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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第四章・出会いと再会に驚愕。

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第75話 吸血姫は悪の味を示す。


 一方、新規登録に向かった元勇者達はというと──


「サーヤ? この街も数ヶ月ぶりだけど見方が変わるだけで全然違うね?」

「そうね〜。あの時は勇者だぁってパレードされたけど、これが本来の姿でしょうね?」


 ハルミとサーヤが先頭を歩き、周囲を見回しゲッソリしていた。そして二列目のシンとケンが〈鑑定〉スキルを行使しながら見栄えの裏を悟っていた。


「見栄えは幻惑魔法で実情はスラム街か・・・」

「領主が如何(いか)にクズか判る話だな」


 この島の領都は腐っていたようだ。

 華やかな舞台裏が汚物だらけだったから。

 今は支部に向かう目抜き通りを抜けている最中であり、パレードをした時もこの道を通ったのだろう。だから当然、当時を思い出すシロとアコは嘆き、タツトとココから(なぐさ)めのツッコミを入れられていた。


「幻惑魔法か・・・あの店に居た美少女」

「完全に(ふと)ったババァだな」

「あの店のイケメン・・・」

禿()げジジイだったわね」


 オチはナギサが苦笑しつつも(なぐさ)めた。


「現実は儚く脆いという事でしょうね?」


 一同の背後を歩む〈希薄〉中のミラー姉妹は──


「勇者歓迎パレードかぁ」

「でも、偽りの歓迎を与えられるというのは」

「酷よね? これは現実逃避の手段なのか、はたまた?」

「非歓迎ムードを隠すためだったのか」


 前方を歩く面々を同情していたようだ。

 事実、幻惑魔法を除外してみるとボロボロの街と遺体が多数転がった街であった。

 アコとココは死臭がやたらと漂うため〈変化(へんげ)〉していて良かった・・・と、思っていそうな顔である。それこそ事前に身体の周囲を積層結界で(おお)っていて正解ともとれる話であった。この街では死臭が衣服にこびりつきそうな空気感なのだから。

 それからしばらく歩いた一同は、ようやく支部へとたどり着いた。

 ただね・・・この支部も腐ってたわ〜。

 ナギサが代表して受付の者に声を掛けたのだけど──、


「すみませ〜ん。登録いいですか?」

「あん? ああ。構わんよ・・・大金貨五枚だがいいか?」


 雑なやりとりしか行わず、法外な登録料を要求した。それを聞いたナギサは(ほう)けながらも問い返す。


「え? 銀貨五枚ではなく?」

「は? この島じゃ大金貨五枚が相場だぞ?」


 しかし受付の者は、さも当然のように相場と(のたま)った。ちなみに探索者ギルドの仕組みとしては登録先はどこでも良いらしく、等しく本部所属という扱いらしい。

 これも一種の集中管理であり、支部に余計な情報を残さないための措置のようだ。これもダンジョン閉鎖に伴って潰れる可能性のある場所に置けないという措置だろう。

 ナギサは渋々というようにそれを了承した。


「判りました。それなら九人分・・・大金貨四十五枚を支払います」

「お? お前ら、そんなに・・・(ふところ)(あたた)かいのか? まぁいい、登録手続きするから少し待って」


 ただ、枚数を口走った瞬間ね?

