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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第二章・気ままな異世界生活。

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第48話 蹂躙な戦い、遠い目の吸血姫。


 それからしばらくして、敵陣が全速前進し開戦となった。ただ開戦した瞬間、各船の甲板に配置されていた低位の・・・平民吸血鬼達が意識を取り戻し、銀の首輪を見た瞬間に激怒して周囲の一般兵達に反撃しだした。

 これは普通ならば耐性がないまま弱体化するのだけど、私がシオンにお願いしていた事が開戦直後ではあるが間に合ったともいう。


「全平民への聖耐性・銀耐性・日照耐性の付与が完了したわね」

「「シオンさんパネェっす」」


 そう、これは私が本来持つ耐性の内、貴族や王族に与える物を除く、一般的な平民達への基礎的な付与が完了したのだ。吸血鬼族の平民と呼ばれる者達も元を辿(たど)れば元貴族という者が(ほとん)どであり系譜の血筋で言えば各管理島のどこかの者という感じだ。

 彼等の本国は当然〈ティシア〉だけどね?

 私は三胴船(さんどうせん)ごと〈希薄〉で(おお)い、各船の隙間を()うように様子見しつつ最後尾の旗艦(きかん)へと進む。


「ギャー!? なぜ我らを襲う!?」

「うるさい! お前らは黙って血を吸われていればいいんだ!」

「や、やめろ!! 命だけは助けてくれ!!」

「なにが命だけだ!! 俺達を同族殺しの道具に使いやがって!!」


 その間も各船上では怒りに狂った平民達が暴れまわり、先頭を行く船団は第二十二浮遊大陸に近づく事がないまま船速が落ち、後続が背後から激突を繰り返していた。その衝撃に吸血鬼族は持ちこたえ人族達は耐えられず気絶した。


「た、たすけて」

「ふふっ・・・なにが助けてなのよ? あたしの目の前で自身の娘を犯して殺した貴方が命乞いをするの?」

「そ、それは、し、仕方なかったんだ」

「ふん。なにが仕方ないよ! バカみたいな人族と結婚したのが間違いだったわ!」


 ま、まぁ時折・・・痴話喧嘩のようなやりとりも聞こえてきたが同族殺しをさせる事がなくなったようで安堵した。隷属(れいぞく)解除結界の範囲も私の船を中心に敵船を覆うだけとし後続の者達もその都度解除されて暴れ始める始末である。だからだろう操船部の後部席に座っていたユーコが怪訝な様子で問い掛ける。


「これ、私達居る必要ある?」

「今は温存と思いなさい」


 私は操船しながらではあるが、ユーコの問いに答えた。私だって戦いたいわよ?

 でも油断すると同族を巻き込むから私は出来ないのよね?

 するとフーコが察したように問い掛けた。


「なるほど、この後に仕事があるんだよね?」

「そういう事ね」


 この点ではフーコの方が察しが良いらしく、今回のボケ担当はユーコのようだ。普段はボケからして逆なのに全くもって謎の百合コンビである。実際にこの後、仕事があるのは確かだ。

 前方は瓦解しているが同族殺しの部隊。

 後方は後始末を行う簒奪(さんだつ)主体の人族部隊である。

 数にして百一隻存在し、七十が同族殺し、三十一が人族部隊となっており、同族殺しの数は七千人という規模であった。

 それに対し人族の方は数百程度しか居らず、同族殺しだけで事足りるとの判断であろう。

 私は後続・・・待機している人族船へと接近する。ただ、兵の練度としては最低最悪の状態みたいね? 作戦中にもかかわらず黙れない者達が(ほとん)どのようで中には酒を飲む者まで居る始末である。


「例の錬金術士を助けるためだけに、なんで近衛の俺達まで出張る必要があるんだ?」

「相手が吸血鬼族の国家だからだろう? 血を吸われ生きながら作らせられるんだ。酷すぎるだろう? そんなの」

「そういうもんかね? 本人が意図して所属したのなら助ける必要はないと思うが」


 ただ、会話の端々(はしばし)で勘違いが多発しており、私はもの凄い頭痛に(さいな)まれた。私は彼等の会話に内心でツッコミを入れる。


(なんで私が人族なんて外道共と同列視にされてるのよ?)


