第64話 人族の欲望に呆れる吸血姫。
(まったく、あの子達ったら。喧嘩を吹っかけるバカは勇者だけだし残りは任せましょうか)
私は支部でやらかしたユーコのドジを呆れながらも受け流した。元より任せている事案でもあるため、少々のゴタゴタは個々に解決させなければ意味がないからだ。
それはともかく・・・私はこの場に残る者達へと意識を向けた。
「そういえば・・・ナディ? ショウとユウカは? 畑にポーション素材を取ってきて貰おうと思ったのだけど」
先ほどまで監視を継続しながら各種ポーションを拵えていた。これはポーション作成が可能な者としてギルドで買い取るという依頼を受けたからだ。
では、なぜこうなったかと言えば、石頭あてに手渡した光属性の上級ポーション。
品質鑑定したら最上級に匹敵するという事で手渡した途端にね? その場で買い取られて代金はギルド口座に入金されたの。
そのため上級ポーションは石頭に渡る事なく残念な事に本部送りとなったのだから石頭は完全放置という哀しい運命を辿ったようだ。
これも結局、勇者自身は自力でなんとでも出来ると思われているらしい。
ともあれ、私の問い掛けにナディはきょとんとした顔で応じた。ナディは私の補佐として素材の下拵えをしていたのだが、意識は仕事モードだったのか状況が読めていなかったようだ。
「へ? あぁ! 確か・・・お風呂に行ってますね? 主にショウにユウカが引っ張られて」
「あー、致してるって事ね? まぁ無駄に体力を使い果たす事はないけど・・・素材が必要だから呼び出して貰えるかしら?」
「承知しました」
返事したナディは嫌々ながら風呂場へと向かい・・・扉越しから呼び出していた。ただ、脱衣所の扉を開けた瞬間、ユウカの嬌声だけが響いたので完全に受けだと察した私であった。
(ショウの技量、侮れないわね・・・時々覗き見してリンス向けに覚えましょうか・・・)
元より、シオンやナディ対応はいつもの事なので問題ないが百合に関しては最近発覚した性癖なので、私も感じるところを狙い撃ちしているに過ぎなかった。でも、シオン達と同じような焦らしも時には有効と知り、リンスが聞けば震え上がる事を色々と考える。
「ま、リンスが降りてきた時にでも試しましょうか・・・最近は構ってなかったし」
リンスが知れば「ほどほどでお願いしますぅ〜」という涙を浮かべそうな内容であった。
その後は・・・何度もイッたユウカを救い出しショウには罰として尻尾撫刑をナディに行ってもらい裸で悶絶するショウを、お疲れ気味のユウカと眺め、今後の事を考える私であった。
(獣人は尻尾が弱いから・・・度を超したら微量魔力を流すしかないでしょうね・・・)
そう、ニーナやショウが聞けば怯える事、必至な対応である。ナディは喜ぶのでその限りではないのだが。
§
一方、私が乱れに乱れたユウカを癒やしている最中の事──、
「短杖が、大金貨十枚・一億リグってハンパない売れ方したわね〜」
「踏破報酬としてだから破格であるのは確かみたいですよ? 一種の宝具ですし」
「ということは人族にとっては垂涎の代物なのね〜」
「どのみち、レベル指定で上限80の者しか扱えない代物だから私達だと魔力を流した途端にポキッと折れるのよね〜」
支部からの帰り道、ユーコ達は買い取られた品物の話題で持ちきりだった。それは踏破報酬の宝具の事であり総売り上げが日本円換算で十億円という事を知らずに大喜びしていたのだ。
ちなみにユーマの刀も宝具だが、こちらは下限90・上限200というレベル指定があるため、踏破者のレベルから差し引き算出される上限指定のようだ。これは私が使うと一振りでポキっと折れる上限であり、人族などは絶対に持てない神器に匹敵する。
その後もユーコ達は話題を変え、消える前のボスから剥ぎ取るだけ剥ぎ取った、鱗の事を口走る。
「ドラゴンの鱗も鑑定出来ないからって、しばらく待ってくれって言われたし、例の戦闘以降で判明すればいいけどね〜」
「まぁ支払われないと思って諦めた方がいいかもね? 十枚で充分とか言ってたけど」
「所詮は人族だもんねぇ〜。知ってる? カノンが石頭に手渡したポーションの話」
「あーアレね? ナディから聞いたけど善意で手渡したのに買い取られて、渡らなかった」
「そうそう。人族の欲望が計り知れないって思ったわ。勇者に手渡す物が本部に流れりゃ勇者はなんなんだって事になるのにね?」
「所詮は余所者扱いでしょ? あの態度をずっとされれば・・・ねぇ?」
「自業自得ですね? 少しは・・・はぁ〜またお越しになりましたよ」
すると、話題の最後辺りでユーマがなにかを察し、瞬時に〈希薄〉を行使した。他の面々もユーマと同様に〈希薄〉を行使し道中に待ち構える者達に気づく。
ユーマ達は〈遠視〉を用いて気づいたため、視線の先に居る相手からは死角を含めて気づかれていなかった。
「揃いも揃って、なにしてるんだか・・・」
「私達が港に向かうルートはここしかないって知ってるから?」
「でしょうね? 殺気まで携えて・・・ご苦労な事で」
「撫でる程度の殺気って、程度が知れるわね」
そう、四人の探索者を相手に勇者十人が待ち構えていた。いつ来るかも判らないまま、無駄な魔力を保持した杖を四人に向けて。
勇者なのかと疑いたくなる行動に辟易した四人は殺す価値もないとでもいうように血気盛んな勇者を相手に徒歩で近づき隙間を抜けて背後に周る。
そして十人中四人の男共、飯嶋の背後にユーコ、錫木の背後にフーコ、 娯納の背後にユーマ、川添の背後にニーナが陣取り、息の合った回し蹴りで前のめりに倒し、アタフタする残りの六人中四人の女共の死角からユーマが首筋に鞘を軽く打ち込んで気絶させた。
ただ、その力加減は絶妙で一歩間違えれば男共の背骨が砕けるか、女共の首が折れるギリギリを熟していたようだ。
ユーコ達は倒れ伏す勇者達から距離をとり、呆然と佇む教師二人を相手に呆れながらも蔑んだ。
「大した事ないわね・・・本当に勇者なのか疑いたくなるわ」
「所詮は人族の勇者だからね? クソ兄貴の呆然とかウケる〜」
ユーコとフーコは呆ける教師二人に対し本気の殺気を飛ばして倒した。その様子を見ていたユーマとニーナは苦笑するも後始末を提案した。
「で、コレどうします? 一応は治療しないと面倒ですよ?」
「それなら、ポーションぶっかけ放置でいいでしょ?」
「それでいいか。使命を無視して盗賊まがいの事をしてるんだし」
「支部に連れて行く必要も無いしね? クソ兄貴の身体とか触りたくないし!」
四人は上級ポーションを勇者達にぶっかける後始末を行い、この場から離れた。なお、周囲の民達は殺気立った勇者様が突然倒れ、謎の光る雨で装備品やらなにやらの傷が立ち所に消えたという不可解な出来事を目撃したという。