 気持ち悪い笑顔に変わったのよ。

 支部の人間なのか疑いたくなるくらいには。

 なお、もう一つの支部は銀貨五枚である。

 今現在ダンジョン支部の受付嬢に聞いたのだから間違いはない。受付嬢曰く、領都は支部長が暴走しておりオススメしないとの事だ。

 すると、三バカ男子は怪訝(けげん)になりつつ呟く。


「あれって、この街の領主では? あの薄らハゲは忘れようがないぞ?」

「だよな? ここってかなりやばくね?」

「今、(ふところ)(あたた)かいとか言ってたしな?」


 その直後、ユーコが姿を現して一同に対し私からの指示を飛ばす。


「全員すぐ〈希薄〉して! カノンからの指示! 領主が外に兵を集めているわ!」

「!!?」×9


 一同は指示通りに〈希薄〉スキルを行使する。この時点でパッと見は誰も居ない領都支部が出来上がった。それから数分後・・・支部長が裏から戻ってきた。


「あ? 払うって言ったのに居やしない。逃げたとするなら、そう遠くには行ってないはずだ。捕まえてでも有り金全部・・・(いただ)かなければ!」


 一言で言ってゲスである。

 否、支部長というより盗賊の(たぐ)いとなんら変わらないハゲであった。その様子を黙って見ていたハルミとサーヤは呟く。


「出て行っちゃった。領主というか・・・犯罪者のそれね?」

「外の兵士達も同類だから盗賊団みたいな感じね」


 すると、ユーコが〈スマホ〉片手に私からの指示を飛ばす。


「カノンからダンジョン支部を知ってるなら、転移で来てって。(すで)に書類と代金も提出済みで測定のみを残してるそうよ?」

「主様? ま、まさかとは思いますが?」

「ナギサさん。気にしない方がいいです。カノンさんは常時私達を把握してますから・・・心の内側まで」

「そうよ? 素直が一番ね! 嘘なんか丸っきりバレるからSのココよりも酷い罰を与えられるからね? カノンってばものすごいドSだから」


 ナギサの疑問に答えるためとはいえ、余計な一言を加えたので、ミラー姉妹にはキツい罰を与えた。


「「ひゃん!」」


 胸の敏感な場所に電撃を・・・ってね?

 ただ、例にされたココが(おび)えたので、少々まずったと思う私だった。なお、それを見たそれぞれの反応は異なっていた。


「さっそく罰が飛んで・・・」

「服の隙間から煙りが出てる?」

「なにがあっても主様に害意を持ちません!」

「「「「こえぇ・・・」」」」

「う、羨ましい!」

「私以上のS・・・カノンお姉様!」


 あ、これは(あこが)れだったわ。

 私は主ではなく、お姉様と呼ばれるらしい。

 それとシオンとナディに次いで完全なるドM発見となったけど。

 ともあれ、元勇者達は転移魔法を使い、胸を押さえた赤い顔のミラー姉妹は空間跳躍(くうかんちょうやく)を使ってダンジョン支部へと移動した。




  §




 一方、買い出し組はというと──全員が〈希薄〉状態で目抜き通りの市場を歩き回っていた。


「どこもかしこも犯罪者しか居ない件について」

「この島って流刑島に(るい)するんじゃない?」

「ナディ、ショウ、買い物が出来る商品が一切ないわ。どれもこれも毒物よ」

「この分だと、ミズミズ達も・・・」


 というところでドワーフ組も合流した。


「ミズミズ言うな! コホン! で、そっちも全滅?」


 ニーナに対するミキのツッコミ付きで。

 ニーナはさらりと流したが。


「うん。そっちはどうだった?」

「こっちも全滅。鉄鉱石かと思ったら、ただの石炭しか無かったよ。〈希薄〉状態のまま〈鑑定〉したら(ろく)でもない結果しか出なかった」

「石炭も劣悪な物しか無かったし、金額も大金貨で指定してあって詐欺かと思ったよ」

「コノリ達も全滅となると、戻った方がよさそうね?」

「うん。街中も死臭で(あふ)れてるし、積層結界の魔力消費を考えると戻った方がいいかも」

「それなら、転移で戻りましょうか」

「異議なし!」×4


 しかし、結果は最悪なものとなり、ニーナの発案で船へと戻ったようだ。補給のつもりで立ち寄ったのに(ろく)でもない者しか居なかったため、私としてはやりきれない気分となった。

