第72話 勇者達の末路と吸血姫。
これはカノンが船を出航させた直後の事。
勇者達が乗る帆船は順調に本国までの航路を進んでいた。
「ネアレ島もあと少しで見えなくなるね〜、サヤ〜」
「だねぇ〜。でも、今回の功績って評価されるのかな?」
「どうだろう? 後半はよく分からない船が出てきて男子達も剥かれて終わりだったし、お姉ちゃん達もあれから会わなかったし」
「それで結局、最後の最後まで石頭が邪魔した感じで終わった・・・ね」
「そうそう『勇者の権限を使えば勝てる!』って馬鹿かって思ったけどさ〜」
「それを初戦でやって、兵士達からも大顰蹙を買って、クラス委員長達からも総スカンを喰らったのに、今度は『挽回だぁ!』って騒いで私達を強引に遠征へ連れてきてね?」
「ホントになにがやりたかったのやら? 正直言えば看病もしたくなかったんだよね〜」
「わかる〜その所為で憂さ晴らしして沈められたら世話無かったけど」
「あれには参ったね〜今思えば・・・なんであんな事をしたんだろう?」
「石頭の所為だね? 私達って条件反射で応じるようになってたのかも」
「あー、なんか判るかも。クラス委員長達もあれが離れた時の方が生き生きしてたし」
というように私達が剥奪した者を蔑みながら、彼女達は離れていくネアレ島を眺めていた。
一方、他の者達はというと──、
「なぁ? 今回の功績どうなると思う?」
「さぁな。俺は強き者と戦えればそれでいい」
「強き者って・・・今回は乱戦だったから個人的に戦う場なんて無かっただろうに」
「いや、ドラゴンとは善戦したと思うが?」
「よく言うよ! 真っ先に粉みじんになってたクセに!」
「そうだったか?」
「幸い、死に戻りが出来るダンジョンだったから良かったけど・・・痛みだけは忘れられないから、今でも時々思い出すんだよな」
「そうか? まぁ痛みなんて戦えば忘れると思うが」
「でたよ。脳筋発言・・・それで、お前等はなにしてんだ?」
「あ? ああ、今回の報酬を計算してたんだ」
「一人頭で金貨一枚って高いのか安いのか?」
「確か、百万リグだったか? 日本円換算するわけにもいかないから幾らか難しいな?」
「この金貨もダンジョン産だし、鑑定すら出来ない代物だから、明確に幾らかって判断が難しくてな」
勇者としての功績を考えながらも、皮算用で報酬計算を行っていた。私としても、彼らが勇者なのかと疑いたくなる行動が現れていた。勇者とは無償の奉仕に近しい者で功績などは結果に付いてくるのだが、彼等は目に見える功績を欲しており勇者というより純粋な探索者そのものであった。
するとフーコの兄が現れ彼らを諭す。
「こらこら、功績なんてもの一銭の得にもなりませんよ? 我らは勇者としてこの場に居るのですから使命だけに尽力しなさい」
「ですが、先生? タダ飯喰らいは流石に」
「それはそれです。探索者として稼ぐ事と勇者として働く事は異なります。今は有事ではないですから探索者として計算するのは良いでしょう。しかし、勇者として任じられたのなら報酬は二の次としませんと魔力を与えて下さった女神様に失礼ではないですか?」
「そ、それはそうですが・・・」
「なにより、私は監視者としてこの場に来ているのです。まぁ・・・ヤマトの言動と行動は改善の余地がありませんでしたが・・・これでは生徒達を預かった手前、他の先生方に申し訳が」
彼は監視者だった。
だが、作戦の決定権は引率となった石動倭が持っており、彼は従うしか無かった。今はカノンのお陰で記憶が改ざんされ、妹愛は薄れているが元来の彼は使命に溢れる者であり、あの場で安曇奈津からの念話を受けなければ気狂いする事の無かった。
ただ、石動倭からの指示は絶対であったため、彼は監視しつつも指示に応じていたので気持ちと行動のチグハグさで精神を病んだ末・・・結果がフーコ愛だったのだから如何にタイミングが悪かったかが判る話でもある。
その直後、彼が次の言葉を発しようとした瞬間──事件は起きる。
「「せ、先生! 助けて!!」」
それはこの場に居なかった女子だった。
一人は黒田闇子。
一人は白田光子。
彼女達の背後には──、
「!? ヤ、ヤマト!?」
そう、カノンによって禿げた馬とされた者が下品な笑いを浮かべながら立っていた。
それも彼女達を全裸に剥き、汚物をこすりつけながら。
「そうさ! 俺だよ! お前達が奴隷小屋に放置したな!」
「な、なんで船に!?」
「あん? それは帰るためだろ? 俺だって勇者だからな!」
「お、お前は剥奪されたはずだ!」
