第52話 海上で刺身三昧の吸血姫。
ひとまず、女神様達からの依頼を受けた事とした私はシオン達にメッセージを飛ばし希望者のみ定期的に交代して参加する方式を選んだ。
それはずっと海上に居続ける事もあれば船以外での行動を踏まえての事である。
あとは世界の真実を受け入れる事の出来た者のみの参加ね? 私は固定で出突っ張りではあるが・・・だが!?
(想定外だわ〜。ユーコ達は現物を見せたから確定だとしても、まさか下界を知らないリンスや引きこもりのユウカを含めた全員が降りたいとは・・・同類勢は元々そんな感じだったけど)
しかし私の想定は覆り全員参加確定となった。再誕前は除外するけど。
浮遊大陸ですら混乱する者が殆どだし、異世界に馴染んだ者がこの世界で生きていくには知識不足が弱点となりうるのは確かだから。
「とりあえず・・・」
私は追加のメッセージを飛ばしたあと、釣りに興じて大騒ぎする三人を呆れつつも眺めた。
なお、今日の釣果は驚くほどであり、そばに置いた盥にはアジやタイ、ヒラメまで獲れていた。それこそ、この海域で獲れる魚ではない物までいるのだから猫獣人であるナディの歓喜は相当なものであった。
私は浮遊大陸の時間的に夕刻となった事を察し、騒ぐ者達に指示を出す。
「貴女達、ほどほどにして上がるわよ? この場で食べる物は居住区のキッチンで処理してね? 食べられない物はそのまま亜空間庫に置いておけばいつでも新鮮な魚が食べられるから水気を拭って保管すること!」
「「「はい! わっかりました!!」」」
返事だけは元気いっぱいである。
海無し県民の性なのか、ずっと海に居たいという感じも見てとれたが。私は片付けを行いだす者達を眺めつつ背後に存在する動力部の蓋を開け内部に入る。
「さて、夕食前にひと仕事しないとね」
それは当初からのバカ食い燃費を改善させる事としたのだ。浮遊大陸ならそれで良かった。
だが、移動に関して私が居ない時、誰も操船出来ないのは大変マズイのだ。いつなん時・・・害敵に出くわすか判らない。それこそ浮遊大陸のように判りやすい敵ならまだ良いが、下界の者・・・特に未知なる敵を前にして対応の取り方が異なるのではないかと思えてならなかった。
ミアンスが外敵として勇者を欲する意味もそこにあり、通常とは異なる戦い方をするとさえ思えたほどだ。
(魔力を用いた戦い方であるのは確かだけど、魔法・・・とは違うのね)
相手の戦法は現在のところ不明だ。
シオンですら分からない方法と論じ記憶にも残ってなかった・・・意味不明として。
戦い方は追々という事にした私は新しい作業着に着替え本番作業をすすめる。
そう、動力部の〈スマホ〉を操作しながら魔力使用量のリミッターを解除した。今まではリミッターによって一日に消費する魔力の下限値を百万としていたが操船制限を〈スマホ〉を用いる方式へ変更し下限値を一日三十万とした。
これは操船する者の〈スマホ〉を填める事で常時操船が可能となる鍵だ。
今は私の〈スマホ〉が操船部に填まっているため鍵として登録を済ませた。
これは仮に外し忘れが起きて盗人が乗ったとしても人族相手なら即座にガス欠となる分量のため、我が眷属であれば問題ない分量となった。
魔族が相手でも全属性を基準としているため、対応する魔力をあてがわなければ稼働は行わない物とした。
なお、常時浮遊は下界では余程の事が無い限り不要なので海水と接する面の物理防御結界を強化する機能だけは残しておいた。
停泊時は通常と同じなので海面を押しのける形で亜空間結界に覆われる事となるが。あとは、この下界での魔力消費を抑える措置として魔石に戻すのではなく魔力が拡散する前に回収し亜空間タンク内に蓄える事とした。
時が止まった亜空間内であれば拡散する事は一切ないのだから。
そう、私が作業に尽力していると──、
「カノン様。夕食の用意が整いました」
ナディがメイド服を着こなした状態で甲板に立っていた。出るところ出て引っ込むところが引っ込む妖艶な銀猫メイドではあったが。
「判ったわ。さて、最後は再起動っと」
設定を終えた私は船の最終処理を終わらせた。この時点でこの船は下界向けの仕様へと変更されたのだ。
もし仮に、このまま浮遊大陸に戻っても環境により自動変更する物としたので問題ない。
だから・・・現状10メートルで留まっていた船はその時点で徐々に高度が下がり、海水を押しのける形で着水した。仮に嵐がきても船の周囲は結界で覆われてるので沈没する事はない。
船の側面には高速移動用の水流操作口も付けているので三胴船の側面にあたる海水が船を押し出すように進むという機能も常備しておいた。基本は風魔法で帆船のように進む船だけどね?