 その勘違いはどこからきたのかという苛立(いらだ)ちすら湧いたのだから。ユーコ達もその会話に耳を傾け苦笑しながら怒りに打ち震える私を見つめた。すると豪奢(ごうしゃ)な服を着た黒髪男が現れて(たしな)める。


「いやいや、錬金術士は財産ですよ? 私達人族にとっては必要不可欠なね?」

「そういう・・・アダチ魔導士長殿!? 失礼致しました!!」


 その男の名は異世界人特有の家名であった。


(ん? ユウカの家名と同じ? 勇者の末裔なのかもね? きっと)


 ただ、その後の会話ではこの作戦指揮を執ってる者がこのアダチと知り──、


(いただ)きますかね。王太子捕縛への邪魔になるし)


 私は〈無色(むしき)魔力糸(まりょくし)〉を足下から繋げ、生命力と記憶、魔力の一切合切を召し上がった。その直後、アダチなる人物はその場から消え去った。

 だが、その存在は──、


(ふむ・・・使い魔的な物だったのね? まぁ使い魔であろうとも本人から奪ったし、生命力と記憶、魔力と経験値はごちそうさまでした・・・これでもかって程に薄味だったけど)


 一種の魔力的な物だったので大元に糸を伸ばして強引に吸い上げた。レジストしようにもレベル78と333との差があるため回避は不可能だ。ただ〈隷殺(レイサツ)〉を併用したのに洗脳の形跡はなく地だった事が判明した。

 その結果・・・旗艦(きかん)にて魔導士長の死体が発見されたとの報告が上がった。

 すると、事態に気づいたフーコから問い(ただ)しが入る。


「カノン? 先に食べたでしょう?」

「あっ」


 私はやってしまったと思いながら視線をそらす。するとユーコが背後から羨ましいという視線で語り掛ける。


「ずるい! 私も欲しかった!!」

「次は二人にあげるからね? 王太子はダメだけど」


 私は視線を前方に固定したまま二人を見ずに次を指定した。ユーコは王太子を欲したようだが。


「ダメなの?」

「あれは苦しめる用途があるからね?」


 私はナディの仇討ち戦としているので苦笑しながらも答える。ナディは死んでいないが女の子としては死んだも同然な姿となっている。

 ただね? アダチという彼の記憶を読み解くと見知った者の顔があったのよね?

 私は逡巡(しゅんじゅん)したのち・・・魂がある内に件の遺体を回収した。そう、魂が離れる前・・・腐敗が始まる前に亜空間結界に落とした。消えた瞬間に浄めを行っていた神官達は呆然と立ち尽くしたけどね?

 なんでも、この世界での遺体の処理は火葬だそうで魂が離れた直後に一瞬で燃やすらしい。

 私は回収後にユーコ達に事後報告した。


「それと食った相手が、ユウカの行方不明の兄だったわ」

「「え!?」」

「理由は不明だけどバックパッカーとして旅行中にこちらへ渡ってきた者みたい」


 それと〈スマホ〉では念のためユウカにメッセージを送っておいた。




  §




 私は船を進めて旗艦(きかん)の背後に張り付いた。すると〈スマホ〉にユウカからの返信がきた。


「要らないか・・・死んだ事として受け入れてるのね・・・ああ、性的虐待があったのね」

「酷い・・・そんな事があったなんて」

「外道な兄だから不要って事なのね」


 私はユウカの返信を読みつつも段取りを行う。主に王太子本人の捕縛、生命力と記憶、経験値と魔力の強奪ね? 旨味は濃厚で甘かったけど二人には黙っておくわ。

 それを聞いてるユーコは絶句しながらも敵艦を把握し、全体に行き渡る結界を構築する。

 フーコもユーコ同様に結界を構築しながらユウカの事を哀れんだ。なお、片手間な作業でユウカの古傷に塩を塗った私は──、


(外道自身も王太子と同じ事をしましょうか)


 別途捕縛済みの王太子と外道兄を亜空間庫に並べ、事が終わるまで放置した。旗艦(きかん)内では王太子が消えたとして近衛達が祭り中だけどね?


