第46話 滅びの王家、頭が痛い吸血姫。
それから半年の月日が流れた。
地球歴でいえば一年は経った頃合いだろう。
元々が二倍の時間なのだから単純計算でそれくらいは流れた。主観時間で・・・だが。
ひとまず私はあれから数名の再誕を行った。
それは主に回収組を優先とし、ナディの後から類友勢・・・肉体回収希望者とされる綾小路令と観山瑠衣を筆頭に白鳥香と安達由加の再誕を行った。
前半三名はユーコ達の類友として安達由加はナディの友達として優先順位を上げた。
なお、再誕時は前半三名に限っていえば想定通りの反応だった。しかし安達由加に関して言えばかなり不味かった。
なにが不味かったかと言えば危うく消滅の危機に瀕したほど、パニックになったのだ。その後はナディの執り成しでなんとか冷静に戻ったが本人はエルフ族として引きこもる事を選択し各管理島の畑管理を任せた事で今はノビノビと畑仕事に従事している。
おそらく〈植物操作〉というスキルがあってこそともいうが。
次いで、佐藤可南照と嘉手真奈美が続いたが、この二人は再誕よりも死を望んだ。それは異世界の宗教上の理由により拒絶したともいう。
だからこの二人に関しては姿を現したミアンスに魂を委ねた。
すると本人達は真っ当な転生を望み、可能であればあちらの世界に戻りたいと願った。
しかし、今回の召喚で魂の改変が行われた後なので元の世界には戻せないらしく当人達の記憶や人格を消去して生まれ変わらせる事になると知ると恐怖と共に眠ったのだった。
私もこの時ばかりは再誕だけが救いではないと思い知ったわね?
ともあれ、その後・・・気を取り直した私は亀田釛と冷水聖の再誕を行った。この両者は私と同じ職業だった事と元より『色々作りたい!』という根っからの職人気質があった事でドワーフとして再誕する事になった。
それは結局、魔法があって思い通りに物が作り出せるという点が大きいかもしれない。
そして当の二人はというと──、
「ミズミズ〜、金槌とって〜」
「コノリさぁ? 私をそのアダ名で呼ばないでよ。はい、金槌」
「いいじゃん。そっちの方が似合ってるよ?」
「似合ってるよ? って、僕はそのアダ名を認めて無かったんだからな!」
「そう言うけど・・・前世の癖が出てるよ?」
「あっ」
錬金工房脇に拵えた鍛冶工房にて仲良く農器具を作っている。ちなみに件の冷水聖は性別不明という扱いから歴とした女の子になっていた。
否、元々小柄な女の子だったが胸がトリプルAという、とてつもない抉れた〈まな板〉と幼児体型が災いし男装していた所為で勘違いされていたらしい。
ちゃんと転生前に性別を確認すると『僕は女の子だ!』と怒りながら返された。だから肉体が出来て再確認したところ、本当に女の子だった事を改めて知った私達であった。
§
ということで私はシオンと共に次の予定を考える。実際に一ヶ月に二人と予定していたが、合間合間にミアンス達の手伝いという予定が入り、実質二ヶ月に一回というペースに落ち込んだともいう。
手伝い・・・各所にある封印石の総交換ね?
