第41話 吸血姫は素材の用途を思案する。
私はリンスが王城からログハウスに戻り次第、委ねようとした事案をダイニングにて伝えた。
「えー!?〈ゴールド・ドラゴン〉の魔核ですってぇ!?」
伝えたのだが大絶叫ののち、白目を剥いて気絶したのは言うまでもない。
その反応を見たユーコは苦笑しつつも私を皮肉った。
「リンスでも同じ反応になるなんて」
「魔核の需要が判らないから委ねようと思ったけど、しばらく死蔵かしら?」
私はユーコのシラけた視線を受けながら対応に困った。だってそうだろう?
各種素材はともかく魔核なんて大規模な魔道具の核にしかならず人工的な魔石と違い扱いは慎重になる代物なのだ。その存在も天然物という扱いで使い勝手に困る代物である。
自然に放置してたら、その魔核から〈ゴールド・ドラゴン〉が生まれるしね? ドラゴンが増えすぎると、それはそれで面倒な魔物だから討伐依頼が入るのだもの。今は討伐出来る者が少なすぎて無駄に繁殖されてる現状だけど。
話題は引き続き〈ゴールド・ドラゴン〉の魔核の事である。今、話題に参加してるのは解体場で過ごした面子だけであり、シオンは相変わらずムニャムニャと気持ち良さそうに眠っていたので起こさず無期限放置としている。
流石にイラッときたので胸にドラゴンの鱗を数枚程ブッ刺しておいたけど。
すると、フーコが緑茶を飲みながら買取先を提案する。
「冒険者ギルドに売るっていう選択は?」
私は茶菓子を食べつつ困ったように提案を否定した。
「それも考えたけどね? それをすると、あちらに流れるから困りものとなるのよ」
「あちら? あぁ!? そういう事?」
「そういう事ね?」
すると、ユーコがいち早く気付き私も困ったように応じた。そう、冒険者ギルドとは人族が用意した互助組織だ。主な買取先は商業ギルドだが、そこから先はどこに流れるかは不明だ。
そして、今の時点で考えられる買取先は軍事面で増強中の場所であり敵対者に流れる事が明白だったのだ。
商業ギルドもその点においては一切気にしておらず、己が身が危うくなるなんて考えは無いからね? 売れるなら売る・大金が入るなら売るという思考の元、商いをしているのだから。だが、フーコは気づけてないのか一人で呆ける。
「え? なに、どういう事?」
「フーコ、相手が流刑島の奴らだったら困るでしょう?」
「あー、そういう事!?」
しかし、ユーコの呆れの諭しにより、ようやく理解したフーコだった。
私は一同に取り扱い注意という意味で討伐素材の扱い方を教えた。これは〈魔導書〉の知識の一つだけどSランクにならないと解禁されない情報であり討伐可能な者しか知らされない情報である。
一応、この場の者達も討伐可能な技量があるから私自らが教えるだけね?
本来は知ることすら不可能なのだけど。
「一応はね? 買取先をこちらから指定するという方法もあるけど相手が買うとは限らないし、買わなければ欲するところに流れるのが常だからね?」
「在庫として置いておけないって事?」
今度はユーマが疑問気に質問したので、私は溜息を吐きながら続きを語る。
「生物と同じ扱いでね、二ヶ月の消費期限までに魔道具の保護封印を施さないとドラゴンとして生まれ変わるのよ。今は亜空間庫内で時間停止してるから変化は起きないけどね?」
「ドラゴンが生物・・・」
流石のナディも絶句した。
なお、今のナディはフーコのコップに緑茶を注ぎながら応対しており、アンディは無言・無表情で新しい菓子を提供していく。
傍から見たら凄いシュールなやりとりだが私達はアンディを無視して会話を続ける。
「本来の生物な部位は素材として保管してるけどね? ただ、本当に使い勝手の困る部位は・・・リンスが気絶するに至った魔核だけだから」
すると、私の背後から妙に苛立ちのある声音が聞こえてきた。
「それなら、死蔵一択でしょうね」
「そうなのよね・・・あ、シオン起きたの?」
私は無意識に応じ、振り返りながらあっけらかんとシオンに声を掛ける。シオンは私の行いに対する苛立ちをぶつけてくる。
ちなみにナディは別の意味で絶句中ね?
