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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第三章・異世界旅を始めよう。

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第49話 吸血姫は逃げに転じる。


 それは、第零浮遊大陸・ルティルフェ〈ミルーヌ王国〉の錬金術士解放戦直後の事。


「一体なにが起きたというのだ!?」


 ミルーヌ王城の軍船港にて戦闘を遠隔監視していた者達は大騒ぎであった。


「我らの戦術が(ことごと)(くつがえ)されたようです」


 これは解放船団に所属していなかった待機部隊の言である。そう、部下が見たままの報告を行った事に対し愉悦(ゆえつ)の余韻が覚めたのか、グラスを報告した部下に投げ飛ばしながら違いを示す指揮官。


「そんなことは見たら判る!! 我が申しておるのは吸血鬼達が昼間だというのに弱りもせず反撃していた事を言っておるのだ!」


 しかし、部下はいつもの癇癪(かんしゃく)を相手しているかのようにグラスを回避し、頭を下げながら訂正した。


「ああ、そのことでしたが・・・失礼しました。あれは・・・日照耐性と聖耐性、銀耐性が付与されたようですね。由来は存知得ませんが戦闘開始直前に与えられたように思えますし、隷属(れいぞく)から解放されたのも、なんらかの結界術が作用したのでしょう」


 そして鑑定魔法により戦況を分析し指揮官を更なる恐怖のどん底へと突き落とす。さながら普段からの暴挙を(いさ)めるように冷静沈着な部下は感情的な指揮官へと現実を突きつけていた。すると指揮官は顔面蒼白な表情のまま部下に問う。


「で、では、今後は・・・」

「この戦術は使用禁止となりましょう。元よりアダチなる異世界人の策でしたし相手がその耐性を得た事が確定したのであれば下策どころの話では御座いません」


 部下はそんな指揮官へと最終勧告とでも言うかのように更なる現実を突きつける。


「し、しかし・・・一度に全ての者へと耐性が付与されるものなのか?」

「こればかりは種族特性があるのでしょう。我らには感知出来ないなにかが、彼等に存在するとしか考えられません」


 その後も彼等は戦況を見つめ続ける。

 下策となった戦術そのものの最後を見届けるかのように、空の海へと沈没する全百一隻の精鋭を相手に敬礼を行いながら。


「陛下への報告・・・」

「悩みどころですね」

「勝ち戦が一転、負け戦とは誰も思うまいて」

「はい。出来るのであれば後続を出さない事を願いたいものです」

「うむ。陛下達の錬金術士欲しさは度を超しておるゆえ」

「悩ましいですね」


 それは現場の嘆きだった。

 上はワガママのままに命じるだけ。

 負けたとしても全責任は現場にあり。

 彼等もこの戦況を見た後だからこそ敗戦一色に染められたようだ。


「王太子殿下が行方不明となった件も御座いますし、王女殿下の死去も報告せねば」

「・・・ならぬであろうな。勝てると踏んで誰も乗船を止めなかったのだから」

「これは誰かが責任をとって死する事になるでしょうね」

「死にたくないのぉ」


 そう、最後は嘆きの様相(ようそう)(てい)し、関係者各位は待機船から下船するのであった。




  §




 一方、戦勝した私達御一行は戦闘後の後始末を終わらせ第二十二浮遊大陸に戻る最中であった。船速はノンビリ戻る速度で三胴船(さんどうせん)左右の甲板上ではユーコ達が水着姿になり、サングラスを身につけながら横になっていた。


 ちなみに左がユーコで赤いビキニを身につけ、右がフーコで緑と白のセパレート紐水着を身につけていた。デザインはユーコがハイビスカスをあしらった水着でフーコが横ストライプの水着ね? 吸血鬼でありながら日光浴を行う・・・誠に不可思議な光景だけれど。

 なお、私も黒の競泳水着を着たうえで灰色のパーカーを羽織り操船部で船を操作する。

 これらも片付けの後にシャワーを浴び停船中に内部で着替えたけどね?

