人の視線の先を見つめた。
「ん? あれは・・・」
「彌島巡と、梧桐調じゃない?」
「あ〜、残念バカップルか」
入口には元一組の残念バカップルと呼ばれる者達が居た。男の方・・・彌島巡はイケメンで頭脳明晰な割に彼女に弱くデレッデレとなり、女の方・・・梧桐調はどこにでも居る普通の容姿な割に尻が軽く大きな胸を常に強調し・・・どんな男であれ股を開く者だった。
普段は互いにイチャイチャしているが彌島巡だけは朴念仁かと思うほどの鈍感さで梧桐調は計算して演じているに過ぎない女子達の嫌われ者だ。
イジメは無かったけど常時嫌悪の視線を向けられる者の代表ね? 男は車舎が代表だとすると、女はコイツである。
「そら四人が会いたくないのは判るわ〜」
「私達でさえ〈隠形〉するものね〜」
そうこうしている内に受付嬢が戻ってきた。
私は〈隠形〉を解いて受領証にサインし、代金を受け取った。
私が革袋の中身を把握している最中──
「おい、そこの者! その革袋の中身、俺達に頂けないか?」
残念バカップルが声を掛けてきた。
「は?」
「なにを呆けているんだ?」
「そうよそうよ! 私達は勇者よ? 貢ぐ事が当然じゃない!」
なにを血迷ったのか、ポーション代金を寄越せという。私はその一言に呆れを通り越し〈希薄〉している面々や受付嬢達に意識を割いた。
(そういう事? 普段からこういう事がまかり通っているのは確かって事か。受付嬢達も奥に引っ込んだし)
ニーナも途中より〈隠形〉から〈希薄〉に切り替え、バカップルの背後から様子を眺める。
「どうした? 渡せと言ってるだろ?」
「そうそう! 渡しなさいよ!」
私は余りにもバカっぽい発言に嘲笑しつつ貶した。
「勇者っていうか強盗ね? 丸っきり」
直後、貶された事だけは判ったのだろう。この時の私は小国連合の言葉で喋っていたので自動翻訳様々である。彌島巡は怒りも露わに物騒な言葉を吐いた。
「お? 勇者を侮辱したな! お前はこの場で死刑だ!」
私は「なにを言ってるんだ?」という意味で呆け、支部の受付嬢へと問うと無言の頷きをもって返された。
「はぁ? これ、返り討ちしてもいいんだっけ? ああ、いいのね・・・」
支部内での騒ぎは支部は関与せず、探索者同士で解決せよという。仮にそれが勇者であろうとも、例外はなく。領主といえどギルド規約は遵守しないとダメなのだ。どうも資金源がギルド発だから護らねば口座凍結もあるらしい。
例え国家が相手でも例外はないとの事だ。
「ほぉ? 返り討ちだと? 大ぼらを吹いたな?」
「私達に勝てると思ってるの?」
「勇者が蛮勇って意味・・・ニーナが言った通りね? ああ、バカはバカって事か」
「なに、独り言を喋っている!?」
「ん? 脅威でもなんでもないからだけど? 殺気というなら、これくらいは・・・あてがわないと・・・あら、泡吹いて倒れたわ〜」
結果、ドラゴン相手の殺気を飛ばした事で勇者達は総じて気絶し粗相した。私は目前で水たまりを作る者達から離れ〈希薄〉を解いたハルミ達に問う。
「汚らしいわね? ホントに勇者なの? ハルミ・・・」
ニーナは私が殺気を飛ばす前に立ち位置を変え隣に現れていた・・・巻き込み回避で。
「私達に仰有いましても、反応のしようがありません」
「それもそっか。とりあえず・・・」
私は元勇者達に問い掛けたが、苦笑と共に返された。今のまま支部を異臭で覆うのも周囲に迷惑がかかるため、勇者達の装備を魔力還元で全裸に剥き、還元した魔力を用いて清浄魔法を行使した。
これも〈魔力操作〉をカンストした結果ね?