それは第零から第七十五までの全浮遊大陸の結界保守で振り回されたのだ。
そして今は──、
「ひとまず、こんな感じかしら?」
「回収者の再誕は以上よね?」
残りは捕縛者のみという意味で〈封印水晶〉を整理していた。ちなみに今回再誕した者のそれぞれの種族と名前は以下である。
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エルフ族:ユウカ・アズ
旧:安達由加
オーガ族:レリィ・アヤノ
旧:綾小路令
有翼族:コウ・ブラン
旧:白鳥香
有翼族:ルー・カザン
旧:観山瑠衣
ドワーフ族:ミキ・シーズ
旧:冷水聖
ドワーフ族:コノリ・トール
旧:亀田釛
計:女性・六名
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それぞれのレベルも当初の予定通り、レベル79とし各自の頑張り次第でレベルアップが叶う事も伝えたところ王族教育を主とする引きこもり勢を引っ張って日々頑張っているようだ。
ちなみに、コウとルーとレリィの種族登録も個々の大使館にて行うとどこで聞いたのか、不老不死となった事を喜ばれ三人の国籍が与えられた国家では宴という名の祭りが開かれたらしい。
おそらく不老であっても不死ではない事が、一族繁栄に繋がると考えての事だろう。
私は保管庫を整理しながら捕縛者達の再誕の順番を決めていたのだが──、
「ん? 一つ余ってる?」
残存軍船の中で残っている船を探し、第七十七の軍船の存在に気づいて嫌な気分になった。
「あぁ・・・面倒なゲス男ね」
ちなみに他の軍船は肉体回収や肉体還元と同時に中の素行不良者を消し去った。それは大半の男子達が性の捌け口として女子達を傷つけていたからだ。
ルーもレリィもニーナ同様の有様だったので回収と同時に群がる男を消した。他の面々も同様であり穢された身体は要らないとして肉体還元を望んだ。
なお、今回はユーマの監視があったので等しく消し去ったのは言うまでもない。軍船も解体してなんらかの素材としたので今は保管庫にて時期がくるまで放置である。
するとシオンが困ったように問い掛ける。
「需要ある?」
「男はアンディだけで事足りてるわね」
私はシオンの言う意味を悟り不要と思った。
無駄な男が増えすぎてもロクでもないしね?
「・・・この際、こいつだけは解放して、他もしばらく放置しましょう」
という事で石嶋豪という男子だけは封印水晶を保管庫から下界の海上上空に転移させ、水晶そのものを一瞬で消し去った。
その瞬間、内部に居た魂は解放され不意に下界を彷徨い、この世界の〈転生の渦〉に飲み込まれたようだ。
この世界では転生する者は等しく〈転生の渦〉という空間の歪み飲み込まれるそうで、そこで記憶と人格が削られ真っ新な魂として生命の器に宿るそうである。
なお、肉体の無い魂のため激痛は必死であるそうな。
──閑話休題──
ひとまず、残りの捕縛組の男子達は後回しとした私であった。下手に男子を蘇らせても元来の力量差で大きな顔をされては堪らないからだ。
先ほど消し去った石嶋豪なる人物は成績の良い不良で真っ先に力で押さえつけるくらいはやってのける脳筋であった。
否、何度もやられたのよね? 私が青海を伸したところを覗き見られて。
それからは何度となく遇い、放置しても絡んできたからね? 惚れた腫れた的な扱いで『俺の女になれ!』という話である。
野郎には興味ございませんとしても絡むので辟易していた私である。
§
「カノンさん。少しよろしいでしょうか?」
それからしばらくして。
私が第七十五にて作業を行うユウカの元で農作物の育ちを確認していた時の事。リンスが少々辛そうな表情のまま私の元を訪れた。
私はリンスの表情を見て物静かなエルフとなったユウカと共にきょとんと呆ける。
「どうしたの?」
「実はですね・・・」
するとリンスは語る。頭の痛くなる理由を。
それは第零浮遊大陸・ルティルフェ〈ミルーヌ王国〉王太子が動いたという話だ。
私は頭痛。精神干渉無効が働いてるわけではないが頭痛がする気分に陥った。
「はぁ〜。それで囲うため」
「はい。〈ティシア〉を滅ぼしてでも囲ってやると息巻いており・・・」
私の頭痛の意味は以前大使館経由で降ってきた話の続きであり、腕利きの錬金術士を囲っていると見做された〈ティシア〉に対し宣戦布告したというのだ。