 なお、船の方もあれから何度となく不法侵入があったようで、引き続きドボン刑が執行されていたようである。




  §




 私はダンジョン内を進みつつ眷属(けんぞく)達を見守ったのだが、その光景を見る(たび)に寄港が失敗だったと思わざるを得なかった。


「この島ってダンジョン以外は(ろく)でもないわね?」


 すると、ユウカが魔物を炎弾で(ほふ)りながらあっけらかんと教えてくれた。


「さっき聞いたけど、ダンジョン支部の支部長や職員も臨時らしいよ? 近いうちに支部を閉鎖する話が出てて、ここから三ヶ月の距離にある本島に戻るとか言ってたし」


 その一言を聞いたシオンは察したようだ。

 というか、私も察したわ。


「本島・・・ということは?」

「流刑島、確定じゃない?」


 フーコも察し私達に問い掛けると、リンスが苦笑気味に外へと指をさす。


「確実に流刑島ですね? あれ見てください」


 なお、ここはダンジョン砦で今はボス部屋に向かう途中である。


「山中のあちこちに朽ちた牢獄が丸見えだわ」

「ありゃりゃ〜、となると街の住人の大半は」

「犯罪者って事ね」

「これはサッサとボスを倒して滅却あるのみね? 支部の職員と支部長は最後の焼き払い前に本島の港へと強制転移かけましょうか?」

「賛成!」×4


 という事で私達はダンジョン内のボスモンスターであるオークキングを瞬殺し、ダンジョン内の貨幣という貨幣を強制転送で亜空間庫へと片付けた。ちなみに、踏破報酬の宝具は〈滅却の宝珠〉という誰得なアイテムだった。

 これは一匹の魔物を滅するために必要な真っ赤な飴玉だったので(そく)売り払う事が確定したアイテムとなった。

 ともあれ、その後の私は元勇者達とミラー姉妹が船に戻った事を確認すると同時にダンジョン内から〈遠視〉により本島の港にある空き区画を視認し、内部の犯罪者を除外したうえで強制転移を発動させた。


「さて、職員と支部長ごと建物を強制転移っと!」


 この島の犯罪者達には某流刑島の勇者同様に目印があり、それを基準に有る者と無い者で区別した。すると、シオンが呆れながらもツッコミを入れてきた。


「それが出来るのはカノンと私くらいよね?」

「どのみち焼き払いするんだから、一般人は残せないでしょ? ダンジョン内の犯罪者は等しく食べたし、島内の一般人は全て本島に戻したし」

「まぁね〜。でも、なに気に濃かったわね?」

「あの味を知ると他の御菓子が食べられなくなるよね? お姉ちゃん(・・・・・)も甘い物が大好きだから絶対ハマると思うよ?」

「私も吸血よりこちらの方が好みですね? 血液よりも甘いですし取り残しが無いので」


 途中からは吸血鬼族のご満悦大会となった。

 すると、ユウカがご満悦大会の話題から後悔を宿した声音で呟く。


「いいなぁ。私も吸血鬼族になれば良かった」


 それは羨望そのものであった。

 だから私はあえて隠していた事実を教えた。


「ユウカが望むならあとでスキル複製するわよ? 眷属(けんぞく)でも望む者、望まぬ者が居るから最初の段階で除外してたもの」

「!? お、お願いします! 私も甘い物が大好きだから!」

「ふふっ・・・なら焼き払い前に付与しましょうか?」

「やったぁ!」

「この分だと、この世から悪が滅しそうね?」


 シオンがボソッと呟いたが、そうそう悪が滅する事は無いと思う私であった。人族の欲望は底知れず、欲望を叶えるためなら簡単に悪へと転がり落ちるのだから。

 こうして、ダンジョン内に隠れ潜む一般人を見つけては転移させた私達は一斉に船の甲板に戻り・・・ダンジョンは閉鎖された。

 ただ、後部甲板に戻り・・・外を眺めると領主を含めた兵が多数だった。


「あらら〜。結構な数の侵入者が居たのね?」

「今なおズケズケ入っては飛んでいってるけどね?」

「〈多重結界〉の外でご苦労様って言いたいね〜」

「船と繋がってない簡易タラップだけは除外だもの・・・それもあと少しってね? ナディ!」

「お帰りなさいませ」


 私はひとまず数が数のため、ナディにお願いしつつ人員確保に動いてもらった。


「私の同族を集めて! 今からこの流刑島の処断を行うわ!」

「!? た、ただいま!」


 そして先ほどの話ではないが、ユウカの希望を叶えるために、ひと仕事終えた。


「っと、恐らく全員欲しがるだろうから、希望した場合にのみ、有効化させるようにしましょうか・・・配り終えたわね」


 すると、ユウカがなにかに気づく。


「え!? こ、これが?」


 そう、スキル複製は希望した眷属(けんぞく)の場合、即座に気づけるのだ。希望しない眷属(けんぞく)の場合はスキル増加の認識で終わるのである。希望しない場合は鑑定結果に出ても使う事は出来ないのだが。

