第57話 吸血姫は残り者に出会う。
「では今度とも我が〈探索者ギルド〉を御贔屓に」
私達は〈探索者ギルド〉に登録した。
私はSランクとして、他の三人もAランクとして無事に登録が済んだ。ただ当初から予測していた反応は一切無かった。
思いのほか予想外に・・・否、呆気なく登録は完了し総魔力量を把握したにもかかわらず淡々と登録が完了した。
(浮遊大陸とは違う? 三千万MPというのは珍しくないのかしら?)
私は登録後の受付嬢達の様子を見るに大した反応がない事に怪訝になる。
しかしそういうものだとして諦めた。
それこそ、考えても仕方ない事として。
ちなみに他の三人もAランクという事で結果は総保有量という扱いで計測されたのだから、予定通りという感じだろう。
私は余計な詮索をされないよう出力制限した三千万MPで計測を終えたが──、
(実際の魔力量の方が良かったかしら?)
などと一瞬は思ったほどである。
すると、ユウカが受付嬢に質問する。
それは私の疑問をあえて聞いた感じであり、ナディ達も興味津々であった。私は〈金タグ〉のブレスレットを加工しながら聞き耳だけ立てていたけれど。
「あの? AランクはともかくSランクというのは珍しくないのですか?」
「いえ、珍しくないといえば嘘になりますが、現状で公となっている探索者・・・勇者様方であれば最大で五千万MPを保有されておりますので、そちらのカノンさんでしたか? 三千万MP程度の驚きなどはとうにありません」
「え? 勇者様?」
だが、受付嬢のあっけらかんとした説明にユウカは呆け、オウム返しのまま問い掛けた。三千万MP程度という物言いは慣れから出た言葉だろうが。
(良かったわ〜一億MPが知られなくて! 一度でも登録するとSランクに限れば上限値は計測しないらしいし、出力制限万歳! 〈魔力炉〉に火入れしてたら京を超えてたけど)
私としては出力制限してて良かったともとれ下手に多ければ勇者なる者達と同列視されかねなかったのだから。だがこの質問を受けた受付嬢はユウカに対し訝しげな視線を向ける。
「ご存じないのですか?」
ユウカは咄嗟の判断で浮かんだ言い訳を発した。
「ええ。船旅に出て船上で自給自足しておりましたので。登録もたちまちの路銀が尽きたので仲間と相談して残った資金で」
それが功を奏し受付嬢は察しつつもユウカに説明した・・・が、言葉尻と共に小声に変化し周囲に気づかれないよう事情を打ち明けた。
「なるほど・・・そういう事でしたか。いえ、公表されたのは半年前でしょうか? 余りにも戦争が激化したため、中立国である我が国が召喚したそうなのです。今は各国の鎮圧に出払って居られますが・・・」
それは高ランクという事で〈有事の際は協力を〉という意味にも聞こえた話である。
「そのうち数名が隣の小島で起きるであろう、暴動鎮圧で訪れておりますので」
「起きるであろう? それは可能性の話ですか?」
「ええ。内部告発がありまして北極で得たなにかを使って独立するという話があがっているのです。明確になにかとまでは判りかねますが」
「では戦争鎮圧だけでなく火種の鎮火も仕事のうちと?」
「はい。勇者様方に関しては、そういう扱いとなっているそうです・・・まぁ戦争が落ち着けばダンジョン攻略を始められると思いますが」
そう、ユウカは召喚されてきた者達の詳細を、疑われない程度で聞き出していた。ギルドとしても勇者に対する箝口令が敷かれてないのか、知らない者への配慮として教えたようである。おそらくは国賓待遇のため喧嘩を売らないよう・・・という感じだろう。
だが、その直後──、
「あ? その銀髪・・・どこかで見たな?」
私の背後から日本語で話し掛けられた。
私達はきょとんとしたまま振り返る。
それは、この世界の言葉ではないため受付嬢や周囲の探索者達はなにを言ったのか判っていなかったが。
すると男はユウカやナディの顔を見て訝しげな視線をぶつけた。
「ん? そこのエルフや猫獣人も・・・顔付きが? いや、気のせいか?」
ユウカとナディは共に顔を見つめ合い、揃って男の名を呼んだ。
「「石動倭!」」
ある意味で絶句し、なぜ居るの?
という反応である。直後、石動倭は二人の反応に呆けた。
「お? なんで俺の名前? というかなぜ日本語を喋ってるんだ?」
私は呆ける石動倭を余所にアインスに怒りをぶつけた。
「日本語喋ってるんだ・・・じゃないわよ。まさか、一組までも来てるとはアインス・・・それくらいは教えなさいよ!!」
だってそうだろう?
浮遊大陸では一組以外の十三組が召喚され、危うく殺し合いを行う直前だった。
一方、地上世界では進学クラスの一組が召喚されていた。物量で言えば浮遊大陸の方が多く、個に対する力量差であれば地上世界の方が高いのだから。なにより選民思想の強い一組が勇者となる。それこそ想定外以外のなにものでもなかった。本当の意味での危険物。
驕り高ぶりが酷い者達を勇者とした。頭の痛い大問題が浮上した瞬間である。
特にコイツは教師として一番酷い輩であり選民思想の塊だった。他クラスからの嫌われ者としても有名であり大野宗の同期でもある。
私の日本語での叫びを聞いた教師は問う。
「んんん? お前、まさか・・・巽夏奏か?」
私はこめかみをグリグリしながら問い掛けを無視し、ユウカ達を見た。
「なんか懐かしい名前を聞いた気がする」
なぜ居るのかとこちらが問いたい程に。
視線を向けられた二人も嫌な者を見たというように喋りだす。
「一組の連中が勇者様? 冗談だよね?」
「冗談じゃないみたいよ? あの装備もそれなりみたいだし」
「でも、馬子にも衣装って感じがするよね?」
「確かに似合ってないわね? まだ王寺の方がマシかもね?」
「言えてる〜。アレの方が似合うのは確かね」
「ね? 見た目だけならマシだから。中身は別だけど」
ユウカもナディも一組の特徴を知っているため、辟易とした表情で教師をみつめ煽るような言葉使いで呆れていた。
だが煽られた教師は額に青筋を浮かべて怒鳴りつける。真っ赤な顔のトマトのように。そういえばトマトというアダ名があったかも?
「お、お前ら、ふざけるなよ!? クソガキ共が!」
だが、教師の怒気など今更怖くないため、私達は教師に指向性の殺気を与えた。
「「「アンタラは勇者の器じゃないからね!?」」」
「ヒッ!」
すると教師は殺気を浴びてその場で伸び、周囲の者達はなぜか倒れた勇者様を哀れみ医務室まで運んだ。保有魔力量であれば高いだろう。
だが、レベルという面での教師は50程度しかなく保有魔力量が即戦力という勘違いもまた間違いであると判る話でもあった。
ともあれ、その後の私は受付嬢に光属性の上級ポーションを手渡してパーティーメンバー達と共に支部をあとにした。




