第68話 吸血姫は眷属にとても甘い。
それは時間停止結界解除前の事。
私とフーコは海上で物理防御結界を張り、一人で座り込むユーコの元へと跳んだのだが──
「ユーコ、ごめん!」
「これはまた・・・流石ね?」
既に捕縛を完了し、犯罪者の隣で一息をつくユーコにお詫びした。
「もう! おそーい! 一人で片付けるって数じゃなかったわよ〜」
私はユーコの頑張りに免じて思案する。
「片付けが完了してるって事は、なにかご褒美をあげないとね?」
だが、ユーコは大変失礼な反応を示した。
「ご褒美!? カ、カノン、大丈夫? 調子悪くなってない?」
「私を冷酷なだけの女と思ってたの?」
「い、いえ、滅相もない」
私は萎縮するユーコの謝罪を流し、改めて褒美とする物を考える。
「まぁいいわ・・・ユーコが欲しいと思う物で可能な物だけ用意するけど?」
ユーコは私とフーコが驚く物を願い出た。
「じゃ、じゃあ! 二階の肉体をお願いします」
「「へ?」」
ユーコは〈遠視〉していた事を明かした。
「いや、作業中にフーコがさ?」
私はフーコと困り顔で視線を交わし──
「あー、安曇の復元体の事?」
ユーコの言わんとする褒美に理解を示す。
「うん。私も二階とね? だから」
私はユーコの拠ん所ないモジモジとした雰囲気と過去の記憶から察しフーコと話し合う。
「それならどこをもぐ?」
「二階なら美尻じゃない?」
「それなら時間停止解除前に一度剥いて、尻肉をもぎますか」
結果、二階の復元体を用意する事になった。私は犯罪者を小島の牢獄へ強制転移させ、二人と勇者達の居る岸壁へと戻った。
ユーコも二階との諍いが無きにしも非ずという感じだったが、こちらは二階が一方的にユーコを毛嫌いした事が発端のようで、記憶の改ざんとともに二階の大きな美尻を根元から抉り取り、千切れた臓器と骨盤が見えたあたりで治療した。
手順はフーコが行った手法を真似、ぷりんとした尻肉の傷面をひっくり返し、最上級ヒーリング・ポーションを振り掛け、二階の体を再構成させた。これ自体は魂が少量だけ残る器だが、私は安曇の器を取り出したフーコの願いと共に両復元体に分離体を宿し、勇者とは別者として管理する事となった。
安曇奈津の復元体は〈ナツミ・エクサ〉と。
二階紗綾の復元体は〈サヤカ・ミラー〉と二人は名付け、共に亜空間庫に戻し、追々服を着せる予定だろう。
§
その後の私達は船に戻り、先んじて戻っていたユーマを甲板で労いつつも飛空船を自動航行で海上に戻して一息ついた。
「後始末も完了したし、勇者関連もしばらく無関係でありたいわね〜」
「ですね〜。そういえば、姉さん達がなにかやってますけど?」
「あー、友達を回収したから身内として楽しむそうよ? ニナ達と扱いは同じだけど」
「なるほど・・・それで素っ裸のままだったんですね」
ユーマは若干引き気味に苦笑しているが、甲板から見えるダイニングでは現在進行形で百合百合しい行いをしている二人が居たのだ。私は苦笑気味にダイニングを一瞥しつつも、ユーマにシオンの居場所を問い掛ける。
「夜のお供にも出来るしね? それよりも、シオンは?」
「自分で電撃縄を結んで風呂場で痺れてましたよ?」
「勝手に感じたか・・・まぁいつかはヤルと思ってたけど、水圧浴よりはマシでしょうね」
「どうかしたんですか?」
「いや、水圧浴って私にも刺激がくるのよ・・・正直言って勘弁して欲しかったのよね。お腹の違和感から油断すると私もトイレの住人になる事が頻繁にあったから」
「あははは・・・それは大変でしたね」
「全くよ・・・昔やらかした事とはいえ、あそこまでハマり込むとは想定外だったわ」
シオンの性癖は時に私にまで及ぶため、今回のビリビリは安心出来る話だった。私には雷撃耐性があるため、電撃縄の痺れは影響しない。
