第77話 恐怖の余韻を示す吸血姫。
それからしばらくの間、私達は海を漂った。
否、すこし速めの船速で目的地まで航行しているが周囲を見回しても、それらしい船影も飛空船も見当たらないまま引き続き南下していたのだ。そして今は後部甲板のベンチに座り、暇を持て余した者達で釣り大会としゃれ込んでいた。もちろん、釣り姿は人族に〈変化〉して行っているが。
「平和ねぇ〜」
「ですね〜。さっき獲れたクラーケン以外は平和ですね〜」
「そうね〜。それでナディ? その後の釣果はどう?」
「釣れすぎるくらい釣れますね〜」
「やっぱり疑似餌で問題ないのね〜」
「不思議ですね〜」
ちなみに釣りのメンバーは私とナディ、ハルミとサーヤ、三バカ男子とタツトだけであり、ユーコとフーコは大浴場で百合百合しい行為に及び、シオンとリンスとニーナは前部甲板で日光浴を行っていた。
船橋の方も探索員としてのミキとコノリが待機の傍ら、カードゲームとしゃれ込んでいたり、ユーマとアンディとナギサは船内にある鍛錬場で剣術の模擬戦を行っていたり、アコとココは調理場担当のレリィ達と共にダイニングでデザートやら献立を考案していたりと余暇を楽しんでいた。
もちろん、監視台ではショウとユウカが監視の傍らイチャイチャしたり、監視台上部見張り台/半裸の女神像の真下でルーとコウが羽根を休めていた。
否、有翼族の羽根の生え替わりで古い羽根を互いに回収していたようだ。
ともあれ、そんなひとときの中、監視台のショウが私達に通達してきた。
『緊急! 緊急! 船首より20キロ先に浮遊する物体、多数あり!』
私はショウの切羽詰まった声を聞き、きょとんとした顔でナディを見つめる。
「ん? 物体が多数?」
「どういう事でしょうか?」
ナディも竿を甲板に挙げながら、私を見つめ返す。すると、ハルミがなにかを思いだしたようにサーヤ達と視線を交わらせる。
「浮遊する物体? まさか!?」
「ハルミ、なにか知ってるの?」
「う、うん。実は・・・」
ハルミは私の問い掛けに対し、困った顔で事情を打ち明けた。それは勇者だった頃に上からの命令で設置した機雷だった。
なんでもそれは、この海域を荒らし回る海賊を懲らしめる用途で設置したもので、今の今まで忘れていたらしい。
私は後部甲板から上部倉庫の受話器を用いて船橋に居る者に指示を出す。
「なるほど。なら・・・ミキ、コノリ!」
『はい! なんでしょうか?』
「浮上させて、高度は海上より5メートルで」
『承知しました。海上より5メートルで浮上させます! コノリ準備して! はい!』
すると、私の指示の直後より船が総重量を無視して水平浮上を開始し、船底部に備わった風魔法陣により横移動を始めた。その光景を初めて見た元勇者達六人はきょとん顔に変化した。
「へ? 浮いてる? ナディ、浮いてるよ!?」
「ハルミ落ち着こう? さて釣りはここまでとしましょうか。どのみち、釣り糸も絡んだし」
いつも通りの反応を示すナディと元勇者達六人との差は面白いほど分かれた。
私は上部倉庫から監視台と船橋に指示を出したあと呆ける者達の元へと戻ってきて伝える。
「ああ、言って無かったわね? これって一応、飛空船だから」
「飛空船!?」×6
「そ。元々は上界用の移動魔道具ね? 皆も見たでしょ? 特にシロは記憶に新しいと思うけど?」
「え? えぇー!? あ、あの船って飛んだんですか?」
シロは私からの問い掛けに当時を思い出したようだ。それは〈接収〉という羊皮紙を掲げた時の事だけど。私はそのうえで戦闘中の事をあっけらかんと打ち明けた。
「飛んでたでしょ? 戦闘中、何度も狙い撃ちしてたじゃない。サーヤとタツトは特に」
「あっ」×6
「まぁ現物は下部倉庫に収納してあるけど、基本どちらも空を飛ぶから」
その時の事実を知った六人。過去の事とはいえ申し訳ないのか顔面蒼白となりお詫びした。
「あ、あの、そ、その節は・・・」
「なんというか、えっとですね・・・」
「す、すみませんでした!」×6
私はそれこそ今更なので受け流し、ハルミに再度問い掛けた。
「気にしてないわ。それよりも、機雷群ってどれくらいの距離あるの?」
「た、確か、禿が一人で設置してたから、実際の、距離は、判らない、の、です」
私はハルミの自信なさげな態度から、禿の読み取った記憶を思い出し対応に出る事にした。〈スマホ〉を取り出して指揮所の機能を部分的に有効化し遠隔照準した。
「空間魔法で設置って事ね? それなら、こっちで滅却しちゃいましょうか。照準は前方の機雷群。魔力充填開始、発射! っと」
発射直後、機雷群が次々に炸裂し、おおよそ50キロ四方で連鎖反応した。その様子を日光浴中のシオン達が見ていたのか呆れながら後ろにやってきた。
「まぁた・・・なんて距離で設置したんだか。バカな魔力があるのも考えものね?」
「でも、光線銃の威力も凄いわね? 水中なのに減衰する事なく一直線に貫いていったし」
「あの兵器は脅威以外のなにものでも無いですね? 闇属性の者にとっては特に」
「まぁね。光線銃はある意味で対魔族兵器でもあるけど安全装置が〈スマホ〉だから持ってる者は安全ね? 持ってない者でも私達の身内なら自動的に除外となるから、上の者達に向けられても発射する事はないわ」
「なるほど。それなら安心しました」
「それにあれは光属性魔力で火属性の高熱を覆っててね? 光属性魔力を越えると高熱に触れて部分的に消し炭となるけど相手が魔族以外であれば即座に治癒して元の形状に戻すの。ただし、終焉を迎えてる薄毛治癒は行えないという例外付きね? ただ、これも中心付近で直撃したら、どんな者でも消し炭で死ぬけどね。あと発射地点は亜空間に設置した鏡で、一直線に進む以外の弱点もないから、射出口を開けられない船内と亜空間以外はどこでも使える兵器ね。掃海としては問題ない結果となったけど」
そう、私が光線銃の仕様を明かした瞬間、元勇者達は口を開けて固まった。ハッキリいえば背後で炸裂した光の矢だったから約二名は粗相したようだ。実際にスレスレを・・・否、背中を一瞬だけコンガリと焼いたのだ。特に大きな尻を持つサーヤは私達が削る前に尻が炭となって削られており、痛みを感じる前に治癒したので気づけなかったともいう。
「あらら? ハルミとサーヤが涙目のまま漏らしてる」
「男子達は持ちこたえたみたいね。こういう点だけは男の子だわ」
「それでも気絶してるのは変わりませんけどね」
「ナディ、粗相組は清浄魔法で綺麗にしたら大浴場に放り込んであげて。〈潜水〉スキルがあるから顔を真下に向けない限り溺れる事はないでしょうし」
「はい。承知しました」
ともあれ、その後の元勇者達は誠心誠意謝ってきた。そう、撃たなければ撃たれる事が無かった。特に頻繁に撃っていたサーヤとタツトだけは土下座までした始末である。
二人は尻を一番削られた者でもあるので私は誠意だけ受け取った。ちなみに船は50キロを越えた辺りで海上に着水し、一旦停泊した。
浮遊したままの移動は無駄に魔力を食うので船内魔力の回復を主としたのである。




