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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第四章・出会いと再会に驚愕。

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第82話 回避に転じる吸血姫。


 リリナ・ルーシスの魂を封じた私はラアレ島から離れる事を指示した。


「ひとまず出航させるわよ! 今のままこの場に居たんじゃ変な疑いを掛けられるから」

「は! 直ぐに準備します! 出航準備、繰り返す、出航準備!」


 それは現状、領主の奥方直轄部隊が周囲を探索し逃げた人魚族を追っている最中だからだ。

 先ほどまではリリナ自身が船の影に隠れた状態であったため、あちらも手が出せなかったようで船が移動を開始すると船の居た海域を探索し始めた。今までは探索魔法を打とうにも、ステルスが邪魔をして探索出来なかったのだ。

 おそらく、この船に隠れたのも本能で・・・という事にしておこう。なお、この船の正式名称は〈イリスティア号〉とミアンスが命名した。

 その意味は〈ユランスの雫〉となり、この船がユランスの力の顕現だからだそうだ。

 それもあって、女神像も半裸のユランスなのだから理解は容易いだろう・・・ただね? ユランスとイリスがどう結びつくのか私は知らないのだ。ミアンス曰く思い出深い名前だから使ったというが、どういう意図なのか謎である。

 私は船尾から追いかけてくる者に気づき──


「航路の離脱を確認・・・船速を戦闘船速に切り替えて! 急速離脱!」


 イリスティア号の船速を帆船(はんせん)では絶対出せない速度に切り替えるよう命じた。


「は! 戦闘船速、切り替え! 繰り返す、戦闘船速、切り替え! 急速離脱!」


 今までは島に入る航路上に居たため、速度を微速のまま維持していたが、航路から外れ他船の影響が薄れた頃合いで離脱したのだ。

 それでも引き波は必ず発生するので、一般帆船(はんせん)は大いに揺れ、例の部隊の小船も微速では問題ないと思ったのか、近づき過ぎて、あわや転覆という状態に至った。

 それと意図は不明だが、戦闘船速に切り替える直前、隠形した小船が船尾付近に居たようで最大級の引き波をうけて真っ先に沈没した。

 私は船が沈没した事を把握し、そのネタを話題にしながら船内に入る。


「このまま船速は維持でいいわね。しかし・・・へったくそな隠形だったわね?」

「先ほど後ろに居た者達は港湾兵の中でも暗殺を得意とした者達でしたね・・・」

「暗殺ねぇ? 知ってるの?」

「ええ。以前・・・紹介されましたから。領主のパーティーの裏で」

「なるほど。となると・・・航路を離れたら暗殺して奪えって命令があったのでしょうね」

「あり得ますね。教会と事を構えたくないと言いつつも影では・・・というヤツですね」

「人族の欲望は限りないわね」

「全くです」


 そう、相手の意図を汲みながら、なにが目的か話し合った。ナギサも勇者だった頃に会っていたというし相手の顔は忘れようがないのだろう。ちなみに相手が覚えていたとしても縁には結界が作用しているため、相手側が覗き見ようにも誰も居ない甲板だけが見えるだけである。


「では引き続き要警戒で。私は工房に居るからなにかあったら船内放送で連絡して」

「はい。承知致しました」


 こうして、中央区画に移動した私とナギサは一度別れ、ナギサは船橋(せんきょう)へと私は再誕工房へと向かった。それはリリナの再誕のためである。実はこの再誕・・・元異世界人であれば基本放置でも構わないが、この世界の者の場合はあまり長い時間が取れない。

 それは肉体とのつながりを早い内に確立しないと、否が応でも〈転生の(うず)〉が開き魂を連れ去るのだ。

 なぜそれと知っているかというと一度だけ失敗した事があるの。それは以前回収した第八十七流刑島・元第三王女の魂が居なかったのだ。

 私が保全のため封印水晶を覗いたら(から)だった。それをユランスに問うと最長でも六時間以内に新しい肉体とのつながりを確立しないと、どんな場所であれ〈転生の(うず)〉が開くという事実を知ったのである。