そして、この耐性はシオンだけには与えてない物のため、縛ってる最中に直撃して、思いついたのだろうと私は察したのである。
例の水圧浴以降は予想外の行動に出ると予見した私はシオンへの刺激を控えていたの。
その所為で水圧浴に行く頻度が増え、早急に対策をとった事で私のお腹は電撃縄に護られた。重要な話し合いとか創造中の違和感とか勘弁ならなかったのだから。
私はこの後の予定を〈スマホ〉で確認しつつ、ユーマに指示を出す。
「さて、今日はこの場に停泊して・・・翌日から移動を再開するわよ」
すると、ユーマは怖ず怖ずという様子で進言する。私が停泊準備の最中と気づき、邪魔しないよう様子を見つつ。
「あの? 少し待って貰えますか?」
「どうしたの?」
「いえ、直ぐに直ぐ判る事ではないのですが、鱗の件で待たされてるので」
それは探索者ギルドに買い取らせたドラゴンの鱗の事だろう。
私は先日の事を思い出して首を横に振る。
「あー、あれは損したと思って諦めるしかないわよ?」
「へ? どうしてですか?」
「私も踏破後に売ったらね? 一枚あたり、銅貨一枚・百リグで買い叩かれたから」
「え? そんなに安いんですか?」
「見る目の無い者が鑑定したのだろうけど、従来なら一枚あたり、大金貨一枚・一千万リグで取引される物だったの。そもそも人族が一人で狩る魔物じゃないから偽物と思ったのだろうけどね?」
「に、偽物・・・」
「ええ。品質鑑定では聖獣扱いだったけど・・・あり得ないとしてね?」
「人族の欲望って計り知れないですね」
「まったくだわ。1メートルの鱗を五枚売っても、銅貨五枚・五百リグとか」
「へ? 1メートルの鱗?」
「どうしたの?」
「私達のは30センチの鱗なんですけど・・・」
「あぁ。幼体と成体の差でしょうね? ダンジョンってボス部屋に入った者のレベルに応じて出てくるボスの大きさが異なるから」
「ははははは・・・なら、私達のは鉄貨扱いになるのですね」
「・・・それは、あり得るわね」
そう、この時の私達は人族の欲望は計り知れないと思い知った。それは自分達では狩れもしない魔物を偽物と決めつけ、買値との差額で利益を得ようとするのだ。探索者ギルドですら碌でもない事が判る話である。
ただこれも石頭に差し上げた上級ポーションの時点で判っていた事でもあるため、指定品以外は私達の手元に残して装備に加工した方がマシと思った私であった。
§
そしてその日の夜。私は寝静まった仲間達の様子を眺めつつもログハウスとは別の亜空間へと移動した。この亜空間は私の亜空間庫と同じ空間で一種の作業小屋という体がある場所だ。
「さて、結局十京の保有魔力も使う事がなかったし、いっそのこと大きな船でも作りましょうかね?」
私は体内の魔力を一気に練り上げ、記憶にある異世界の最新艦を思い浮かべる。船底形状はクルーザーと同じ三胴船で中心部に繋がるよう台形の形状を施し、動力部などはクルーザーと同じ仕様で加工していった。
操船は風魔法ではなく水流操作の魔法陣で行うためスクリューは存在しないが、フジツボ対策として張り付く生物が居た場合を想定し、表層を反射結界で覆い、張り付くという行為に対して剥がれるという付与を行う物とした。
これも水流操作の魔法陣が機能不全を起こさないための物であり、水中を行く魔物が一瞬でも触れた場合は〈反転して逃げる〉または〈死ぬ〉という物とした。あとは停泊時を考慮して〈隷属陣消滅〉と〈時間停止〉の〈多重結界〉を用意した。隷属陣消滅は不意打ちで衣服や体表面上の積層結界に付けられる異物を除去する物だ。