今が初顔合わせだから。
「流石に起きるわよ!? カノンでしょう? 人の胸に鱗ブッ刺しまくって血だらけにしたのは!?」
「まぁね? 気持ちよさげに寝てたから刺激を追加したのだけど」
私はシオンの怒りを受け流しながら、きょとんと呆けた。シオンは私の呆けに対し激情を込めるも、最後はモジモジした。
「痛みはなくても違和感はあるんだからね!? 刺激になるどころか鱗の魔力遮断で魔力循環が滞って・・・」
「感じたと?」
「うん」
私とシオンのおかしなやりとりに対し、ナディ以外の面々はサラッと受け流し、無言で茶を啜る。ナディは同類の気を感じたのか同情の表情を浮かべるに留めた。
その後は急遽だがシオンに対し、ナディとアンディの紹介を行い、リンスを目覚めさせ同じく紹介させた。リンスの目覚めさせ方は・・・流石に言わないわよ? リンスの名誉に誓って。
§
それは夕食前の入浴時。
今更だがリンスの説教を喰らった私である。
「カノンさん! あ、あの起こし方は流石にないです!?」
「そう? でも感じたでしょう?」
「でも!? 人前でやることは無いと思います!! 直にお尻を抓るなんて」
言わないとしていたが、本人が口を滑らせたので仕方ないと受け流す私である。この方法は主にシオンとナディ向けの方法なのだけど、リンスにもその気が少しばかりあったみたいでね? 試したらヒットしただけね?
まぁユーコとフーコからはシラけた視線を向けられ、シオンとナディからは羨ましいという視線を戴き、ニーナとユーマは無視して茶を飲んでいたけれど。
ある意味で三者三様ともいうが、ここまで対応が異なる面々が揃ったとして私はニコニコと微笑んだ。
だが、私の微笑みに気づいたリンスは──、
「カノンさん!? 反省してください!」
「おっと、ごめんなさい」
怒りも露わで再度怒鳴った。
私は口元が緩んでいたとして表情を戻し、素直に頭を下げたのだ・・・が!
「どうせするなら、お布団の中だけでお願いします。外では流石に恥ずかしいので」
リンスはモジモジとしつつ、恥ずかし気にそっぽを向いた。これは外は不可だが中は可という許可を得たともいう。
私はリンスが可愛く思え、風呂の中だが──
「!? カ、カノンさん!? ここではちょっと!?」
「可愛いわねぇ〜」
背後に周りリンスを色々と刺激した。
なお、風呂場には現在誰も居らずナディはシオンやユーコ達と食事を用意し、ユーマはアンディと外で剣術の鍛錬中である。
ニーナはニナと自室でムフフとし、それぞれの余暇を楽しんでいた。
この風呂場も二人一組で入る取り決めとしているため、この後はユーコとフーコ、シオンとナディ、ニーナとニナ、ユーマの順で入る事としている。アンディは一応男なのでシャワールームの利用のみとしているのね?
入るとしても一番最後だが、ナディがそばで監視しながら入らせるのでなにもないと思う。
そもそも小さいからそういう事態には陥らないと・・・ユーマ談である。
「きゅう」
「これは、やり過ぎたかしら・・・」
私は真っ赤に染まったリンスを抱きつつ反省した。それは風呂の湯が少しあれだった事にあるのだが。私はリンスを抱きかかえ湯船の外に出て、清浄魔法で互いの身体を綺麗にした。
そして風呂の湯を抜き湯船を清浄魔法で綺麗にしたら新しい湯を張った。今は湯あたりしたような状態だし私ものぼせそうだったからね?
「さて、魔核の使い道を考えないとね〜」
そして考えるのは使用法に困る素材の事だ。
主に〈ゴールド・ドラゴン〉の魔核を扱う魔道具は〈破城槌〉などの戦闘系の物であり、用途として平和利用が不可能な物とされている。ただ、今までにそういう物しか作ってないともいうけどね?
「主に金属性に関連する魔道具で使えそうなのよね? 中から出てきたオリハルコンも魔核を介して発生した素材だし・・・」
そう、自前の魔力を使わず魔核の魔力を用いて素材を作り出す事が可能だ。それも金属性という錬金魔法を扱うための魔力を宿している物のため──、
「やっぱり〈錬金釜〉しかないでしょうね・・・思い浮かべた魔道具を作る専用釜」
〈魔導書〉に載る、今や廃れて消えた魔道具が候補として上がった。その消えた理由は・・・人族の欲望が原因ね? 数多くの錬金術士を人族の王族や貴族が囲ったせいで使い手がいなくなって魔力供給出来ないまま形状維持が困難になり消滅したらしい。これは一種の神器だそうで、女神様達も二度と作らないとした話である。
大きすぎるという点が欠点ともいうけどね?
私は顔色が落ち着いた寝転がったリンスの裸体を拝みながら今後の方針を一人で呟く。
「ひとまず、魔核の一つ一つに保護封印を施す事が先よね?」
これは女神様達を除くと私しか作り出せない物でもあるのだから。