「二人とも準備はいい? 王太子は確保済みだから思いっきりやりなさい!」

「「はい!」」


 ようやく出番だという風にユーコとフーコの結界魔法が完成する。それは〈魅了(みりょう)〉と〈催淫(さいいん)〉スキルの効果が倍増するという結界術であり内部に居る人族のみに作用し、同族には一切影響が出ない。

 そのため発動直後から足腰が崩れ落ちる者が多数となり、元よりBLな者が多かったのかアチコチで阿鼻叫喚(あびきょうかん)嬌声(きょうせい)が巻き起こる。

 また、場所によっては女性しか居ない場所もあり・・・王女も乗っていたのか侍女を相手にあられもない姿に変じていた。

 ちなみにこの王女はユーコが美味しく召し上がり、フーコが女性近衛達から(いただ)いていたのは言うまでもないが──、


「「甘ぁーい!?」」


 ある意味で初めて召し上がった生命力であり、二人はその甘さに酔いしれた。

 当然〈遠視〉しつつ〈隷殺(レイサツ)〉スキルを併用しているので時折ピリリとくる刺激を得た事で二人は私を見つめながら涙した。

 美味し過ぎてって意味ね?


「この子、凄いわ。ビックリするくらい甘さが引き立ったわね?」

「こっちの子も凄いよ? 侍女って全員汚染済みって事なの? 王女に仕えた・・・いえ、婚約者を王女に寝取られたのかぁ」

「おそらく忘れさせるための洗脳って事ね?」

「今まで食べたケーキ以上の美味しさだったわ」

「カノンが欲する意味が分かったかも」

「まぁ外道兄は薄かったけどね・・・ははは」

「「ハズレ引かなくてよかった」」


 うん、私だけハズレを召し上がったので二人から同情された。その後は軍船自体も二人の結界により魔力源を失い徐々に降下していった。

 あとは放っておけば自然と落下し自滅する事は確定である。前方の同族達もシオンたちが種族転移を行って救っているから人族の兵のみがこの場から落下して死ぬだけだ。元より従軍しているから死ぬ事も折り込み済みだろうが。


 ともあれ、私は第零の各種軍船が落下し始めた事を確認すると旗艦(きかん)に張り付いた際に差し込んだ(くさび)を抜き取り、三胴船(さんどうせん)の高度を維持した。

 そして、原因ブツ達の処置を開始する。


「さて、王太子と外道兄の処置だけ済ませますか」


 するとユーコ達が結界を解除しながら問い掛ける。


「「なにするの?」」


 私は亜空間庫内で全裸に()いた野郎共を(うつぶ)せに変え、一部だけを亜空間庫から表出させた。


「外道共の腰を出して・・・」

「え? まさか!?」

「汚れない?」


 しかし、出した物がものだっただけにユーコは恥ずかし気に視線をそらし、フーコは汚物を見る視線でこちらを見る。私はそれこそ心外だと思いながら二人にツッコミを入れる。

 はっきり言えばBLめいた物などこちらから願い下げである。


「そっちじゃないわよ!!? なんで見えてもない方に意識がいくのよ!?」


 すると、二人は私のツッコミと腰に目印を付けていた事に気づく。


「違うの?」

「腰だけ?」


 場所的には腰椎のど真ん中。その部位に(そら)属性と光属性の目印を付けたのだ。

 そして別の亜空間庫から該当する魔道具を左右の手に持ちながら取り出した。

 一つは(すで)に用意したもの。

 もう一つは新しく用意したものだ。

 元より目印付きは王太子用だが、新しい方にも同様の効果を付与したので悪意を念じれば強烈な刺激が与えられる事になるだろう。


「今から二人には猫さんになって貰うから」

「「!? そ、それって、まさか!?」」


 二人でも察する事は出来るわよね?