 すると、着替えてノンビリしていたのに〈スマホ〉を通じて(しがらみ)が追いかけてきた。

 私はイヤイヤ気分になりながら二人に話す。


「あー、シオンからメッセージが来てるわ。あちらに戻りたくないわね」

「どうしたの? なにが書かれてたの?」

「勝った事で・・・行方不明だった者が帰ってきたのはまだいいのだけど」

「「けど?」」

「この後、戦勝パーティーを開くって。民達も日照耐性が得られた事で〈常陽(じょうよう)(こく)〉であろうとも商売が可能になったから各地で祭りが押っ始められたそうよ」

「「パーティー・・・出たくない〜ぃ」」

「私も出たくないわね」


 今の気分で言うとひと仕事終えて(くつろ)ぎの最中だったので、引き()る思いだけは()けたかったのよね?

 勝ったのはいい。圧勝といってもいい。

 でも、それとこれとは別。

 錬金術士を・・・私を護る戦いとなったのに私を囲おうとした奴らと同じくパーティーという名の(しがらみ)で囲おうとしたのだ。

 気持ちとしては忌避感しか無かった。

 だから──、


「このまま逃げましょうか・・・幸い、シオン達もそれには同意見だし」


 私は数本の()を張り出し第二十二の港に向かわず中央大陸方面に進路を変えた。

 シオンも『逃げて〜』という意味合いでメッセージを飛ばしてきてシオン達もユウカが待機している第七十五に転移魔法で逃げたらしい。

 すると、ユーコが胸をポロリしながら慌てて起き上がる。いや、首の紐を(ほど)いたまま(うつぶ)せで寝ていたのでブラが取れただけね?


「だ、大丈夫なの?」

「大丈夫よ。この際、立場というものを理解して貰わないと」


 私は現在進行形で大丈夫ではないユーコの胸を横目で眺めながらも操船部で魔力を注ぐ。

 すると、私の「立場」を聞いたフーコが起き上がり怪訝になりながら質問した。

 ちなみにフーコは紐パンの紐が(ほど)けていたようで下半身露出で起きている。


「それって・・・」


 私はユーコ以上に危ない状況のフーコから視線をそらし船速を上げる。そしてシオンと共に逃げたリンスのメッセージを二人に伝えた。


「陛下やリンスは関知せずよ。出張っていた王国軍部の者達が勝手に騒いでるだけだから」


 そう、軍部の者達。今回の戦いでは待機していた者達が勝った事に騒ぎたいだけなのだ。

 単純に言えば軍部を取り仕切る貴族が己が立場を無視して神輿(みこし)として私達を(かつ)ぎたいだけである。それこそ今回の中央大陸の者と大差ない扱いを受ける恐れがあり得るのだ。錬金術士として囲う事は無いにせよ・・・連日連夜のパーティー三昧(ざんまい)だけは勘弁して欲しいと思える程に。

 それを聞いたユーコは大きな胸を揺らしながら甲板にゴロンと仰向(あおむ)けとなる。


「なんだぁ・・・下っ端が騒いでるだけなのかぁ。それよりもフーコ? 丸見えだけど」

「へ? あ! 粗末な物をお見せしました。あはははは」


 そしてフーコの下半身に気づき視線を外側にそらした。フーコ自身もユーコから問われ真っ赤な顔でササッと紐を結びなおしていたのは言うまでもない。ユーコのポロリ関しては誰も問わないけれど。


 


  §




 一方、カノン達が逃げに徹し、船ごと〈希薄〉させながら移動を開始した直後。


「カノン達は一旦、東から南下してこの島に戻ってくるそうよ」


 シオンはカノンからのメッセージを読み上げ、先に逃げた者達に告げる。すると同じく逃げ出した王女殿下ことリンスが安堵の表情のまま、渋い葡萄(ぶどう)を口にして渋い顔をした。


「そうですか。無事逃げる事が出来たのなら幸いですね・・・うっ」


 リンスも兵達の間で苦労したのかひたすら逃げに徹してクタクタのようだ。渋い顔の後に体力回復した事で落ち着きが取り戻されたようである。シオンはそんなリンスのコロコロ変わる表情を眺めながら苦笑いで話す。


