第67話 吸血姫は片付けに邁進する。
ひとまずの戦況は一旦収束した。
それは小舟を海の藻屑へと変化させ浮遊大陸由来の魔道具や魔具が一切合切消えた事で小島陣営が瓦解し遁走を始めたからだ。私は還元魔法を時間停止結界へと切り替え再展開した。
「さて、残りのお掃除を始めましょうか・・・その前にナディとショウを呼んで船の護衛を」
私は呆ける四人を相手に指示を出す。後は念のため空っぽになる船を護る人員を上界から呼び出した。
「「「「お掃除?」」」」
「ええ。この二つの島は時間停止結界で覆われてるから、逃げる犯罪者は捕縛して魔力とレベルと経験値を奪っておくの。それと勇者達には癒やしと断罪をね? 石頭はとりあえず完全なハゲに変えて転化させる予定よ」
「それでお掃除か・・・」
シオンは私のお掃除と聞き、納得したようだ。ユーコ達も何度も頷き理解を示していた。
特に石頭の視線に関しては全会一致で断罪せねばと話し合っていたのと先ほどの素っ裸の件も相まって誰も反対はしなかった。
これはミアンスのメッセージ越しにアインス達からの許可を得た話であり勇者が異常性癖者というのは見過ごせないらしい。
私はナディ達が甲板に現れた事を把握して個々に指示を出す。
「それじゃあ担当を決めるけど、シオンとユーマは小島の捕縛を。ユーコは海上に散乱してる者達の捕縛を。フーコは私と勇者達の元にね? 勇者達の癒やしと断罪が終わったらユーコの手伝いにまわるから。それと電撃縄は各自の亜空間庫に仕舞ってるから足りなかったらメッセージしてね?」
「わ、判ったわ、ユーマ行きましょうか?」
「はい。シオンさん」
「サッサと片付けて来てよね? あの数を一人でって結構辛いから」
ともあれ、シオンとユーマは空間跳躍で小島に降り、ユーコは文句を垂れながらも空間跳躍で海上に降りた。
「じゃあ、行きましょうか。ナディ、ショウ、少し出てくるから、船の護衛よろしくね?」
「「承りました」」
私はなぜか呆けるフーコの隣に立ち、ナディ達に一声掛けて空間跳躍を行使した。
ちなみにユランスから戴いた時空系スキル及び、空間跳躍スキルは私直属の眷属達に対して下界に降りた直後より配っている。
上界であれば私とシオンに付いていって、アチコチを転移魔法で行き来していたが下界においては私とシオンであっても未知の領域のため、転移魔法が実質使えないのだ。
それもあって作戦等で個々に動く時、行ったことの無い場所が殆どのため、ユランスに許可を得て複製したまでである。
§
私達はネアレ島の岸壁へと降りてきた。
フーコは疑問を持ちながら私に問い掛ける。
「カノン? 私がこっちって、どうして?」
今は勇者達に近づき、女性陣から癒やしを始め、この世界の質素な下着ではなく私達が身につけているパンツを強制転送で穿かせ、一人一人サイズを事前に測って用意したブラを着用させていった。
これはその場で作った一点ものだけど大事に扱うといいわね? 私は装着作業の合間、フーコの疑問に答えた。
「凪への対策でね? 今のままだと絶対、どこかしらで出くわす事になるのよね? だからフーコが望むなら記憶消去を行おうと思ってね?」
なお、フーコは座り込んだ安曇と二階を浮かせ、同じように下着を着けていく。
「!? そ、それで? あ、ごめ〜ん! なっちゃん! 痛いの痛いの飛んでけ〜」
フーコは安曇のブラを着ける前に揉んでいたが驚きの余り安曇の両胸をゴッソリと根元からもいでしまった。
フーコはもいでしまった安曇の両胸を自身の亜空間庫に回収しながらも、光属性の最上級ヒーリング・ポーションを振り掛けて元の形状に戻していた。
すると、なにを思ったのか?
