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第83話 迎撃に転じる吸血姫。


 ひとまず、気絶から目覚めたリリナを相手に改めて詳細説明を終えた私達は正装を着せた彼女を連れて船橋(せんきょう)へと訪れた。

 そして船内放送を通じて船内に散らばるメンバーに自己紹介を行った。


「一同・・・作業の合間でいいから少し聞いてね。これから新たな船員を紹介するわよ〜!」


 リリナは私から手渡されたマイク越しにおどおどと話し掛ける。周囲ではニコニコ顔の船員達が彼女をジッとみつめていたが。


「は、初めまして? リリナ・ルーシスと申します。種族は人魚族で・・・王女でした。よろしく、お願いします?」

「とりあえず疑問形なのは置いといて、この子は・・・そうね、ナギサと共に副長としようかしら。いきなりの大抜擢に・・・疑問に思うかもしれないけど、この子はこの世界の海を知り尽くしているという理由でいけると思うのよね。王女という点も含めてどうかしら? 当然、同じ王女であるリンスの許可はとってるわよ? リンスは飛空船の方の副長だから」


 という、一方的な放送で行った人事発表である。ちなみにそれぞれの反応でいえば船橋(せんきょう)組と監視組は「異議なし」と返し、倉庫組と警備組は「お任せします」と返し、調理場と指揮所の面々は少々混乱していたが、現場に降りて紹介すると百合っ子達が一目惚れして「異議なし」と返した。

 全くもってゲンキンである。

 それと居室の方はリンスが私とシオンの部屋から離れ、彼女と同室となった。

 それは同じ王女という地位から仲良くなりたいという意思が感じられたので許したのだ。

 彼女の場合、王族である事から王族教育は不要であり、今のところ教える事は船内教育と探索者の仕事などである・・・ともあれ。

 私は引き続き警戒していたが、周辺海域に船舶が居ない事を把握したため、ナギサ達に指示を出す。


「さて、追っ手も居ないし・・・戦闘船速解除、微速、戻せ!」

「了解! 戦闘船速解除、微速、戻せ!」

「戦闘船速解除、微速・・・完了!」


 ひとまずの私はリリナに初仕事を与える事にした。一応、報酬の無い仕事ではあるが面々は冒険を楽しみながら生きているので、将来的に不満を持たない事を願いたい私だった。


「リリナ、現在地はどのあたりかしら?」


 するとリリナは手慣れた様子で──、


「海図、失礼します。この地形ですと・・・あと30カル(キロ)で一時的に小国連合の海域に入りますね。ですのでここから進路を一度、東よりに変更すると、300カル(キロ)先で、アイネア合国(ごうこく)・西方国家ランイルの港に到着します」


 海底の地形を一瞬で把握した。これも迷わず泳ぐという人魚族の特性ゆえだった。

 なんでもリリナの国は海洋国家・アオリア洋上国を除く、全海域を収めた海底国家という事で全海域を本当の意味で把握しているようだ。

 私はリリナからの進言を素直に聞き入れ、今度は元勇者のナギサに問い掛ける。


「なるほど。では、ナギサ。上陸後のルートをお願い」


 ナギサは水晶テーブルの海図を大陸図に切り替えルートを選択していく。

 ちなみにこの水晶テーブルは〈操船用スマホ〉と連結されており地図魔法を用いてリアルタイムの地点情報を得る事が出来る。

 そのうえ監視台からのリアルタイム情報をオーバーレイ表示出来るため、敵船が複数居た場合でも即座に戦術を練ることが可能である。

 それと先の〈確定天気〉という未来視の天気図もこれで拡大表示が可能だ。この水晶テーブル自体は普段はあまり使わないけどね?

 作戦指揮とか会議の時だけ利用するから。

 すると、ナギサは大陸図のルートを見てなぜか(うな)る。そして最適解を見つけたのか、そのルートを指示棒で示した。


「ランイルですか・・・となると、陸路で2千キロ・・・途中は未開領域と呼ばれる砂漠地帯が広がり、砂蜘蛛と砂ムカデが出没する以外は問題の無い経路となりますね。そこから500キロ走った先が合都(ごうと)ネイリアですね。その代わり、2千500キロの間に数ヶ国の国家を(また)ぐ必要がありますが」

「本当に大陸のド真ん中にあるのね・・・そのランイルはどちらよりの国家なの?」

「そうですね・・・確か推進派ですね。そして彼だけが住まう国家となります」


 ナギサはなぜか意味深な言葉を呟き、上に視線を向けながら苦笑した。

 私はその視線の先から察してしまう。


「彼? まさか・・・」

「ええ。ユウカさんの嫌う彼です」

「なるほどね。なら、先んじて滅しましょうか。指示も出ているし」

「でしたら、先に・・・」

「ええ。報復は行う予定よ。そうしないとユウカの気が収まらないもの」


 この時点で今後の進路と方針が決まった。

 元より車舎総次(くるまやそうじ)の掃除は確定しているのだ。ユウカも掃除が終わらぬ内は安心してショウに身を委ね・・・られない事もないわね? 今もなお監視台でイチャイチャしているのだから。




