第9話 吸血姫は空間移動する。
私が真祖という事実は置いといて!
「ところで、何でこんなところに居るの?」
疑問に思った私は彼女へと問いかけた。
それは〈常夜〉の住人が人族に捕縛されたこと自体が異常だったからだ。本来ならば軽く圧勝出来るレベルの差があるからだ。
この子もレベル80というそれなりの力量が存在していたしね?
すると彼女は居住まいを正し自己紹介を始めた。
「あ、そうですね。私、リンス・ティシアと申します。実は……」
唐突に自身の身の上話までも、おっ始めた。
私に教える必要はないのだけど眷属化した弊害で主人の命令に従うことを無意識に行ったようだ。
「ということは普段は擬態して冒険者として旅をしていたと?」
「ですが……この大陸へと訪れた途端、差別が酷くて街に入れなかったのです。外ですとそこまで酷くはないのですが。ですので近隣の魔物から血を吸っていたところで盗賊に出くわしまして弱っていたところで捕縛されたのです」
それは本当のことなのだろう。
そもそも主人には嘘がつけないのだ。
だからありのままに打ち明けたようだ。
「擬態化ね。それって日中も歩けるという物なの?」
「あくまで人族のフリをするので体表面上に〈光耐性〉の結界を張るだけですね。ただ、銀に対しては効かないので入市税を用意することが困難になり街の外を出歩く行商人からあれこれと買い物をして食いつないでいました。ギルドカードも銀ですから極力取り出す時は手袋をしていましたし」
私は彼女……リンスの言葉に耳を傾けながら思案した。
(行商人が居たのね。それなら買い物も可能かもしれない。それよりも〈光耐性〉で擬態化ね。そうであるなら今後は不要でしょうね。現時点で彼女も超越者となったようだし)
〈魔導書〉では拾えない身近な情報が得られたとして安堵した。
私は彼女を安心させる言葉を掛け、盗賊から回収した銀貨を手渡した。
「それなら今後は問題無いわね。この銀貨を使えば入市が出来るでしょ?」
リンスは嬉しそうに銀貨を受け取るも銀貨の表面を撫でながら首を傾げた。
「はい! でも不思議ですよね。どうして?」
「私自身が真祖というのは教えたわね? 貴女は私の眷属となった。私はね、日照耐性と銀耐性を持つの。それ以外にも吸血行為が不要という色々な特性があって…」
私は自身の特性を得たからと苦笑しつつ説明したのだけどリンスにとって聞き逃すことの出来ない単語があったのか他の特性を打ち明ける前に言葉をかぶせてきた。
「えぇ!? 血を吸わなくてもいいって!?」
やはりというか当初の想定通りの反応が出た。
私はリンスの驚きを流しながら──
「そこに驚くの? まぁそうね。例えば……このコウモリね」
洞穴の中でこちらを見ていたコウモリの周囲を結界で覆いながら捕まえ、手近な場所へと運んできた。このコウモリもなんらかの使い魔のようだが、この際関係無いだろう。
「何もしていないのにコウモリを捕まえたのですか?」
「空間魔法の応用で生け捕りにしたのよ。素手で触ると吸っちゃうから」
先ずは主な使い方とスキルの説明を行った。
「手っ取り早く扱い方を……教えずとも勝手に覚えると思うけど指先で突いてみて」
「は、はい! あ、凄い! 少し淀みがありますけど魔力と生命力が身体に浸透しました」
「そうね。魔力を捕食するのは〈魔力触飲〉というスキルね。生命力と記憶を捕食するのが〈触飲〉というスキルになるの。今は私の血を飲んだ直後で本来の魔力そのものが完全復活してるわけではないからコウモリの生命力を元に魔力が復活したのが判るわね? それと共に自身の魔力とは別の魔力が体内にあることを感じているでしょう? 波長を少しずつ変化させてみて」
これは生きていくために必要なことであり眷属化したという負い目から最低限は助けるという人情によるものね。
リンスは私の説明を聞き逃すまいとワクワクとした素振りではあるが、言われた通りに外部魔力を感じたようだ。
「はい! あっ! 私の魔力に変化しました!」
「これも元々持っている属性に変化するから、光であろうが自身の持つ属性へと変わるそうよ」
「凄いです! 普通は相反する属性なのに!」
この時の私はリンスの喜びの表情に釣られて微笑んでしまうが気持ちを切り替え続きを話す。それこそこれで終わりという話ではない。
