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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第二章・気ままな異世界生活。

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第42話 吸血姫は原因物で頭痛を感じる。


 それからしばらくの間、私は寝る間を惜しんで魔核に加工を(ほどこ)した。魔核というがその大きさはサッカーボールサイズの〈金色(こんじき)の水晶球〉で〈ゴールド・ドラゴン〉の巨体に比べたら小さすぎる物なのだけど、中に宿している魔力がとてつもない分量で、それが圧縮保存されたような危険物なの。

 これ一つで私の保有魔力を超えるのだから、扱いは慎重にという理由も分かるであろう。


「全保護封印・・・完了っと」


 これも本来なら少しずつ用意しても良いのだけど、なにか焦りめいたものが心の奥底から湧いてきたのね? 理由は不明なのだけど以前ユランスが言っていた事が起因するのではないかとさえ思えてならない私であった。

 すると、私が一人で居る真夜中の錬金工房にユランスが顔を出した。思い出している最中に現れるのだから油断できない相手である。


「夜分遅くに、お邪魔します」

「どうしたの? 挨拶なんて珍しい事もあるのね?」


 私はユランスが苦笑したまま訪れた事を怪訝に思う。普段からなにかの拍子に顕現(けんげん)したりどこからともなく現れる、とても自由きままな女神様である事が有名だからだ。

 まぁ私の言い分も相当にあれだが。

 するとユランスは、どこか懐古的な雰囲気を醸し出す。


「いえ、なにやら懐かしい物を用意していると思いまして」

「ああ。〈錬金釜〉の事ね?」


 私は事前に用意した〈奥行き2メートル×幅2メートル×高さ2メートル〉の大きな立方体の箱に視線を移した。それの名目上は〈錬金釜〉だが内部機構という点では大型の3Dプリンターを模したような物で、この〈錬金釜〉自体は利用者からの魔力充填は不要としたのだ。

 ちなみに〈魔導書(アーカイヴス)〉に()る〈錬金釜〉はこれの倍以上の大きさで魔力充填せねば存在を維持出来なかったとあった。だから私が用意した〈錬金釜〉は稼働に必要な魔力をカートリッジ式として調整した魔核を()め込む事で錬金を容易(たやす)くしたのである。

 私が用意した箱を眺めたユランスは苦笑を浮かべながら──


「はい。一度目は外敵に破壊され、二度目は神官達の暴走で聖遺物扱いで消滅し、三度目は利用者不在で消滅した魔道具ですね」


 消えた経緯を打ち明けた。

 〈魔導書(アーカイヴス)〉に()ってる物は三度目の物だけだったが、一度目はともかく、二度目は呆れてものが言えない・・・否、()せたくない理由に他ならない事情だった。私はその事情を知り呆気にとられてしまった。


「なんとまぁ・・・」

「ええ。人族とはどこまでも(ごう)が深い者達であると・・・思い知らされましたね?」


 一度目は破壊だから大戦時だろう。

 二度目は神器として宗教的な意味合いが強いのだろう。三度目は設置したが使い手が囲われて無用の長物と化した事がみてとれた。

 それは女神様が想いを込めて作っても雑に扱う者達に用意する事は出来ないと判断するに足る理由に他ならなかった。ユランスもそういう意味で(あき)れのある自嘲を浮かべた。

 女神様とて万能ではないと暗に示しているが──これは仕方ない話だが──理由は言えないけどね?

 私は普段は使わない力を発現させ魔道具に(まと)わせた。その瞬間・・・〈錬金釜〉の魔道具は強度を引き上げたフライパンや飛空船と同じ〈白い金属〉に早変わりした。

 これを(ほどこ)さないと魔核の圧縮魔力に耐えられないからね?

 ただ、この力を使った瞬間──、


やっぱり(・・・・)使えたのですね〜」


 ユランスは懐かしそうな素振りで微笑んだ。

 私は苦笑しつつも言い訳した。


「使えないとは言ってないわよ? ミアンスが気づかなかっただけだから」

「シオンもそういう意味では隠す事が上手かったんですね」

「違うわ。あの子は使えなかっただけよ。力の根源の(ほとん)どを私が持ってたから」


 そのうえでシオンとの違いを示した。

 すると、ユランスはシオンの事実を知り目つきが鋭くなる。


「なるほど。では?」

「今は使えるわね・・・でも私を含めて貴女達の邪魔をするつもり無いからね?」


 私はユランスの思い違いがないよう、私達の現状とともに害意が無い事を告げた。ユランスは途端に微笑みへと戻り、想いを打ち明ける。


「いえ、それは存じてますよ? 私が言うのは・・・手伝ってくださると助かるかなと」

「助かるって・・・私達は貴女達の真似事は出来ないわよ? すぐにすぐ出られるわけではないから・・・(呼ばれて出てた事もあったけど)」


 私はユランスの言葉から唯々(ただただ)(あき)れた。ユランスは私の理由を聞きつつも、真面目な表情に変わり・・・命じた。


「別に私達の世界(・・)に来て欲しいとは申しておりません。ですが、援助してくださるだけで良いのです。これも許可(・・)を得ておりますので」

「・・・あの人に話が通ってるって事ね?」


 私の理由はどうであれ、それが決定事項と気づき溜息を吐いて受け入れた。


「はい。話が早くて助かります」

「ははは・・・逃げられないかぁ」


 最後はユランスも満面の笑みに変わり、お辞儀したのである。私は役目(・・)から解放されたと思っていたが、そうではないと改めて実感した。そんな、なんともな話題はともかく私は力が順応した魔道具を眺めながら──、