その間のリンスは今にも涙を流しそうな気持ちを抑え、辛そうな表情のまま押し黙る。
すると、困惑気味なユウカが──
「国を護るために主を売りに出すの?」
空気を読まない言葉を発する。
ある意味で眷属同士という立場で物申したのだけど、その言葉がリンスの耳に入るや否や猛烈な反発が返ってきた。
「ち、違います!! そんなつもりは毛頭ありません!!」
「リンス、落ち着きなさい。ユウカもね?」
私は一触即発な雰囲気ではあるが二人を落ち着かせる。
「まぁすぐにすぐ動いてどうこう出来るわけではないでしょう?」
リンスは焦りを滲ませながら相手の技量を推し量る。
「はい。ですが・・・動くとしても明後日の〈常陽の刻〉の内に攻めてくるのではないかと・・・なにぶん、あちらは第十と第十二を落として属国化しておりますので、その戦術を用いて前回、前々回と同様、同族殺しをさせるつもりではないかと」
相手の戦術は何度も成功してきた自信に溢れるもののようだ。私はリンスの記憶から、いつの時代の戦術だと頭痛が更に増した気がした。
(同族殺しか・・・記憶を読む限り、隷属化した低位の者を用いて自爆戦術か)
元々第十と第十二は第二十二の隣国で現国王の弟君達が興した国だという。
そしてこちらも未開拓だったそうで当時の宰相だった者達が錬金術士として名を馳せたため、略奪のために第零の現国王が動き、国土ごと奪ったそうだ。
なお、現状の第十と第十二は第零の国民が溢れ、同族は一切居らず王家の者達もその時に滅ぼされたらしい。
ただ、その時の成功体験を得て同じ事をすれば勝てると踏んで今なお確保した低位の者達をこちらに進軍させているという状態のようだ。
私は余りにも頭痛が酷くなったで、この場で育てているポーション素材を使う事にした。
元よりこの第七十五は王家へと献上するポーション素材を主としており、私達が使う物も育てているので管理者となったユウカにお願いした。
「ん〜? ユウカ・・・頭痛薬の」
「はい。〈ヒエル草〉ですね・・・少々お待ちを」
ユウカは私が願い出る前・・・私の顔色を見ながら用意していたらしく肩にぶら下げたバッグから薬草を取り出し錬金魔法で液体を抽出固形化して火を灯していた。
ちなみに、ユウカ個人は再誕時に擦った揉んだあったが本人は薬剤師を目指していた事もあり、今では畑管理と並行して専属薬師として私達の体調管理を行っている。
「はぁ〜。この薫りは落ち着くわね」
「はい。焦り自体が緩和した気がします」
「こういう時はアロマに限りますね」
私達は病気こそしないが精神からくる頭痛はどうにもならないからね? 今回処方した薬草も精神を癒やすためのアロマ的な使い方が出来る代物である。というか、そういう使い方を見つけたのもユウカの功績だけどね?
私達はお互いに苛立ちが消え、気持ちが落ち着くのを感じた。こちらが焦る事こそ相手の思惑そのものだから。私は落ち着いた頃合いで結界を保守した時の事を思い出す。
「たちまち、同族殺しを狙うのであれば隷属解除陣を起動させましょうか。限定起動であれば・・・許されるでしょうし」
「「隷属解除陣?」」
そう、リンスとユウカの二人は聞き覚えのない言葉にオウム返ししたが、これはミアンスの提案で付け加えられた新しい結界術である。
その仕様は外向きに発生させる結界で、どんな者でも隷属化を一瞬解除するという物だ。デメリットは使いどころが限られている事と、こちら側が隷属化した者達までも解除されるというもので使い勝手の悪い代物である。
ただ、今回に限って言えば襲い来る者達が掌を返し隷属化を行った者達を襲うのだから用途としては問題ないであろう。おそらくこれも同族殺しを回避させるための神器だったのかもしれないけどね?
「この半年の間に保守した結界石の新機能ね?」
「なるほど。そうであるなら」
「戦わなくとも自滅する?」
「そうなるといいけどそれでも諦めないなら」
私は久しく血が滾り、戦いに赴く気持ちが溢れた。
(私自ら出て倒してもいいわよね?)
今までが暇だったのだ。そんな時に血を見たい者達が現れ、血を流させるのも一興だと思った。
しかし、私の願いとは裏腹に──
「「私達が倒していい?」」
いつの間にこの場に来ていたのか知らないが、ユーコとフーコがニコニコと声を上げた。




