第54話 突然の来訪に驚く吸血姫。
それから数時間後。
外に居た海賊船は全部引き上げたようだ。
「さて、邪魔者達も居なくなったし移動を開始しますか・・・」
私は船内から甲板上部に出て操船部に座る。
そして飛空船と同様に物理防御結界の帆を張り出し、一番最初に設定した目的地まで移動を開始した。最初の移動先は主に情報収集のため、海賊達が住まう小島とした。
ちなみに船内ではユウカが一人・・・この世界の書物を読みふけり、船外には私の横にリンスが座り、船尾・中央甲板ではナディがノホホンと釣りしていた。猫が釣りをする。
この光景は少々微妙なものだが元より魚好きが功を奏してナディは凄い頻度で釣果をあげているようだ。疑似餌だというのに不思議なほど釣れるのだから世界の魚は好奇心の塊なのだろう。それこそ女神様の性質が反映されたようなものだ。好奇心は猫をも殺すというが、今は好奇心で猫に釣られているのだから、なんともいえない話である。
ともあれ、背後の釣り猫メイドはともかく、リンスは初めての海に大興奮していた。
「どこを見渡しても一面青色なんですね〜」
「今のところは周囲に小島や船が居ないわね」
「ここまで周囲が真っ青だと方向感覚が狂いそうですね?」
「ホントにね・・・〈スマホ〉を用意してなかったら詰んでたわね。これには海図が載ってるから自分の位置情報が分かるけど、この世界の・・・それこそ下界の民はなにを元に自分の位置を把握してるのか謎なのよね」
「そうなのですか? 浮遊大陸と同じように地図魔法を使ってそうですが」
「下界には無いそうよ。地図魔法が」
「えぇ!? じゃ、じゃあ・・・どうやって?」
「それが判らないのよね〜? 夜なら星を調べて・・・あ! そうか、星!!」
「星ですか?」
「ええ。多分、魔法で星だけを見る観測魔法があっても不思議ではないわね?」
「はぁ? 星でなにが判るのですか?」
「星や月の位置で大方の場所を把握出来るのよ」
「地図魔法無しで・・・凄いですね?」
「ええ。観測魔法で賄えるという事でしょうね・・・おそらく」
そう、リンスとも話したが下界には地図はあっても地図魔法は存在しない。それは魔の女神がユランスだからという事もあるだろうが、魔法は使わずとも位置情報を把握する術を用意していると気づいた時には私自身も驚いた。
異世界ならともかく、こちらの世界・・・少々星やらなにやらが特殊な世界だが同じように観測して把握しているのだから、その知恵は素晴らしいと言っても過言ではないだろう。
ただ、ここまでの事はあくまで憶測に過ぎず実際はどうなのかは海賊の住まう島に行ってみない事には判別がつかない私だった。
リンスとの暇潰しの会話では可能性を提示したが実のところ判っていないのだ。
すると、暇潰しの会話をしていた私達の元に・・・一柱の女神様が現れた。
「操船中、失礼致します」
「「!?」」
それなりの速度で進む船上にも関わらず、突然背後が光り輝いたと思ったら一瞬で現れたのだから私とリンスの驚きはひとしおであった。
ナディは釣りに夢中で気づいていないが。
なお、その容姿はミアンスとユランスに似ており瞳だけが銀色の不可思議な姿だった。
「お初にお目に掛かります。私は調の女神・アインスと申します」
そう、ミアンス曰く・・・女神達の長女でありミアンス達へと依頼を出した主が姿を現した。




