第58話 器無き者へと罰を与える吸血姫。
問題教師と出くわした後の私達は自身に〈希薄〉を行使しつつ船に戻り、登録を控えている者達に対して注意を行いに向かった。
それはレベルではなく魔力量で勝てない可能性があるという事を示すためだ。
今回は船から全員が離れるので時間停止結界を船全体に張り巡らせ不審者の侵入時には時間停止で捕縛するものとした。
実は船までの移動の間に問題教師のあとから四人一組の男女が歩いていた事に気づいたからだ。私は船の防犯措置を施したのち、ログハウスに移動して全員へと伝えた。
「はぁ!? い、一組が居たのぉ〜!?」×9
伝えたのだが反応は大絶叫に近く、全員が口をあんぐり開けて・・・自身が女子という事を忘れてしまっているようだった。次いで先ほどの出来事を伝えるのはユウカとナディである。
「ビックリしたわよ? 受付嬢に質問して勇者召喚の話を聞いた直後に石動倭が現れたんだから」
「しかも私達の顔まで覚えていたんだから。まぁカノン様は髪色だけだったけど」
二人の顔も驚き一色だった。
すると、その言葉を聞いたユーコは上座で紅茶を飲む私を揶揄った。
ユーコとフーコのみが驚き慣れたようだが。
「カノンは普段から黙り姫で影が薄かった証拠でしょうけどね〜」
「今だから言えるけど別に影が薄かったわけじゃないからね? その証拠に普段は野郎共が誘引されて群がる事の方が多かったもの」
「というと、あの頃から〈希薄〉を使ってたって事?」
「そうよ。力の程度は押さえていたけど・・・普段から青海や石嶋みたいなバカに目を付けられていたからね?」
ユーコの揶揄いとフーコの質問に答えたた私は溜息を吐いた。それは思い出すだけでも頭の痛い者達が多かったからだ。
フーコもそれで納得がいったようだが別の意味で不安気な顔になる。
「なるほど・・・って、それはともかく大丈夫なの?」
私はフーコの危惧するものが判らず問い掛ける。
「大丈夫って?」
「いや、石頭を殺気で倒してきたんなら・・・他の面子が動きそうじゃない?」
フーコは私の問い掛けに対し石動倭のアダ名を用いて予測するような言葉を吐いた。トマトは私だけが呼んでたわ。
私はフーコの危惧から察し困った顔でユウカ達を見た。
「あー、背後の四人か・・・」
「確かに急に倒れたという話が伝わる可能性はあるかもね?」
「それも私達と日本語で会話した直後・・・だから難癖というか、なにか」
ユウカ達も困惑を示し互いの顔を見やる。
その直後──、
「ん? 船に侵入者?」
「え?」×13
〈スマホ〉のアラートがバイブで響き私は気がついた。私の言葉を受け一同は呆けたが。私は安心させるために、一同へと教えた・・・問題が無い事を。
「侵入したけど甲板・・・いえ、時間停止結界内に飛び込んだ瞬間に捕縛されたわね。周囲には誰も兵が居ないから単独行動の末でしょう」
「そ、それって?」
私が〈スマホ〉越しに状況を把握すると、フーコが心配気に問い掛けてくる。私はフーコの心配をよそに直前を洗い侵入者を把握した。
「噂のバカ達よ。おそらく異世界式の見た事のない船という事で不法侵入を働いたのね? あとは石頭への意趣返しがあるかもだけど」
そう、侵入者はあの時に見た四人一組の勇者達だ。名前は知らないがパッと見で日本人だったため、一組の者と判断出来た。
すると今度はユウカが心配気に問い掛ける。
「不法侵入・・・勇者という免罪符が生きているなら、早くどうにかしないとマズイんじゃない?」
「ええ。だからサッサと沖合の海中に落としてあげたわ。勇者なんだから溺れるようなタマじゃないでしょう? 大量魔力があるなら、あっという間に浮上して生き残るでしょ」
私としても不法侵入が不法侵入ではなく検査目的と称されると面倒だと思い、ユウカの言葉を受けた直後より侵入者達を強制転移させた。
カナヅチではない限り、助かるという見込みを付け加えたうえで。だが、私の採った措置に対しシオンとリンス以外の一同は絶句した。
「海中・・・一組って確か」
「カナヅチの宝庫じゃなかった?」
「川ならまだしも沖合の深さで泳げる者って少なかったような?」
どうも予想外に泳げない者が多かった。
ニーナとレリィとルーが困ったように口走ったのだから。他の組はともかく一組だけ水泳が無かったのも、その所為かもしれないが。私は勇者達の行動とは真逆の彼等に対し放置を選択した。
「見なかった事にしましょうか。どのみち不法侵入した方が悪いのだから」
「あとで登録する私達にシワ寄せが来ない事を祈るわ・・・」
「ユーコ、それフラグだから・・・」
「フーコ、判っててもソレは言っちゃダメ!」




