第78話 語りの余裕を得る吸血姫。
例の機雷群を掃海した私は一度船橋に上り船内に音声通達した。
「今日はこの海域で朝まで停泊するから、監視台の者は監視機能を自動感知に切り替えて、休める者から休んだらいいわ。船橋も緊急時以外は施錠するから大浴場に入るもよし、遊技場で寛ぐもよし、鍛錬場で鍛えるもよし、思い思いに時間を作ったらいいから。それと倉庫人員も調理場人員も交代でキチンと休んでね。疲弊は後からやってくるから、いくら不死身といっても辛いわよ? という事で・・・男子諸君! 大浴場への覗き見は〈遅延掘削タマナシ刑〉に処するから心得なさいね〜? 代わりにシオンの裸なら存分に見てもいいから、写真を各人の〈スマホ〉に転送しておくわね! 以上!」
そう、通達したの。ただ、シオンからのツッコミが入ったので私はあっけらかんと返すだけにした。
「ちょ!? それってカノンの裸でもあるでしょう!?」
「そう? 別に見られても恥ずかしくないわよ? そもそも胸だけで下は魅せないし」
「なんだ・・・胸だけか、それなら安心した」
「Hカップの胸を見て反応する者が居ればいいけどね〜」
「考えてる事が判るから反応する者が居るか謎だけど・・・」
まぁね? 流石の私でも下半身はアウトだから口元から胸までの写真を送ってあげたのよ。
誰が好き好んで年寄りの・・・違うわね?
永遠の十七才の裸体を見て興奮するかって話だけど女所帯で男数名の場合、なにが起きるか判らないのでガス抜きならぬタネ抜きをさせる事としたのだ。元々が十七〜十八才の血気盛んな男子達が乗艦してるのだもの。
ユーマもそういう意味では元男だけど今は女の子だしね? それは当然ナギサもだけど。
顔付きはフーコ似なのに胸以外の身体付きが完全な女性に変化した事には驚いた。
パッと見はヅカ的な印象ね?
そ、それと大浴場は亜空間の仕切りで男女が分かれているけど〈遠視〉スキルで覗き見する者が現れないとも限らない。だからそういう意図でもって一時的なタマナシという罰を与えようとしたのだ。完全再生するから意味は無いけど削る時の痛みは忘れようがないからね?
ともあれ、そんな姉妹間のやりとりの最中、探索員のミキがボソッと呟き、コノリからツッコミを入れられた。
「どっちにせよ恥ずかしいような?」
「ミズミズ、そこは価値観が違うから」
「こら! コノリ! ミズミズ言うな!」
「そっちの方が慣れてるもん! この際だから定着させよう?」
「その呼び名は男の娘って呼ばれてた時を思い出すからイヤなの!」
「そうなの?」
「そうなの!」
とまぁ、そんなやりとりを行いながら、ミキとコノリは船橋から出て階下に降りていった。私も諸々の用事があったのでシオンに予定を聞いてみた。
「私は亜空間工房に移動するから、シオンはどうする?」
「あー、リンスと上に行ってくるわ。定期的に畑の様子も見ておきたいし」
「それなら、ユウカとショウを連れていって。あの二人も管理小屋に行く用事があっただろうから」
「判ったわ。それじゃあ行ってくるわね」
結果、シオンはリンス達と上界へ戻り、私は亜空間工房へと移動した。ちなみに船内では私が言ったとおりの余暇を過ごす者多数であり、男子達は自家発電に精を出していた。シオンの胸だけでも充分に効果があるのだろう。
ホントは私の写真だけどね?
