第56話 吸血姫は仲間と島に着く。
それからしばらくして。
急遽変更した下界の某島・・・もとい〈中立国・アイネア合国/ネアレ島〉へと訪れた私は釣りっぱなしのナディに声を掛け下船を促した。
「ナディ、着いたわよ?」
「はっ!? 集中し過ぎて気づきませんでした」
ナディは魚好きが災いしてか・・・停泊する直前まで周囲に気づいていなかった。
なお、ナディの釣果は驚くことに船尾・中央甲板に増設した生鮮保管庫に大量の魚をゲットしていたので、しばらく魚に困る事はないだろう。というより釣り過ぎたという印象もあり、どこかしらで売る必要があるとさえ思えるほどの分量が収まっていた。
「これから下船だけど、先に身分保障のためのギルド登録を行う必要があるそうよ」
「ギルド登録ですか? 冒険者ギルドのギルド証は既に持ってますよね?」
「どうも、上とは違う〈探索者ギルド〉っていう別組織らしいわ。幸い、どうやって流通しているのかは不明だけど貨幣は世界共通らしいから・・・登録自体は問題ないそうよ」
そうなのだ。貨幣はなぜか共通だった。
〈魔導書〉曰く、上界の貨幣は第一浮遊大陸・ルティルファ某所にある〈金神殿〉から発行されておりエルフを介し浮遊大陸全土に流通しているそうだ。
ただ、上界は発行元が明確なのに対し下界はなぜか各種ダンジョンから発見された貨幣を〈探索者ギルド〉の管理の下、各国が利用しているそうだ。
この辺も女神様達の意向が主に出ている話かもしれないがナディ達に言うほどの事ではないため黙ったおいた私である。
「なるほど、そうなのですか」
「それと、ナディとユウカは問題ないけど・・・私とリンスは人族に〈変化〉してから向かわないとね? 魔族が紛れ込むことを拒むのは、どの世界でも共通みたいだから」
「確かに、そうですね・・・判りました」
私とリンスだけは牙を隠し、人族偽装の〈変化〉を行った。見た目のうえでは人族と大差ないが種族鑑定なるものがあるそうで、それを回避したまでである。
銀髪エルフと銀猫獣人なら問題ないけどね?
私達が登録を済ませた後も数日間の滞在期間中に他の面々の登録も済ませる予定なので、その都度該当者にはこの指示で与える予定だ。
私はそのうえで登録に関する注意事項を伝えた。リンスは聞いていたから問題ないが、私は釣りや読書に夢中だった二人に対して行った。
これは下界民にとっての常識のため、説明自体は行われていないらしく、知らぬまま行って上界の者と疑われる事を避けるためでもある。
「それと登録に関しては・・・上と違ってレベルや紹介制ではなく保有魔力量と銀貨五枚での登録らしいわ」
「保有魔力量ですか?」
「ええ。魔力消費が極端に多い下界では魔力の少ない者ほど低ランクとなるそうなの。それは潜るダンジョンによって消費量がとてつもない物となるからだそうよ」
「「ダンジョン?」」
「どうもね・・・この下界ではダンジョンが主な収入源らしくてね。世界中には数千を超えるダンジョンが存在してて日々誰かが潜っているそうなの。それでダンジョンの大まかな管理を行っているのが」
「〈探索者ギルド〉と? という事は・・・登録すると私達も潜ることが可能になる?」
「ええ。ユウカの言うとおり可能ではあるわ。ただ保有量の下限値が決まってて、その下限値をクリアしない者は進入する事も不可らしいのよ。最悪、魔力不足で魔物共に殺される事だってあるから・・・私達は死なないけど」
そう、問題なのは下限値である。
大まかな分類は上界の冒険者ギルドと同じ仕組みだが保有量の下限値で以下のようなランクが決まっているのだ。
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探索者ギルド・ランク
S: 一千万MP以上/金のタグ
A: 百万MP以上/銀のタグ
B: 五十万MP以上/銅のタグ
C: 十万MP以上/鉄のタグ
D: 一千MP以上/石のタグ
E: 五百MP以上/木のタグ
F: 百MP以上/葉っぱ
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例えるなら私とシオンはこちらにおいてもSランクとなるが、ここに居る面々で言えばリンスとナディがAランク、ユウカがBランクという状態になる。ただそれは〈保有魔力〉という枠で見ればという意味であり外部枠と供給枠を含めると・・・私とシオン以外の全員がAランクとなる。今のところ計測上どの枠で計られるかは判らないが人族の魔道具という事もあり合算で計測されるであろう。
(新規登録でSランクとAランクが大量出現、また支部で大変な事になりそうだわ)
ちなみに元々下界もレベル制だったらしいが、魔力消費の増加直後から保有魔力量という方針に転換したという。それは大量の保有魔力があってもレベルが低すぎる者が居たからだろう。というより・・・それそのものが原因な気もするが?
その後の私達は船を下り、街中を歩いた。
ちなみにこの島は上と異なり入市税なるものはなく誰でも訪問可能だった。私達が三胴船で港に着いた瞬間は珍しい船を見たという風に驚かれたが、それ以外は普通に受け入れられ・・・港湾管理の兵士から『どこどこに停泊して下さい』と案内されたほどだ。
なお、船籍の方は〈調の女神・アインス〉が乗船時に書き換えてくれたらしく所属はこの島を含む〈中立国・アイネア合国〉船籍となっていた。
これは〈第二十二・ティシア王国〉という浮遊大陸しか存在しない国名を隠す意図があるらしく下手な干渉を防ぐ目的もあったのだろう。
なによりこの船は飛空船という空を飛ぶ船でもあるため、下手な勘ぐりで内部検査されないための措置のようだ。
事実、同じように進入しようとした船の中には船籍不明という事で兵士達から検査されている光景まで見せられたのだから〈調の女神・アインス〉には感謝しかないであろう・・・これは関係者以外は誰も乗る事の出来ない帆船なのだから。




