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第51話 吸血姫は原因物を釣る。


「ふわぁ〜、う〜み〜だぁ〜!!」


 私はナディの願いで下界に降りてみた。

 そこは異世界の氷河の(おお)われた地ではなく一面が青一色の空間だった。ナディは浮遊大陸から降りる間も移り変わる景色に感嘆の声をあげる。どうも浮遊大陸の高度は地表より1万メートルの高さに存在していたらしい。

 高度計を改めてみると、そう出てたからね?

 この高度計は浮遊大陸から出るまでは無効とされていたが一番下の流刑島より下に潜ると高度計が機能を始めた。それまではなにも表示されてなかったのに不思議な話である。

 それこそ浮遊大陸が双女神の領地であるかのような印象が見てとれた程だ。


「丁度、今が高度・・・三千メートル付近ね。下界でも飛空船があるみたいだし浮遊大陸の高さまで飛べる者だけが外敵となりうるのね・・・」

「外敵って本当に居たんですね」

「ええ。なにをもって外敵となっているかは未だに不明だけどね?」


 ナディは外敵と聞き呆気にとられた。

 浮遊大陸の民達を護るための勇者召喚。

 それを必要とする外敵の存在。普通に聞けば敵勢とは魔族的なものと思うが浮遊大陸には当たり前に魔族が居り外敵がどのような者達なのか今もって不明だった。シオンもその点を誤魔化しているため、誰が敵で誰が味方か不明なままだ。

 すると下着姿のナディが思案気に私を見つめる。


「ユーコ達が読んでた小説だと魔族なんでしょうけど」

「この世界の魔族は私達吸血鬼族の事を含めているから、分類上は違うと思うけどね?」

「それこそ浮遊大陸が生まれたところから知る必要があるでしょうね」

「そこ・・・なのよねぇ。まぁ考えても仕方ない事だけどね? さ、もう少し高度を下げて釣り糸でも垂らしますか」


 私は今この場で論じる必要はないと思いつつナディの願いを叶える事のみに尽力した。

 すると、私がナディと世界を作りだしている間、存在を忘れさられた者達が声をあげる。


「「う〜み〜だぁ〜!?」」


 海なし県民の(さが)のままユーコ達が船内から顔を出し大声を張り上げたのだ。

 おそらく船内に高度計が表示された事で、なんのことだろうと顔を出したようだ。その喜びようは驚くほどのものであり異世界に来て初めて見た海であるため、感嘆の声を上げたナディ同様に大騒ぎとなった。


 ちなみに今の高度は海上から10メートルの高さで留め(いかり)ではなく空間固定で魔力消費を抑えている。どうも浮遊大陸以外では浮遊魔法による魔力維持が大変らしい。

 特に上空であれば気にしないレベルの浮遊魔法であっても下界では重力が強いからか高度維持が極端に難しい。

 それはともかく──、


「なんで? なんで? なんで?」

「浮遊大陸に海なんてあったの!?」


 ユーコ達の大興奮は留まる事を知らず釣りに(きょう)じようとする私とナディを相手に質問攻めを繰り出す。

 ナディはうるさそうな表情で猫耳を畳み二人の質問にあっけらかんと答えた。


「ここは下界らしいわよ。疑似餌で釣れますかね?」


 そのうえ疑似餌を釣り針に付けながら質問したので私は〈スマホ〉を取り出しつつこの世界の釣りを調べてナディに教えた。


「今は生き餌が無いからね? どんな物でも食いつくらしいし近づいてきたら(もり)で突けばいいみたいよ? ん? これは釣り糸を使う魚類じゃないわね・・・あ、こっちか」


 というか釣りと思って見てたら潜水で獲る手法だったので改めて調べた私である。ナディの言葉を聞いて絶句していた二人は再起動ののちナディを問い詰めた。


「「下界!? どういう事なの!!」」

「浮遊大陸だけが世界の全てではないって事ね? 私達だけ特別に教えてくれた話ではあるけど浮遊大陸に住まう者達は下界の事は知らないそうよ」


 私はナディが猫耳を畳み、集中したと感じとったので代わりに答える事にした。というより元々は私の方が詳しいからナディが答える必要はなかったけどね?

 二人は私の答えを聞き(うな)る。

 それこそ内部で見た事と異世界の知識から驚愕の顔を示していた。


「確か表示には1万メートルって出てたけど」

「浮遊大陸ってそんな高いところにあるの? 空気が薄い印象は無かったけど」


 私は『魔法でなんとかなってます』という双女神以外の幻聴が聞こえたため、その点はスルーして二人に(すす)める事にした。


「異世界の知識がそのまま通用するわけではないって事ね? それより今日の釣果によっては夕食で刺身が食えるかもしれないから二人も釣る?」

「「刺身!! 釣る!!」」

(というかあの声、誰なのかしら? ん? ミアンスの姉? そう・・・)




