第90話 個人趣味に唸る吸血姫。
ということで! なにが・・・ということで!
なんだかと思うなかれ。急遽というほどでもないがルー達の〈魔卵〉のお陰で私とシオンにも魔力補填が出来たので改めて再誕工房へと訪れた私達。
今は深夜なのだけど仕事中毒のナギサはともかくシオンは眠そうだった。
「なら、先に女子達の確認からいくわね? ナギサが声掛けして」
「はい。承知致しました」
そして事前準備が始まった。
女子達は定番のこんがらがりをみせていた。
それはそうだろう・・・目前に美しい銀髪美女が居るのだ。私じゃないわよ? 私は無意識のスキル行使を止められるから。彼女達が見惚れている妖艶さを持つのはナギサの方ね?
これは人族から見るとそういう風に見えてしまうらしい。この反応はナギサ個人も苦笑する事案であり〈誘引〉スキルだと判る事案だ。
無意識のスキル行使はスキルレベル的な問題ね? 私も異世界では無意識だったけど、こちらでは問題なく止められるから。
それは置いといて。
「問題ないですね・・・まぁ」
「そうね。ニーナ達とある意味で同類だったわね・・・ここにもラノベ好きが居たかぁ」
私とナギサは苦笑した。
分類上は背後に控える・・・百合なフーコ達の真反対の薔薇な腐女子にあたるそうだが、その違いは私からすれば些事たるもので気にしないとした。
そんな様子が見たければ三バカ男子という餌がある事も示したうえで・・・だが。
ちなみにルーとコウ、レリィとニーナはノーマルだという。スキンシップ的なキャッキャウフフは行うが、別に女子が好きというわけではないそうだ。
なお、私が把握している趣向は以下だ。
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私:ドS、百合 / シオン:ドM
リンス:百合、錬金 / リリナ:百合
リリカ:遊泳、食事 / ナギサ:仕事
ユーコ:百合、創作 / フーコ:百合
ユウカ:ドS、百合 / ナディ:ドM
ショウ:百合、読書 / ニーナ:衣装
レリィ:衣装、料理 / ルー:衣装
コウ:創作、読書 / コノリ:鍛冶
ミキ:ドM、薔薇 / ユーマ:百合
ハルミ:百合 / サーヤ:百合
アコ:ドM / ココ:ドS
タツト:ドS / 3バカ:正常
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なお、自我が芽生えた復元組の五名と自我ナシ勢のアンディ以下は除外である。復元組の五名は元の五名と重複しているという理由ね。
その後の女子達には一旦眠ってもらい、永久放置の男子を目覚めさせる事にした。
あれね? コウの兄という事で次なる声掛けはコウにお願いした私である。
「じゃあ、兄を目覚めさせるから、コウ?」
「判りました」
という事で、お久しぶりの兄妹間の会話が始まった。私は外野で見守り、隣ではナギサが苦笑していた。それは背後・・・軽度の〈希薄〉で陣取る者達の驚きがあったからだろう。
「コウがハキハキ喋るの、すごい違和感・・・しかもツンデレ?」
「まぁフーコの言う事も判るけど、私の前でも滅多に見ないからね?」
「ルーの前でもかぁ。余程の事なんだね〜」
「でもあれはデレはないわね? 塩気が強い気がする」
「ユーコの言う通り、素のコウは塩しかないよ? 剛さんが極度のシスコンだから嫌悪だけだって。だってさぁ? 妹のために出席日数削って同学年になるほどだもん?」
「だから二回もダブったんだ・・・」
「地頭はいいの・・・シスコンの時だけバカになるから」
その会話を聞いていたナギサも理由を知ってるためか、何度も頷いていた。つまりはそれが本当の事なのだろう。そして・・・兄妹の会話は終わりを迎えていた。
「という事なの。判った?」
『そ、そうか・・・だからカオリがそんな姿に』
「そんな姿ってね? 私、この姿が気に入ってるんだけど?」
『い、いや、すまん。それで俺もか』
「イヤなら死ねば? その方が助かるから」
『そ、そんな事はないぞ? ホントだぞ。ただ、その黙り姫は信用に足るのか?』
「そう、そんなに死にたいの? なら私が引導を渡してあげてもいいよ? 私が信頼する方を侮辱するのだもの。今から美味しく召し上がってあげるから」
『イ、イヤイヤ、待ってくれ!! 人間不信だったお前が信頼しているのは判ったから!!』
「そもそも人間じゃないからね? カノンさんは」
『へ?』
「吸血鬼って言えば聞こえはいいでしょう? 真祖ともいうけど」
『そ、それって創作上の話じゃ』
「ホンモノよ? そうじゃないなら、この不可思議な空間はなんなのかしら?」
『そうか、現実なのか・・・そうだな、身体が無い状態で会話が成立しているから』
終わりを迎えたはずなのに会話が延びた件。
流石にこれ以上は時間がもったいないので、私はナギサに目配せして動いてもらう。
ちなみにシオンは終始黙りで見守って・・・寝てるわね、暇過ぎて。
「白鳥君。久しぶりですね? 元気・・・というのはオカシイですが」
