第53話 大戦の原因を知る吸血姫。
その後の私は飛空船で眠る面々をよそに錬金工房に戻り今後想定されるであろう外敵排除に向けて思案しつつ固有武装を用意した。
「シオンの記憶が曖昧だから明確に・・・どうとは言えないけど、下界に降りた際に解禁された〈魔導書〉の知識ではあれしかないわよね〜」
そう、降りたとはいえ海にはあれがいる。
浮遊大陸に空賊がいたように下界には海賊がおり・・・それ以外でも各国が戦争状態であるという情報が齎されたからだ。
その原因たるものも先の大戦で作戦遂行が困難になったことにあり、責任のなすりつけあいで隣同士の大げんかから国同士の争いに発展したというのだから、どこの世界でも人族という輩は変わらないらしい。
私はシオンが知らないとした、訳の分からない物・・・それそのものの存在に気づいた。
「火薬・・・魔法の世界で原始的なものを」
それは文化の発展上、必ずあるとされる火薬を用いた武装だった。大まかに分類すると船に取り付ける大砲・人員に装備させる火銃や銃剣等で中にはピストルめいた小型の物まで存在するという。
そのどれもが魔力を用いてない物であり、いかに原始的であるか判る代物だった。
代わりに異世界であれば嘗て通った道のため、勇者達がその知識を有して対応が取れたとしても不思議ではない。
唯一の対応手段は私が頻繁に用いる物理防御魔法のみであり魔法防御を張ろうものなら即蜂の巣である。
ただ、そういう武装の知識が無い浮遊大陸の者達にとっては脅威以外のなにものでもないため、対処が遅れ勇者召喚に至ったのだからやりきれないであろう。
「とりあえず、用意するのは光属性と火属性を掛け合わせて鏡とレンズを用意して魔石からの魔力供給でいいわね」
ともあれ、その後の私は考えつく限りでの武装を用意した。一つは射線を気づかせないよう、鏡を用いて上空経由で使う光線銃。
一つは船上から補給する際に使う時間停止結界。一つは後始末としての捕縛用の空属性の電撃縄だ。
その用途は読んで字の如くであり、火薬と鉛弾を使用する者を相手に情報を与えない前提の武装とした。
「でも、この電撃縄・・・シオンが好んで使いそうよね? 緊縛して電撃で痺れて悶えるとか・・・エロい代物だわ」
こうして、夜な夜な作り出した武装魔道具は、のちに下界を震撼させる代物となろうとは思いも寄らなかった私であった。
§
そして早朝。
私はベッドから目覚め、朝の空気を浴びに甲板に出た。すると船の周囲には複数の船が停船しており、おかしな行動をとっていた。
その者達はドクロの御旗を掲げた者達であり、私は即座になにか気づいたのである。
「すがすがしい朝だわ・・・周囲の海賊共がいなければ」
そう、どこにでもいる海賊だった。
今はなにかを引き上げている最中であり、私は静かに注視する。元々、この船の周囲は希薄結界を追加で張っているため気づかれる事はないが匂いをさせただけで気づかれるため、朝の紅茶だけは止めた。船上には犬獣人が闊歩していたから。
私はその姿を見て思案した。
「犬獣人か・・・下界にもいるのね。匂い探索向け? 今度はワンちゃんを用意しようかしら? それこそ巨乳眼鏡のワンちゃんで」
すると、私の背後から大声がした。
「なにを朝っぱらから騒い・・・で!? え? 海賊?」
それは寝起きのユウカだった。
眠気が残る機嫌が悪そうなユウカは周囲の騒ぎに気づきイライラした状態で起きてきた。
おそらく私が甲板扉を開けっぱなしとしたからだろう。一時的に空気の通り道が出来た事で、内部空間の時間が少しだけ動いたらしい。
「海賊ね・・・今は空賊達の物品を回収してるみたいね? あっちはその前の戦いの残骸回収みたい」
「残骸回収・・・というと、サルベージ?」
そう、ユウカも気づいたが相手の意図は浮遊大陸の最新魔道具回収にあるようだ。
それでも浮遊大陸からすれば時代遅れの代物なのだが、それだけに上と下とでは異なる文化が確立している事が判る話でもあった。
ユウカは眠気が一気に吹き飛び周囲で騒ぐ海賊達を引き続き眺めた。その表情は唖然という一言に尽きるだろう。
驚きのエルフ。それが絵になる姿だった。
なお、格好は下着姿のままだが。
「そうともいう? 多分、浮遊大陸内で争いが起きた際に落ちてくる魔道具を解析して飛空船を作り出したのでしょうね・・・ただ下界の場合は魔力消費が半端ないから」
「一定量貯めないと昇ってこれないと?」
「ええ。燃料が無尽蔵にあるわけじゃないって事ね」
私は引き続き見ても仕方ないとして、一度船内に戻り外が落ち着くのを待った。ユウカも下着姿のままだった事を思い出し慌てて船内に戻っていたが。
私はユウカが慌てて風呂に向かったのを把握した後、一人でキッチンに向かった。
「とりあえず朝食としましょうか・・・昨日の魚の残りを捌いて、フィッシュサンドを」
というところで周囲を見回すと──、
「朝食、待ってました!!」×12
いつの間にやらダイニングには船に残った者とログハウスにいる面々が揃っていた。
魚好き・・・そう呼べる者達がお風呂中のユウカを除き目覚めて揃ったのだから私としては呆れの一言であった。
それこそ、外では海賊達が跋扈し、次々と魔道具やら宝を拾い集めているのだから、その空気感の温度差は計り知れないものであろう。