「誰が剥奪されたって? 俺にはしっかりと勇者って文字が見えるぞ?」
「そ、そんな馬鹿な!? キッチリ元勇者となってるぞ!?」
「ふん! 議論にならんな! それよりもだ! 俺を助けてくれた領主代行からの伝言だ」
「な、なんだ?」
「お前達は、この場で消えてくれ、だとさ!」
「「「「「はぁ?」」」」」
「俺一人はこのまま逃げるが、お前達は船と共に海の藻屑へと還るがいいさ!」
「ど、どういう事だ!!」
「知るかよ! ま、勇者である俺が代わりに戦死報告しといてやるから、お前らはさっさ消えてしまえ! あ、そうそう、この女共は戴くぜ? 後ろに居た二人もだ」
その言葉は勇者のそれでは無かった。
その実、鑑定結果でも彼からは元勇者という職業しかない。勇者と正反対の人格。
カノン達が危惧したのはこの事だったのだろう。召喚される者の人格は選べないとする脆弱性を早急に直さなければ、今後も同じ過ちを犯しそうな気がした私であった。
それこそミアンスのように条件を強引に書き換えて上手く出来れば良いのだが。
ともあれ、その間も話は進み元勇者は後ろに立っていた女子二人を強制転移で連れてきた。
「な!? なんで禿馬がここに居るのよ!?」
「止めて、離してよ! 禿!!」
「ひでぇなぁ? 一緒に連れて帰ろうと思ったのによぉ〜? 人の事を禿馬とか、先生泣いちゃう〜、ひひぃ〜んってな?」
「泣くと鳴くの意味が違うわよ! ホントに現国教師なの!?」
「冗談も通じないのか? まぁいいさ・・・さて、俺はコイツらと本国に帰るとするわ! じゃあn」
その直後、元勇者が自身を転移させようと最大魔力を練った瞬間、その練りに練った魔力が起爆剤となり、船の中心に施された無色の暴風陣が一瞬で展開し、その場に居る者達を粉微塵に切り刻んだ。
「!!?」×9
余りにも一瞬の出来事で当人達は死んだ事すらも気づかぬまま、自身の肉体を奪われ魂のままその場を浮遊した。
その一瞬の激痛は彼等の精神を蝕み、唯一・・・レベル90までの装備を身につけていた二人だけが痛みなく意識を保ち、念話を続けていた。
⦅え? 私の身体が砕けた?⦆
⦅サヤ? 今、なにがあったの?⦆
⦅なんか身体が砕けたみたい・・・他の皆も⦆
⦅うそ? じ、じゃあ、私達て、今・・・⦆
⦅魂だけって事? あ! 船が沈む・・・⦆
⦅え? 時が止まった?⦆
するとカノン達が動いたのか彼女達は身の回りで起きた不可思議現象に呆ける。
「とりあえず魂だけは先に回収するから二人は肉体の破片を直ぐに見つけて! 優先順位はナツ・サヤコンビで!」
「「了解!」」
そして個別に空間跳躍してきた三人が遺体回収に尽力した。
⦅え!? お姉ちゃんが転移してきて、時の止まった空間で動いてる!!⦆
⦅ど、ど、どういう事!? なんでユウコがここに? って、あの銀髪は確か・・・⦆
⦅⦅黙り姫?⦆⦆
⦅ま、まって? お姉ちゃんも銀髪だ!?⦆
⦅ユウコも銀髪なの!?⦆
「さてと。他はともかく二人は意識があるようね? もし望むなら生まれ変わる気はある? 妹達の事を容認してくれるならって条件だけど」
⦅⦅えぇ!? それってどういう?⦆⦆
「あとで説明するわね? 一言だけ言うと・・・貴女達の妹として生まれた子達の願いだから、四の五の言う前に同族で転生させるけどね?」
⦅⦅えぇ!! き、吸血鬼!?⦆⦆
意識ある二人はカノンの手によって〈封印水晶〉に隔離され、残りの魂も封印された。
ちなみにこの時のカノンは普段は隠している牙と赤瞳を見せつけていたようだ。
吸血行為はしないが種族を明かすという意味を含んだものだったのだろう。
§
その後のカノンは原因を特定し一人で風味に酔いしれていた。
(禿馬の魂はまっず・・・でも、領主代行ね? う〜ん、あっま〜い! 領主よりも領主代行の方が味が濃いわね・・・不味さの後だから余計美味しく感じただけだろうけど、魔力もこちらの方が多いし・・・記憶は・・・ほほう? 女神様への反逆罪みっけ! 平定よりも勇者を使った戦争継続を望むか? まぁ戦時下の収益はガッポリ貯まるものね?)
それは元勇者から読み取った記憶であろう。
そして私達を騙す人族が下界にも居たようだ。
「人族達の悪意・・・しかと受け取ったわ」
そう、ここから先はカノンの本領が発揮されるようである。神罰代行者としての仕事が増えたともいうが・・・。
(あと・・・禿馬から回収した〈保管〉スキルの中身が酷すぎるわね。全部、この子達や他の女子の下着じゃない。これじゃあ、完全に変態教師だわ・・・)