 ユランスからも説明忘れとして「てへぺろ」をされたが封印水晶の中でも魂目がけて開く穴なので油断は禁物と思い知った事案であった。

 私は一人・・・再誕工房にて準備を行った。


「さて、シオンは強制発動で拾い上げるからいいとして・・・」


 しかし一人と思ったらシオンの声が背後の扉付近から響いた。


「なにがいいよ!? あれってすごい感じるんだからね!! そのたびに下着を替えないと」


 私は振り返りながらきょとんとシオンをみつめる。来ると思ってなかった者が現れればそうなるのは必定であろう。


「あら? シオン来たの?」


 するとシオンは怒鳴りながら理由を語る。


「来たわよ!! ナギサが呼んでくれたのよ・・・人魚族を助けたって聞いて」

「なるほどね。流石はよく出来た執事・・・いえ、副長だわ」


 私はナギサの手腕に脱帽した。

 私がこの船の船長なら、ナギサが副長だというのは納得のいく話だったのだから。

 先ほどの命令伝達も様になっていたしね?

 私はシオンに対し再誕前の再確認を行う。

 これは私達の間での情報共有ね?


「これから救う人魚族の女の子は、海底国家の王女殿下という話よ」

「海底国家? そんな国があったの!?」


 シオンはナディが釣った事を忘れていたので、私はシオンが気づくまで黙っておいた。

 思い出した時に驚く方が面白そうだしね?


「あるみたいね? 人族国家は割と有名だけど隠れ潜む種族の国家も別にあるみたいなの」

「なるほど。一種の浮遊大陸のようなものなのね・・・」


 確かに浮遊大陸と同じかもしれない。

 シオンの言う例えはしっくりきた。

 私はシオンの例えを聞き海底国家の呼称を考える。将来、向かうかどうか判らないけれど。


「こちらは・・・沈んでいるから沈没大陸と呼べばいいかしら?」

「なんかそれ、イヤな響きね?」

「確かにイヤね? ま、冗談は置いといて始めるわよ! 声掛けは不要。今回は時間との勝負だから!」

「判ったわ!」


 ということで・・・人魚族の少女リリナ・ルーシスの再誕の儀が粛々と執り行われた。順序は今までと同じだが、心臓が出来てからはトランス状態となった魂に指示を出す事で肉体創造を働きかけるのだ。

 そしてあらゆる器官やらが出来上がると、驚いた事に足の骨が発生し、人族の身体付きとして生成されたのである。なお、肝心の部分はエロフもといユウカ同様ツンツルリンだったが、そこは元々(うろこ)(おお)われていた部分のため仕方ないだろう。