 私はユウカの気づきに対し簡易説明を行う。


「そ。〈触飲(ドレイン)〉と〈魔力触飲(マナドレイン)〉ね? 〈隷殺(レイサツ)〉は一応配っていたけど、これは隷属(れいぞく)回避スキルでもあるから、併用すると隷属(れいぞく)者の風味も味わえるの。使い方は全員の〈スマホ〉に()せたから、良く読んでね?」

「はい! ありがとうございます!」

「今回は〈遠視〉併用で〈触飲(ドレイン)〉と〈隷殺(レイサツ)〉だけでいいわ。犯罪者達の死亡時には魔力が解放されるから、世界の(いしずえ)となって貰いましょうか」


 そして一同が集まる前に、この場の者に対して指示を出す。ダンジョン攻略組は黙って頷く。だがここで、私はある事に気づく。


(・・・(いしずえ)? もしかして・・・? ははぁん〜。人族ってバカだわ・・・)


 そう、(いしずえ)なのだ。

 勇者達の膨大な保有魔力。それを死亡時に空間魔力として解放させ世界のために使わせようとしたのだろう。だが、あの魔力は借り物で死亡時と平定時には女神から回収されるのだから認識違いという意味でばかばかしくなった私であった。それこそ、世に蔓延(はびこ)る犯罪者達を消した方がマシと思えるレベルで。

 それからしばらくして吸血鬼族の面々が集まり、ナディはそのまま控えた。ナディにもいずれ使い方を覚えさせないとね?


「主様、お呼びでしょうか?」

「ナギサ、今からコイツらを処断するから、報復として貴方はあの領主を()りなさい・・・主犯は彼で間違いないのだし・・・フーコ、使い方を教えてあげて。ユーコはハルミとサーヤに〈遠視〉併用で〈触飲(ドレイン)〉と〈隷殺(レイサツ)〉指定で」

「「判った!」」

「「「???」」」

「吸血鬼族の本領発揮だよ〜。お姉ちゃん(・・・・・)、今から見せる方法を一緒に試してみてね?」

「う、うん。判った」

「「ユーコどういう事?」」

「まぁ・・・あの雑魚三匹でいいか。今から()るから使い方を覚えてね?」

「「う、うん?」」

「試し打ちが終わったら、本番よ! 残った遺体と建物などは一切合切魔力還元するから」

「「「はい!」」」


 てことで、フーコとユーコ、ユウカがお試しとして犯罪者を召し上がった。


「「「あっま〜い!?」」」


 ユウカは初めてだというのにスムーズに実行し、幸福顔を浮かべていた。これも私達がダンジョン内でアレコレ食べていた姿を見ていたからだろう。忘れていた事だが、エルフにも〈魔力感知〉があるのだから。

 全属性持ちという事で(そら)属性の無色(むしき)が見えるもの。


「「「!?」」」


 その後、残り三名も試したのだろう。

 ナギサは驚きと共に幸せな顔を浮かべていた。ハルミとサーヤも満面の笑みであり、驚きの連続であった。


「あっま〜い! なにこれ!?」

「さ、砂糖かと思った! 口に入れた訳でもないのに直接甘さが伝わってきたわ!」

「悪意の甘さって肥らないんだよ? 今回は魔力ナシだけど魔力も魔力で美味しいの。まぁ人によっては不味い物もあるけどね〜。納豆入りの薄いリンゴジュースとか」

「「!!?」」

「こ、これほどとは・・・で、では領主の場合?」

「ええ。雑魚だと甘いだけだけど、濃い悪意を持つ者ほど奥深い味わいになるから」


 ということで、その後は一斉に召し上がった。この島に住まう極悪人・・・総数一千万人が一斉に亡くなり私達の(かて)となった。

 そして、終わった後は魔力還元によりなにも残らない無人島が出来上がった。

 一千万人の解放魔力は即座に世界に散らばり(いしずえ)となったようだ。極悪人の魔力でも人を救う事が出来るのだから精々利用され続けるといい。





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