「一発目、なにか作りますか・・・」


 試運転として一つの〈魔核球〉を魔道具に結合させて裏側の〈防御蓋〉を閉じた。

 そして魔道具の表面にある水晶板に起動用の魔力を流した。ここから先は起動させた者の魔力を鍵として水晶板を通じてイメージした物が内部に作り出される。

 ちなみに終了後は鍵がリセットされ、錬金術士以外でも利用可能である。

 するとユランスが一発目と聞き真剣な表情で私に提案する。


「でしたら、少し難しいですが・・・結界石を用意してみては?」

「結界石?」

「ええ。多重結界を展開させる物で空間魔力を用いれば常時展開が可能になる魔道具です」


 私はその提案を聞き怪訝な表情のまま〈魔導書(アーカイヴス)〉で検索した。

 しかし、検索結果が出る前にユランスが詳細を語ったため、完成型だけを再度検索しユランスの言葉を共に詳細を知って驚いた。


「へぇ〜。便利な物もあるのね?」

「ええ。ですが、今まで作り出せた者は一人も居ませんね・・・今や神器扱いとなる魔道具ですので」


 そう、ユランスは神器と言う。

 私は今更それを用意しろという提案に呆気にとられ、検索結果にある多重結界の仕様からある場所を思い出す。


「なんとまぁ・・・多重結界? も、もしかしてだけど」

「はい。現状では流刑島の多重結界に(ほころ)びが出来ていまして・・・」

「あー、はいはい。揺らぎがあったのは・・・」


 だからだろう、案の定の場所が提示され、その時に気づいた理由を問うと──、


(ほころ)びの所為(せい)ですね。本来なら揺らぎはなく内部から外部の状態が常時認識出来る物でしたから。それが・・・先の大戦後になぜか劣化しまして」

「中から外が判別出来なかったと?」

「そういう事ですね」


 あの時点で劣化促進中という結果を得た私であった。それは最初から外が見えないようになっていたのではなく、謎劣化の所為(せい)で見えないように変じていたという。

 この揺らぎが各種結界波長をずらし、近付かねば見えない結界となっていたのだ。本来であれば外界を見るまで教えないとした制限も、その場で解禁されるはずだった。あの多重結界も内側から捕縛結界・幻惑結界・積層結界の三重結界で構成されており、本来であれば犯罪者に付けた目印を捕縛結界が検知し、元の場所に戻すという物らしい。


 それが(ほころ)びによって本来の機能を失い、数名ほどの脱獄者を出しているのだから、やりきれぬ話であろう。

 そして(あいだ)の幻惑結界も外側に作用した見えない壁を作るものらしい。それは外敵から索敵を受けないための結界だそうで、本来なら流刑島の外側を覆ってる結界だという。

 なお、一番外側の積層結界は外敵対策の物で外から内への障壁として機能しており、現状では機能不全は起きていないという。

 そのような理由により、問題が出ている結界は捕縛と幻惑の二種類にあるようだ。

 私は理由を知った事で作る物をイメージした。だが、数が物をいうのであれば少し辛いと思った。私は溜息を吐きつつもユランスに数を問う。


「それならいくつ用意すればいいのかしら?」


 すると、ユランスはあっけらかんと数と場所を教えてくれた。


「作る物は一つでいいですよ? 本体は中央大陸の王城頂上に取り付ける魔道具ですので」


 私は場所から察してしまった。


「中央大陸の王城・・・もしかしてだけど、例の?」

「はい。例のですね・・・劣化の原因が王族にあったのは情けない話ですが・・・今の王太子が王子だった頃に、なにも無い石だったため、みすぼらしいという理由で局所的に破壊・・・結界石を彫像として彫り直したのです。姉上の彫像としてですが」


 ユランスは恥ずかしいというかなんとも言えない表情に変わり苦笑して話を流した。私は原因が護られる先にあったと知り(あき)れを通り越してしまった。


「なんというか自滅となるのに護る価値あるの? 民達は関係ないけど」

「正直に言えば無いですね? 姉上も同意見ですが・・・民達には関係がないので」


 ユランスも苦笑のままに本音を語った。

 ミアンスですらそう思うのだから相当なものだろう。ただ、それであっても・・・民達が割を食うのは為政者としてはアウトよね?

 その後は女神様との会話ではないわね?

 明らかに姉妹でするような会話になってしまった・・・他意はなく。


「なら、ミアンスの裸婦像・・・じゃなかった彫像として用意しましょうか?」

「今、裸婦像って仰有(おっしゃ)いましたね?」

「気のせいじゃない?」

「いえ、別に裸婦像でもいいですよ? 本人も罰として受け入れるとの事ですから」

「そうなの?」

「はい。騙された自身が悪いとの事ですので。ただ局部は隠して下さると助かります。ある意味・・・私自身の裸でもありますから」


 そう、ユランスはモジモジするように言葉を濁す。


「確かに、そうかもね・・・シオンなら喜びそうなシチュエーションだけど」


 私は自身の事を棚に上げつつ魔道具を稼働させる。いや、シオンが喜ぶと思ったけど私自身の裸だから正直に言えば嫌ね? ユランスも同意見なのかモジモジしつつも頭を下げた。


「私達はシオンとは異なりますので、ご勘弁下さい・・・姉上達にも怒られますから」

「ん? まだ上に居たの?」

「ええ。下にも居ますよ?」

「あの人達・・・流石に頑張り過ぎでは?」

「それは言わぬが花です」

「・・・それもそうね」


 ともあれ、そんな他愛(たあい)のない立ち話の最中、ミアンスの彫像もとい結界石は作られていった。

 裸婦像でありながら──肝心な場所は布で隠してるわよ?──今度は壊されないように例の力を与えてるので簡単には彫り直しは起きないであろう。というか勝手に彫ったら神官共が大騒ぎするでしょうけどね?





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