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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第四章・出会いと再会に驚愕。

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第76話 食の余韻を教える吸血姫。


 一方、カノン達がライレ島の処断を行った直後〈中立国・アイネア合国(ごうこく)合都(ごうと)・ネイリア〉の地下・軍研究所では我らを騙した首魁(しゅかい)(うごめ)いていた。


「規定量のおよそ五パーセントの魔力を回収完了!」

「ほほう。遂に第一陣の策を執行しましたか」

「どうだ調子は?」

「これはこれは、王太子殿下」

「今しがた五パーセントと申したか?」

「はい。勇者死亡時の解放魔力により各国の吸引具で集められた空間魔力が浮遊魔石に集まりました」

「なるほど、完全とは言い難いが確実に集まっておるのだな」

「はい。やはり殿下のお決めになった策が確実で御座いました」

「で、あろうな・・・ただ、焦りは禁物ゆえ、残り三十四名の回収は急ぐ事はないぞ」

「なにゆえでしょうか?」

「軍資金を蓄える事と先兵である各流刑島の練度の問題もあるのでな。(かつ)ては各国兵の損耗が(いちじる)しく温存とまでいかなかったのだ。だから次の探索では先兵を先んじて向かわせ、ある程度片付いた頃合いに我らが向かうという計画で進めておる。それに各国の戦争も相変わらずゆえ、平定で滅亡した他国の者共と共に魔力量を増やすだけ増やした俗物共(勇者達)にも探索の(いしずえ)となって貰わねばならないのでな」

「なるほど。承知致しました」


 元より彼等は勇者など必要として無かった。

 ただの生け贄という最も愚かしい行為で我らを利用したのだ。我らは願われれば思惑など無視して叶える。しかし、今回の事で思惑も時に知る必要があると思い知らされた。

 心を読むのは容易い。

 神罰として消し去る事も可能だ。

 だが、我らとて新米女神(・・・・)であるがゆえに見たくない物もある。

 その結果が・・・このような末路なら。

 ミアンス同様、我らも行動せねばならぬ時が近いのだろう。そういう意味であの方の思惑によりカノンが現れた事が唯一の救いであった。

 そう、今回流れ込んだ魔力の全ては彼等の言う先兵達の魔力だ。彼等の勘違いは自滅の道を歩んでいるに他ならない。この者達の求める亡くなった勇者の魔力は全て我らが回収済みなのだから。




  §




 その後の私達は(いただ)いた生命力の余韻に浸りながらも、後始末を始めた。


「簡易タラップもろとも還元完了! 綺麗さっぱりの無人島が完成したわね!」


 そして不必要な異物が船体に付いていないか全体を把握した私は出港準備の指示を飛ばそうとした。すると、魔力還元の波を感じとったのか、船内で(くつろ)いでいた者達が後部甲板を訪れ、なにも無くなった港を見てポカーンとなった。


「カノンお姉様?」


 その様子を見て、開口一番はココによる問い掛けだったが、ハルミとサーヤが満面の笑みでココに近づき理由よりも感想を口走る。


「ココ・・・すっごーく、美味しかった!」

「吸血鬼って聞いて吸血行為かと思ったけど、こんな美味なら悪人裁きが捗りそうだわ!」

「そうそう! 悪意を持つ者に指示されて動く勇者がバカバカしいって思うくらい、この世の悪人を召し上がって行きたいって思ったわ!」


 私はこの時点でココを放置しシオンとリンス、ユーコとフーコと共に船橋(せんきょう)に移動したので、ココは私を探して居なかった事に気づき、余韻に浸るナギサへと問い掛ける。


「へ? い、い、一体なにが? ナギサさん、なにがあったのですか?」

「いやぁ。このような報復を与えて下さるなんて、主様には一生付いていきます!」


 しかし、問い掛けに応じるよりも感激で胸一杯のナギサは私への忠誠を誓った。

 すると、その様子を見ていたユウカとユーマが苦笑しつつも(ほう)けるココに打ち明ける。


「ココ。今のナギサさんやハルミ達は興奮してるから聞くだけ野暮よ?」

「興奮?」

「今回が初めての味だから仕方ないけどね? それよりもなにがあったかと言えば・・・先ほど流刑島の悪人達を処刑したの。それも生きるための生命力を召し上げるっていう、私達眷属(けんぞく)への最大級のご褒美でね? 本来は吸血鬼族の吸血行為と同じようなものだけど血液中の生命力を味わうんじゃなくて、生命力の根幹・・・魂から召し上げるっていうスキルを使ったの」

「魂の・・・召し上げ? それで興奮したの?」

「そうよ。それと本来ならこのスキルは吸血鬼族の物なのだけど今回は特別に私もスキルを(いただ)いてさ〜、すごい美味しかった! なんでも希望すれば、この場の全眷属(けんぞく)でも使えるって言ってたよ? 悪人でも「死ぬのはイヤ!」って言ってた兵がジワジワと亡くなる瞬間なんて、ビックリするほど味に深みが増したしね?」

「あれって、一種の生に対する執着なんだろうね? 悪意と共に憎悪めいたものも風味に変わったから」

「うん。甘みの中の刺激って奴かな? 恐怖はカノンの好みで憎悪はシオンさんの好みだって言ってたし・・・それが風味付けのスパイスとなるのだから判る気がするよ〜」


 二人もある意味でハイではあったが、これが悪意の全てではないと知っているため、徐々に受け流しココに教えるのであった。その言葉を聞いたココは生来のSッ気が顔を出し羨望の顔を魅せる。ちなみにこの時点で船は離岸し、本島に向けて出港してるけどね?