 腰と目印と尻尾だもの。

 あとの施術は必要ない。

 該当箇所に尻尾をあてがうと先端の尖った触手が(そら)属性魔力で肉体に空間的な穴を開け、血が出る事もなくウネウネと触手が伸びる。そして光属性魔力で触手の先と神経が結合され痛みなく同一化したのである。

 最後は尻尾の付け根自体も最初から生えているかのように同化し、見えてない部分でも変化が現れ始めたようだ。

 一つめは各所が(しぼ)んで消える。

 二つめは胸が膨らみ耳が生える。

 そして最後は──、


「え? 骨盤が大きくなってる?」

「まさか!?」


 尻の一部だけが外に出ている事で形状変化に驚く二人。正確に言えばこの時点でこの野郎共は女体化したのだ。なお、この王太子の罪は(メス)の猫獣人を囲い犯しまくった事にある。それも高レベルであろうが抗えない眠りの目印を与えて強引に隷属(れいぞく)化したそうだ。ただ唯一、その魔法で適用外となるのは不死者だけであり隷属(れいぞく)化はしないが強烈な刺激を与え続けるという物だった。


 だから、この手の魔法がどこからきたのか調べるために確保したのだけど、あらビックリ、シオンの前の肉体を奪った〈銀塊〉・・・隷属(れいぞく)陣の改良版だった。改良主もこちらの外道兄なのだから更に改良してお返ししたというわけである。外道兄まで捕まるという事は私のリアルラックが作用しただけだろうが。


 ちなみにこの尻尾に関しては〈魔導書(アーカイヴス)〉にある〈変化神器(へんげじんぎ)〉なる性暴力を行った者に対し罰を与えるという失伝されたアーティファクトだ。

 主に下界でのみ残っている遺物であり、浮遊大陸には存在しない代物らしい。もし仮に尻尾を切り取ろうとすると当人には激痛と快楽が同時に発生し、周囲の者達が離れたくなるような汚い姿を現すという。


「完全に(メス)の猫獣人となったわね? あとは素っ裸のまま適当な浮遊大陸の王都に放置しましょうか」

「「カノンさんパネェ」」


 ともあれ、問題となった汚物達を亜空間庫にしまっておくのもあれなので私は尻だけ出した瀕死の一名と王族の一名を反対側の第十三浮遊大陸の王都へと転移させた。あの大陸は猫獣人の国だけど・・・生きるも死ぬもこいつらの努力次第なのでどこかしらで百合百合してるといいわね? 経験値も記憶も失った状態だから、いずれは誰かに拾われるであろう。

 レベルアップは叶わないけれど。




  §




 カノン達の血祭りが一転、シオン達は──、


「勝った! 勝ったぞ!! 祭りだ、カノン様を称えよ!」

「「「カノン様万歳! ティシア王国万歳!!」」」


 戦う事なく勝った事でティシア王国軍の指揮官と兵達は大騒ぎであった。その様子を近くの広場で見ていたシオンは引き()った顔のまま呟く。


「こりゃ、少しマズイ事になったわね? リンスは・・・(すで)に転移してるわね」


 すると、リンスの行動を見た二人は引き()った苦笑でシオンに応じる。


「逃げ足の速い王女殿下だぁ」

「あっちはあっちで大変だったのかなぁ?」


 そう、リンスは早々に第七十五へと待避しており、祭りの雰囲気を回避したようだ。単純に戦況を指揮官達と眺めながら空気があらぬ方向に進むと予見しての事だろうが。すると、そんな空気が呼んでもないのにシオン達の元へと及んできた。三人はただ単に最後まで救った者達の面倒をみていただけなのに・・・だ。


「マズイ・・・こっちに意識が向いてきたわ! 私達も逃げるわよ!? 戦勝パーティーに巻き込まれるのは流石に勘弁して欲しいからね? 自由気ままな生活から一瞬でかけ離れるから」

「「は、はい」」


 そう、慌てて苦手とする転移魔法陣を展開したシオンである。その間も指揮官は周囲を(あお)る。


「勝ち戦だ! 祭りを始めようぞ!」

「「「ワーワー! カノン様万歳! ティシア王国万歳!!」」」

「シオン様達も早急にお呼びしなければ! 兵達よ!」

「「は!」」


 そして、兵に命じシオン達を呼びに向かわせるのであった。だが、この時点でシオン達は転移して逃げたあとのため──、


「シオン様達はどちらに?」

「はぁ? そちらにいらっしゃったけど・・・あら? 居ないわね?」


 呼びに来た兵が助けられた者へと声を掛けるも、(すで)に遅しという有様であった。


「一体どちらに?」

「それはそうと、指揮官をここに呼んで貰えないかしら? 姉が助かったのに無視とはいい度胸じゃない?」

「え? は、はい!! ただいま!!」





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