一応、時間停止結界を介すだけでも影響は無くなるが外に出ると再活性するので完全除去を前提に船内の復元組という人族達を護る意味で用意した。それと内部のバラストに関しても純水で満たし、水が多すぎる場合は純水用の亜空間庫と繋げ、船体がひっくり返らない仕様とし碇の代わりに空間固定を行う物とした。
そのうえでドラゴンの鱗を利用した〈魔導ステルス〉を搭載した。これは私とシオンが倒したボスドラゴンが魔法無効と物理無効の鱗を持った尋常ではない強靱さを持つドラゴンだったためであり、その鱗を用いれば例の白い外装を補強すると予測して施した物である。
ちなみにそんなドラゴンを倒す唯一の方法は〈白い外装〉を作る際に使う力だけであり、加工においてもその力でないと形状変化が出来ない。ある意味、人族には絶対に扱えない代物という事で買い叩かれたのだろうと改めて思った私である。これも良くて城壁に貼り付けて使うくらいしか出来ないであろう。
「次は、動力部に緊急用の浮遊魔法を施して・・・物量的に巨大になりすぎたわね・・・まぁ、この世界の軍船に比べたら中型だし、人数が増えても対応出来るようにしないとね。それと侵入者対策で外との出入口だけは〈隷属陣消滅結界〉を施して経路も亜空間を経由させるようにして、内部時間は外と同期で問題ないわね」
ともあれ、その後の私は船内に入り内部で生活する眷属達の部屋を用意した。一部の客室だけは亜空間としたが他は通常空間として組み立てた。個室にはシャワーとトイレを完備したので大浴場に行かずとも汗を流せるだろう。トイレも集団用と個人用に分け、フロア毎に行き来が可能な物とした。
この内部構造は艦船というより、豪華客船という様相になった。一応、ログハウスに直通となる扉を指揮所の近くに用意し、行き来可能な物とした。
なお、操船を行う船橋と後部甲板、上部監視台は艦船と同じ見た目になったが、後部甲板の下部倉庫にはいつもの飛空船を片付けるため仕様としては仕方なかった。
後部甲板にある上部倉庫も亜空間庫そのもののため、私達以外は出入り不可となるが。
肝心の船体の見た目は真っ白な鉄板を覆う鱗の色により、見方によっては灰色の艦船に見えた。
主要装備は光線銃を主砲とし、副砲で炎弾やら水弾などの魔法弾を打ち出すランチャーを亜空間庫経由で設置した。打ち出す方法は光線銃と同じで亜空間を経由して直下または直上よりゼロ距離で炸裂させる物とした。
そうして船体が粗方完成した直後──、
「これはまた・・・やっぱり身内だから?」
「ドヤ顔の姉上を思い出したわ・・・」
背後からミアンスとアインスが顔を出す。
姉上とアインスが言っているが私はなんの事なのかきょとんとしてしまった。
「? どうしたの急に・・・しかも珍しい組み合わせで」
「ユランスが面白い事になっていると言ってたから、様子を見にね?」
「ユランスが?」
「そりゃあ、この空間でこれだけ大きな船を用意すればね?」
「なるほどね。それは気づくわ・・・てことはアインスが来た理由は?」
「ええ。船籍を用意したわ・・・表では浮遊大陸の物だけど偽装する物としてね?」
「それは・・・ありがとう?」
「気にしなくていいわ。勇者達へのお詫びも兼ねてるから・・・これは妹からね」
「妹・・・ああ。召喚契約で動けない?」
「そ。ドラゴンの鱗の正規買取金としてね」
「あらあら。気にしてないのに」
「私達の気持ちだから受け取って貰えると助かるわ」
女神様が二柱で現れた理由は明確であった。それは下界活動の拠点となる船を用意した事で問題が無いか把握に来たようだ。
後はギルドの尻拭いもかねていたようで私は渋々だが報酬を受け取った。女神様にも面子がある、それを思い出して。
「それなら、内部でも見ていく?」
「「もちろん!」」
そこから先は内覧会となった。
興味津々の女神様達は、その都度質問をしてきたので、私は終始引き攣った笑みのまま質問に応じた。