「懇願!? その顔が見られるの!? 羨ましい〜!」

「見られるだけじゃなくて、味わいもあるから二度美味しいよ? ただし、悪人に限る!」

「へ? 悪人だけなの?」

「ええ。善人とか異世界人はカノン曰く、塩味か薄味で不味いそうよ? そういう者の懇願の味は淡泊らしくてね? 甘みがあるのは基本悪意を持つ者だけらしいわ。酷い者になると熟成に熟成を重ねた、極上の甘みを有しているそうで・・・まだ私達はそういう者に出くわしてないけど、同じような者をナギサさんが(いただ)いてるから・・・戻ってくるのに時間がかかるみたい」


 そう、ユウカは言いつつも、トリップしたナギサを眺めながら苦笑した。あれはしばらく戻って来ないだろう。ココは隣に立つアコに目を向けながらも羨望の眼差しをナギサに向ける。

 アコは構って欲しそうにココを見ているがスルーされたようである。


「いいなぁ〜」

「まぁ近い将来、海賊とかに出くわすだろうから、カノンが指示した場合でのみ使っていいそうよ。勝手に使うと・・・手酷い罰が下るから」

「確か以前、ユーコがやらかしたのよね?」

「うん。姉さんが上での依頼中にやらかして、監視してたカノンから股に一発、電撃を食らわせられてたわ」

「うわぁ〜」

「姉さんってば衆人環視下でイッたから、こりごりだって言ってたわ」

「羨ましい!」


 すると、アコがユーコへの仕打ちで羨望の眼差しをユーマに向ける。だが、ユーマは諭すように私がシオンに行った罰を教え込む。


「アコ、間違っても実行しないでね? 最悪、身体からの本体召し上げだって行うから」

「へ? そ、それって」

「肉体を残して、本体をカノンの亜空間庫に移動させられるの。当然、意識と魂は本体に残るけど、本体を取られた肉体は徐々に朽ちるし、一切の刺激を与えて貰えなくなるらしいよ? シオンさんが・・・あれは二度と御免だって言ってたし」

「ヒッ・・・じ、実行致しません。刺激がなくなったら、それこそ」

「耐えられないでしょうね? ナディも同様だけど」

「や、やらないわよ! そんな恐ろしい事! それよりも、アコ、電撃縄っていう面白い物があるから、お風呂の後で試さない?」

「電撃縄ですか!? はい! 試します!!」


 ま、まぁ後半はドM共が騒いだが、その会話を聞いていた三バカ男子とタツトは話す。


「ナギサさんのトリップはそういう理由だったのか」

「そういえば鑑定結果に追加があったな。知らない間に生えてたからビックリしたが」

「このスキルを使えば悪人倒し放題なのか・・・」

「さっき、ユウカが言ってたが・・・野郎共の懇願とか、めっちゃ見てみたいな!」

「お? タツトの琴線に触れた感じ?」

「おう! 女性を困らせる悪党を痛め付けるだけじゃなく血を見ずとも殺せるなら願ってもないスキルだぞ? 特に男の探索者共なんてゲスしか居なかったから何度殺したいと思ったことか」

「それって、俺等も入ってた?」

「流石に仲間には手を出すわけないだろ? 痛め付けるくらいはしたと思うが・・・我慢した」

「そ、そうか・・・助かったぁ」

「まぁ、近い将来海賊共に出会う事もあるし」

「その時に有効化してもいいかもな? 今から使おうにも対象が居ないし、許可無しは地獄を見そうだから」

「だな。それがいいだろう」


 こうして、三バカ男子達の間でも希望者が出たという事で私は船を操舵しつつも、いずれ訪れる海賊共を倒す勘定に彼等を追加した。人族との実戦は経験値を増やす行為にもなるのだ。

 レベルアップして戦力となって貰わねば、この先で待つ勇者達に負けてしまうのだから。

 ちなみにナギサはまだトリップ先から戻ってこない。おそらくアインスとの会話中だと思われるから、たちまちは放置である。

 なお、ハルミとサーヤは早々に戻っており今は甲板上のベンチの上でルイのおにぎりをモグモグしているようだ。


「お米美味し〜い! ハルミ、このタクアンも美味しいよ!」

「この食材って全部、ユウカが作ったらしいよ?」

「エルフぱねぇっす!」

「あと、ナディが一年分くらい魚を釣ってて、刺身とかお寿司もあるって」

「マジで!?」

「うん。あとは前世の私達がドラゴンに滅多打ちとなった日だったかな?」

「私が股から割かれて〈サヤの開き〉となって、ハルミが上半身消し炭になった?」

「そうそう。って、ご飯時の話じゃないね・・・で、その日にカツ丼が出たって」

「いいなぁ〜」

「なんか素材も余ってるらしいから献立次第で出るらしいよ? 豚肉と産みたて新鮮魔卵(たまご)もあるそうだから。それに牛肉も」

「!!? 焼肉!!」

「うん。それも後日行うってレリィが言ってた。ただ、野菜を仕入れてからって話だけど」

「楽しみだなぁ〜。勇者だった頃って質素ってくらいに不味い飯しか無かったから」

「転生して良かったよね〜。下着も服も着慣れた物を自分で作り出せるし」

「だね〜。宝飾品も付与を与えたら魔法の実行効率が変わったしね」

「ね。ホント、前世の私達は天狗だったって思い知らされたよ〜」

「魔力の量よりも質って奴よね〜」


 そう、今は夕食時なので手軽に食べられる、おにぎりとタクアンと〈だし巻き魔卵(たまご)〉が各員に配られた。二人は昔との違いを思い出しながら、おにぎりの風味を味わっていた。召し上げで食べる生命力の風味と違い、口で味わう食事も一種の醍醐味だもの。





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