もいだ両胸をこの場に戻し最上級ヒーリング・ポーションを振り掛け、傷の表面から安曇の肉体を復元させて自身の亜空間庫に回収してしまった。同じ場所に二つの肉体。
私はフーコの意図をすぐに知る事になる。
「あ、あのさ? この子にもニナ達みたいに・・・?」
「あー、はいはい。後でね?」
用途はニナ達と同じ扱いとするつもりだろう。不意打ちでもいでしまったが部分的でも元に戻る事を願って回復させたらしい。
これも安曇の魂が近くにあるから出来た事で普通なら不可能な事だった。
それこそ、どうするつもりか知らないがログハウス内に戻った時の愛でる用途で手元に残したのだろうと推測する私であった。
これも〈なっちゃん〉と愛称で呼ぶ程、仲が良かったという裏話があるからだろう。二人の関係を壊した者が兄という異常者だった。
以前話していた事を思い出した私である。
ともあれ、フーコが安曇の胸の再揉みを止めて二階の生尻を撫でたあたりで会話を再開する私である。
フーコの行動は完全にエロオヤジだったが。
「・・・でね? 前回みたいなイザコザって女神様的にもあまり良くない話らしくてね。出来るなら無関係であって欲しいそうよ。それが平定した後ならともかく、今のままだと使命を無視するから最悪勇者の地位を剥奪し・・・まぁ一名は剥奪確定だけどね?」
「・・・た、確かに無視してた」
フーコは戦闘中の元兄を思い出し何度も頷いた。そして慌てて安曇と二階の下着を着け、二人に似合う私服とローブを亜空間庫から取り出して身につけた。
このどれもが一点ものだけどフーコにはレベル的に着られなくなったお古であり、装備としては最上級の魔具なので餞別としたのだろう。
ローブの裏地にはフーコ・エクサと刺繍が入っているものでレベル上限は90であり、今のフーコがレベル98だからこそ使えない代物となっている証拠でもあった。
私はフーコの頷きをもって視線の先で呆ける肌色が目立つダ〇デ像に意識を向けた。
「でしょう? だからこそってね?」
「な、なら、お願いします」
「じゃあ最後に消しましょうか。先にこっちを片付けないとね?」
そう、女性陣の装備品だけ戻し、野郎共は褌だけ穿かせて放置し、固まる野郎共の内、目的の剥奪者に近づく私達であった。
「外道ってなんでこんなに褌が似合うの? 妙に堂にいってる気がするよ?」
「脳筋だからでしょ? 他はひ弱だから似合ってないけどね? さて、こいつの毛という毛は毛根まで根絶やしにして・・・」
「薄毛を気にしてた石頭が禿頭になっちゃった〜! 全身ツルッツルだぁ〜」
私は石頭の後頭部を含めた毛根を死滅させ、ツンツルリンな裸体を開陳させた。そして本題である例の尻尾の改良版を腰部に押しつけるとフーコが興味深げに質問してきた。
前回は雌の猫獣人としたが、今回はどうなるか教えてないのだ。
「次いで、この尻尾を押しつけて〜」
「この尻尾・・・種族はなにになるの?」
「今回のは改良版ね。それも宿主の魂に反応するから、なにになるか不明なの・・・あぁ毛のない馬になったわね?」
「種付け大好き馬獣人?」
「種族はともかく性別は変わらなかったわね」
「人それぞれって事?」
「ええ。今回の魔道具は前と違っててね? 持ち主の魂がどっちにあるかで反応するから。仮に昔のユーマだったら女に転化してただろうけどね?」
私はユーマを例として違いを示した。
ユーマは再誕時に転化したが、この魔道具を使えば女性獣人と化したであろう。ユーマが獣人となるなら犬獣人だったかもしれないが。
フーコは私の例だけで察し転化して褌を破った物に視線を向ける。所詮は獣人の物なので私達は恥ずかしいとは思わないが。
「なるほど〜。だからこっちも馬並と?」
「ね? この世界には露出罪が無いから今からタマナシに変えましょうか?」
「それがいいかもね? 不用意に女子を襲う可能性もあるし」
「なら一時的に作った火炎刀で去勢しますか・・・よっと! 落ちた物と刀は還元してっと」