自撮り写真の加工品を送ったのだから。
ちなみに、男子達でも望まない限り子供を作る事が出来ない。これも女子と同様に本体が近しい場所にあるからだ。それもあって、現状は刺激だけを求めているのだろう。
§
私は亜空間工房へと移動してきた。
この場は再誕工房とも呼ぶ場所だが、今回は人員を見繕うためにきたのだ。
通常であればこの船に人員は不要なのだけど、あまり人が少ないのも不審がられるので、ツナギを着る男子と水兵の女子を分けて管理する船内作業員を用意する事としたのだ。
私は素っ裸のまま横たわる某肉体達の口に分離体を流し込んだ。
「一応、当人達からの許可は貰ってるし、専用の下着と作業着を個々に着て貰って」
それは帆船事故の肉片から再生させた彼等の肉体である。実はあのあと魔物の餌とした馬以外を回収してこの場で保管していたのだ。それを再誕後に確認と同意を得て作業員としたのである。
なお、この肉体達には記憶は無く命令通りに動く人形なので基本は無表情だ。ハルミとサーヤだけは船内に同じ顔が複数人現れる事になるため、全員を髪色違いで変化させた。
ハルミとサーヤは銀髪碧瞳、ナツミとサヤカは黒髪黒瞳という違いがあるため、ナツとサヤ、他メンバーを金髪碧瞳の見た目に変えた。
パッと見は三つ子となるが、これはこれで致し方ないであろう。
その直後フーコがハルミとサーヤ、ナツミとサヤカを連れて様子見にきた。
「裸のナツとサヤだ!」
「「「「私達じゃないから!」」」」
私は騒がしいと思いつつも作業を続ける。
すると、フーコは空気を読んだのか小声で四人に話し掛ける。
「冗談冗談。でも一気に三つ子になったね〜? ハルミもサーヤも」
「三つ子・・・ま、まぁそうなのだけど元々が私達の肉体だから不思議な感じがする」
「うん。今でこそ体型と肌の違いがあるけど、サヤカとは髪色でも違いがあるから」
「でも、サヤカとお尻の感触は同じだよ? サーヤは弾力が増して包み込む印象が」
「「こら! どこを触ってるのよ!!」」
「三人のお尻? まぁこっちが本体だからサーヤが長女で、サヤが次女? サヤカが三女になるのかな?」
「再誕した順序だとサヤが三女じゃない? 元々の長女が三女にランクダウンしただけだし」
「ランクダウンって・・・まぁどちらにせよ今の個室は変えないとね? 私とサヤカとサヤは三人部屋で過ごすとして、ハルミとナツミとナツもだね? ナギサさんと男子達はどうするか知らないけど、致す時だけそれぞれの部屋に行けばいいし」
「う〜ん? それなら隣同士にしない? 結構、部屋の位置がバラバラになってるしさ? いざ行こうとしても距離があるとやる気が削がれるよ?」
そう、船員達の船室は分かれている。
最上部は船橋、監視台、私達姉妹とリンスの船室、客室、給湯室、トイレ、階段。
上部左がフーコ、ユウカ、ユーマ、ニーナ、ナディ、ルーの船室。
上部右がユーコ、ショウ、ミキ、コノリ、レリィ、コウの船室。
底部左前にはケン、タツト、ナギサの船室。
底部右前にはシロ、シン、アンディの船室。
底部左後にはココの船室。
底部右後にはアコの船室。
次いで各種設備は以下である。
中上部前がトイレ、講義場、調理場、ダイニング。
中上部中には階段、各種工房。
中上部後が上部倉庫、後部甲板。
中底部前がトイレ、遊技場、大浴場。
中底部中には階段、再誕工房、指揮所。
中底部後が車庫、エレベーター、下部倉庫。
最底部前中後左右にはバラストと動力部。
というように分かれており、その船室数も亜空間化している関係で相当数あるのだ。
まぁ一部屋が三人部屋なので人数としてもかなりの者達を住まわせられる事から今後増えるであろう船員を踏まえると問題ない数であると思う。今まではフーコの部屋にハルミとナツミが入り、ユーコの部屋にサーヤとサヤカが入っていた。だから今はどの部屋で面倒を見るかという話し合いになっているのだろう。
「なら、フーコの案でいきましょうか? ハルミも隣同士なら・・・ね?」
「問題ないよ・・・ところで、制服なんてあったんだ」
すると一同の興味が私の作業に惹かれたようだ。
「あ、それは私も思った」
今は男子の下着を穿かせ終え、ツナギを着せている最中である。ちなみに服の色は通常作業の三バカ男子やタツトが紺のツナギであり、こちらは白いツナギを着せている。