「それで……記憶も判るわね」
すると予想外の言葉が飛び出した。
「そうですね……領主の使い魔でした。盗賊と領主はグルだったようです」
私自身にはこの子を捕縛した後に買い取らせる者へ渡りをつける予定だったことや使い魔が戻り次第、その動きが読めた。この気づきは眷属と主人の記憶共有がなされたため理解できたのだ。
言葉で説明せずとも彼女が認識した瞬間、一方通行で流れてくるのだから。
「なるほどね? それで、あやうく奴隷化される直前だったということね」
「良かったぁ。主様ありがとうございます!」
リンスは喜んだ。
ボロボロな状態だが私に抱きつき安堵した。
ただね? 私を主様と呼んだので少し背中がかゆくなったの。
だから忘れてたことを改めて伝える私だった。
「私の名前を教えてなかったわ。主様と呼ばれるのは少しむずがゆいから、カナデ・タツミ、それが私の名前よ。普通にカナデって呼んでくれたらいいから」
「では、カナデ様ですね!」
「様は要らないわ、呼び捨てでいいから」
「はい! カナデさん!」
「まぁいいか。敬称略は出来ないみたいだし」
これは眷属だからだろう。
敬称略で呼ぶのは憚る気持ちが先立つのか、どうしても敬称を付けてしまうようだ。今は助かった自身の身体を抱きしめながらボロボロの衣服を再構築していた。彼女の職業は魔導士だが衣服の再構築は朝飯前のようね。
銀の首輪もその場で魔力還元して血塗れの下着も新しく作り直していた。
§
急遽同行者が出来てしまった私だが一人旅よりは楽しめそうと思ったので洞穴の入り口でリンスに問いかけた。
「それで、これから先はどうするの?」
私は後々に活きてくる段取りを行っていた。
リンスは私の隣にしゃがみ込み、楽しそうに私の様子を眺めつつも答えた。
「どう、とは?」
「いえ、目的があるのよね? 私は旅をしてる最中だけど、貴女も何か」
「目的なら……世界を見て回りたいという理由で冒険者として旅をしてますね」
聞いてみたのだけど目的がほぼ同じだった。
(私は異世界人だけど、この子はこの世界を知る者として旅をしてるから、旅の先輩としては頼りになるかもしれない……?)
そう思いながら彼女のきょとんとした顔をみつめた。
だから一応は聞いてみることにした。
「それなら一緒に旅して貰えるかしら? 私自身、こちらに来て日が浅いから」
「!! 喜んで!」
こうして私とリンスの二人旅が始まった。
同族という点を鑑みてもそうだし同性という点でも安心出来るだろう。これが男の子だったなら、逆に放置してたかもしれないけどね?
護衛になるって聞かない可能性があるけれど。
§
その後はリンスを伴って問題領主の居る街まで跳んだ。
それは空間跳躍を初めて行使したのだけど──、
「カナデさん凄いです! あっという間に街の前なんて!! あの洞穴から歩いて半時の距離ですよ? それが一瞬だなんて!」
「そういうスキルを持ってるのよ。旅はノンビリ気ままにが一番だけど途中に何かあって面倒な時は使ってるのよ」
「そう何ですね! いいなぁ〜」
「今後、一緒に旅するなら時々使うから安心なさいな」
「はい! ありがとうございます!」
初めて行使したとは言わず使い慣れた風を装ったけど何気に純粋なのか普通に受け流され元気いっぱいな素振りで喜ぶリンスだった。
私としては苦笑しながら会話したけどね?
でも実際に面倒な者達が居たのは確かね。
そう、領主本人と私兵がワンサカだった。
おそらく相手が吸血鬼族の女の子だからと寄越した者達なのだろう。
だからその者達をあざ笑うかのように空間を跳び、洞穴の中には面白い物を放置してきた。
(きたわね! う〜ん、甘くて美味しい!)
それは垂れ落ちた私の血液の一部を使って洞穴の入口に結界を張ったのだ。
そこを人族が通り、奥に入ると同時に全員の魂と生命力を吸い上げるというもので領主を始め、私兵のすべてが洞穴で亡くなったことを把握した。
一応、後始末として遺体を盗賊達のように〈彫像化〉するものとしているので残り血も片付いたあとは魔力還元されるのだ。
(後片付けも含めて……完了! さて、商人に会ったらまずは塩を買わないと!)
こうしてリンスが気づかぬうちに領主討伐を完了させた私は隣を歩むリンスに微笑み掛けながら商人達が並ぶ門前へと向かったのだった。