「伝えなかったら、上陸直後に囲われて戻ってくるのが数ヶ月後となったでしょうね? カノンは暇を嫌うけど、一番大っ嫌いなのは(しがらみ)だから」

「〈スマホ〉があって良かったともとれますね」


 そう、カノンが一同に与えた小型通信魔道具。そのお(かげ)によりシオン達があの場で感じた空気をカノンに伝える事が出来たのだ。するとシオンとは反対側に座る兎獣人のニーナが嫌そうに当時を語る。


「自分達が戦ったわけでもないのに『勝ち戦だ! 祭りを始めようぞ!』って良く言えたわね? 私達が種族転移で近くの広場に集めている最中もワーワー騒いで手伝わなかったのに」

「行方不明だった身内が居ても知らぬ存ぜぬで騒いでたから『私の帰りは無視か!!』って指揮官の身内だか年配の女性が怒ってたよね?」


 隣に座るユーマまでもあの場で見た貴族達の行いを語る。それこそ勝てた事のみに意識を割き人族など恐るるに足らずという感じだろう。

 ただ、戦いに()(さん)じていた当事者達とは温度差が相当にあったが。

 それが彼女達のありのままの会話に出ているのだからなんともな感じである。


「ま、勝って喜ぶだけなら構わないけどね? 勝って当たり前なカノンにとっては『だから?』という感じでしかないけど・・・ところで、ユウカ?」


 シオンもその点では頷きつつも、意識を待機していた者に向ける。そう、待機していた者。

 実際には呼び寄せるつもりであったが圧勝だった事で初級ポーションが不要となり手持ち無沙汰で(ほう)ける者へと向けたのだ。


「は、はひぃ! な、なんでしょうか?」


 向けられたユウカは(ほう)けから、怖ず怖ずというように問い返すも、シオンは微笑みながらカノンの伝言を伝える。


「カノンから伝言・・・『傷つけたのは悪いと思ったけど・・・例の者は記憶を奪ったうえで処罰して第二の人生を歩ませる事にした』・・・そうよ。第二の人生というものがなにかは知らないけどカノン曰く・・・過去の事として忘れなさいって事ね?」


 言っている内容は当人達しか判らない話のため、シオンはなにがなにやらという感じではあるが、ユウカはそれを聞き涙した。


「!? は、はい。ありがとうございます」


 その涙は嬉し泣きなのか悲しみなのかは当人のみぞ知る感情だが──、


「ユウカ、良かったわね」

「しかし・・・ここに居たとはね」


 ニーナは涙するユウカを相手に優しく微笑む。ユーマは思案気になりながら意味深な言葉を呟く。それを聞いたニーナは空気を読み黙ったままユウカを見続けた。

 そして、ユウカが落ち着きリンスやシオンと共に管理小屋に戻った頃合いで黙っていたニーナがユーマと共に語る。


「行方不明になったからって、箕浦(ミウラ)家に調査依頼してたんだっけ?」


 二人は〈スマホ〉を取り出しながら、戦闘中にあった会話を表示する。


「うん。私もユーコも詳しくは知らないけど、姉さんが捜索にあたってね? でも形跡は発見出来ずって事で依頼自体が終わったんだよね? ただ・・・」

「行方不明であって良かったともとれるわね」

「うん。常軌を逸する人物だったみたいだしね? しかも、ユウカが入寮した後に旅立って卒業するまで帰ってこないって言ってたらしいから」

「行方不明にならなければ継続してた恐れもあるって事よね・・・」


 それはユウカの身を案じる会話であった。

 しかし、なんの因果か兄妹が同じ世界に飛ぶというのは全くもって皮肉な話である。

 片や中央大陸の魔導士長として片や勇者として呼ばれ・・・知らぬ間にお互いが戦う事になっていた可能性もあったのだから。


「そうなると、カノンが居て良かったとも思える話だよね〜」

「そうだよね〜。私も男を捨てる事が出来たし」


 ともあれ、その後の二人の会話はこの場に居ない吸血姫の話題で持ちきりとなった。それは再誕という形で生き(ながら)えた事を喜ぶ会話でもあったのだから。





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