§
その後は食事会となった。
今回は船の居住区。
ダイニングでの食事となったが──、
「おいしい〜!?」
「異世界に来て初めての刺身だぁ!!」
「葉ワサビのピリっとくる感じいいわぁ」
「ご飯が進む〜、ユウカありがとう〜」
「醤油まであるとは予想外だわ。色が少々緑色だけど」
「見た目より味よ!」
「ぷりっぷり! 歯ごたえが凄い!」
「味わって食べないとねぇ〜」
「・・・モグモグ・・・」
「ユウカもなにか言ったら?」
「おいひい・・・ぐすっ」
「涙を流してまで食べるってよっぽどね?」
ログハウスに居る者が全てが船に移動してきており、空になったログハウスと満員になった船というおかしな構図が出来上がっていた。
寝泊まりの際には数名がこちらに残り後はログハウスに戻るだろうが。
(元日本人恐るべしね)
ちなみに、葉ワサビと米はユウカが人知れず頑張って育てた物品であり、私達だけで消費する食料である。そもそも食文化から違うため、リンスも刺身を食べる直前までは恐る恐るだった。だが、食べた直後より黙々と食しているので食わず嫌いはダメだと判る話でもあった。私とシオンはリンスを眺めて黙って食べていた。
ただ、ナディとアンディは使用人としてこの場に居るため、この後の食事となる。
ナディは早く食べたいという表情を浮かべては・・・いないが放置プレイに感動していた。
生来のドM・・・恐るべしである。
「ごちそうさまでした!!」×11
そうして食事会は早々に終わり、お預けのナディとアンディも黙々と食事を始めた。
「おそまつさまでした。さ、ナディとアンディも食べなさい」
「はい!」
「・・・・・・」
その後は満足した者だけが甲板に出て「うみだぁ!?」と叫んだり黙って海上を眺めたりしていた。中には風呂に入り、湯船から見える外の景色にウットリしていたようだ。
風呂の一部も外界の様子を投写する機能を追加したので露天風呂のようになったしね。
そして就寝時間となり私は宿直を決める。
「今日の当番はナディとユウカ、あと一人は・・・リンスでいいわね」
「いいなぁ〜」
私自身は固定なので保守と再誕や錬金時以外はログハウスに戻る事はないが他の者達はそうではないためローテーションを行うのだ。
「ユーコは翌日からね? 今日は疲れがあるから移動は明日からになるので当番を決めておいてね?」
このローテーションが下界での旅を行う四人一組のパーティーともいう。魔族のうち下界に存在しない種族だけは対応を厳命した。
「それとオーガ、ハーピー組は人族に〈変化〉してから来ること! 今のまま外に出たら捕縛されるから。全裸の見世物としてね?」
「「「は、はい!」」」
そう、オーガ族と有翼族は浮遊大陸のみに存在する絶滅危惧種だ。それが発見されるや否や捕縛され良いときは見世物・・・最悪慰み者となるため、その対応は厳重にしなければならない。現に前大戦時に数名ほど連れ去られているからね?
一応、食事中にそれだけは教えたので三人も真剣な顔で同意していた。
「それじゃあ明日の夕方交代だから余程の事がない限りはそちらの依頼などをこなすこと!」
「りょうかーい」×10
そうしてこの日も無事に日が暮れた。
流石に凪が続くのは謎だったが。