外部魔力であれスムーズに扱えるので、ある意味で助かっている。
「清浄魔法で浄めてオムツを穿かせておきましょうか。ニーナ達も手伝って」
「は〜い。タツト達はそっちのバカをお願い。可愛いモノがポロンしてるから」
私達は受付嬢や探索者達が見ている中で、全裸のまま横たわる残念勇者達を大変可愛らしい格好に変えていく。
「おう! ケンさっさと片付けるぞ!」
「羞恥プレイ乙・・・この際、おしゃぶりでも咥えさせるか?」
「ナイス! 両手にガラガラも装備しといてやろう! 剥がせないように接着して!」
「ねぇハルミ? この子、ブラ要る? というか普段から盛ってたかぁ」
「要らないでしょ? いつもは偽乳だったって事ね」
「サーヤの言う通り必要がないくらいぺったんこね? ブラは盛るためのものかしら?」
「普段はシリコンにファンデーションでも塗ってたのでしょう? この世界なら鎧や装備で見えないから、着けてなかったのかもしれないけどね? それなら下着を着ける必要はないわね・・・オムツもカボチャパンツと見た目が変わりないから再度粗相しても困る事はないでしょう。汚物も常時魔力還元するし」
私はタツトとニーナにオムツを手渡し、勇者達に穿かせた。格好は両者とも半裸になったが目覚めれば羞恥に塗れながら着替えるだろう。両手のガラガラは外せないが。
すると、出来上がりに満足したニーナが笑顔のまま〈スマホ〉片手に私へ問う。
「オムツを穿いた赤ちゃん勇者の誕生だぁ! これ、撮っていい?」
「別に良いでしょう。ハルミとサーヤも記録したらいいわよ」
「「はい!」」
残念バカップル勇者は、その場で赤ちゃん勇者として撮影されていった。タツト達もその様子を楽しそうに撮影していた。
すると周囲の探索者がポカーンとする中・・・一人の受付嬢が私に声を掛ける。
その様子は少々切羽詰まった様子だった。
「あ、あの! あれは?」
「粗相対策下着ですね。老若男女共用の。漏れ出た汚物だけを綺麗さっぱり魔力に戻す」
「!! よ、予備があるなら売ってくださいませんか?」
「お、落ち着いて。どういう事?」
「いえ、こちらの方々が島にお見えになってからなのですが・・・」
受付嬢は赤ちゃん勇者を嫌悪のまま眺めて語り出す。背後には支部長も居たので、余程困っている事だったのだろう。
どうもこの残念バカップルは勇者召喚が公表された日から数日たった頃より、この島の貴族街に住み着き贅沢の限り生活していたという。
その際に島で使う布オムツに使う素材、絹や綿・麻などの布生地を勇者権限で奪い集め、今では子育てで布オムツが使えず困っている親が多いそうだ。それは平民に限らず貴族も困っており、対策のとりようがないらしい。
相手は勇者だから手を出せば返り討ち・・・或いは領主が出張ってくる。この島の貴族も伯爵家である領主の寄子であり、勇者の行いを黙認せよと命じられているらしい。
(なるほど・・・ハルミ達が領主館に缶詰されたのも、コイツらが居たから・・・)
私は事情を知って察した。
ハルミ達も撮影を終えており、私が聞いていた事情で察したようだ。私はそれならばというように亜空間庫内でフリーサイズの〈還元布オムツ〉を用意した。
これは赤ちゃん勇者に着けている物と同じ、汚物のみに反応する還元陣が付与された物だ。
当然、身体には害がなく汗も還元させるのでカブレも起こらない優れ物である。サイズも自動伸縮するので赤子から大人まで使える代物であり、洗濯も可能だ。
これを最初に作ったのは・・・監視台でユウカがショウに困らせられた時の話ね? 以降はユウカだけでなく総受けのユーコやナディも時々穿いていたりする。
私は現物を木箱に収めてその場に出した。
「でしたら、一箱・・・一千枚ありますから、無償でお譲りしますよ」
「!? よ、よろしいのですか?」
「試供品といえばよろしいでしょうか? 使い勝手がよければ・・・今後ともという事で?」
「なるほど。では、それで仮契約しましょう。反響次第で本契約と致しましょうか?」
「それは・・・どの支部でも可能でしょうか? 私達は旅をしてますので」
「ええ。構いません。契約関係も管理自体は本部が行ってますから」
「では、契約致しましょう」
「「ありがとうございます」」
という事で赤ちゃん勇者の誕生と同時に探索者ギルドとのポーション以外の売買契約が成された。これは結果オーライとも言うが。
私は感謝を赤ちゃん勇者に示し、彼等のオムツを空間固定で脱げない物へと変えてあげた。
ちなみに受付嬢は最近子供を産んだらしく、そのオムツでさえ奪わて困っていたらしい。支部長は彼女のご主人であり共に感謝していた。
「コイツらは邪魔だから外に放置ね。あとは、ダンジョンに潜って貨幣回収いくわよ!」
「はい!」×5
私達は支部長と受付嬢に見送られながら、支部から離れた公園のベンチに上半身半裸の赤ちゃん勇者を放置してダンジョンへと向かった。
今回はダンジョン閉鎖をさせるつもりはないため、主に貨幣回収を選択した私である。