  §




 一方、神界の女神様達はカノンの行動を見て苦笑していた。


「ついに降りちゃいましたね〜」

「魚の魔力恐るべしね? ナディは真実よりも刺身を優先していたし」

「ですね〜。それよりもアインス(姉上)が干渉してきましたね?」

「下界はアインス(姉上)達の領域だもの。あ、ゴミを落とすなって怒られたわ」

「人族が勝手に行った戦いですから私達に問われても困りますけどね?」

「それでも途中でキチンと処理をしろって事でしょうね? 下部結界の保守はまだ行ってなかったから」


 その会話はなんともいえない姉妹の会話だ。

 見聞きしただけでは女神様とは思えない様相(ようそう)であった。ただ、そのあとにカノンの予定が決められた事で、下界のカノンは寒気を感じたようだ。


「なら戻り次第、カノンに還元結界の保守をお願いしましょうか?」

「それがいいかもね? でも、下界の魔力消費は相変わらずのようね」

「ですね。魔力循環路を人族達に塞がれた影響でしょうけど自分達の欲望が自滅を歩む悪路と気づけないのは、なんというか悲しいですね」

「ええ。それが原因で上界と下界との魔力密度を変えてしまったからね・・・」

「それで、こちらに目を付けて魔力源を奪うという考えに至ったのは微妙ですけどね」


 外敵の意図まで口走る女神様達。

 これを聞くと外敵は中央大陸の王族となんら変わらないようだ。奪う事を是とし原因が自分達としても知らぬ存ぜぬとする。

 全くもって行いそのものが悪である。

 すると女神様達はシオンですら絶句の言葉を口走る。


「まぁアインス(姉上)達も苦慮しているそうだし還元結界の保守が片付いたら、サーデェスト姉妹に動いて貰いましょうかね?」

「そうですね。この浮遊大陸だけが世界ではないですし、許可もそれを踏まえて貰ってま・・・たちまち降りてるなら貸し出してくれと言ってますが?」

「なら、船内と亜空間を繋げてあげましょうか。あの中も亜空間同然ですし行き来出来なければ〈錬金釜〉も使えないでしょうから」

「一応、カノンに確認を・・・渋々ですが了承して下さいました」

「地上では変換術がなければ対応は難しいものね。私達ですらそうだもの」


 なお、この時のカノンは寒気の原因を知り、魔力融通を対価に了承したようである。ユランスはその回答を得て若干引き()った顔となっていたが。

 そう、ユランスはカノン達の力を魔力変換する術を与える事としたようだ。ミアンスですらそれを用いるとあるから下界とは魔力の薄い未知なる領域であると思い知らされる話である。




  §




 私はユランスからの依頼を受け取った。

 というか受けざるを得ない依頼だった。

 それはこの下界・・・この星の魔力循環路を封じる異物を退()かせるという依頼だった。

 なんでもそれがある所為(せい)で下界の魔力は常に薄く魔法を一回発動する時の消費量も膨大になっているという。


 どうも空間魔力が浮遊大陸よりも少ないためか、魔力拡散が広範囲に拡がり魔力圧すらも極端に低く大量の魔力を()き集めないと生活魔法ですら常時不発となるそうだ。

 それを限定的に改善させる方法もあるにはあるが持ち主の魔力を常時蓄えるという魔石擬きを常備し、それを元に魔法発動を行うという物だった。

 ただ、それでも燃費が悪く下界に住まう亜人やら魔族であっても例外はないらしい。その原因を作った者が一部の人族だそうだから下界も浮遊大陸も度し難い人族しか居ないようだ。

 もう少しまともな人族は居ないのか?

 というのが私の本音である。

 私は釣りのつもりで降りてきたのに現実は追加分が発生し途方に暮れた。ログハウスに戻ったら結界保守もあるし。そのうえ、この船を起点に下界と浮遊大陸を行ったり来たりしなければならなくなり、停泊中はログハウスで移動中は海上を進まねばならないらしい。

 時には陸上を歩む必要もあるだろうが、それはその時に考えるしかないようだ。

 だから一人でどうしようか考えていると──


「これはまぁた・・・前途多難な依頼だわ」


 隣で釣りをするフーコが問い掛ける。


「どうしたの?」


 今は格好からして水着なので違和感がないのよね? 隣に居るユーコも水着のままだからある意味でバカンスの様相(ようそう)だ。

 一人だけ下着姿のままの釣りをしてるから違和感があるとすればそちらだけだが。

 私はどこから話したものかと悩みつつ一同に打ち明ける。


「あー、しばらくこちらに滞在する事が決まったのよ。一応、ログハウスとの行き来は亜空間経由で可能だから寝泊まりは問題ないけどね」


 そう、寝泊まりは問題ない。

 ただ停泊時の魔力消費を改善せねばならない事や内部に保管する魔石の分量を増やさねばならない問題があるのだ。

 しかし私の危惧(きぐ)はどこへやら──


「そ、そ、それって!?」

「異世界探訪出来ちゃうの!?」

「この世界の魚料理を知りたい!」


 三人の興味は下界旅一色となった。

 ナディに関しては魚一色だったが。

 こういうところは猫さんよね?





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