第66話 反撃でハゲを増やす吸血姫。
時は少し遡り。
戦端が開かれた直後の地上では。
脳筋外道の娯納起矢が愉悦を浮かべた顔で火弾をバンバンと撃ちまくっていた。
「撃て撃て撃てぇ! 小島の勢力がなんだ! 俺達は勇者だ!!」
同じように火弾を撃つのは・・・SMコンビと呼ばれる鞭を持った黒田闇子と平面胸と尻だけを晒した半裸姿の白田光子が公衆の面前でオカシナ事をしていた。
「コウコ、右手上空に撃ちなさい!」
「はい。お嬢様、あ!」
「違うでしょ!? 右手はお箸を持つ方よ!」
「も、申し訳ございません、あ!」
それは右手上空に撃とうとしていた白田光子の尻を鞭で叩いて照準を狂わせ、なぜか怒鳴りつけるという変態極まる行為である。シオンはそれを見て「いいなぁ」と言ったのは聞かなかった事にした。
次いで飯嶋が指示を飛ばしながら補助魔法を撃つ準備を行っていた。
「娯納! 撃つのは良いが、マナ・ポーション飲むの忘れるなよ!」
「わーってるって! 飯嶋」
「どーだか。次、風の補助いくぞ、遠方に三百」
「おう!」
パッと見は連携が取れた様子であった。
こちらの指示は良識派のド変態、江草凪が行っているようだ。
だが彼は目前の戦闘よりも──、
「楓はどうすれば助けられるのか・・・」
フーコの事に思考を巡らせ、フーコから嫌悪ままに魔力を吸い上げられていた。
「忘れてしまえ! クソ兄貴!」と嫌悪のままに不味い魔力を戴くのだから嫌い嫌いも好きのうち・・・という話だろうか?
状況によっては記憶消去も視野に入れようと思った私である。
一方、元々絡みのあった石頭達はというと。
参謀として来ている 川添と錫木だけが〈隠形〉スキルを使って固定砲台の後ろに隠れて戦況を見守り、石頭が安曇と二階に指示を飛ばし、石頭が照準補助を行いながら風魔法で火弾を送り届けていた。
「小島に五百、それぞれ二百五十用意だ!」
「「は、はい! 先生!!」」
パッと見、安曇達は言う事を聞いているようだが・・・石頭の視線は二人の尻へと向かい背後からネットリと視姦していた。
この視線には二人も気づいていたようだが、今は我慢と嫌悪を隠して応じていた。
ただ、ここまでは優勢だった。
しかし、ここから先は劣勢となった。
「小舟が浮いてる・・・」
「た、弾が当たらない!?」
「矢が飛んできた!?」
「物理防御結界、急げ!!」
小島側が反撃として温存していた小舟を出してきた。そこから先の勇者達は瓦解した。
直後より防戦一方となり隠れ者達までも戦闘に参加し火弾を撃つはめになった。
勇者達も温存していたのだろうが数が数であり、一人はフーコのお陰で魔力切れが訪れて後衛に舞い戻る。
「お、おい、あの船はなんだ!?」
「ぞ、増援か? う、撃て! 撃ち落とせ!」
その直後、私の飛空船が上空に現れた事で戦場は乱れに乱れた。そして私の怒りの反撃が始まり・・・勇者達は目を見開いて驚いた。
石頭は爛々と目を見開いた。
「!!?」×10
私の反撃で勇者達は一瞬のうちに素っ裸となり、安曇と二階は石頭の歓喜が宿る気持ち悪い視線と股間の汚物に怯えるように座り込んだ。
「い、い、一体なんなの!?」
「なんで私達が裸に!?」
一方、〈隠形〉したまま火弾を撃っていた 川添と錫木は石頭の背後から白い目を向け、ボソっと呟いた。
「なぁ? 先生・・・ハゲてね?」
「それは言うなって。元々薄い事を気に・・・ホントだ。後頭部が見事にハゲて〜ら」
「ま、俺達の装備もハゲてるけどな」
「なんだったんだ、今の光?」
§
こちらの時も少し遡る。
私は戦端が開かれた直後より各員に指示を飛ばす。
「はいはい。シオンは底部に魔法障壁張ってね〜。とち狂った勇者達の火弾が飛んでくる事だってあるんだから」
「はい・・・」
「元気出しなさいな・・・それなら風呂上がりに電撃縄で縛ってあげるから」