『凪先生? そ、そのお姿は?』
「先生と呼ばれるのは少々懐かしいですが。まぁ姿に関してはTSしちゃいました。とだけ」
『え? 男性だったはず・・・』
「これが現実です。他にも君の弟弟子・・・ユーマ君も変わりましたよ?」
『ユーマが? 女に?』
「ええ。まぁ余計な問答はこれくらいで。時間も有限ですから・・・率直に申し上げます。死にたいですか? 転生して第二の人生を歩みたいですか? もっとも、妹さんとは完全な他人同士となりますけどね。種族が同じというだけで」
『・・・い、生きたいです。他人同士といえどカオリは俺が護りますから』
「護らなくていいから! レベルでいえば私の方が強くて速いからね?」
『そうであっても女の子には変わらないだろう!!』
「はぁ〜。そんなこと言うと仲間達に伸されても知らないわよ? 特にカノンさんに手出ししたらダメだからね? タツヤ・・・君ですら手出ししないんだから」
『な! タツヤが!? そ、それほど』
「強いよ? この世界最強という話だから。お兄ちゃんなんて瞬殺されるから!」
「まぁまぁ兄妹喧嘩はのちほどにでも。そうしないと、こめかみグリグリ刑がきますよ?」
「あっ・・・すみませんでした」
『カオリが、しおらしい・・・それほどか』
「おい、コラ! それはどういう意味だ!!」
という・・・喧嘩の延長戦をナギサが執り成し、後回しとした。
「なに気に一癖も二癖もありそうだわ・・・大丈夫かしら?」
「私が躾ます!」
「なんかキャラが変わり過ぎじゃない?」
「あ、そうでしたね〜。えへへ〜」
「変わり身も早いわね・・・」
ということで、私は寝ているシオンを殴り起こし、再誕の儀を執り行った。
一人目は新山杏、新名は〈キョウ・マニー〉。この子は無事有翼族の雌として再誕した。
再誕時は人間の姿ではなかったため、一瞬はアタフタしたが、ルーとコウが〈変化〉を解いて問題ない事を示し、安堵したようだ。
二人目は副島遼子、新名は〈リョウ・ソジマ〉。
この子は無事にTSした。いや、驚いた!
女の子と思ったら有翼族の雄として再誕したのだから。
なお、肝心の理由を問えば。
「え? 男性になって色々試したかったので」
腐女子ゆえに興味が先立ったらしい。
声もハスキーボイスのため、女性とも男性とも聞こえる声音だった。
すると、コウがなにを思ったのか嫌悪感のある顔のまま──、
「お兄ちゃんが再誕したら好きにいじっていいから」
リョウに兄を差し出した。
ルーはそんな相方に驚きを示していたが。
「コウぱねぇ・・・」
「教育のためだから。元女のリョウに負けるようでは船では勝てないよ?」
「それもそっか・・・総勢、三十二名の女子を相手に勝てるワケもないか」
「お兄ちゃん・・・というと剛さん?」
「うん。このあと同族として再誕するから、好きにいじっちゃっていいから」
「あの、残念イケメンが・・・楽しみです!」
とりあえず、妹から許可を得たという事でリョウは涎を垂らしながら喜んだ。
ひとまず、リョウと兄を同室にして、汚さないよう注意だけした私である。
事後は各自の判断だものね?
フーコ達の自室のように汚部屋とならない限り、私は注意しない。
そうして、待ちに待った・・・待ってるのは下着を着て待機しているリョウだけだが。
コウの兄である白鳥剛、新名:〈ゴウ・ブラン〉が再誕した。
名前はコウと若干被る・・・イヤイヤしたコウの意思を無視して兄が名付けたため定着した。
他人同士だが関係者という理由を持ちたかったらしい。ある意味で結婚した事と同じだけどね? 有翼族は多夫多妻制で平然と乱交配するが。
「では再誕した者達には事前教育が必要だから、机の上に置いた下着と服を着て、講義場に移動しなさい。場所はルー、コウ、案内して」
「「はい!」」
ともあれ、元々予定の無かった再誕だったが、この先なにが起こるか判らないための人員確保は完了した。
ゴウは私のなにかに気づいたのか、戦々恐々な様子で、嫌がるコウの背後に隠れていた。
これも〈剣術〉スキルの恩恵なのだろう。
〈猛者の気配〉というオプションスキルで〈殺した相手の数などの詳細が視界内に浮かぶ〉との事で命の危機、戦略的撤退を選択する時のみで現れるという。
これは同種スキルをカンストさせたユーマの言葉ね。私も大太刀をスキル無しで使うから、ユーマ曰く「カノンさんを見ると、常時人族とドラゴンを滅した数が出てます」という事だ。
ユーマも普段は視界の端に警告を移動させて無視しているのだとか。強い事は判っているからという理由で。それと共にリンスの教育後に配置転換も行った。
ルーとコウを朝夜の班長として分け、再誕した三名とルイをあわせて哨戒任務だけを行う者とし、ルーとコウの後釜にハルミとサーヤを移動させてきた。
そしてハルミとサーヤの後釜はシロだけを移動させ、ルイの代わりにアンディを配置した。
アンディは元々船橋内のお茶汲み係で人数にカウントして無かったが、今回の配置転換からは人数にカウントした私である。