女子の方は白いセーラー服を着せており、違いを示している。ナギサとアンディ、ナディとショウ、アコとココに関しては普段から執事服とメイド服なので扱いから除外している。
私はそんな作業の傍ら、一同に説明する。
「一応、全員の制服もあるわよ? 私とシオンとリンスの正装は白い軍服になるけど、女子は紺のセーラー服を着てもらう事になるから。今はどこで商船と出くわすか判らないしね? 一応、軍事行動中って事を示さないと敵対するバカも現れるから」
「なるほど〜。でもセーラー服、着てみたかったんだ〜。学校ってブレザーだったし」
「まぁフーコの興味も判るけど基本は正装だから指示を出すまでは着なくていいからね? この子達は船内作業員だから陸地に降りる事はないけど」
「でもさ? 陸地移動の時はどうするの?」
すると、今度は元勇者としての経験からか、サーヤが疑問気に問い掛ける。私はそんな疑問に対しあっけらかんと返す。
「その時は必要人員だけ乗り移るまでよ? 不必要人員に関してはニナ達同様、各自の亜空間庫に入ってもらうか、上のログハウスに移動する事になるけど。一応、大型四輪駆動車を複数台用意してるから免許持ちには運転して貰うから・・・右ハンドルだから安心なさい」
「へ? こ、この世界ってまだ四輪駆動車って無いんだけど? あっても馬車だし」
「安心なさい。一応、馬車風に偽装出来るから。まぁ最大速度は15キロではなく160キロが出るタイプで〈スマホ〉が鍵になるから盗難対策も問題ないわ。船と同じで内部への仕切りも亜空間だしね?」
そうなのだ。実は妹神の神託を聞いた直後。
ミアンスからも陸地移動を心配されたため、原型となる大型四輪駆動車を作った。
仕様としてはこの船と同じ〈魔導ステルス〉搭載型であり色も同じである。主砲も搭載済みで自動照準で敵対者を殲滅するうえ、副砲のランチャも標準装備だ。
ちなみに主機の方はピストン式ではなく、亜空間タンクに保管した空属性の魔石を利用して風力発電する電気自動車とした。
風車を回す際に放出される魔力も亜空間タンクに戻し循環させる仕様のため、魔力消費とは無関係な物とした。これは時間停止結界で覆う事で魔力放出を抑える仕様である。
ただまぁ一台が完成するとミアンスが欲しいと言って八台ほど複製しちゃったけどね?
どこで乗り回すのか謎だったけど、アインス曰く乗る場所はあるとのこと。その際に必要数の車を一緒に複製して貰ったのだ。
すると、サーヤが戸惑い? 否、困った様子で問い掛ける。
「そ、そ、それって・・・」
「どうしたのよ?」
「クラス委員長が欲しがると思う・・・」
「というと・・・あの車バカの・・・」
「車舎総次?」
なにの事かと思えば例の車バカだった。
フーコが名前を出すまでは詳細を思い出せなかったけど。今度はハルミが思い出したようにケラケラと笑いつつ語った。
「そうそう。この世界って馬車しかないから自力で自動車を作ろうとして、材料を勇者権限でかき集めている大馬鹿者でね〜、魔力量が五千万という魔力バカで錬金術士だからって重宝されてるの〜」
サーヤとは反応が異なるあたり、サーヤとあれとではなにかがあったのだろう。
私はそれを聞き・・・察した。
魔力量が多い理由に関してだが。
「はっはぁ〜ん。ただのご同業か〜」
「「「「ご同業?」」」」
「言ってなかったっけ? 私の職業って錬金術士だから」
「「「「!?」」」」
「まぁ魔導士みたいな事してるしね〜、この船を作る時点で察しようよ?」
「「た、確かに・・・」」
「基本、錬金術士でも時空系スキル・・・亜空間内で使う〈創造〉スキルが生えない限りこの手の物は作れないけどね? 〈錬金〉で出来る事はあくまで材料ありきだから。〈創造〉スキルだと空間魔力と自身の保有魔力から色々作り出すけど・・・全員持ってるでしょ?」
「う、うん。確かにある・・・」
「けど、そこまでの物って」
「まだ作り出せないね〜」
「なにごともイメージ力よ? あと亜空間外では絶対に使えないスキルだから、仮に外で作るとしても自身の亜空間庫内でイメージしてからじゃないと発動しないからね?」
そう〈創造〉スキルに関しては我が眷属のみとなっており、扱える者がこの世に現れる事は希であろう。これもユランスが与えてくれた時空系スキルの一つだから。
ちなみに今は作業員達を整列させ待機状態で話していた。
(やっぱり表情は持たせた方がいいかしら? 無表情だと少々怖いわね・・・タツヤとか?)