大物を持つ馬獣人は私の手によって去勢された石頭ならぬ禿頭となった。
フーコも十字を切り、少しは大人しくなる事と期待する祈りを捧げた。
「あらら〜。ホントにタマナシになっちゃった〜。これってポーションで治るの?」
「さっきの胸と同じで、この場で直ぐに癒やさないと結界内で出来た傷は治らないわよ? 時の流れから隔離されてるし」
「残念無念・・・禿頭よ永遠に」
ちなみに時間停止から解放した瞬間、当人は痛みなくタマナシと知り絶望すること請け合いであろう。物が大きくとも、選民思想の遺伝子はこの世界には不要なのだから。
私は残り者の元へと向かい〈無色の魔力糸〉を伸ばし、魂に宿る記憶のみを選択した。
「じゃあ、元兄の記憶を奪うわね?」
「うん、お願いします」
私はフーコの願いの元、フーコとの記憶を奪った。その記憶はハッキリ言って気持ち悪いの一言だった。確かにフーコが男嫌いとなる理由そのものが残っており、味は淡泊だが一種の悪意めいた物もあったので、それなりに楽しめた私である。ただ、その後の私はどの辺りで止めるか悩む。
「過去の・・・昔はマトモだったのね」
そのうえでフーコに問い掛けると、フーコは懐かしい記憶が蘇ったのか懐古的な雰囲気で当時を語りだした。
「昔は・・・ね? 性教育を学んだ後からが酷かったの」
「じゃあ、幼少期のみ残して改ざんしておく?」
「改ざん?」
「そ。養子で家から離れたって事でね?」
「なら、安曇家でお願い出来る?」
「いいの?」
「うん。一時期そういう話題も出てたから・・・お兄ちゃんがオカシクなった後でね?」
「それなら、回収した方と本体の記憶も少しいじる?」
「うん。誕生日的には、なっちゃんの方が後だから」
「お姉ちゃんって事ね。了解よ」
という事でフーコの願い通りになるよう、安曇奈津の方にも〈無色の魔力糸〉を伸ばし、双方の記憶に齟齬が現れないよう、書き換えた。回収した肉体も同時に書き換えたので齟齬は起きないだろう。
なお、三人の関係上・・・二階紗綾と他の二人は無関係であり、事情を知らない者だったが、念のため記憶を読み取ると該当する項目があったので、こちらも書き換えておいた。それはフーコと安曇の争いを眺めて楽しんでいたゲス達である。
それを姉妹喧嘩として書き換え、元兄が発端ではなく二階紗綾を奪い合う内容に変えておいた。
そう、安曇奈津と二階紗綾が最近までは愛し合う関係とし元兄は無関係者として変化させたのだ。
今は逆にお互いの関係は薄くなり、程々の関係を結ぶ仲として指定した。そのうえでフーコはユーコに乗り換え、今なお愛し合う関係として焼き付けたのち書き換え処理を終わらせた。
肝心のフーコは女の子なら誰でも良いというエロオヤジな残念女子へと変じたけれど。
「百合百合しい記憶となったけどまぁいいか」
「なにをどうしたの?」
「この二人が男に興味を無くした記憶にしてあげた」
「おぅ・・・男子達乙」
「どのみち、あっちの黒白コンビも愛の形が違う百合コンビだし気にするだけ損でしょ?」
「あれも百合だったんだ・・・」
「記憶を読む限りはね? 黒の性癖はSと思ったけど実はMで、白が逆にSだったわ。夜は二人で愛し合ってるみたいだから該当項目だけいじったわ」
「愛の形はそれぞれなのね・・・」
「さ? ユーコが嘆いてるから手伝いに向かいましょうか?」
「うん! カノン、ありがとう」
「気にする必要はないわ。眷属のためだもの」
「うん! それでもありがとう!」
こうして、この勇者達との関係はこの場で最後となり、私達は一人で捕縛に尽力するユーコの元へと空間跳躍した。
§
なお、時間停止結界を解除した直後の勇者達はというと。
「うぉ!? なんでお前、褌なんて着けてるんだ?」
「いや、お前も着けてるだろ?」
「あ。ホントだ? いつの間に?」
男子達は揃って股間のそれに驚愕を示し、脳筋に至っては──、
「おぉ! この世界にも褌があったとは!! やはりコレが一番だ!」