  §




 その後の私達はリリナに対し船内教育と人族の常識などを教えていった。それは彼女が人魚族という下半身が魚だった過去をかんがみての事であり主にリンスが教育しているのだ。


「あ、あれはすごいですね・・・驚きました」

「あははは・・・まぁ肉体が人化した以上、出るのはそこからですから」

「今まではヒレの手前でしたから、慣れるのが大変そうです・・・」

「でも、気持ち良かったでしょう?」

「それはまぁ・・・ははははは、はい。気持ち良かったです」


 今はリンスと共にある区画から真っ赤な顔で出てきたが私はなにも言わない。その後もリンスとリリナはお淑やかな素振りで船内を巡る。

 途中、三バカ男子に手を振られ(おび)えるようにリンスの背後に隠れたり、タツトから三バカ男子が殴られると唖然(あぜん)としつつも笑ったり、調理場でクラーケンの足を見た時は呆然としたり、その足で作った料理を試食した時は満面の笑みとなったり、感情表現が豊かな女の子だった。


 ちなみに試食した料理はたこ焼きである。

 なんでもレリィも私同様、たこ焼きを思いついたようで必須食材が見つかった事で試作品を作っていたらしい。

 それと人魚族も普段は魚とか甲殻類を食していたそうで、特に好き嫌いはないらしい。

 ただ、陸上の肉は食べた事がないらしく、その味を知ったリリナは御満悦だったそうな。

 この話を聞いたとき肉は生物共通の食材であると思い知った私であった。

 そうして、一通りの案内を終えたあとは大浴場での裸の付き合いとなった。


「うわぁ〜!? 大きな湖が船の中に!?」

「先に身体を洗ってから入りましょうね〜。泳ぐのは厳禁ですよ?」

「泳いだらダメなの?」

「一応、他の方も入りますからね? それにこれはお湯ですから、長湯すると大変な事になりますので」

「お湯? すごい、温かい!! まるで赤道の海水みたい」

「冷たい海水でも泳げる人魚族には少々熱いかもしれないわね? リンス、左手奥の温い湯船に入れてあげて。温湯好きなルーやコウが入る湯船だけど」

「はい。判りました」


 なお、航行中の風呂の順番は交代制であり、風呂から上がった者から食事に向かう決まりとしている。逆に停泊中は一度に全員が入って食事となる。

 もちろん食事以外は男女別である。


「さっぱりした〜! 冷たい水と違って不思議な爽快感です〜」

「湯冷めするか判らないけど身体の余分な水分は拭き取りましょうね。それと水分補給を・・・って必要ないみたいね」

「人魚族の身体は水濡れ中以外は体表面で水分を補給したり保持しますから。余分な水分も拭かずに綺麗さっぱりです!」

「私達との違いはその点でしょうね? 見て下さい、このプルプルのお肌! お胸も大きい」

「ひゃわ! リンス様、そこは・・・ひうっ!」

「というかリンスも同じ大きさじゃないの? 揉むのはいいけど、ほどほどにね?」

「あ! そうでした! 自分のと他人のとではどうしてこう・・・?」

「不思議な話よね・・・私もシオンの胸を強引に引っ張ったり、ギリギリまで伸ばしたり・・・」

「カノンさん? それは・・・リリナ様が(おび)えてますから」

「おっと、表情に出てたのね。ごめんなさい」


 脱衣所で私がリリナを(おび)えさせたのも束の間・・・夕食へと向かう私達であった。

 しかし──、


『緊急! 緊急! 進路上、全方位より複数の帆船(はんせん)がこちらを中心に向かってきています! その数八、一隻は旗艦・・・いえ、海賊旗が見えました!!』


 これから夕食だというのに自殺志願者達が、イリスティア号を包囲したようだ。私は髪の毛を即座に乾かし、指示を飛ばす準備を行う。


「はぁ〜。仕方がない、この際・・・この海域の大掃除も済ませますか・・・」


 すると、リリナが不安気に問い掛ける。


「大丈夫ですか? 奴らはこの辺りを牛耳るグズイスファミリーですが・・・船に大砲やらなにやらを乗せた・・・」

(おび)えなくていいわ。この船は魔の女神様が直接加護を下さっている船よ。船名も魔の女神様が由来だから壊れる心配はないわ」


 私はリリナとリンスの頭を撫でながら、安心させる一言を告げた。そしてリンスは知っているが、リリナの知らない私の立場を教えた。


「それに・・・代行者に手を出すなら神罰も(いと)わないってね?」

「!?」





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