 ただ、本体の場所が移動したあと私は気がついた。それは卵生が胎生に変化していたのだ。


「完全な人型となったわね・・・その所為(せい)か、前の身体とは大違いなくらい急成長を遂げてるわ」

「前って・・・あ! 釣り上げた、あの子ね!」

「やっと思い出したわね。まぁ顔を見たら忘れようがないわね。驚くほど美少女だったし」

「胸といいお尻といい育ち過ぎでしょう? それとも本人の願望が叶ったという事?」

「でしょうね・・・さ、起きてるでしょ? 今は裸のままだけど・・・恥ずかしい気持ちは元々ないでしょう?」


 ともあれ、私達は彼女が目覚めるように大きな声で会話した。これは意識の目覚めと思考が私に流れてきたので声を掛けたのだ。

 そう──(ここどこ? この方は確か)──という考えがね? それ以降は本人も私達も驚きの連続であった。


「・・・あ、あー・・・!? 声が、声が出る!?」

「そういえば喉を潰されてたわね・・・それと、今後はエラ呼吸じゃないから注意ね?」

「へ? あ、ヒレが!? 人族と同じになってる!?」

「まぁ最初のウチは歩けないだろうから、車椅子に・・・」


 人魚族の人化だ。普通に考えれば泳ぐ方に特化しているはずなのに平然と歩いて喜んでいるのだから私達の驚きは途轍もない物となった。


「っと思ったら・・・普通に歩けてるわね」

「イメージの力・・・恐るべしね・・・」


 なお、耳の形は人魚族のヒレ型からエルフの長耳に変化していた。これも〈変化(へんげ)〉すれば前と同じ姿にも戻れるので問題はないであろう。

 彼女は大興奮となっているが、私は彼女を落ち着かせるようにゆっくりと威圧した。


「それと・・・聞いてね?」


 リリナは歩き回っていたが、私の威圧をうけた直後、その場に座り込んでしまった。


「は、はひぃ!」


 それとともに若干、怯えてしまった。

 漏らしては・・・ないわね。

 私は威圧を解き、微笑みながら伝える。


「貴女は私達同様に不老不死になったから」

「え? 不老不死? 私が? み、皆さんも人族では無かったのですか?」


 リリナはきょとんと(ほう)け、私とシオンを交互にみつめる。するとシオンが頭を掻きながらリリナに応じた。


「言っとくけど・・・私達は元から不老不死よ」

「へ?」


 私もきょとん顔のリリナをみつめつつ、リリナが釣り上げられた当時を思い出す。


(うろこ)を頂いた時はどうしようかと悩んだわ〜。あの時は皆〈変化(へんげ)〉してたからね。一応、この船にも不老不死の人族が五人居て、残りは亜人と魔族だけだから」

「で、私達は魔族ね?」


 リリナは私達の暴露を受け、ようやく落ち着きを取り戻した。


「そ、そうだったのですか・・・いえ、改めて助かりました。クラーケンは私達人魚族の天敵の一つでしたので」


 今は座り込んだまま頭を下げていたから。

 やはり彼女の中でもなにかしら腑に落ちない事があったのだろう。簡単に釣り上げられる。

 そんな力が一匹(ひとり)人族(猫獣人)にあったから。

 水中ではリリナの方が上だ。そんなリリナをあっさりと水上に引っ張り揚げれば、人族なのか疑うのは仕方ないのかもしれない。

 私達も見た目だけを偽っていただけだから。


「あの、たこ味のイカがねぇ・・・まぁあれも貴女を逃がした後で私が始末したけど」


 するとリリナは天敵が倒されたと知り──


「へ? ど、どうやってですか?」


 興味深げに問い掛けてきた。

 私はありのままにあった事をあっけらかんと語った。


「ん? ナディが釣り上げて私が海中から物理防御結界で押し上げて陸揚げしただけよ?」

「ナディとカノンの力技って感じだったけど」


 シオンは苦笑しているが当時は他の面々も、微妙な表情で私とナディを見ていたわね。

 リリナは驚愕という表情で私をみつめる。


「そ、そ、それほどまでにお強いのですか?」

「私達は例外ね? 魔力量としてもレベルとしても例外中の例外だから」

「でも、他の面々も強くはなってるわよね。貴女も元はレベル15で二百万MPだったけど、今は・・・レベル81で二百四十万MPに上がってるし」


 そう、シオンからステータスの一部を知らされたリリナは、きょとん顔で私に問い掛けた。


「わ、私がですか?」

「ええ。貴女がね?」

「それでもこの船の中じゃ下っ端だけどね・・・亜人の中では」

「え? 私、亜人のままなんですか?」


 リリナはどこか勘違いしていたようだ。

 足が生えたからといって種族は変わらない。

 シオンは首を横に振りながら──、


「いやいや。種族は人魚族のままよ? 人化しただけだから。今の見た目はエルフだけど」


 リリナに事実を突きつけた。

 しかし、あまりの事実にリリナは固まった。


「・・・・・・・・・・・・」


 私達は固まった彼女の前で困惑し──


「フリーズしたわね・・・とりあえず、下着を着せて寝かせましょうか」

「そうね。そうしましょう」


 素っ裸から下着姿へと変えてあげた。

 一通りの後片付けを済ますと脇にあるテーブル席に座り、一杯の紅茶を頂いた。


「目覚めるまではゆっくりしましょうか」

「それがいいでしょうね」


 こればかりは仕方ないであろう。

 人魚族に足が生えた事は初めての事らしいから。リリナも混乱から固まったようだしね?





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