元々褌愛好者のようで、大いに喜んでいた。この布は世界最高の素材であり通気性も良いだろうから今後も大事に使うだろう。一方、女子達は・・・大絶賛の真っ只中であった。
「え? 裸だったよね? なんでローブといいあっちの下着や服を身につけてるの?」
「それよりもさ? 全ての装備が鑑定不可って出るんだけど?」
「どういう事? 〈鑑定〉可能なスキルレベルに達していませんって?」
「わかんない。でもさ? このローブの生地とか魔力の通りが凄いよ?」
「え? ホントだ・・・凄い反応が早い! 今までの比ではないかも!」
「ん? 裏地になにか・・・お姉ちゃんのペンネーム? レベル90までこれで頑張る? どういう事? レベル? もしかして・・・この世界ってレベルの概念があったの?」
「へ? どうしたの?」
「ううん。なんでもない」
フーコのローブの裏地を見た安曇は改ざん通りに姉と呼び、刺繍の文字列に困惑を示して一人で呟いていた。
そう、安曇だけはレベルの概念に気づいたため、今後も彼女達だけは要監視とした私である。一方、黒白コンビも大絶賛であり、お互いに素が出ていた。
「見て! 下着が変形カボチャじゃなくなった!」
どうも、この変形カボチャとは尻だけ剥き出しとしたパンツだったようで、この二人はお互いに同じ下着を穿いていたようである。こちらに来てからはブラも着けてなかったらしく、その悦びようは凄かった。
「ホントだ! ブラまである!!」
「なにのこ肌触り・・・気持ちいい」
「コウコ、トリップしてる場合じゃ・・・」
「アンコ、この際、気にしたら負けよ」
「そ、そうね・・・気持ちいい、パンツの肌触りが今までの比ではないわ」
「でもさ? いつの間にこの下着を?」
「さぁ? 一瞬の内に誰かが着せたとしか」
フーコの元兄は一瞬呆けるも──
「俺は一体? そうだ、戦闘途中で・・・こうしちゃいられない、石動先・・・え?」
使命を思い出し、もう一人の教師に視線を向けて絶句する。そこに居たのは・・・馬だった。
「どうしたんだ? 俺の顔見て驚いて?」
「え? 石動・・・先生?」
すると、男子達も元兄の反応から禿頭に視線を向けて驚く。
「え? 馬・・・」
「「デカっ」」
「負けた・・・」
「「「おいおい」」」
負けたとするのは脳筋であるが男子達は負けて突っ伏す脳筋にツッコミを入れつつ、状況が読めないでいた。すると今度は女子達が反応し・・・絶句ののち怯えた。
「「「「!? 怖っ」」」」
それは晒された大きな物に対する怯えでもあり、嫌悪感の湧く姿に視線をそらした。
直後、二階紗綾が大声を張り上げ兵士達を呼ぶ。
「衛兵! 素っ裸の獣人が居るから連れてって!」
「「「は!」」」
「お、おい! 俺は違う! 俺は勇者だ!」
「はいはい。どこから紛れ込んだかは知らんが、どこかの奴隷小屋から逃げてきたんだな・・・タマナシって事は奴隷だろうし」
「は? タマ・・・ナシ?」
「おいおい・・・さっさと連れていけ!」
しかし、獣人は迫害されているため、どれだけ騒ごうとも取り合う事はなく禿頭はそのまま奴隷小屋へと連行された。
すると、二階紗綾は不意に気づく。
「あれ? 先生は?」
「おいおい。多分、さっきの馬が先生だったと思うぞ?」
「またまた〜ぁ。あれはどう見ても馬獣人だったわよ?」
「でも、この場に居ないというのは?」
「どうせ逃げたんじゃない? あの後、私達の全裸見て下品な顔してたから」
「そうか・・・確かにそれなら理解出来るか。俺達も白い目で見てたし」
「だな。性犯罪者は勇者である資格ナシだわ」
しかし、上手く言いくるめられて馬獣人となった禿頭は彼等の記憶から消えたようだ。それは当然、フーコの元兄も同様に頷いたので聖職者の資格ナシとしてパーティーから除外されたのであった。
ただ、盗賊まがいの事を誰も認識してないのは可哀想な話だった。頭が・・・という意味で。