「へ? 電撃縄ってなに? なにか物騒な響きがしたけど・・・?」
「それは後! 先にやることやって!」
「う、うん」
それは船体を浮遊させる事で・・・小舟同様に狙われる事を予見したのだ。私が個々に指示を出す間、ユーコ達は縄の話題を恐る恐る話していたが。
「カノン、例のビリビリ使うんだ・・・」
「先日の勇者相手に使った時は・・・ビックリしましたね?」
「ね? クソ兄貴が色々と漏らして汚物と化したから〜」
実は出航前にも勇者達とイザコザがあり、今度はフーコを返せと騒いだので強制転移で海水に落とし、陸地に戻しながら亀甲縛りで電撃を与えた。その時、シオンはログハウスに居たためこの事態を知らず、この三人とユウカとショウだけが・・・ある意味で怯えたのは記憶に新しい。
ちなみにナディだけは速攻で縛って欲しいと願ったので、入浴後の濡れた肌のまま行うと、身悶えし気持ち良さそうにイッていた。それはともかく・・・私はユーコ達にも指示を飛ばす。
今のまま話していても埒が明かないからだ。
「そこの三バカも働く!」
「「「バカって言わないで!!」」」
「なら縛られたい?」
「「「なんでもありません!」」」
「ユーコは左甲板、フーコは右甲板、ユーマは中央・前部甲板で待機ね? どの方面で被弾するか不明だから。シオンは中央・後部甲板で待機してて」
「「「「りょーかい!」」」」
私は底部に張った魔法障壁の内側を起点に還元魔法陣の展開を開始する。今は400メートル上空を横移動し、小舟よりも高い高度から状況を見守っていたのだ。ただね?
浮遊移動しているからだろうが、数発ほどの砲弾やら火弾がこちらにも飛んできた。
未知なる敵として狙う小島側。
小島の増援と勘違いする勇者側。
流石に船の形状を見たら判るだろうが船とは浮かない物と思っているらしく固定観念の固定砲台な勇者達にとっては敵同然だったようだ。
私は怒りのままに使う予定の無かった光線銃を起動させた。
「うっとうしい! 多重射線解放! 魔力充填開始! 照準、ネアレ島固定砲台のバカ達!」
直後、勇者達の上空から背後をかすめるように、光と熱を宿した光線が一直線に陸地へと突き抜け大穴を地面に開けた。パッと見は落雷。
だが当人達には落ちず、背後スレスレでかすめ大穴を音もなく開けた。当然、熱を宿した浄めの光のため勇者の装備は炭化し裸体を残し呆然と立ち尽くす。
ちなみに石頭だけは後ろに動いたためか頭皮まで髪が削れ、後頭部のみがハゲとなった。
その一瞬を目視していたシオンを含む一同はきょとんと呆ける。
「「「「へ?」」」」
「初弾・・・着弾成功っと。第二射は小島側の魔石! 発射!」
私は戦果に安堵を示し呆ける面々を無視して次なる狙いを定めた。
その光景は完全なる蹂躙戦の様相となった。それは縦横無尽の光線が場所を問わず小舟の魔石だけを貫き、小舟を次々と海の藻屑へと変化させたのだ。
そのうえ陸地に残る魔石と砲台を打ち抜き、なぜか淫魔族の魔石・・・魔核までも打ち抜いた事で小島側は死屍累々な状態へと変化した。
「淫魔族の死滅を確認っと・・・意図せず倒してしまったわ・・・ま、戦場に居たのだし仕方ないわね」
という事でゴミ掃除を終えた私は目的の地点に到着し内側で展開していた無色の還元魔法陣を外側へと転移させ、完全展開で小島とネアレ島全域を覆い・・・該当魔道具と魔具だけを魔力還元した。
この還元魔法陣の指定は装備品などではなく浮遊大陸由来の物品のみを指定したのだ。
それもあって、この船も対象となるので陣の裏側に回り魔法障壁で防御したのである。
だからだろう魔法障壁の意図は火弾から護る以外にもあったので──、
「それならそれって言ってよ〜」
魔法障壁を張ったシオンからの呆れのツッコミが入った私であった。




